女神は「なぜあなたは創作をするのか」と問われた。これは、私にとっては紆余曲折のあるテーマだ。 まず幼少期。私はロボットアニメなどを見ながら、オリジナルMSなどを書いていた少年だった。それが大学時代に3DCGに出会って、しばらくはそれで飛行機やロボットなどを作っていた。ノートの隅に落書きするのも欠かさなかった。その後大学院に進学し、ニートを経て仕事をするようになり、次第に創作からは遠のいていった…… 第一の転機は、2019年の春。忘れもしない4月17日。私には小説が趣味の友人がいて、会話の流れで私も書いてみることになった。当時28歳。初めて小説というものを書き始めた。書き始めたら、頭の中にどんどん声が響いてきた。目を閉じると句読点や改行も込みで文章が見える。 過労のせいか、当時新しく処方されたばかりの強力な睡眠薬のせいか。雑誌に載ったばかりの査読論文に一切の反応が聞こえなかったストレスか。私は神託を得た。そうして書きあがった預言書が……アダルト小説だった。 これが当たった。初投稿から三日目で、一日1万PV越え。その後勢いは落ちたが、二週間で9万PV 。有頂天である。ノベルアップではないノで始まるアダルト小説サイトがいくらPVが伸びやすいとはいえ。 いや、理由はわかっている。預言が聞こえていた間は起きている間ずっと……目覚めた時から仕事中も電車の中もずっと声が聞こえていたので、ひたすら書いたのだ。多い日で一日8話投稿。処女作でネット小説の常識もなかったから、書いた端から投稿した。 そしてすぐにお告げは聞こえなくなり、自分の力で創作を始めることになった。これが本当の意味で、初めて小説を創作した瞬間だった。この処女作を、約1年かけて本編だけで69話書き上げた。その後の後日譚も含めて、総文字数17万字。完結するころには、小説を読まれる快楽の虜になっていた。ツイッターでは創作仲間も出来ていた。 この処女作を完結させ、次に舞台として選んだのがノベプラだった。2020年4月。ちょうど「ロボット三原則コン」が開催中で、それに合わせて2作書きなぐった。初めて書いた全年齢の小説だった。後でもう1作描いたので、結局このコンテストには3作出した。 そこそこ読まれたので、今度は「心と身体フェア」に合わせて長編の連載を開始した。現在長期休載中で大変申し訳のない「癲狂院お嬢様の優雅な日常」だ。これがまた当たった。ありがたいことに、日刊ジャンル1位をいただいた。スタンプやコメントもいっぱいついた。そして私は全年齢でもファンができ、ツイッターのフォロワーも増えた。PVのカウンタが回っていく喜びに加えて、感想がつく楽しみを知った。これが第二の転機。 それからは仕事をしつつ、アダルトと全年齢両方で小説を書きなぐる日々が始まった。SFを書いた。TSを書いた。私小説を書いた。恋愛小説も書いた。そして今につながる……エッセイも書き始めた。「禁断の夜食グルメエッセイコンテスト」の時だった。 ノベプラで色々なイベントやコンテストに参加した。それなりに読まれてコメントもつき、満足していた。Vの方に読書実況などもしていただいた。 そんな私に、第三の転機が訪れる。2022年11月。久しぶりに投稿したアダルト小説に、ノから始まる別の韓国系小説投稿サイトから引き抜きの連絡が来たのだ。この時の私は、メンタルが崩れて電車にすら乗れなくなり、休職中。手慰みに書いたアダルト小説で、私は印税契約を結ぶことになったのだ。まぁ、紙媒体ではなく1PVいくらのネット連載だけれども。 更にラッシュは続く。ノベプラの「イタズラ作品投稿フェア」で景品を獲得したのだ。ジビエ缶が我が家に届き、私の作家業を訝しんでいた両親も、私の筆が金を産むことを体感したらしい。引きこもり生活で原稿を書き続ける私へのあたりが少し弱くなった。 こうして私はPV、コメントに続いて、金銭的/物質的対価を得るという、あたらしい「創作の理由」ができた。生臭い話で申し訳ないが、これは楽しくもあり辛くもある。金のために書く原稿というのは、苦しい。既定の文字数を満たすために水増しし、アイデアが浮かばず納得のいかない原稿でも更新ペースは守る。 この重圧に、私は耐えられなかった。更新頻度はどんどん落ちて行った。そして途中海外旅行で長期休載を挟み、戻ってきてからはさらにかけなくなった。この時すでに、仕事はやめていた。別にこれは印税とは関係ない契約と体調の都合だが。 こうして私は何も生み出せない無職になった。長編の連載は一切止まり、わずかにエッセイと短編をポツンポツンと投稿するようになった。それから数カ月して「うどんコン」の受賞があり、ポッドキャストで紹介され、Vの方の私設小説賞のノミネートがあり、少しずつリハビリしているというのが最近の状況。 エッセイの方はこうして今も書いている通り、そして大長編になりそうな「生きるの辛之の欧州紀行」の連載が何とか続いている通り、書けるようになった。高校生のころから長文レポートを書きまくり、大学でも論述試験だけは成績がよかった私はこういうのは得意だ。 小説の方はといえば、絶賛リハビリ中。ノベプラでイベントを見つけては、短編をポンポン書いている。本当はファンのいる連載の続きがずっと待たれているはずなのだが、まだ書く力は戻ってこない。 私の創作遍歴はこんな感じ。読まれる喜び、感想を貰う喜びで執筆の虜になり、金を貰う喜びに耐え切れず壊れた。そして近頃の私は……無職年金生活をしている言い訳のように、何かに駆られて原稿に向かっているという感じだろうか。今こうしてキーボードを叩いている瞬間だけは、自分が「何者か」でいるような、そんな気持ちになれるのである。
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かんだるふ
なるほど、私が出会ったのは休養明けすぐのときだったのですね。文章の流暢さが只者ではないなと感じていたのは間違いではなかったようです。引き抜きされるほどですからね〜でもやっぱり義務になると変わってくるんですね…難しい…
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かんだるふ
2024年7月19日 7時11分
生きるの辛之
2024年7月19日 13時43分
アイデアがでなくても出来が悪くても契約通りのペースで投稿しなくてはいけないというのは、書き手として辛かったです…
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生きるの辛之
2024年7月19日 13時43分
東十条
ワタクシ、ノク〇もノベ〇ピアも放置したままで長いことなーんもやってないのでありますが(笑)いつか投稿しようと思いつつ完全に停滞中の未公開R18作品があったりします♪ 日常で恐るべきは「退屈」でして、これが続くと蝕まれる。ゆえの退屈しのぎは精神衛生上とても有用だと思うのであります☆
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東十条
2024年7月21日 7時34分
生きるの辛之
2024年7月21日 9時40分
ノベル◯アは突如印税の支払いを停止したクソサイトなので放置でいいと思いますが(笑)、ノク◯はPVがぐんぐん伸びるので自尊心を満たすにはおすすめです!
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生きるの辛之
2024年7月21日 9時40分
橙と猩々
お話のバラエティに富んでいらっしゃる方だと思っていましたが、プロの方だったんですね。それはとても大変な事でしょうね。それでも体が一番ですからご自愛下さい✨おうどんの作品は本当に論文のようで面白かったです。
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橙と猩々
2024年7月19日 21時33分
生きるの辛之
2024年7月19日 22時20分
プロまでは行かない、アマチュアに産毛が生えた程度の書き手でした。 その辺の同人作家の方が全然稼いでますよ。
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生きるの辛之
2024年7月19日 22時20分
みおゆ
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みおゆ
2024年7月19日 8時24分
生きるの辛之
2024年7月19日 13時44分
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生きるの辛之
2024年7月19日 13時44分
美作 桂
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美作 桂
2024年7月19日 12時06分
生きるの辛之
2024年7月19日 13時44分
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生きるの辛之
2024年7月19日 13時44分
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