Yume 100 English Wiki
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Prologue[]

魔法科学の国・ダテン 陽の月…―。
乱立する高層ビルのネオンが、夜の街から眠りを遠ざける…―。
その路地の片隅、ひっそりと構えられた小さな屋台に、

明るい髪色の店主と、客席を陣取る不機嫌そうな少年がいた…―。
Makoto
"……まったく、客なんか一人も来ない。いつまでこんな店続ける気? 澄快"
Sky
"仕方ねえだろ。店のおっちゃんが寝込んで働けないっつーんだからよ。ほっとけねえだろ?"
"まあ、3、4日ぐらいだ。ほら、真琴。何が食べたい? 今ならなんでも好きなもの作ってやるぞ?"
Makoto
"パティスリー・ルアンのスペシャルフルーツケーキ"
Sky
"オレが今ここで作れるものでだ……"
Makoto
"……使えない"


……
澄快の言葉に不機嫌さを深めながら、真琴が小型端末を操作し始めた、その時…―。

突如として、辺りがまばゆい光に白く染まった。
Sky
"うわっ! まぶしっ……! なんだこりゃ!"
Makoto
"! この方向は……セントラルタワー?"

光は瞬く間に収束していき、何事もなかったかのように街に夜が戻ってくる。
その光が何を意味するのか、この国に何をもたらしたのかもわからずに、ただ夜は更けていった…―。

……

真琴君に呼ばれて、私は久しぶりに喧騒溢れるダテンを訪れていた。
MC
"澄快がお店を出したって聞いて、びっくりしたよ"
Sky
"正確に言えば、店番だけどな。つーか、なんで(MC)がこの場所を知ってるんだ?"
Makoto
"客が誰も来なくてかわいそうだから、僕が呼んであげたんだよ"
最近また物騒になったっていうのに、のん気に店を開くどっかの馬鹿犬のためにね
(真琴君……相変わらず、澄快には厳しいんだな)
Sky
"だから、危険がねえように人が来ないところでやってるだろ? それぐらいオレだって考えて…―"
Makoto
"じゃあ、聞くけど。人が来ないってことは、客は入るの?"
Sky
"!! 入らねえ!"
真琴君の指摘に、スープを掻き混ぜる澄快の手から、おたまが鍋の中へと滑り落ちた。
Makoto
"本当……どうしようもない駄犬"
MC
"あ、でも……隠れ家的なレストランとかなら、流行るかもしれないし……"
慌ててその場を取り繕おうとしていると、辺りに盛大なお腹の音が鳴り響いた。
Sky
"ん?"

(今の音って……)

音がした方を慌てて見ると、明るい大通りを背にして一人の青年が立っていた。
??
"出汁の効いた、好い匂いがする……"
Sky
"ほら、真琴! 客が来たぞ!"
Makoto
"あれが客……?"

その人は、重そうな体を引きずるように、こちらへ一歩一歩ゆっくりとやって来る。

その目は、こちらをまっすぐに見つめているのに焦点が定かではなくて……
??
"あ、の……すみません……今、手持ちはないんですが"
"後で手伝いでも何でもします。なので、どうかご飯を……腹、減った…―"
そう言い残して、ふらふらと歩いてきた彼は、店にたどり着く手前でぱたりと倒れてしまった。
Makoto
"ただの行き倒れじゃん"
MC
"た、大変……!"
Sky
"おい、大丈夫か!? ほら、食い物だ!"

真琴君がため息を一つ吐く間に、鍋を抱えた澄快が青年へと駆け寄った…―。

……

鍋の中のスープをすべて飲み干して、青年はようやく明るい笑顔を見せた。
??
"はー、お腹いっぱいです!"
"本当に助かりました。あわや斃死(へいし)するかと……"
Sky
"そりゃよかったけどよ。オマエ、名前は? なんでこんなところで餓死しそうになってんだ?"
Nakajima Atsushi
"僕は中島敦と云います。この世界に来てから何も食べてなくて……"
MC
"あの、この世界というのは……?"
Nakajima Atsushi
"可笑しな事をと思うかもしれませんが……僕、この世界とは別の世界から来たみたいなんです"
Everyone
"!"
思いがけない言葉に、私達は耳を疑う。
Nakajima Atsushi
"数日前、突然光に包まれたかと思ったら、この街に来ていて……"
"一緒にいた太宰さんも何時の間にか居なくなってるし、もう何が何やら…―"
Sky
"光に包まれたって?"
Nakajima Atsushi
"そうなんです! 光が収まったと思って目を開けたら高い所から真っ逆さまに落ちて!"
"丁度、あれ位のビルから!"

彼のあまりの勢いに、一緒になって指差す方を見上げると…―。

ビルに切り取られた青空の中に、人影がぽつんと浮かんでいるのが見えた。
Nakajima Atsushi
"あんな風に……落ちて……"
Sky
"あ……?"
MC
"人が落ちてくる!?"

気づいた時にはもう、落ちてくるその人は、私達の寸前まで差し迫っていた。

運良く、その人のコートが非常階段に引っかかったかと思うと……
Sky
"……うおぁ!!"
その人は再び宙を跳ね、澄快の上へと見事に落ちた。
Makoto
"澄快!"
Sky
"……オレは大丈夫だ。それより、この上の……上のヤツのことを…―"
うめき声を上げる澄快の上で、その人はのそりと起き上がって空を見上げる。
MC
"だ、大丈夫ですか!?"
??
"……助かったか。ちぇっ"
MC
"え……?"
(今、残念がっていたような気が……?)
Nakajima Atsushi
"なななな、何やってるんですか、太宰さん!"
MC
"太宰さん? お知り合いなんですか?"
Nakajima Atsushi
"済みません! この人は、僕の仕事先の先輩で…―"
Dazai Osamu
"やァ、敦君じゃないか! 奇遇だねえ"
太宰さんと呼ばれた男性は軽やかに立ち上がると、コートのほこりを払い落とした。
Nakajima Atsushi
"奇遇だねえ、じゃありませんよ! 今まで何処にいたんですか!?"
Dazai Osamu
"……そんな些事よりも、今の私には優先すべき事がある"
MC
"え?"
そう言うと、太宰さんは私の手をそっと包み込む。
Dazai Osamu
"そう、貴女のような可憐な人を探していました。私と共に、心中しませんか?"
MC
"あ、あの……"
Makoto
"どうでもいいけど、その手離してくんない?"
私の前に進み出ると、真琴君はじろりと彼のことを睨みつけた。
Sky
"オマエも、異世界から来たってのか? えっと……"
Dazai Osamu
"私? 私は太宰治。其処に居る敦君と、ヨコハマで探偵をしているよ"
Sky
"探偵……?"
(ヨコハマって、あの横浜……?)
Dazai Osamu
"そう、探偵"

これが事の始まり…―。
欲望渦巻くダテンの街で、不思議な出会いが巻き起こす、奇妙痛快な事件の幕開け……
彼らがダテンにもたらすものを、今はまだ誰も知らない…―。

つづく……

Chapter 1[]

そびえ立つ摩天楼の下、乾いたビル風に煽られながら、人の波にまぎれて街を歩く…―。
Nakajima Atsushi
"本当に帰る方法なんて見つかるんでしょうか……?"
Dazai Osamu
"おお! 見給え、敦君! あの尖塔の頂上なんて、身投げに相応しいと思わないかい?"
Nakajima Atsushi
"そんな事より太宰さん、此処は異世界ですよ? このまま帰れなかったら…―"

異世界からやって来たという、中島敦さんと太宰治さん…―。

数日前、彼らが住むヨコハマという街で突然謎の光に包まれ、気づくとこのダテンにいたらしい。
Nakajima Atsushi
"ううう……夢世界って名前というからには、此処は只の夢の中……という事になるんじゃ…―"
MC
"中島さんが、そう思いたいのも無理ないと思うんですが……"
Nakajima Atsushi
"わかってます。夢な訳ないですよね……"
"あと、敦で良いですよ。中島さんと呼ばれると、なんだか恥ずかしいので"
MC
"じゃあ、敦君。『夢世界』っていうのは、この世界の人々が夢の力で生きているからなんです"
Nakajima Atsushi
"夢の力、ですか?"
Sky
"トロイメアって国の王族がこの世界に夢を配り、それを各国の王子が受け取って…―"
"国中のヤツに夢が行き渡ってる"
Nakajima Atsushi
"王族に、王子……じゃあ、この国にもそういった人達が居るんですか?"
Sky, Makoto
"!"
敦君の質問に息を呑んだ二人の表情を察してか、敦君が肩をすくめる。
Nakajima Atsushi
"済みません。僕、何か訊いてはいけない事を……"
Sky
"いや、そういうわけじゃねーんだが……その、この国には…―"
Makoto
"王子なんて、もういないよ"
(真琴君……)
Makoto
"今は、卑怯者の豚がこの国を動かしてる"
Nakajima Atsushi
"ぶ、豚……?"
Sky
"いろいろあって、この国の王制はだいぶ前になくなったんだ"
"今は、大統領ってのがこの国を治めてる"
Dazai Osamu
"……"
Sky
"それからだ。この国の治安が悪くなったのは"
"平気で盗みを働くヤツもいるし、銃を持ち出すヤツらも…―"
そこまで言葉にして、澄快は火のついていない煙草を咥えた。
Sky
"悪い、脅かしちまったか?"
Nakajima Atsushi
"いいえ。銃ですか……何処も物騒なのは変わらないんですね……"
Sky
"まあ、特殊なんだ。この国は"

数年前、この国を王族として治めていた真琴君の両親は当時の側近に裏切られて殺されてしまった。
その側近だった人は国を治める大統領となり、共に逃げ延びた真琴君と澄快の命を今でも狙っている。
(そのせいで二人は、この街で身を隠しながら暮らしてる)
(もし、二人が今も王子だったら……)

喉まで出かかった言葉を飲み込むと、少しだけ胸が痛んだ。
Dazai Osamu
"澄快君! 君の持ってる其の端末は、どんな仕組みになっているんだい?"
ふと、明るい声を上げた太宰さんが澄快の手元を覗き込む。
Dazai Osamu
"あらゆる情報が即座に見られるし、画面が立体に飛び出して、実に愉快じゃないか"
Sky
"ああ。この国は科学技術と魔法を融合させるのが得意でさ"

"オマエらがここに来た手がかりがないか調べてたんだが…―"

"やっぱ、それっぽい情報はねえな。セントラルタワーが光ったのも、ただの機材トラブルみたいだし"
Nakajima Atsushi
"手がかりはなしですか……"
Sky
"そんな不安そうな顔すんなよ。オレ達も手伝うから、きっと帰る方法もすぐに見つかるって"
Makoto
"『オレ達』……ねぇ"
Nakajima Atsushi
"有難うございます! とても心強いです"
"それに、此方には太宰さんが居るし、きっと何か方法を見つけて…―"

期待を込めて、敦君は太宰さんの方を振り返る。

けれど…―。
Dazai Osamu
"気が進まなーい"
路地裏に差しかかったところで、太宰さんは歩くのをやめてしまった。
Nakajima Atsushi
"え!? だ、太宰さん……?"
Dazai Osamu
"気が進まないのだよ、敦君"
MC
"どうして…―"
そう問いかけるよりも早く、後ろから何かがぶつかる衝撃音が聞こえた。
Nakajima Atsushi
"今のは!?"
Sky
"ち……こんな時に! アイツら、嗅ぎつけやがったのか!?"
(まさか、澄快と真琴君を狙って!?)
Nakajima Atsushi
"澄快さん、あいつらって?"
Sky
"巻き込んで悪い! オマエ達は逃げろ!"
Dazai Osamu
"否、彼は此方の客人だよ"
MC
"え?"
土ぼこりが舞う中、黒い影が靴音を鳴らしながら私達の方へと歩いて来る。
??
"愚行は死を招く"
彼のまとう黒い外套は、まるで生き物のようにうねっていた。
Nakajima Atsushi
"芥川……! お前もここに来ていたのか"
Akutagawa Ryunosuke
"人虎、貴様……僕(やつがれ)等に何をした"
(人虎? 芥川……?)
Nakajima Atsushi
"何を云ってるんだ? そもそも、あの時お前達が来なければ…―"
Akutagawa Ryunosuke
"……!"
芥川と呼ばれた人の黒衣が縦横に広がり、無数の刃となって敦君の前に突きつけられる
Sky
"こ、これは……魔法か?"
Nakajima Atsushi
"芥川……!"
MC
"!"

芥川さんを見据えて、敦君の瞳の色が鋭さを増す。

今にもぶつかり合いそうな空気が充満する中…―。
??
"睨んだ通り、手前(テメエ)が絡んでると思ったぜ、太宰!"
Dazai Osamu
"げぇ……中也……"
Nakajima Atsushi
"……!?"
??
"下がれ、芥川。俺が話す"
Akutagawa Ryunosuke
"……"
中也と呼ばれたその男性は、帽子の下から太宰さんを睨みつけた。
Nakahara Chuuya
"何を企んでやがる?"
Dazai Osamu
"あのねぇ、私が何時も悪巧みをしているような云い方はやめてくれる?"
"私だってこの世界に来たばかりなんだよ? 右も左もわからない子羊の如きだよ"
Nakahara Chuuya
"言ってろ、唐変木。こんな所で惑うタマかよ"

瓦礫が崩れる音がして、見れば……
中也さんを中心にして周囲の瓦礫が浮かび上がる。

(あれは……何?)
Nakahara Chuuya
"俺はヨコハマに戻る方法さえ判ればそれでいい"
"手前は其の後、好きなだけ異世界で心中相手を探してろ"
Sky
"ねえ、仲良くこっちに来ておいて仲間割れ? 勘弁してほしいんだけど"
Nakahara Chuuya
"ああ? 太宰と仲間だ? 反吐が出るぜ"
"俺達はポートマフィアだ。探偵社と一緒にされちゃあ名が廃る"
(マフィア!?)
Nakahara Chuuya
"太宰、帰る方法をさっさと吐きやがれ!"
Nakajima Atsushi
"あの、僕等も今帰る方法を探してるところで…―"
Akutagawa Ryunosuke
"黙していろ、人虎。貴様に発言は許可していない"
Nakajima Atsushi
"芥川っ……!"
Sky
"おいおい……"
(どうしよう……)

一気に張り詰めた空気に、澄快と私は目を見合わせることしかできなかった…―。

つづく……

Chapter 2[]

Chapter 3[]

Chapter 4[]

Chapter 5[]

Chapter 6[]

Chapter 7[]

Epilogue[]

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