西岸地区、止まらぬ入植活動 「イスラエル占領、国際法違反」司法裁勧告
国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は19日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区などでのイスラエルの占領政策は国際法違反であり、「占領をできるだけ早く終結させなければならない」との勧告的意見を言い渡した。半世紀以上に及ぶ占領政策は国際法上認められないとの立場を明確に示した。法的拘束力はなく、イスラエル側は強く反発しているが、イスラエルへの国際的な圧力はさらに強まるとみられる。
ICJは、入植地の拡大などの占領政策は「事実上の併合」とし、国際法違反と結論づけた。その上でイスラエルは新たな入植活動の停止や入植者の退去、占領地域で生じた損害への補償の義務を負うとした。各国にも違法な占領から生じる状況を合法的なものと認めない義務があるとした。
■首相は「合法」
イスラエルのネタニヤフ首相はSNSで「ユダヤ人は占領していない」と反発。「(ICJのある)ハーグのいかなる誤った決定も、こうした歴史的真実をゆがめることはない」とし、入植地は合法であると主張した。
1967年の第3次中東戦争以降、イスラエルはガザ地区や西岸地区などでパレスチナの占領を続けてきた。その固定化は、主に西岸地区での入植活動拡大などでますます進む。イスラム組織ハマスによるイスラエルへの昨年10月7日の越境攻撃の後、イスラエルは軍事侵攻するガザだけでなく、西岸でも軍事作戦や強制的な捜索活動を頻繁に実施している。
パレスチナの市民団体「エルサレム法的支援・人権センター」によると、イスラエルによるパレスチナ人の建物の取り壊しも急増し、今年上半期には西岸と東エルサレムで649棟で、昨年同期比で43%増という。イサム・アルリ所長は取材に、ICJがイスラエルに没収されたパレスチナ人の財産の補償を求めたことを評価し、「パレスチナの領土の一体性とパレスチナ人の自己決定権を強調した内容だ」と話した。
■国連「協議を」
国連のグテーレス事務総長は19日、「この問題をどう進めるかは、国連総会が決定する」との見解を示した。ハク副報道官を通じて声明を出した。国際法などに沿って占領の終結と紛争解決に向けてイスラエルとパレスチナが協議する必要性をあらためて唱えた。
今回のICJの意見は、2022年12月に国連総会が採択した決議を受けたもの。長年の占領や入植地の拡大でパレスチナ市民の人権が脅かされていることについて、ICJに見解を示すよう求めていた。(ブリュッセル=森岡みづほ、ヨルダン川西岸ラマラ=村上友里)
■<考論>法的な争いには終止符 立命館大准教授・越智萌氏
ICJの勧告的意見は「イスラエルによるパレスチナの占領の継続は違法だ」と断じる、想像以上に踏み込んだ内容だった。
ICJは国際社会で最も権威のある裁判所で、勧告的意見は今後の法的な議論の前提をつくる基礎のようなものだ。
これまで、イスラエル側はパレスチナの主権を認めず、ガザは占領していないなどと主張してきた。今回の勧告的意見は、こうした中東和平に関する法的な争いの多くに終止符を打った。今後はどう占領状態を無くしていくかに議論を集中させることができる。
勧告的意見に法的拘束力はないが、違反していると認められた武力紛争法や人種差別撤廃条約などは、イスラエルを法的に拘束している。この勧告的意見は現状が違法状態であることを、国連や各国に認識させた。
日本を含む各国がこの結果によって、すぐに大きく外交政策を変えるとは想定できない。ただ、この勧告的意見を法的な前提条件とし、政策に修正を加えていくなどの動きは出てくるはずだ。(聞き手・岩田恵実)
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