股関節疾患

Hip

股関節疾患について

整形外科 股関節チーム

診療部長  大谷 卓也

日本小児整形外科学会
理事長
日本人工関節学会 理事
日本人工関節学会
2023年学術集会 会長
Hip Implant Technology
研究会 代表世話人

小児から成人、高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。
小児疾患では乳児の股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など、また、成人疾患では変形性股関節症、大腿骨頭壊死、リウマチ性股関節障害などが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆症と関連した脆弱性骨折や急速破壊型股関節症、活動的な成人に多く見られる大腿骨寛骨臼インピンジメント、関節唇損傷なども増加しつつあります。

股関節チームは、診療部長の大谷、診療医長の川口、若手股関節外科医2人、計4人の股関節チームで診療、手術を行っております。
慈恵会医科大学ならではの考え方、すなわち、人工関節のみならず、骨切り術、筋解離術などの関節温存手術、あるいはリハビリなどの保存療法といったさまざまな選択肢の中から、患者さん自身のライフスタイルに最適な方法を選択するという方針で治療を提供させていただきます。最近痛みを感じるようになった方、昔からの痛みだからと諦めていた方、手術を受けたけれど何かしっくりこない方、もう一度自分の脚でしっかり歩いてみたい方、また昔のようにテニスやゴルフなどの運動を楽しんでみたいと思う方、など、ぜひ一度ご相談ください。

股関節について

股関節は太ももの付け根にあり、からだの中のもっとも大きな要の関節で、体重を支えています。
歩く・走る・座るなどの動きをする時に私たちの体を支えるための重要な役割を果たしており、普通に歩くだけでも体重の3〜4倍の力が股関節にかかると言われています。走っている時には体重の4〜5倍に増加するとされていて、階

段昇降、椅子からの立ち上がりでは、体重の6〜9倍の力が、さらに、床や低い位置からの立ち上がりでは、10倍の力が股関節にかかると言われています。
股関節は、大腿骨側にある球形の大腿骨頭と呼ばれる部分と、骨盤側で大腿骨頭の受け皿となる寛骨臼との組み合わせでできています。大腿骨頭と寛骨臼の表面は軟骨に覆われており、関節のクッションの役割を果たしています。
股関節は筋肉や腱などで全体を覆われているため、安定性を保ったままいろいろな方向に動かすことができます。正常な股関節では、寛骨臼が骨頭の約4/5を包み込むことで関節を安定させていて、走ったりジャンプしたりしても股関節がぐらぐらしないのは、筋肉や靱帯の働きによるものです。軟骨が加齢や何らかの疾患などの原因によりすり減ってくると痛みを生じてくるようになり、骨の変形を生じてしまいます。

当科での治療について

当科では、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、股関節唇損傷(インピンジメント障害)などの成人股関節疾患や障害、および、乳児の股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症などの小児股関節疾患に対し、高度な専門的診療を行っています。
手術術式としては、人工股関節置換術、再置換術、人工関節を使用しない関節温存手術(骨切り術など)も積極的に行っております。数多くの術式の中から最適の治療法を選択して行います。

股関節の対象疾患

小児股関節の対象疾患

股関節の手術について

症状が軽い場合には鎮痛剤や杖、ダイエット、運動療法などを利用して保存的治療を行います。どのようにすると痛みが強くなるかよく観察していただき、日常生活と、痛みを悪くしない股関節の使い方を、一致させることが大切です。加齢や変形性関節症などで股関節が変形・破壊されることにより強い痛みが継続している場合や、症状が進んでいる場合には、保存的治療では限界があるため手術的治療を検討します。
当科で主に行っている股関節疾患に対する代表的な手術的治療には人工股関節置換術(THA)や寛骨臼回転骨切り術(RAO)などがあります。

人工股関節置換術(THA)とは

人工股関節置換術は英語で 「Total Hip Arthroplasty」「Total Hip Replacement」と表記され略して「THA」や「THR」と呼ばれています。人工股関節置換術とは、傷ついた股関節の損傷面を取り除いて、人工の関節に置き換える手術です。
手術では、まず皮膚切開し、筋肉を分けて関節を開いて大腿骨の骨頭を取り出します。続いて寛骨臼の損傷面を取り除き、金属およびポリエチレンでできた人工股関節に置き換えます。

当科ではなるべく侵襲の少ない治療を行うこと、若年では人工関節を回避することに努めていますが、実際には人工関節治療を適応せざるを得ない患者さんは大変多く、今日の股関節疾患治療の主役を演じる術式であることは事実です。その理由は、今日の人工股関節におけるインプラントテクノロジーと手術技術、術後管理システムが大きく進歩しており、手術の安全性、確実性の点でとても信頼できる治療法となっているからです。さらには、手術を受けた患者さんご本人の満足度という観点において、整形外科以外も含めたあらゆる手術術式の中で、この人工股関節が最も優れた術式であることが世界的に認められています。

人工股関節置換術の方法は、骨とインプラントをどのように固定するかによって大きく2つの方式に分けることができ、ひとつは骨セメントという固定材料を用いる方法(セメント人工股関節)、もうひとつは骨セメントを用いずに骨とインプラントの直接結合をめざす方法(セメントレス人工股関節)です。
世界の動向としては、人工関節技術が発展を始めた当初の1970年代から1980年代にかけてはセメント方式が主流でしたが、1990年代から2000年代へとセメントレス方式が大きく見直されて主流となり、今日では本邦で行われている人工股関節の75%以上がセメントレス方式で行われています。

当科における人工股関節置換術の特徴

慈恵会医科大学 整形外科学教室は、セメントレス人工股関節の研究と臨床経験において本邦で最も古い歴史を持つ施設のひとつであり、1950年代から一貫して日本人の変形性股関節症に適したセメントレスインプラントの研究と臨床応用を進めてきました。日本人が初回手術として受ける人工股関節置換術には大きな特徴があり、それは、原因疾患のほとんどが小児期の股関節脱臼や生来の股関節形成不全を基盤とした二次性変形性股関節症であるという点です。臨床的には、骨の変形程度が強い、軟部組織の拘縮が強い、その結果として姿勢異常や跛行が著しいといった特徴があります。
このような問題点を踏まえ、当科における人工股関節治療の特徴としては、
1)変形の強い股関節にも対応できるよう、さまざまなインプラントから最適なものを選択して採用する
2)強い拘縮に対しては術中に軟部組織解離処置による治療を十分に行う
3)術後のリハビリには独自に開発した運動療法を取り入れて姿勢と跛行の改善に努める
といった治療プログラムを組んでいます。


人工股関節置換術のアプローチ:
「前方進入法」と「後方進入法」;当科の考え方

近年、「壊れた関節をどう治すか」以前の問題である「股関節にどの方向からアプローチするか」が注目され、あたかも「その違いが良い手術であるか否かを決定する」かのように論じられているのを多く目にします。患者様としては、理解が困難な情報がさまざまに交錯し、悩ましく感じておられることと思います。当科では、「どちらから手術するか」よりも「どのような人工関節置換術を行うか」が重要(例えば、どのようなインプラントを選択しどう使いこなすか、などを議論する会 [Hip Implant Technology研究会: http://www.hit-hip.jp/index.html ] を主宰しています)と考えていますが、アプローチ法に関する理解を深めていただくために私どもの考え方を記載させていただきます。
もともと、「股関節をどちらから展開するか」にはいくつかの方法があり、わが国では、そして世界でも、股関節外旋筋を切離して後方から進入する「後方法」と、股関節外転筋の一部を切離して側方から進入する「側方法」のどちらかが使用されることがほとんどでした。しかし、近年、「低侵襲」や「早期回復」というテーマのもとに股関節周囲の筋肉を切らずに手術を行う方法(さまざまな方法が提唱されていますが「前方法」はその代表と言ってよいでしょう)が注目され、多くの議論が行われています。

前方法の特徴:
前方法のメリットは、関節周囲の筋肉や腱を切らずに筋肉と筋肉の間から手術を行うため低侵襲であり(minimally invasive surgery: MIS と呼ばれています)、回復が早い、術後の脱臼のリスクが少ないなどを期待できる可能性があるとされています。一方、股関節という大きな関節の置換術を筋肉を切らずに行うわけですので技術的な困難さを伴うことは事実です。デメリットとしていくつかの手術合併症(インプラント周囲の骨折、神経損傷、創部関連の問題や感染など)のリスクを高める可能性も議論され、とりわけ術者の経験が少ないうちは注意が必要とされています。トラブルのリスクは、手術を受ける一人ひとりの股関節の状態(重症度や難易度)と、実際に手術を執刀する術者個人の技術レベルとの相対関係で決まるため、MISを採用するか否かについてはそのリスクとベネフィット(実際に得られる成果;後述します)とを十分に比較検討する必要があると思われます。前項「当科における人工股関節置換術の特徴」で述べたように、わが国では「骨の変形が強かったり軟部組織拘縮が強かったりする二次性変形性股関節症が多い」ことにも十分に留意する必要があると思われます。

後方法の特徴:
後方法のメリットはひと言で言えば「安全・確実」という点です。一般に、膝(ひざ)関節の手術はほとんど前方から、肘(ひじ)関節の手術はほとんど後方から行われますが、その理由は前後の問題ではなく、「関節を曲げた時に凸側となる側(伸側)から行う方が観察も操作も行いやすいことはどの関節でも共通であり、また、折りたたまれる側(屈側)には大きな血管があり危険が潜む」からです。股関節にとっての伸側からのアプローチが後方法であり、股関節前方には大きな血管があります。ただ、股関節後面には「短外旋筋群」と呼ばれる短い筋群があるためこれを一時的に切離しなければならないことがデメリットとなります。さらに、ひと世代前の「旧式後方進入法」の時代にはこの筋群はあまり大切ではないと考えられていたため、切離した筋群をそのまま放置したり、あまり丁寧に修復しなかったりしたため、術後の脱臼率が高くなる傾向が報告されていました。

当科の後方進入法について:
慈恵医大股関節研究班では「安全な後方法をいかに進化させるか」をテーマとして、さまざまな研究を2008年から継続して行ってきています。まずは、後方法で切離する外旋筋群の機能解剖の研究から、それまで世界でもあまり注目されていなかった外閉鎖筋が脱臼予防に重要であることを見出し、一般的には行われていなかった、そして今日でもまだあまり行われていない、外閉鎖筋修復を開始しました。もちろん、関節包(筋肉の下層にある、関節を包む線維組織)もしっかり修復します。さらに、近年では、外閉鎖筋を含めたすべての筋群の修復方法を再検討し、以前の吸収糸を用いた一般的修復法(Kirchmayer法と呼ばれます)から高強度の非吸収糸を用いた強化修復法(Krackow法を応用しています)へと進化させ、さらなる改善に努めています。その結果、当科の後方進入法による術後の脱臼率は、さまざまな前方法と比較しても勝るとも劣らない0.4%となっています。また、「安全・確実な手術のメリット」を生かして、手術合併症は感染0.4%、骨折0.4%、神経麻痺0%という非常に低い数値を達成しています。(Hayama T, Otani T, Kawaguchi Y. J Orthop Surg. Sep-Dec 2020;28(3):2309499020956742.)

後方進入法と前方法の適応について:
これまで、「前方法と後方法の術後の股関節機能が、理論的にではなく、実際の手術患者さん達においてどのように異なるか、異ならないか;前述のベネフィット」については、世界中で数多く検討されてきました。そして、その研究結果は、「両者には差がないか、あるとすると術後の早期においては前方法が優れるものの、術後2か月以上経過した後は両者の差は無くなる」というものでした。したがいまして、当科では、術後非常に早期(1週間〜1か月)に重労働への復帰を希望される方、ならびに理想を追求するハイレベルアスリートの方などを除き、趣味としてのスポーツ(ゴルフ、ダブルステニス、卓球、ダンス、登山、水泳、ゲレンデスキー、ジョギングやウオーキング、スポーツジム、カーブス、など)を希望されるような一般の患者様につきましては、安全・確実を最優先する当科の後方法による手術が最も適していると考えています。ただし、この手術法におけるひとつの条件として、「修復した組織がきちんと治癒するまでの期間(安全を期して術後2か月間としています)は、一定の動作制限を守る」ことが大切と考えており、転倒しないように注意すること、正座など和室の動作は避けることなどがそれに含まれます。術後2か月を経過した後は、これらの制限はすべて完全に解除となり、どのような姿勢や動作でも気にせず普通に生活できるようになります。また、筋力回復とともに、徐々にスポーツ活動へも復帰していただきます。

手術法につき十分にご相談した上で前方法も検討した方が良いと考えられた場合は、新橋の慈恵医大本院の股関節メンバー(前方法である「仰臥位前外側法」で日本を代表する医師の一人です)とともに検討を行います。前方法、後方法を含めた中立的な立場からアドバイスできると思いますので、お気軽にご相談ください。


人工股関節置換術のメリット

  • 手術した翌日から荷重制限なく歩行することができ、早期に社会復帰ができる
  • 痛みの原因を根本から取り除くため、痛みを大幅に緩和することができる
  • 姿勢が良くなり、安定した歩行を取り戻し、活動範囲が広がる
  • ゴルフ、テニス、卓球、ダンス、登山などのスポーツ復帰も目指せる

人工股関節置換術のデメリット

  • マラソンやコンタクトスポーツなどの激しい運動ができなくなる
  • 手術に伴う細菌感染、出血、脱臼、血栓、骨折、神経障害などの合併症を起こす可能性がある
  • 非常に稀ではあるが、人工材料によるアレルギー反応が起こることがある

入院から退院の流れ

術後1日
車いす
術後2日以降
痛みに応じて歩行器などで歩行訓練
1週間程度
杖歩行の練習を開始、階段練習などを行う
術後約2週間で退院

入院後の生活について 各部門としっかりと連携して安心な入院生活を支援いたします。

実績について

2017年度2018年度2019年度
THA102109130
人工股関
節再置換術
6912
RAO1338
その他の
関節温存手術
111
小児疾患857
合計153153176

費用について

当科の治療に必要な費用は、高額療養費制度が適応されます。
※高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。

詳しくは厚生労働省webサイトをご覧ください。

股関節疾患に関連するコラム

  • 股関節

    人工股関節について③

    人工股関節の重さについて

  • 股関節

    人工股関節について②

    人工股関節の材質について

  • 股関節

    人工股関節について①

    人工股関節のインプラントについて

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狛江駅北口より約10分

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    慈恵医大第三病院前 下車

    京王バス 調布駅南口行 慈恵医大第三病院前 下車

  • 小田急バス 慈恵医大第三病院行 終点 下車

    京王バス 調布車庫前行 慈恵医大第三病院前下車