債務の存在を争いながらの弁済の受領の催告と弁済の提供
東京地裁R3.8.30
<事案>
Xが、債務名義に表示されたYの請求権の全額についてXにおいて弁済を行い、Yの請求権が消滅したことを理由として、同債務名義の執行力の排除を求めた請求異議の事案。
Xは、Yに対して、本件控訴審判決の認容額に遅延損害金を付した額から既払金を控除した金額について弁済の受領を催告したがYが受領を拒否したとして、法務局に供託。
その後、上告棄却・上告不受理決定で確定。
⇒Xに対し、本件控訴審判決の認容額に本件控訴審判決確定日までの遅延損害金を加えた金額から既払金を控除した金額等の支払いを請求。
<争点>
Xによる供託及び弁済の提供の有効性
①Xが本件控訴審判決に対して上告及び上告受理申立てを行っていたこと等⇒債務の存在を争いつつ行う給付が債務の本旨に従った弁済の提供といえるか?
②弁済の提供に当たって、Yが不合理かつ不当な条件を附していたといえるか?
③口頭の提供の前提となるあらかじめの受領拒絶があるといえるか?
<判断>
●争点①について
損害賠償債務という金銭債務について弁済の提供の時点における遅延損害金を含めた債務の全額について弁済の受領を催告⇒弁済の提供は、債務の客観的内容に従ったものであるとし、Xが債務の存在を争っているからといって直ちに債務の本旨に従った弁済の提供に当たらない。
●争点②③について
弁済の提供においては何らの条件も付されておらず、
弁済の提供に当たって原告が不合理・不当な条件を付していたものとはいえない。
⇒あらかじめの受領拒絶がある。
●本件では、債務の一部についてのみ争いがあるにすぎず、債務名義全体について執行力の排除を求める必要はないとして訴訟費用の負担についても争われた。
but
Yの主張を踏まえてもXに訴訟費用の一部を負担させるべきものとまではいえない。
<規定>
民法 第四九三条(弁済の提供の方法)
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
民訴法 第二六〇条(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
2本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。
<解説>
●弁済の提供
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない(民法493条)
債務の本旨に従っているか否かは、当事者の意思、法律の規定、さらに信義則に従って解釈され、それは弁済者・弁済受領者・弁済の物体・弁済の場所・弁済の時期が債務の内容にかなっているか否かによって決せられる。
給付が客観的に債務内容に適合するならば弁済であるとみられる⇒「債務の存在を条件として」という留保を付して弁済したからといって弁済の効力に特に影響はなく、債権者は留保付きであることをもって弁済を拒絶し得ない。
●上訴審で判決が変更されたときの弁済の効力
弁済額が債務の全額に満たないこととなった場合、最高裁H6.7.18(判時1506号)
弁済額が債務の全額を超過した場合、
民訴法260条2項等に基づいて決せられるものと解されるとしている。
● 弁済の提供にあたって不合理・不当な条件が付されたような場合には、債務の本旨に従ったものとはいい難い。(最高裁昭和31.11.27)
but
本件において、不合理・不当な条件が付されたとはいえない。
判例時報2522
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