中国「一帯一路」提唱から10年…15兆円超が不良債権化との推計も ウズベキスタンで見た開発の現場は
2023年10月16日 06時00分
中国の習近平 政権が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱してから10年を迎え、17、18の両日に北京で関係各国の首脳らを招いて国際会議を開く。当初は巨大な経済力を背景に参加国を拡大させたが、近年は米中対立や債務問題で行き詰まりもみえる。中国経済の回復が遅れるなか、曲がり角を迎えた一帯一路の行方を世界が注視している。(中国総局・新貝憲弘、写真も)
◆アジアユースの会場、TDL2個分を開発
「2年後にはここに新都市が生まれる」。ウズベキスタンの首都タシケント郊外で進む工事現場で今月上旬、タクシー運転手のアリシャさんが誇らしげに語った。中国メディアによると、2025年のアジア・ユース競技大会競技大会の会場として15の屋外運動場を建設するプロジェクトを中国企業が2億8900万ドル(約434億円)で請け負った。開発面積は東京ディズニーランド2つ分の約100ヘクタールに及び、周辺では商業施設や住宅も開発中という。
一帯一路は習国家主席が13年に提唱した。日本総研の佐野淳也主任研究員によると、オバマ米政権(当時)が中国へのけん制を強めていた時期で、習氏は「(米国が提唱した)環太平洋連携協定(TPP)に対抗しうる自由貿易圏の構築を目指した」。その後アフリカや南米などにも拡大して計150カ国以上と協定を結び、中国政府が公表した直接投資額は昨年末までに累計2400億ドル(約36兆円)を超えた。
◆「国際秩序への挑戦」と対中包囲網招く
しかし独立系シンクタンク「安邦(アンバウンド)」の賀軍 高級研究員は、特に海路の「一路」の展開が「海洋覇権を握る米国の勢力圏に手を伸ばそうとしていると疑われた」と分析する。欧米諸国に既存の国際秩序に対する挑戦と受け止められ、半導体規制をはじめとした米主導の対中経済包囲網につながったという見方だ。
また港湾建設費の借款が返済できなくなったスリランカや、高速鉄道建設などで債務が国内総生産(GDP)を超えたラオスなどの事例が「債務のわな」として問題になった。
18年半ばには中国が貸し付けた資金のうち1000億ドル(約15兆円)超が不良資産化したとの推計がある。一方、50カ国で中国からの投資額が年平均で1000万ドル(約15億円)に届かず、イタリアのように一帯一路からの離脱を検討する動きもでている。中国自身も不動産不況などの経営危機を抱え、かつてのような大盤振る舞いの余裕はない。
◆「各国を尊重」対等な協力うたうが…
こうした内外の課題を受け、10日公表の一帯一路白書は「各国の発展レベルや経済構造などを十分尊重する」と対等な協力関係の構築に努める姿勢を強調。「企業を主体に、政府は主にシステム作りや政策誘導の役割を発揮する」とも記載し、インフラ整備だけでなく環境や衛生、人文交流に力を入れる方針を掲げた。
一方で白書は「少数の国家が、発展の成果を独り占めする局面は変えるべきだ」と米主導の国際秩序を批判する論調も目立った。東南アジアの外交官は、政府主導での留学生受け入れなど中国による人材育成に言及し、「将来的に中国の価値観を植え付けられた人材が、(各国で)政府の要職などに就くことになりかねない」と懸念する。
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