logo

【社説】戸籍の性別変更 手術の必要がない法律に

 戸籍上の性別とのギャップに苦しむ人にとって、大きな前進と言えよう。

 男性として生まれ、女性として生活しているトランスジェンダーの当事者に対し、広島高裁は性器切除などの手術をしなくても戸籍の性別変更を認める決定を出した。

 申立人は代理人弁護士から決定内容を知らされ「生きにくさから解放される」とむせび泣いたそうだ。

 性同一性障害特例法は、トランスジェンダーが戸籍の性別を変更する場合、事実上手術を求めている。

 精巣や卵巣の除去といった生殖能力をなくす生殖能力要件と、性器の切除などによって外性器の見た目を変える外観要件がある。二つを合わせて手術要件と呼ばれる。

 健康な体にメスを入れるため、心身面でも経済面でも負担は大きい。特例法を改正し手術要件を削除すべきだ。

 今回のように、男性から女性への戸籍変更で手術を経ない決定は異例である。

 一般的にホルモン療法によって女性器が男性器の形に近づくことがあり、女性から男性へは手術なしで外観要件を満たす場合がある。逆はそうなりにくく、性器の切除などが避けられなかった。

 体の性別違和を解消したくて手術を望む人が多い半面、負担の大きさや体調の問題から、戸籍を変えたくても手術に至らない人もいる。戸籍を変えたい一心で、本意ではない手術に踏み切る人もいる。

 問題は現行法が手術を望まない人も一律に、手術をするか、戸籍変更を断念するかの二者択一を迫っている点だ。

 昨年秋、今回の申立人の家事審判で最高裁はその過酷さに触れ、生殖能力要件を「違憲で無効」と判断した。外観要件は高裁段階での審理が必要として差し戻され、決定が注目されていた。

 広島高裁は外観要件について、憲法が保障する「身体への侵襲」を受けない権利を放棄しなければ性別変更できない状況は、違憲の疑いがあると指弾した。個人の尊厳を重視した妥当な判断である。

 高裁決定の対象は申立人に限られるが、他の司法判断に影響する可能性はある。

 手術要件は多くの国が撤廃している。世界保健機関(WHO)は、手術要件は人権侵害と見なす。周回遅れの日本は対応を迫られている。

 昨年の最高裁判断を受け、与野党で特例法改正に向けた議論をしているものの決着は見通せない。

 心と体の性が一致しない状態が一定期間続いていることなど、外観要件に代わる新しい要件案が出ている。

 女性トイレや公衆浴場で外性器を見せられるといった不安を抱く人もおり、手術要件の削除に慎重な意見もある。

 そうした不安と、トランスジェンダーの人権は分けて考えねばならない。誰もが自身の性自認に沿って生きられるよう、実態に合った議論を丁寧に進めたい。

sponsored by求人ボックス
この記事もオススメ
西日本新聞me

福岡ニュースランキングを
メールで受け取る(無料)

「みんな何を読んでるの?」毎日17時に
ニュースTOP10をお届け。 利用規約を確認

PR

PR