代表理事挨拶

代表理事 津川 友介

1980年代半ばから、⽇本⼈は世界で最も出⽣時平均余命の⻑い国であり、戦後⽇本の公衆衛⽣および医療制度がそれに寄与していると考えられます。その⼀⽅で、⽇本では少⼦⾼齢化が進んでおり、医療費や介護費などの社会保障費の増加は、⽇本の財政の持続可能性をおびやかす問題となっています。医療・介護の質を⾼めつつ、医療・介護費の適正化を実現するためには、エビデンス(科学的根拠)に基づく、医療・介護・公衆衛⽣政策(以下、「医療政策」)の策定・実施が必要不可⽋です。

医療においては1990年代にエビデンスに基づく医療(Evidence based medicine; EBM)の重要性が認識されるようになり、現代では医師の個⼈的経験ではなく、エビデンスに基づいて診断や治療⽅針が決定されています。⼀⽅で、近年では、医療政策に関しても「エビデンスに基づく政策⽴案(Evidence based policy making; EBPM)」の重要性が認識されるようになっています。しかしながら、医学研究と⽐べて EBPM の研究の数は多くなく、また実際の医療政策も必ずしもエビデンスに基づく設計にはなっていません。EBPM を社会実装するためには、政治家や官僚などの政策⽴案者と研究者が対話することで、政策⽴案者やエビデンスから何が分かっているのかを理解し、研究者は国や⾃治体のアジェンダを理解する必要があります。しかしながら、実際にはそのような場はあまり存在していません。また、医療政策学は、医療経済学、政治学、統計学、社会学、経営学、倫理学などの関与する、分野横断的な学問であるものの、これら複数の学問領域の専⾨家がエビデンスを共有し、意⾒交換できる場は少ないという問題があります。

今後⼀層少⼦⾼齢化が進み、医療・介護費の適正化が必要となる⽇本において、EBPM を実現するためには、医療政策に関するエビデンスを共有し、意⾒交換する場の設⽴は必要不可⽋であると考えます。そこで、われわれは医療政策学の研究者および政策⽴案者を広く糾合し、医療政策研究の活発化および EBPM の推進を図るべく、ここに「⽇本医療政策学会」の設⽴を企画します。この学会が医療政策研究の研究成果の発表の場として、広く研究者および政策⽴案者が交流する場となることで、その学問的成果に基づく EBPM の実践が⾏われ、ひいては質の⾼い医療・介護が提供され、医療・介護費の適正化に貢献することを期待するものであります。

⼤学・⾏政・企業などにおいて医療政策の研究および実践に関わっている関係者の⽅で、われわれの設⽴趣意に賛同する⽅々の積極的な参加を期待しております。

2024年2⽉28⽇

「医療政策学会」設⽴発起⼈⼀同
代表 津川 友介