〈社説〉同性の住民票 国の変更要請は越権だ
国が「助言」という形で自治体の裁量に干渉し、「忖度(そんたく)」を強いるのは看過できない。
同性カップルの住民票の記載である。続柄欄を異性の事実婚と同様にする動きが自治体に広がっていることに対し、総務省が「実務上の支障を来す恐れがある」との見解を全国に通知した。
強制力のない「助言」の位置づけだ。それなのに松本剛明総務相は記者会見で、見解を踏まえた判断を自治体に求めている。
極めて問題ある対応である。住民票の作成や交付は自治体に裁量がある「自治事務」で、どう記載するかは自治体が決められる。
同性カップルの住民票の続柄欄に事実婚と同様に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載する運用を始めた長崎県大村市や神奈川県横須賀市などの対応は、自治事務として「裁量の範囲内で住民に寄り添った対応」(園田裕史・大村市長)である。
国と地方自治体の関係は「対等、協力」と定められている。自治体が裁量の範囲で判断したことに対し、国が変更を求める「助言」などは越権行為である。
それなのに総務省は見解の中で、同性カップルを異性の事実婚と同様に扱う前提がない中、「住民基本台帳法の運用として実務上の問題がある」と指摘した。「自治体間で記載内容が異なることによる課題が生じる可能性がある」(総務省幹部)という。
具体的にどんな問題が生じるのか不明確だ。同性婚の法制化に取り組まず、同性カップルの権利向上も進めようとしない政府の方針が影響しているのではないか。
大村市や横須賀市は方針を変えない意向を示している。同性婚の法整備が進まない中、同性パートナーと暮らす人たちは関係を公的に示すことが困難だ。当事者の苦悩に接する自治体の判断を、国は尊重しなければならない。
最高裁は3月、「犯罪被害者給付金」の支給対象である事実婚に、同性パートナーも該当すると判断した。性的指向によって異なる取り扱いをすることは、法の下の平等原則に照らし、合理性を欠くという判断である。
同性カップルの記載が異性カップルの事実婚と異なることの方が問題だ。自治体が記載を統一するのは最高裁判断にも沿う。
総務省が「自治体間で記載内容が異なることによる課題が生じる」と主張するのなら、同性カップルの住民票記載を、全国的に異性の事実婚と同様にしていくのが筋である。