第四十章 暴かれた弱点

「……嘘……!!」

 

「おじ様……おば様……!!」

 

 ウィリディスは手で口元を多い、それ以上言葉が出てこなかった。ウィオラは水晶のような涙をぽろぽろ溢している。

 

「事実でございます。私が不甲斐ないばかりに……! ヘンリー様は私を守る為に身を挺されて……全ては私の責任でございます……」

 

 声を震わせながら話しをしていたマルロは、頭を下げたままだった。彼の姿がいつになく小さく見える。

 

「どうか顔を上げてくれマルロ。話してくれてありがとう。お前が無事に戻ってきてくれて良かった……!」

 

 セフィロスはマルロの肩を抱き、静かに諭すように言葉をかけた。

 

「セフィロス様……」

 

 マルロは目の前に立つ少年が必死に感情を噛み殺しているのが良く分かった。サファイアブルーの瞳の中にはどこか戸惑いがちの色が見え隠れしているのだ。気が動転しながらも冷静さを失わぬよう、己を鼓舞し続けているに違いない。

 

 突然両親を奪われた。

 だからといって悲しみに打ちひしがれている猶予はない。当主が死んだとあれば、彼が新たな当主として家を守る立場を背負い、色々采配していかねばならないのだ。

 例え若輩者だろうが、屋敷に住まう者達を路頭に迷わせるわけにはいかない。

 急に櫂を流され大波に弄ばれている小舟のような状態だ。どんなにか不安だろう。だが、代わってやれるものは誰一人いないのだ。

 

「身分問わず誰に対しても優しかった父上らしい。きっとお前を私の元に無事戻らせる為だったのだろう。誤っても自害とか馬鹿な真似をするなよ」 

 

 そこで、セフィロスの肩にぽんと手が置かれた。心地よい温もりと重みを感じてその方向に顔を向けると、紅玉の瞳が見つめてきている。その瞳には、彼をどこか気遣うような色が揺らめいていた。

 

「問題は、ヨーク家の奴等がこれを機にここを攻めてくる可能性が非常に高いということだ。彼奴等、性格悪い卑怯者だからな」

 

 ロセウスが腕組をすると、袖を捲りあげてあらわとなっている前腕に血管がぷくりと浮かび上がった。

 

「そうだな。結構腕が立つという評判もあるようだから、心して掛からねば……」

 

 ルチルクォーツの瞳を瞬かせた少年が首をこくりと傾げている。

 

「しかし、何故おじ上達は貴艶石を破壊されたのでしょう? あれは普通の剣で容易に壊れるほど脆いものとは思えませんが……」

 

 フラウムの指摘に対して、その場にいた全員が無言となった。部屋の温度が一気に氷点下の世界へと突入する。

 

 ランカスター家一族の最大の弱点は、体内のどこかに存在すると言われる貴艶石だ。それを破壊されただけで肉体は灰と化し、魂は砕け散るとも言われている。

 

 ただ、剣や銃弾では容易に壊れない。

 貴艶石が強固であれば強固であるほど、その者は長寿を全う出来るのだ。それが二大勢力として長く君臨出来ている所以だ。

 

 その貴艶石が破壊されたとなると、その武器は何らかの力を持っているに違いない。何にせよ、ランバート・ヨークが持つ剣には容易に近付かない方が良いに越したことはないだろう。

 

 (父上はどんなにか無念だっただろう……)

 

 話し合いのつもりで出向いた先でまさか命を奪われるとは思わなかったに違いない。

 単なる話し合いの時は公平に互いに攻撃しないと、両家の間で予め決めていた筈だ。それをいきなり反故にするとは何とも卑怯なやり方である。腹ただしいを通り超え、腸が煮えくり返る想いだ。

 

 (母上……私は貴方に認めてもらいたかった……)

 

 昔優しかったが、成長するにつれて厳しくあたるようになった母親に、セフィロスはいつも自分を認めて欲しいといつも願っていた。だが、今やそれはもう二度と叶わない望みだ。悲しみと怒りが複雑に絡み合い、彼を離してくれない。

 

 拳をギュッと握りしめていると、背中をバンバンと大きな手によって叩かれる。

 自分よりも大柄なロセウスがニヤリと口元を歪めていた。

 

「安心しろ。お前には俺達がいる」

 

「ボクも頑張りますよ! セフィロス」

 

「わたくし達も、あなたを守るわ。あんな奴等、八つ裂きにしてやりたい!!」

 

「徹底的にノシてやろうじゃないの……!」

 

 先程まで滂沱の涙に濡れていた淑女達は、鼻息を荒くしている。

 

「お前等二人が本気を出したら、きっとヨーク家は一瞬で炭になるな。俺達出番なしかも……」

 

「「なぁんですってぇ……!? 失礼しちゃうわ。それがレディに対して言う台詞!?」」

 

 ぎらりと睨んだ女子二人の前に、ロセウスは大蛇に睨まれた蛙の心地がした。発達した上腕二頭筋を交差させて我が身を抱く。

 

「怖ぇ……っっ!! お前等それだけ頼りにしているという例えが通じねぇのかよ!」

 

「まあまあ、ロセウス兄さん。ウィリディス姐さん。ウィオラ姐さん。そこまでそこまで……!」

 

 ウィリディス達を宥めるフラウム。

 彼等の喧騒を横に、ルフスはぽつりと言った。

 

「おじ上には随分世話になったからな。俺達が力を合わせてこの状況を何とか乗り切らねばな……」

 

「……」

 

 ルフスは突然無言になったセフィロスの左肩に手を置き、ぐいと自分の方へと抱き寄せた。セフィロスは自然とルフスに身体を預ける姿勢となる。

 

「……ルフス……?」

 

 ルフスの肩の上に顎を乗せたセフィロスはやや戸惑い気味だ。

 

「無理するな。今の間位、素のお前でいろ」

 

「……すまない……」

 

 親友の意を介したセフィロスは、その身体にそっと腕を巻き付けた。彼の匂いと服越しに伝わってくる温もりが、強張っている心と身体を少しでも和らげようとしてくれる。

 

 (父上……母上……!! )

 

 暫くすると痛切な嗚咽が聞こえて来た。

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