【原作者によるTVアニメ『義妹生活』1話、解説・感想(※長文です)】 1話をご覧いただいた皆様、ありがとうございました。 放送直後ですが、視聴者さま向けに、原作者の視点でアニメに対しての感想を書いていこうと思います。(1話範囲のネタバレを含むポストになるので、まだ観れていない方はお気をつけください) まず、原作(小説版)を知らずにアニメを観た人は、「あれ?思ってたのと違う」と思われたのではないでしょうか。義妹と生活するということで、ドタバタしたラブコメのようなものを想像されていた方が多いのではないかと思います。 ですがこの作品はいわゆるラブコメではありません。キャラクターの配置や基礎設定など、要素を箇条書きにしてしまえば平均的なラブコメなのですが、べつにラブを見せたいわけでも、コメを見せたいわけでもなくて、ただそこにある彼らの生活を浮かび上がらせていくことを目指した作品です。とはいえ三次元(現実)に寄せすぎて二次元の魅力が損なわれるのも望んでおらず、二次元の魅力が損なわれないギリギリまで三次元(現実)的な表現を模索した作品となっています。類似ジャンルは「ヒューマンドラマ」等になるかもしれませんが、それよりは恋愛感情にフォーカスしているので、ピッタリなジャンル表現が既存のものに見当たらず、私と担当編集者の間で、「恋愛生活小説」と銘打って連載していくことを決めました。 「架空の人物による私小説」「実在人物の日記のように感じる読書体験」といったこと、それ自体が『義妹生活』の特異性であり、価値です。物語の展開だけを箇条書きした文章を読んだ初見の人は、何故この作品を支持している読者が多いのか、理解できないかもしれません。それは、箇条書きで表せるような物語展開ではなく、細かい生活の所作、細部の表現や読書体験をまるごと含めた読み心地に魅力のコアを置いているからなのです。 ……と、ここまで原作の意図を書いてきましたが、そう、このポストはアニメの解説と感想です。 なに関係ないことべらべら喋ってるんだと怒られるかもしれませんが、アニメの解説をする上でも必要なことだったのです。ご容赦ください。 さて、そんな意図で書いてきた原作ですので、映像作品にするのはめちゃくちゃ難しいだろうなと思っていました。実際、義妹生活ラジオ(第3回)にて、上野監督も「難しいと感じていた」と仰っていて、「ですよね!ごめんなさい!」と50%くらい申し訳ない気持ちになりました。ですが残りの50%で、「これを難しいと感じてくれる人に監督をしていただけて本当によかった」とも思いました。難しさを感じるということは、私が『義妹生活』で大切にしていることを完璧に読み取っていた証拠でもあるわけです。物語で起こる出来事を箇条書きにしてしまえば、何のことはないただのラブコメですから、そう割り切って、「あんまり面白くないラブコメ」と処理して作ってしまうことも可能なわけです。でも、そうはせず、魅力のコアを掬い取った上で正面から難しさと向き合っていただけた。本当にありがたいことだと思っています。 次に細かい部分を解説していきます。 ・悠太と沙季のキャラクター性、出会いについて 観ていただいた方はすでに感じていると思いますが、この二人、「すんっっっっっごい、理屈っぽくて、めんどくさい奴ら」です。人間関係においては特にそう。二人とも両親の関係の破綻を間近で目撃、経験しています。片方が相手を思いやってしたことを、もう片方が悪意として捉えているとか、察せるはずのない本音を察せられない相手のことを責める姿とか、そういった「対立し、すれ違う二人の人間の間」に中立の立場で立つことが多かった二人は人間関係のままならなさを肌身で実感しています。相手に一方的な期待をかけ、勝手に傷つき、罵声を浴びせる……そういった人間の、人間関係における「偏り」に「醜さ」を感じているのが悠太と沙季という人間なのです。二人のことを記号的なキャラクター属性にあてはめたら「クール」と表現できるかもしれませんが、実は「クール」と表現してしまうと、二人への解釈はすこしズレてしまいます。彼らは基本的に低体温的で、あまり声を荒らげたりしません。ですが、感情の起伏自体が乏しいわけではないし、マイペースで気遣いができないというわけでもない。そのため、初対面の人間に対して友好的な態度を試みますし、それは出会いの場面で交わされた二人の会話にも表れています。ユーモアに熱がない、ということを同種の人間である沙季には看破されてしまいましたが、基本的にはこの適度な距離感の、踏み込みすぎず、拒絶もしすぎず、おちゃらけすぎず、お堅すぎずのコミュニケーションで悠太は溶け込むように社会の中で生きてきました。これは、他人に期待しないが故の、敵を作りにくいコミュニケーションです。逆に沙季の方は他人に期待しない感性こそ同じものの、人間関係の機微を求める相手を最初から拒絶し孤立を選ぶタイプのコミュニケーションをしてきました。ですが、そのコミュニケーションは、彼女一人の問題で完結する場合にのみやります。彼女は自分は一人でいい、他のすべての人間に嫌われてもいいと割り切る感性を持つ一方で、母親である亜季子を誰よりも大事にしていて、亜季子の損になることをしたくないと考えています。そのため、亜季子が愛すると決めた男性である太一や、これから家族になる悠太に対しては自分もなるべく友好的に振る舞おうとしてきます。最初の顔合わせのうちから学校では見せないような笑顔をあえて作っているのもそのためです。高校卒業までの残り2年弱、表面的には友好的に繕うことで亜季子の居場所が確保されたら、その後、自分はそっと距離を置いて一人暮らしをすることで穏便に離れよう、とぼんやり考えています。……男家族に期待したくない、だけど相手を拒絶して傷つけたいわけでもない、そういった白とも黒とも言えないような微妙な感情を持ちながら家族になったわけです。 二人きりになったとき、沙季がクールな一面をあえて悠太にだけ見せてきたのは、自分と似たものを感じたから――自分と同じスタンスでこれからの家族生活を送れる可能性を感じて、ひとつの賭けとして、すこしだけ自分の「裏」を見せ、そして悠太が予想通りの人物だったので「契約」に至りました。 ・アニメオリジナル要素について 原作小説を読んでいる人は気づいていると思いますが、このアニメ、実はアニメオリジナルの描写がかなり多く、セリフやシーンの省略(カット)も非常に多いです。引っ越してきた沙季が壁に貼られたシールを発見し、指でなぞったり。帰宅した悠太が、明かりのついているリビングを見て、何かを思ったり。カップみそ汁の存在を強調し、過去の食事風景をフラッシュバックしたり。これらはすべてアニメオリジナルです。が、一方で、原作小説で記述されていなかっただけで、この二人の物語においては確かに存在したであろうシーンだと私は感じています。悠太と沙季がもしも実在したと仮定した場合に、原作小説よりも忠実に原作(二人の生活)を再現してくれた――小説を書くときに私が書き忘れてしまったことを、上野監督やスタッフの皆さんがきちんと見落とさずに拾ってくれた――そんな印象を持っています。 ・作画、演出、美術、編集について 私はもともと実写映画はよく観るのですが、大人になってからTVアニメを観る機会がかなり減っていて、実はアニメに詳しくありません。なのでアニメ特有の表現について多くを語れるだけの教養は持ち合わせていませんが、素人なりに思ったことをお話しすると、『義妹生活』の作品テーマをアニメーションで実現する上で取り得るありとあらゆる技法が駆使されているように思えてなりませんでした。 そこに生きていれば存在するであろう音、息遣い、人間らしい日常の動き(日常芝居、と呼ぶのでしょうか)、声優さんたちによる自然な演技、すべてが画面の中で自然と混ざり合っていました。これって、違和感がないのでスッと自然に流してしまいそうになるんですが、実は違和感がないこと自体、もの凄く難しいことなんじゃないかと思っています。 悠太と太一の「再婚することにしたんだ」の会話のシーン(インスタントな朝食を作っているシーン)、ドリンクバーのシーン等、視聴者の方にもそういった細部の動きに注目してもらいたいなと思いました。 又、山手線をはじめ、確かな実在感で描かれる渋谷の街。背景(美術)もどれも素晴らしくて、美しくて。人物の実在感を目指している以上、悠太や沙季が生きている世界そのものの実在感も高く在ることが求められる中で、ハードルを軽々と飛び越えていきました。 ただ、ここで思うのは、こういった1つ1つの「点」が魅力的なのは言うまでもありませんが、でもそれは一番大事なことじゃないのではないか、ということです。 作画や美術や音楽といった、一部分を切り取って美しいものというのも確かに素敵ですし、素晴らしいものではあると思うのですが……何よりも、すべての要素が合わさって、調和が取れて、時間の流れも含めて「1つの作品」として完成されていることにこそ注目してほしい――「点」ではなく「線」あるいは「面」で観てほしい作品だなと、強く感じました。 原作小説の時点で、キャラクターの印象的なセリフ、可愛いしぐさや表情、主人公のカッコいいセリフ、わかりやすい見せ場、といった「点」を重視しない作品でした。地味ではあるけれど細部にこだわるように小さな「点」を重ねていって、「線」あるいは「面」として作品全体をふんわり眺めると心地好くて好きになれる――そういった作品を目指してきました。そして実際に、その感性に共感してくれる大勢の読者さんには好きになってもらえて、応援してもらえました。 TVアニメ『義妹生活』も、同じような性質を持っている作品だと思います。じっくりと世界に浸って、ゆっくりと彼らを見守って、細かいところに愛情を感じる……そういった体験を求めている人に1人でも多く届けばいいな、と。 ……というわけで、原作者による1話の解説・感想ポストでした! ワードの文字数チェック機能で調べたら4000文字を越えてたんですが……長すぎる……。ろくに推敲してない4000文字以上、読んでくれた人は本当にありがとう。来週もよろしくお願いいたします。