第四十五章 One for all, all for one

 リチャードはセフィロス達に向かって勝ち誇ったかのように語りだした。彼が言うことによると、歴史にヒントが隠されていたとのことだった。

 

 ランカスター家打倒に何があれば良いのか?

 先ずは歴史を洗ってみた。

 遠い昔、ランカスター家遠縁の者が日本という小さな島国にいたころ、ある女に一族の男が殺されたという噂が出回った。その女は大層美しい娘で芍薬の甘い香りを漂わせていたらしい。一族の男はその娘と激しい恋に落ちた。だがその娘は文字通りただの人間ではなく、芍薬の精霊だったという。自分の血が相手を殺してしまうと知った姫はその男を愛するあまり自害した。男は彼女の血を吸い、後を追うように死んだという。

 

 芍薬がランカスター家の弱点であれば、何か作れないかと試行錯誤して作り上げたのがこの剣だ。

 

 芍薬を使って何年もかけて練り上げて生み出したこの宝剣。しなやかで見た目も美しいが、切れ味も申し分ない。実際の効果を調べる為には試し斬りが必要だ。そこでお前達の領地の者を拉致しては試し斬りしていたのだ。

 そしてランカスターの血筋を少しでもひく者を灰化出来ることを確信した後、あの話し合いの時に息子にそれを持たせてみたのだ。まさか当主自らが実験台になるとは……そればかりはこちらの予想外だった……とのことだ。

 

「この剣さえあればお前達を消し去るのは容易い。我等ヨーク家がこのテネブラエ一帯を掌握する日も目の前だ。先祖代々長年の夢が漸く叶うのだ。しかし、お前達はまだ年端もゆかぬ若年。それに皆宝石のように美しい。それを鑑みて私なりに情けをかけてやったつもりだったのだが……」

 

 リチャードはセフィロスをふと見遣った。

 

「愚かな奴よのお。セフィロス。お前はもう少し賢い奴だと思っていたのに。我が傘下におれば命は取らぬと先刻申したであろう。命さえあればどうとでもなる。大人しく息子の寵姫にでもなっておれば苦しい思いもせず悩むこともなく安泰でおれたのに。他の手下共も殺さず奴隷として生かすことも考えておったのだぞ。そんなに快楽より苦痛の方が良いのか」

 

 セフィロスはギリリと歯を食いしばった。月の光に溶けてしまいそうな髪が零れ落ち、青白い頬に陰影を作っている。

 

「断る! そんな屈辱的な生き方は望んでおらん!!」

 

 リチャードは眉を八の字に歪め、溜息を一つついた。

 

「ならばこの場で全員灰にしてやろう。ここがお前達ランカスター家終焉の地だ。誇りに思うがいい!」

 

「そうはさせないわ。わたくし達を甘く見ないで頂戴!」

 

 ウィリディスが翠玉の瞳を光らせ、犬歯をむき出しにして吠える。

 

「そんなに死に急ぎたければ全員殺してやる。かかれ!」

 

 リチャードの鬨の声に、それまで鳴りを潜めていた従者達の目に怪しい光が宿る。彼等の周囲にブラウンの光芒が発せられた。

 

 (もう後にはひけない)

 

 身体を強張らせたセフィロスの耳元に聴き慣れた声がした。

 

「セフィロス。大丈夫だ。お前には俺達がついている」

 

 ロセウスがセフィロスの右肩を叩いた。ルフスは黙って左肩を叩く。彼等による手の重みと温もりを嬉しく感じられた。

 

「いつまで強気なことを言えるか見てやろう。我が従者は術で幾らでも蘇るし増え続けるからな!」

 

 (道理で。ゾンビのように増え続けると思っていたら、やはり術だったか……術者はリチャードかランバートのどちらかかもしれんな……)

 

 ヨーク家の従者達がよって集ってセフィロス達に襲いかかってきた。

 

「かかってきやがれ! うおおおおおおっっ!!」

 

 ロセウスが大きく吠え、飛びかかってきた者達を連続肘打ちで応戦した。一撃で首の骨を粉砕された者達はあっという間に灰化してゆく。

 

 そんな中、セフィロスの頭に怪しげな声が響いてきた。耳ではなく、脳内に直接響いてくるので非常に厄介だ。

 

「あの時暴れなければもう少しで楽園までいけたのに、お前は惜しいことをしたものだ……」

 

 全身にまとわりつく声に生臭い臭いが鼻の奥で再現され、吐き気を催しそうになる。

 

「美しいだけでなく感度が頗る良い身体なのに勿体ない。快楽を知らずに死ぬとは哀れなものよ。俺は父上と違って温情がある方だ。今でも手遅れではないぞ……」

 

 ベッドの上で自分の身体中を執拗に這い回った指や掌、ねっとりとした唇や舌の感触を強引に思い出させられ、身体中がビクッと反応する。

 

「煩い! 断る!!」

 

 沸点が低くなっているセフィロスはやや苛立ちの声を上げた。彼に向かってルフスは手を伸ばす。

 

「セフィロス! 俺の目を見ろ!! 奴の言葉に惑わされるんじゃねぇ! 奴は気を散らしてお前の力を発揮出来ぬようにさせる気だ!!」

 

 ルフスはセフィロスの頬に手を添え、ロイヤルブルーの瞳を覗き込んだ。その瞳は太陽の様に赤く燃え盛るそれを見つめ返す。ランバートの術によって焦点を失いかけていたその瞳が光を徐々に取り戻してゆく。

 

 (ああ、温かい……)

 

 セフィロスは自分の身体を優しく包むシャツの感触を感覚でなぞってみた。

 そう言えばこれは彼に借りたものだったと改めて思い出す。

 そう思うと彼によって自分の人格までも包まれるような感じがして、全身がしびれてきた。

 

「……すまない。私はどうかしているな……」

 

 掌の中で瞳がどこか揺らいでいる。身体もどこか震えていた。

 無理もない。

 突然両親を殺され、師を殺され、生まれ育った家まで燃やされた。そのうえ女のように凌辱されかけ尊厳まで踏み躙るようなことまでされて、何とも思わない方が不思議である。

 立て続けに起こる惨事に、聞いているだけで心が砕けてしまいそうだ。

 それでも彼は本家現当主として表に立ち続けねばならない。

 何故彼ばかりがこんな目に遭わねばならないのか。

 痛ましくて正視出来ない。

 

「……お前をこんな目にあわせるなんて、あいつら絶対に許さねぇ! 嬲り殺しにしても足らねぇな」

 

 ルフスの紅玉が怒りに燃え上がり、益々赤味を帯びている。

 

「俺達がお前を絶対に守ってやる」

 

「何とかしてあの憎きリチャードとランバートを殺りましょう! そうすれば活路が見いだせるかもしれないわ」

 

 ウィオラがそのスレンダーな身体から紫色の光芒を発し、掌から暗紫糸を揺らめかせている。垂れ目の中でアメジストの瞳が鋭い光をまとい始めた。

 

「おーい。お前ら俺のこと忘れてないかぁ? 奴等の力を落としてやるぜぇ!」

 

「ちゃあんと把握しているわよロセウス。勿論、わたくしもサポートするわセフィロス!」

 

「雑魚達は遠距離攻撃が得意なボク達が何とかします!」

 

 (みんなを守る為にも私は屈するわけにはいかない! )

 

 六人の心が一つに結ばれたように感じられて目頭が熱くなる。セフィロスの胸の奥底から溶岩が湧き出てくるように、熱い思いが膨らんできた。

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