日本橋を出発点に、53の宿場を経て京都三条大橋を終着点とする東海道五十三次。
その約490キロメートルにわたる長い旅路の上には、四季の変化に富んだ美しい国土、泰平無事の世の艶やかな賑わいが確かにあった。
各宿場を舞台にした時代小説を解説しながら、江戸時代当時の自然・風俗を追体験する旅好きにはたまらない一冊『時代小説で旅する東海道五十三次』(岡村 直樹著)より一部抜粋してお届けする。
『時代小説で旅する東海道五十三次』 連載第18回
『倒幕を目論む「テロリスト」か、女を知らぬ「朴念仁」か...教科書には書いていない軍学者「由比正雪」の"意外な正体”』より続く
第17宿・興津
『女たらし』(諸田玲子)
☆宿場歩きガイド
西倉沢の集落から薩埵峠を登る。天候に恵まれた冬場であれば、凛とした富士の山容を拝めよう。「ああっ」とため息をついたきり、次の言葉がつづかないほどの絶景である。
道は下りにかかり、興津川を渡ればほどなく興津宿に入る。
鉄道ならJR興津駅下車。南へ歩けばほどなく東海道で、かつての宿場は西へおよそ500m。本陣2軒、脇本陣2軒、旅籠34軒。
東西の本陣跡を過ぎると、臨済宗の清見寺である。足利尊氏が深く崇敬、今川義元の軍師・雪斎が住職を務めたこともある名刹である。門前には膏薬を商う店が数軒並び、13~4歳の美少年が売るかたわら、男色稼業に精を出した、という。徳川家康が駿府の今川家に人質となっていた頃、勉学に励んだ寺で、その部屋も公開されている。