第2話 ルラキス星

 ここは「ルラキス」という名前の「チキュウ」と似た星だ。

 空気や水、草木や森と言った自然がある。

 海が存在する。

 犬や猫、猿、ライオンや象と言った動物達もいるうえ、人間もいる。

 みんな何不自由なく生活を営んでいる、何から何まで「チキュウ」と瓜二つの星だ。


 では「チキュウ」はどうなのかというと、現在存在していない。〝セイレキ〟一九六一年、 人類で初めて宇宙に行ったユーリイ・ガガーリン飛行士が 「青みがかっていた」という「チキュウ」は数千年前に滅亡した。「チキュウ」を捨てた人間達は「ノアの方舟」さながら、何隻も準備しておいた宇宙船にありとあらゆる動物達やら植物の種や苗やらをも乗せ、この星へと移住したのだ。突然始まった原始的な生活から数々の苦難を経て、現在嘗ての「チキュウ」と遜色ない生活が維持できるのは、彼らの汗と涙と努力の賜である。

 

 この星では人間とそっくりな機械知性体も共存している。それらは「アンストロン」と呼ばれていた。髪の毛や人工皮膚を始め、ありとあらゆる臓器や器官があまりにも精巧に作られているため、見た目人間と遜色ない。体温も人間と同程度であり、肌の触感や弾力性でさえ人間のそれと判別するのはすこぶる困難だ。その上高次機能AIを搭載されている彼らは、自分の「意志」を持ち、「学習能力」を持ち、人間から「指示」されなくても自由に判断し、行動することが可能である。


 知能機能共に、それらは嘗て「チキュウ」に存在した「ロボット」という名前の機械知性体とは、到底比べ物にならないほどの高性能だ。誘って一晩共にした豊満な絶世の美女が、実はアンストロンだったというケースも、別段珍しい話ではない。


 彼らはあまりにも「出来が良過ぎる」ため、ぱっと見普通の人間と見分けがつかない。だからこそ「規則」が不可欠だった。


 この星では人間の法律以外に「アンストロンの法律」が存在する。彼らが人に危害を加えることを禁止し、また人に尽くし人を幸せにするための存在であることを規定し、法律違反時の罰則を示す一方で、法の許す範囲で彼らに自由と平等を与えているものだ。


 法の下であれば、彼らは自律的な思考・判断能力を持ち、行使することが許されている。つまり、違法でなければ、人間社会に〝人に近い立場〟で参加する機械知性体として、その義務と権利が認められているのだ。


 しかしながら、生身の人間でも「規則破り」がいるのと同様に、「規則破り」の機械知性体も当然いた。中には一般人の手に負えないほど凶悪なモノも存在し、程度によっては看過できないものもある。


 それらは以前は一切見られなかったのだが、数年前から勃発し、事件を引き起こしては犠牲者を排出し始めるようになった。何故アンストロンが事件を起こすようになったのか、原因はいまだ不明である。事件は窃盗、公共物破壊といったものから大量殺人事件といったものと、種々様々である。


 ルラキス星の政府はこれらの扱いに大変難儀していた。そういう厄介な「アンストロン」に対して対処すべく作られたのが、特別管理派遣組織「セーラス」だった――

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