子育てについて話していると、今だに三歳児神話を語る人に出会うことがある。三歳児神話は1998年の厚生白書で明確に否定されている。 (以下、引用) 三歳児神話とは「子どもは三歳までは常時家庭において母親の手で育てないと、子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」というものである。 三歳児神話は欧米における母子研究などの影響を受け、いわゆる「母性」役割が強調される中で育児書などでも強調され、1960年代に広まったといわれる。そして、「母親は子育てに専念するもの、すべきもの、少なくともせめて三歳ぐらいまでは母親は自らの手で子どもを育てることに専念すべきである」ことが強調され続けた。その影響は絶大で1992年に行われた調査結果においても、9割近い既婚女性が「少なくとも子供が小さいうちは、母親は仕事をもたず家にいるのが望ましい」という考えに賛成している。 しかし、これまで述べてきたように母親が育児に専念することは歴史的に見て普遍的なものでもないし、たいていの育児は父親(男性)によっても遂行可能である。また母親と子どもの過度の密着はむしろ弊害を生んでいるとの指摘も強い。欧米の研究でも母子関係のみの強調は見直され、父親やその他の育児者などの役割にも目が向けられている。三歳児神話には少なくとも合理的な根拠は認められない。 もちろん乳幼児期という人生の初期段階は、人間(他者)に対する基本的信頼感を形成する大事な時期であり、特定の者との間に「愛着」関係が発達することは大切である。 しかし、この基本的信頼感は乳幼児期に母親が常に子どもの側にいなければ形成されないというものではない。愛情をもって子育てする者の存在が必要なのであって、それは母親以外の者であることもあり得るし、母親を含む複数人であっても問題視すべきものではない。両親が親として子育て責任を果たしていく中で、保育所や地域社会などの支えも受けながら多くの手と愛情の中で子どもを育むことができれば、それは母親が一人で孤立感の中で子育てするよりも子どもの健全発達にとって望ましいともいえよう。大切なのは育児者によって注がれる愛情の質なのである。 (太字は私による) もう26年も前に明確に三歳児神話を政府が否定していたのに、団塊ジュニアが育児期にあった時代に政策を転換することができなかったことは悔やまれるが、今こそ政策を総動員して子育てを社会全体で後押しすべき。
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