倒幕を目論む「テロリスト」か、女を知らぬ「朴念仁」か...教科書には書いてない軍学者「由比正雪」の”意外な正体”
日本橋を出発点に、53の宿場を経て京都三条大橋を終着点とする東海道五十三次。 その約490キロメートルにわたる長い旅路の上には、四季の変化に富んだ美しい国土、泰平無事の世の艶やかな賑わいが確かにあった。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 各宿場を舞台にした時代小説を解説しながら、江戸時代当時の自然・風俗を追体験する旅好きにはたまらない一冊『時代小説で旅する東海道五十三次』(岡村 直樹著)より一部抜粋してお届けする。 『時代小説で旅する東海道五十三次』 連載第17回 『借金まみれの売春ブローカーから一転、堅気の道へ...元ろくでなしの人生を一変させた運命の「出会い」』より続く
第十六宿・由比
『由比正雪』(早乙女貢) ☆宿場歩きガイド JR由比駅下車。まずは、駅前で腹ごしらえとしよう。桜えび通りに面する食堂の暖簾をくぐり、桜えびのかき揚を肴にちょいと一杯。微醺を帯びる程度なら、差支えあるまい。 駅から宿場の中心までは東へ徒歩25分で、本陣1軒、脇本陣1軒、旅籠32軒。「せがい造り」「船木造り」の町並みが、往時を偲ばせて懐かしい。 旧本陣は公園として整備され、どっしりとした門構えの奥に「東海道広重美術館」がある。広重の名を高からしめた『保永堂版東海道五拾三次之内』をはじめ1,400点の版画を収蔵している。 隣接する「御幸邸」は、明治天皇がご小休された離れ座敷。観光情報を入手できる「東海道由比宿交流館」にも立ち寄りたい。公園入口の脇に、馬の水飲み場があるのも道中気分を盛り上げる。
富士川の河原、峠からの駿河湾...一幅の絵のような由比
由比の本陣は、街道に直接面していない「遮蔽型」である点が特徴だ。 街道をはさんだ向かいに、正雪の生家と伝える紺屋。江戸時代初期の創業といわれる、老舗中の老舗だ。季節を題材にしたハンカチや巾着なども購入できる。桜えびの柄をあしらった手ぬぐいなどを品定めするのも楽しい。奥庭に、正雪を祀る五輪塔がある。 宿内は枡形の跡を比較的よく残し、紀州藩のお七里役所跡をはじめ、見どころが多い。お七里役所は、紀州家が幕府の動向をいち早く知るために、七里ごとの宿場に設けた連絡所。常駐していた係は、健脚であること、腕が立ち弁舌に長けていることが必須要件だったが、御三家の威光を嵩にきての横暴も目立った。 由比漁港は、春と秋に活気づく。「駿河湾の宝」と称される桜えびの水揚げの季節だからである。かき揚げにしてよし、炊き込みご飯にしてよし、漁協では料理教室などを開いて普及に努める。 富士川の河原で、富士山をバックに桜えびを天日干しにしている光景は、まさに一幅の絵画だ。 駅を西へ薩埵峠(244m)に向かうと、麓に間の宿である西倉沢集落。10軒ほどの茶屋があり、旅人は駿河湾を眺めながら疲れをいやした。「東海道名主の館・小池邸」など、重厚な構えの民家が目立つ。 ミカンが陽光に映える薩埵峠はハイキングに手頃だ。展望台、四阿から望む太平洋は、はろばろと開けて気分爽快。江戸時代の旅人気分で峠を越えてきた身には、東海道本線、東名高速道路、国道一号線がもつれあうように走っているさまは、今昔の感にたえない。