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ユッケを食べ重症に 生食肉を規制する法律のきっかけとなった集団食中毒事件

2024.07.16 公開

2011年4月22日、富山県小矢部市。この日は久保秀智(ひでのり)さんの二男・大貴(ひろき)くんの1日遅れの誕生日食事会を、当時人気があった焼肉店「焼肉酒家えびす」で開くことになっていた。この店は、富山県、福井県、石川県、神奈川県にチェーン展開していて、メニューの多くは1皿100円。1番高いメニューでも1皿380円。人気のある肉だけを大量に仕入れることで、激安価格を実現していたという。美味しいものを食べ、楽しく過ごした記念日。

しかしその翌日、秀智さんと大貴くんが昼食を食べに出かけると、大貴くんに異変が。体がだるく、腹痛と頭痛が起きたという。そして家に帰ると嘔吐。他に体調不良の家族はおらず、症状があるのは大貴くんだけ。そして翌日の日曜日、一向に調子は良くならず逆に腹痛がひどくなっていった。両親は、原因不明の症状を少しでも和らげようと胃腸薬を飲ませた。

そして月曜日、母親は大貴くんを近くの診療所へ連れて行くが、風邪からくる症状だろうとの診断だった。だがこの日の夜、秀智さんも体調不良を訴え、長男にも症状が出始めた。

さらに翌日、大貴くんに血便が。母はすぐに総合病院へ連れて行き詳しい検査が行われた。数日後、原因が判明。大貴くんの体内から腸管出血性大腸菌が検出されたのだ。腸管出血性大腸菌は代表的なものにO157やO26、O111があり、それぞれ症状に違いはほとんどない。主に牛の腸管の中に生息し、牛の体表などにも付着している菌だ。その菌が産生する「ベロ毒素」は青酸カリの数千倍と言われる毒性を持ち、大腸に障害を起こしただれさせてしまう。そのため血便や激しい腹痛の症状が出る。

一家は焼肉店で何を食べたのか?それは「和牛ユッケ」だった。生の肉を細切りにして食べるユッケは今は許可された店でしか食べられないが、当時はどこでも食べられるメニューだった。そのユッケに腸管出血性大腸菌が付着していたのだ。

この菌は熱に弱いため、75度で1分以上加熱すると完全に死滅。そのため通常の焼肉は問題ないが、ユッケは生肉。ユッケを提供する場合、菌が付着しているかもしれない肉の表面をトリミングと呼ばれる手法で切り落とし菌を除去していた。厚生労働省によるとこれは通常店側が行うことだというが、この焼肉店ではトリミングは卸業者が行っていて、店舗内ではやっていないという。しかし、その卸業者について保健所担当者は、トリミングは業者の加工の中に入っておらず、生食用は作っていないという。つまり、店も卸業者もトリミングしていなかった事が発覚した。

家族で検査を受けると全員から腸管出血性大腸菌が検出。免疫力の弱かった息子2人は症状が重く、すぐに入院した。

ちょうどその頃、病院では久保さん一家と同じ症状を訴える患者が相次いだ。そこで症状を訴える人たちが食べていたのがユッケだったのだ。

この腸管出血性大腸菌は、生肉だけが感染源とは限らない。ある日、関東の保健所に、管轄の医師からO157の感染者が出ていると報告の電話があった。調査を進めると、症状が出た複数の患者が同じキムチを食べていたことが判明。製造元は関東の漬物会社で、「和風キムチ」として販売されていた。

野菜には稀に腸管出血性大腸菌が付着している事がある。白菜などの野菜を栽培中に肥料として発酵不十分の牛糞たい肥を使用した場合、その中に大腸菌が生存している可能性や、牧場や牛舎などの牛糞が雨水などにより農業用水に入り込み、その水を使用した場合畑の土壌や野菜に付着した可能性などが要因として考えられる。最近ではこのような事態にならないよう十分に洗浄し、次亜塩素酸ナトリウム添加溶液に浸して食中毒の原因菌などを殺菌消毒することが義務付けられているという。

キムチでO157を出した漬物会社は、最初の水洗いのみでキムチを作っていた。また専門家によると、キムチが浅漬けタイプのものであったことが1つの要因として考えられるという。キムチには発酵キムチと非発酵キムチがあり、発酵キムチは発酵が進むと乳酸菌が増殖し、大腸菌などの細菌を死滅させる。一方、今回の和風キムチは、発酵工程のないキムチ風味の浅漬けで、浅漬けでは発酵が弱く細菌は死滅しないのだ。漬物会社には5日間営業停止の行政処分が下された。

一方、誕生祝いで焼肉店を訪れた久保さん一家。子供たちは症状が重く、特に二男の大貴くんはより悪くなった。食中毒の被害は富山だけでなく、焼肉店がチェーン展開する4県全てで確認され、大規模な集団食中毒事件となっていた。

木曜日、大貴くんがユッケを食べてから7日目、溶血性尿毒症症候群を発症。体内に入った菌は消化器官を通り大腸へ行き増殖を始めるのだが、その時、ヒトが持つ免疫によって、菌を撃退する。だがその菌は、死滅する際に「ベロ毒素」という物質を排出。その「ベロ毒素」は、腸管内に分泌され一部は赤血球や血小板を破壊しながら全身を巡る。最悪の場合、急性脳症や急性腎不全といった合併症により死に至る事もあるのだ。

大貴くんの場合、痛みが出始めた段階から下痢を止める成分の薬を服用していた。その薬を飲むと、腸の運動が抑えられ菌が体外に排出されにくくなってしまう。すると、その菌が腸管内に長くとどまり、毒素が増加。症状は重症化し、溶血性尿毒症症候群を引き起こす可能性が高くなってしまうのだ。

腎臓の機能が低下した大貴くんには、血液をろ過し老廃物を排出する治療法が施された。しかし大貴くんは意識を失い、自発呼吸もできなくなった。意識を失った翌日、焼肉店は記者会見を開く。この時には、福井と富山でそれぞれ6歳の男の子が命を落としていた。

大貴くんは意識を失ったまま5日が経ち、脳死状態だと告げられる。ユッケを食べてから11日目のことだった。

1か月が経った頃、長男は回復し退院できた。だが大貴くんの意識は秋になっても戻らず、最後には涙を流し息を引き取ったという。

2011年10月、この事件がきっかけとなり国は生食肉を規制する法律を定めた。新しい規制では、ユッケを調理する場合、60℃で2分以上湯煎した上で表面から1cm以上をカットして提供することなどが義務づけられ、刑事罰も設けられた。現在では、保健所の許可がおりている店でのみユッケの提供が認められている。そして当時同じように人気があった牛のレバ刺しは、今も提供が認められていない。

なお、今年6月からは漬物に関する製造ルールも厳格化。食品衛生法の改正により漬物を製造して販売するには保健所の許可が必要になった。許可を得るには手洗い専用のシンクと調理専用のシンクを別にするなど、一定の衛生基準を満たす必要がある。費用はかかるが、食中毒発生のリスクを下げるには、製造現場の衛生管理を徹底していくしかない。

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