第四十四章 崩壊の序曲

 ヨーク家の屋敷内。

 ランカスター家の屋敷といい勝負に広い。

 セフィロス、ルフス、ロセウスの三人は急ぎ足で駆け抜けていた。

 早くこの屋敷を脱出せねばならないことは分かっているが、慣れない場所な為右も左も良く分からない。

 動きがどうしても鈍くなる。

 

「身体はもう大丈夫か? セフィロス」

 

 ロセウスは自分の後ろから駆けてくるランカスター家現当主をちらと見遣った。

 

「ああ。君の“破力波”のお陰で、私にかけられてた奴等の術は完全に解けたようだ。本当に助かった。ありがとう」

 

 セフィロスは両腕を動かし、自由に動かせることを彼にアピールした。その隣でルフスは右左と視線を動かしている。

 

「先程来た道を元に戻ればここを何とか最短で抜け出せると思う。慣れないから戸惑うが」

 

「しかし君達はどうやって私の居場所が分かったのだ!? ここは初めてだろう? 私でさえも過去父の付き添いで一度来て以来。それも、こんな奥までは来なかったからほぼ初めてもいいところだ」

 

「それに関しては俺が説明してやる。走りながらで悪いが」

 

 ロセウスによると、セフィロスが攫われた時、急を知らせたのはウィリディスだった。犯人は黒い覆面を着けていた為顔の判別が出来ないが、おそらくジョージかパーキンだろうと思われる。こういうことを忠実に実行へと移すのは彼等しかいないからだ。

 

 彼が飛び去る方向を確認すると、ヨーク家の領地がある方向へ向かっているのは分かった。その時セフィロスの周りに微かだが青白い光が瞬いているのに彼女は気が付いたのだ。どうやら我々ランカスター家の者にしか見えない光のようだ。

 

 屋敷をマルロと彼の教え子達に任せ、五人でヨーク家の屋敷に向かった。現地に到着してからもその瞬きは消えずに見えた。まるでどんな壁でも通り抜けていくように、光は見えたのだ。不思議だ。

 ロセウス達はその光を見失うことはなかった。

 その光が突然動きを止め、燦然と輝きを増した。

 その後を追うように辿った先にセフィロスがいたということだった。

 

 (この首飾りのサファイアって、持ち主の居場所を知らせる力があったのか……)

 

 ある意味、父ヘンリーが自分を守ってくれたと言っても過言ではない。

 

 (父上……)

 

 鼻の奥がちくりと傷んだ。

 

 セフィロス達が階段を一気に下まで降りると、騒がしい音が鳴り響いていた。複数人が乱闘騒ぎを起している。その中でも一際目立つ三人の姿がサファイア・ブルーの瞳の中に飛び込んで来た。緑色のコート、紫色のコート、黄色のコートの三人が茶色のコートを羽織った集団に囲まれている。

 

「はああああああっっ!!」

 

 紫色のコートの裾を棚引かせたウィオラが両手から何本もの黒糸を吐き出している。

 彼女が得意とする暗器、黒紫糸だ。

 黒く煌めいた糸が弧を描き、獲物に巻き付いてはその身体を剪断していく。

 

「やぁ――っっ!!」

 

 ウィリディスは背後から黒い尖った爪のようなものを何本も伸ばし、四方八方で獲物を串刺しにしては長い足でふっ飛ばしている。

 

「ええい!!」

 

 赤銅色の髪を持つ少年は身体から黄色い光芒を放ち、獲物に向かって金色の雷を次々と落としていく。

 

 彼等は奮闘しているが、相手の数が一向に減る気配が何故かしない。逆に増えているような錯覚を覚えた。

 

「ウィリディス! ウィオラ! フラウム!!」

 

 ウィリディスがセフィロスの声に真っ先に反応し、表情が一瞬明るくなった。彼女の声を聞き、ウィオラとフラウムも三人が帰ってきたことに気付き、表情を和らげた。

 

「セフィロス!!」

 

「三人共良かったです」

 

 セフィロス達は敵を薙ぎ倒しつつ、ウィリディス達に加勢した。自分達の周りを囲む敵の数を見て背筋が寒くなった。屋敷内に収容出来る人数を明らかに超えている。

 

「一体ここは何人従者がいるんだ!?」

 

「良く分からないけど、倒しても倒してもまたやって来るんです」

  

「きりがないのよ。……私ちょっと疲れてきたわ」

 

 ウィオラの雰囲気がやや疲労感を帯びている。屋敷に突入してルフス達がセフィロスを救出して戻ってくるまでずっと戦っていたのだから、無理もない。フラウムは少し咳き込んでいる。

 

 そこへ大きなどら声が響いてきた。

 

「我々から逃れられると思ったか! ランカスター家の者達よ」

 

 セフィロス達が声の主の方に顔を動かすと、茶色のコートを来た男がゆったりと近付いて来た。ランバートと似た大柄な男の出現にヨーク家の従者達も動きをぴたりと止めている。

 その男はヨーク家現当主、リチャード・ヨークだった。その後ろには、腹に手をあて、顔色がやや悪いランバート・ヨークも立っていた。

 

「こんな形で再び相見えることになるとは思わなかったな。セフィロス・ランカスター」

 

「リチャード・ヨーク……!」

 

「そんなに痛めつけられるのが好きとは意外だ。お前は父君とはタイプが異なるようだ」

 

「一体何が言いたいのですか!?」

 

「お前達の屋敷は今頃廃墟となっておる筈だ」

 

「……何ですって……!?」

 

「マルロという奴がシンガリだったようだがな。我が手下が奴を仕留め、他の奴等を仕留め、火を放っておる。もう戻る場所などない。お前達には我が配下に降るか死ぬかの選択肢しか残っておらぬ」

 

「嘘だ!! 勝手を言うな!!」

 

「ではこれを見るが良いぞ」

 

 リチャードが手をかざすと、セフィロス達の目の前に燃え上がる屋敷の画像が出現した。それは見間違える筈のない、彼等の屋敷だった。何百年もの間先祖代々守り続けられてきた建物が、赤々とした火の海に飲み込まれている。

 

「何てこと……!!」

 

 フラウムの右手がわなわなと震えている。

 

 ランバートの横に立つ黒い覆面を被った男がセフィロス達に向かって右手を突き出した。その手に握られているのは黒い煤のついたオリーブ・グリーン色をした上着だった。ランカスター家を示す赤薔薇を中心とした小さな紋章が袖元に縫い付けられている。見間違えるはずのない、マルロの上着だった。

 

「……!!」

 

 セフィロスは言葉が出なかった。

 その上着を凝視したまま、ごくりと唾を飲み込む。

 そう簡単に倒れる筈のない屈強の戦士でもあったあのマルロが……何故……!?

 

「最後の最後までしぶとく手強い奴だったが、この剣で一突きしたら呆気なく灰化した。まさかお前達がこの剣の前には逆らえんとは意外だった」

 

 黒い覆面の男は感情のない声で言い放った。そして腰に帯びていた剣を黒い鞘ごと外し、ランバートに渡した。

 

「あれが気になるか? まあいい。突然我々が急に力を得たのか不明のままでは気持ちが悪いだろうから、私が教えてやる」 

 

 その剣の鞘には、ヨーク家を示す白薔薇を中心とした紋章が彫刻されていた。

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