『へー、結局それで綾小路ってのに負けちゃったんだ。残念だったね、爺様。
(そっかぁ。爺さまへの誕生日プレゼントにゴルフクラブもありかなぁ)』
『慰めてくれるなんて、カルラは優しい子じゃのぉ~』
『それで? 綾小路ってのはどんな男なの、爺様?』
『ッッ!?!?!? カ、カルラは綾小路くんに興味があるのかの~~?』
『強い子孫を残すことが宗家の使命って言ったのは爺さまでしょ。
『いや、確かにそれはそうなんじゃが……あっ!
綾小路くんには親しくしている幼馴染の女の子がいたはずじゃ!』
『それがどうかしたの?(呉並感)』
『え゛え゛っっ!?!?』
――― 伊吹澪 ―――
今まで綾小路のことは表情を動かしたりしない人形みたいなヤツだと思っていたけど、実のところはそうじゃなかったみたいだった。
龍園が返答に詰まっていたときも『またまたご冗談を』みたいな感じで苦笑していたけど、時間が経つにつれて龍園が隠しカメラのことを考えていなかったことに気づいてしまったのか宇宙の真理に触れてしまった猫みたいな顔に変わって、最終的にチベットスナギツネみたいな表情で龍園を見つめている。
いや、ホントに意外と表情動くな、コイツ。
「いや、待とう。ちょっと落ち着こう」
「アンタが落ち着きなさいよ、綾小路」
「坂上先生の反応を見る限り、少なくとも坂上先生は隠しカメラがあるとは思っていなかったみたいだ。
坂上先生、特別棟に隠しカメラが設置されてるか知ってますか?」
「……ム」
確かに綾小路が隠しカメラについて言ったとき、坂上先生は驚いた表情をしていた気がする。
坂上先生はCクラスの担任なんだから、私たちがしくじってしまうことは望んでいないはず。
今回の喧嘩の一件についてCクラスに説明するときの坂上先生はどこか嬉しそうだった。おそらくDクラスにダメージを与えられて、審議の行方次第ではDクラスのクラスポイントをCクラスに賠償として移すことができるかもしれない、という思惑があったんだろう。だから嬉しそうな表情をしていた。
だけど、もし坂上先生が特別棟に隠しカメラが設置されているのを知っていたら、小宮たちがしたことは学校にバレているんだからあんな嬉しそうな顔をするわけがない。
だからそれだけを考えるなら、特別棟には隠しカメラがないってことになるんだけど……。
「……言えることはないです。私の立場ではノーコメントです」
「ああ、聞いておいてなんですが、坂上先生の立場ではそう答えるしかないでしょうね。
そもそもの話として、学校が坂上先生たちに秘密で隠しカメラを設置しているかもしれないわけですし」
そうだ。担任の先生は自分の担当しているクラスの成績でボーナスとかが増減するって聞いている。
それなら担任の先生が自分のクラスに過剰に肩入れすることもありえるのだから、担任の先生の不正を防止・発見するためにも、むしろ担任の先生にこそ知らせていない隠しカメラがあってもおかしくはない。
だから特別棟に隠しカメラが設置されてるかどうかは、今この場にいる人間には確かめようがないんだ。
「でもどうして龍園たちは隠しカメラをないって思ったんだ? オレは普通にあると思ったんだが……いや、違うか? 龍園たちはないと思ったんじゃなくて、あると思わなかったのか?
うーん、別にオレの考えって変じゃないですよね、坂上先生?」
「……ノーコメントです。
特別棟に隠しカメラがあるかどうか、そして私たち教師にも知らされているかどうか。どちらの質問もその他の質問に対しても肯定も否定もしない。ノーコメントです」
「っていうか、特別棟だけじゃなくて本棟にもあるかもしれないんじゃないの?」
「伊吹の言う通りだな」
「…………ノーコメントです」
駄目だ、坂上先生からは情報は取れそうにない。完璧に表情を固めていて、全ての質問をノーコメントで返されてるから何も読み取れない。
いや、坂上先生が何か言ったとしても、この場合だとそれが本当かどうかすらわからないからどうしようもないんだけど、もし綾小路の言う通りに隠しカメラが本当にあったらマズいよね。
「…………」
「ちょっと。黙ってないで何か言いなさいよ、龍園」
「うるせぇな。わかってるよ。
おい、綾小路。さっきの取り引きは対価を別なものにすればまだ有効か? おまえだって知的好奇心を満たすためにクラスの勝利をドブに捨てようとしてたなんて、クラスメイトには知られたくないだろう?」
「微妙。この取り引きのことをクラスメイトに知られたら、面倒くさいことになるのは確かだ。
隠しカメラの無効化方法を対価として受け取れたならクラスメイトにまだ言い訳はできたが、まさかおまえたちが隠しカメラについて思い当たっていなかったなんて思いもしなかったからなぁ……」
「うるせぇよ。この話し合いの録音をしていなかったら審議続行一択なんだろうが、俺がこの録音を公開したらクラスの連中にテメェの間抜けを晒しちまうぜ」
「おいおい、それでオレを脅しているつもりなのか、龍園?」
「脅しているつもりはねぇよ。どうせおまえにはそんなもん効かねぇだろ。
ただ、おまえのその面倒くさそうになってるツラを見たところ、この件に関しては興味が失せてるんだろう?」
ああ、さっきからチベットスナギツネ顔が続いているもんね。
「さて、どうだろうな?」
「ちょっと龍園。もしかしてこのまま審議に臨むつもりだっていうの? この取り引きをして綾小路から喧嘩の映像を証拠としてだされなくなっても、学校が仕掛けた隠しカメラで撮られた証拠が提出される可能性が高いんじゃない?
そもそもこの録音を公開して間抜けを晒すのはコッチでしょ」
「いや、綾小路からあの映像が提出されないなら勝ち目はある。
それと間抜けに関しては今更だ。喧嘩の映像を撮られているからダメージを避けることはできないだろうが、それでもダメージは最小限にはしたい」
「そうだろうなぁ」
「どういうことよ?」
そうだろうなぁ……って、何で綾小路が龍園と同意見なのよ?
「伊吹。隠しカメラがあったとしても、学校がそれを公にするかどうかはわからないぞ」
「は? 何でよ、綾小路?」
「難しい話じゃねぇ。綾小路の言う通りに隠しカメラがあったとしても、それを公にすると生徒が疑心暗鬼になる可能性がある。
よく考えてみろ。学校が生徒に黙って特別棟に隠しカメラを設置していたとしたら、学校が生徒に黙って寮の部屋やトイレ、更衣室なんかに隠しカメラを設置していないって保証を誰ができるんだ?」
「……あ、そっか」
「最終的に学校は悪魔の証明を求められるかもしれないな」
「ああ。それを避けるためにも、学校が生徒を監視するためには隠しカメラなんかは使わずに、普通の監視カメラのように監視していることを生徒に理解させながら監視しないといけないってことだ。
まぁ、普段生徒が入ったりしない、重要書類を保管しておく金庫がある部屋とかなら話は別だがな。それは入り込んだ生徒が悪いで済む。だが寮の部屋やトイレにもあるかもしれないってのは、そんな噂が広まるだけでマズいだろう。
それなら隠しカメラがもし本当に設置されていたとしても、飛び火を恐れて公にせずに秘密のままにしておく可能性が高い。つまり綾小路の撮った映像がなければ、俺たちが嘘の訴えをしたっていう証拠が審議に提出されないことになる」
「まぁ、ブラックリスト入りはしているかもしれないが、それは事件を起こした時点で遅いから今更の話だな」
「……お、おい、伊吹。どういうことなんだ?」「「……???」」
隣に座っている石崎が質問してくる。それに小宮と近藤もわかっていそうにない。
龍園と綾小路が一足飛びに話を進めるから、私も全部わかったとは言えないけど、確かに龍園と綾小路の言う通りだと思う。
まず、隠しカメラ。
これは設置されている可能性はある。むしろ特別棟には設置されていない方がおかしいのかもしれない。
だけど、学校はそれを簡単に公にすることはできない。
なぜなら公にしたが最後、下手したら寮の部屋やトイレ、更衣室なんかにも隠しカメラが設置されているんじゃないかって生徒が疑心暗鬼に陥るかもしれないからだ。
何しろ進学・就職率100%って謳い文句で生徒を集めておきながら、その100%を保証するのはAクラスの生徒だけです、って屁理屈を平気な顔して言い放つ学校だ。生徒を監視するために実は寮の部屋やトイレとかにも監視カメラを設置しているかもしれない、ってのはある程度の真実味がある。
そしてもし実際に設置していなかったとしても、寮の部屋やトイレには仕掛けていません、と学校が発表したって生徒が信じてくれるかは生徒の学校へ対する信頼性から考えると微妙だ。多分、信じない人の方が多いと思う。
流石に一度でも生徒からこの疑いをかけられたら、学校の根幹を揺るがす規模の騒ぎになってしまうだろう。
そして学校は隠しカメラを仕掛けていない証明なんてできない。
まさか学校中をひっくり返して調べるわけにはいかないし、そもそも学校は信用できないんだから生徒が調べることになるだろうけど、専門の業者でもない限り隠しカメラの有無は調べられないだろう。だけど専門の業者に頼もうにも、その業者が学校の手先じゃないことも証明できない。
だから、隠しカメラがあったとしても、学校はそれを公にすることはできないんだ。
……っていうか、今となってはマジで仕掛けられていないか不安なんだけど。
となると、隠しカメラで撮影された喧嘩の映像があったとしても、それを学校から審議に証拠として提出されることはないだろう。
ただ綾小路の言う通り、隠しカメラで諍いの真実を撮影されていたとしたら、要注意の生徒としてブラックリスト入りになるだろう。
いや、むしろ本当に隠しカメラがあった場合の本来の使い方は、最初からこれを想定しているのかもしれない。生徒に知らせずに隠しカメラを設置して生徒の悪行を記録する。その記録は隠しカメラによる撮影だから証拠として生徒を罰するためには使わないけど、今後は要注意生徒としてブラックリストに載せて警戒する、って感じで。
だけど、私たちはこんな騒ぎを起こした時点で後の祭り。訴えを取り下げたとしてもブラックリストから削除されることはないだろうから、それならこのままDクラスを訴えた方がいい、と龍園たちは言っているんだろう。
「隠しカメラが仕掛けられているかを知りたかったんだろう? だったら審議を中止せずに続ければ、学校が隠しカメラの映像を証拠として公開するかどうかで隠しカメラの有無がわかるかもしれないぞ。
俺は隠しカメラの映像があっても学校は公開しない方に賭けるがな」
「……うーん、それならこのまま映像を証拠として提出するよりは面倒くさくないし、学校側のスタンスもある程度は推測できるかもしれないな。即物的なクラスポイントやプライベートポイントよりも興味が惹かれるのは確かだ。
だが、それも結局は微妙だな。坂上先生から今回の話が上に通ることで、隠しカメラを公にして隠し札じゃなくすことになることもありえるぞ。
まぁ、そこは水掛け論になるから置いておこう。それで一応は取り引きを申し込むに当たって、契約書を用意しておいたんだが……」
「見せてみろや」
龍園の提案に意外と乗り気な綾小路がパソコンを操作してPDFファイルを開いた。
「コッチが正式版でコッチが簡易版」
開かれた2つのファイルを見てみると、正式版のファイルはスクロールバーの大きさから察するに、おそらく数十ページぐらいはありそうだ。
それに対して簡易版は5ページもないぐらいだ。
「正式版は……甲だの乙だの丙だのって単語がそこらに書かれているな。もしかしてマジもんの契約書か?」
「おう。弁護士に見せても平気だぞ。
まぁ、小難しくて堅苦しい言葉で書かれているから、内容については簡易版で見てくれ。簡易版は石崎や小宮たちでも読めるようにわかりやすく噛み砕いて書いてある……つもりなんだが、嚙み砕き度合いがよくわからなかったから、逆に読み難くなってるかもしれん。
契約を結ぶのなら正式版を読んで調べてからサインをしてくれ。明日の朝までにな」
「この量をか……。
いや、まずは契約の内容確認だ。言っておくが、全てテメェの言うがままに契約するつもりはないぞ」
「わかってるよ。オレだって隠しカメラのことを聞けなかったんだから、対価については変えたいと思っていた。
これは叩き台と思ってくれていい。契約内容については話し合って決めよう。明日の審議まで時間が許す限りだがな。でもちょっと待ってくれ。簡易版も少し手直しする」
今になって1時間遅刻したのが惜しくなってる。
あ、でも苦労するのは正式版を読み込まなきゃいけない龍園だけだからいいのか。
カタカタとノートパソコンを数分の間操作していた綾小路が、再び私たちの方へ画面を向けてきた。
「こんなんでどうだ?」
1.契約者について
この契約を結ぶのは以下の3者である。
①1年Dクラス 綾小路清隆。以下は“綾小路”とする。
②1年Cクラス 龍園翔、石崎大地、小宮叶吾、近藤玲音、伊吹澪等、今回の一件に関与したCクラスの生徒。以下は“龍園たち”とする。
③1年Cクラス担任 坂上数馬。以下は“坂上先生”とする。
「おや、私も契約を結ぶ必要があるのですか?」
「茶柱先生にバラされたらややこしくなるので口止めを。詳しくは続きを読んでください」
「なら、契約するかの結論は読んでからにしましょうか。
……石崎たちもこのぐらいなら大丈夫だな?」
「だ、大丈夫っす」「はい」「このぐらいなら」
いや、このぐらいの日本語がわからなかったら高校生としてマズいでしょ。
2.契約を結ぶにあたっての注意事項
①龍園たちは連帯責任とし、誰か1人でも契約に違反した場合、龍園たち全員で責任を負う。
②坂上先生は本契約内容と教師としての職務で相反する事態になった場合、教師としての職務を優先してよい。
③今回の一件についての名称は以下のものとする
・特別棟で起こった須藤健と石崎、小宮、近藤たちの諍い=“喧嘩”
・現在行っている綾小路、龍園たち、坂上先生による会合=“会合”
・生徒会による今回の一件についての審議=“審議”
・綾小路が撮影し、龍園たちと坂上先生に閲覧させた喧嘩の証拠映像ファイル=“映像”
ただし、元の映像ファイルから改変や切り取りをしたものも“映像”の範囲内である。
・特別棟に設置されているであろう隠し監視カメラ・盗聴器等の録画・録音機器=“隠しカメラ”
「オイ、待て。前ので伊吹澪“等”ってあったが、それだとCクラスの生徒の範囲が不明瞭だ」
「今のところ関与確定はおまえら5人だけだけど、どうせ金田とかも関わっているんだろ? 関与した証拠が見つかったら連帯責任だ」
「証拠が見つかったら、か。ならいい」
「2-②に関して坂上先生からご意見は?」
「いや、この条項を明記したのは正解です。明記されてなかったとしても、もしそうなった場合は教師としての職務を優先していたでしょうから、あらかじめハッキリさせておくことに越したことはありません。
それと2-③で映像を改変したものも映像に含めるとありますが、これも書いておいて正解でしょう。書いておかねば、後で余計な騒動が起きかねません」
3.綾小路の契約内容
①映像を審議に証拠として提出しない。
②映像のコピーを龍園たちに渡す。
③学校が設置した隠しカメラで記録されたものについては責任は持たない。
④特別棟に隠しカメラを新たに設置していないことを誓う。
⑤1年Dクラス須藤健を含め、他人に喧嘩を記録させていないことを誓う。
⑥上記3-①~⑤に違反する行為をした場合、審議終了日から1週間以内に綾小路は500万プライベートポイントを龍園たちに支払う。
ああ、そっか。須藤に記録させていたり、綾小路が別に隠しカメラを設置していた可能性もあるんだ。
小宮たちが前日に話していたことを聞いていたらしいから、前準備する時間はたくさんあったはず。だけどそれはしていないと。
「本当にしてないの?」
「ああ。嘘か本当かは証明できないから信じてもらうしかないが、ぶっちゃけ必要なかったからな。
本当に須藤にICレコーダーとかは持たせたりはしなかったし、他の誰かに見張らせていたとかもない。それに待ち合わせ場所に隠しカメラをあらかじめ設置していたとかもない。
「ま、確かにね。アンタだけで証拠映像はバッチリ撮影できてたんだし、わざわざ誰かにやらせる必要もないか」
「だけど学校が特別棟に本当に隠しカメラを設置していた場合、その記録を審議に提出されたとしてもオレは知らん。それに特別棟に第三者がいて、その人が証人となった、もしくは証拠を提出した場合なんかも知らん。
映像のコピーをこの後にでも渡す。もしオレ以外の誰かから証拠を提出されたとしたら、渡した映像のコピーと比較してみろ。それでわかるだろ」
「第三者に関しては元々の話だ。それは構わない。ただ、④と⑤で要するに綾小路を信じるかどうかって話になるってのがな……」
「そこは水掛け論になるだろ。そのための⑥だ。もしオレが他の人経由で別の証拠を審議に提出したと思ったなら、オレが黒幕だという証拠を見つけて500万ふんだくってみろ。
まぁ、元より
「……チッ」
綾小路を信じるのが前提か。まぁ、綾小路もこの展開は予想外だったみたいだし、簡単にバレる嘘はつかないヤツだと思うから、そこら辺のことは本当だけだと私は思うけどね。
それにこの話に乗らないと、結局は映像を審議に証拠として提出されて負けるだけなんだしさ。
でもプライベートポイント持ってんのね、綾小路。
Sシステムの口止めで350万、それと南雲って先輩とサッカーの勝負してポイント巻き上げたんだっけ? なら違反時の罰金500万ポイントも払える額なのか。
4.龍園たちの契約内容
①本契約と会合の内容を、会合の参加者以外に伝えてはならない。
②会合が行われたことを、会合の参加者以外に伝えてはならない。
ただし、本契約締結前に会合が行われることを知っていた人物は例外とする。
また、本契約締結前に会合が行われることを知っていた人物に、この会合が行われたことについての口止めをしなければならない。
③上記4-①~②において、“伝える”とは口頭に限らず、電話、文書、録画、録音など、ありとあらゆる情報伝達手段を含む。
④上記4-①~③に違反する行為をした場合、審議終了日から1週間以内に龍園たちは伝えた人物1人につき200万プライベートポイントを綾小路に支払う。
この場合、伝えてしまった参加者以外が伝えてしまった人物も、伝えた人物に含まれる。
⑤綾小路が上記3-①~⑤の契約を遂行した場合、審議終了日から1週間以内に龍園たちは100万プライベートポイントを綾小路に支払う。
見た感じだとややこしくない、この内容?
石崎たちの頭がパンクしてそうになってんだけど、本当に綾小路はこれで簡単に書いたつもりなの?
「映像を審議に提出しない代わりに100万。しかも1週間以内か」
「要求しないと逆に信頼し難くないか? 隠しカメラの無効化方法の情報料代わりだ」
「フン、契約を守らせるためにわざと弱みを作るつもりか。これはいいだろう。いや、むしろ100万でいいのか?
それと確認だが、例えばもし金田にこの会合があることを伝えていた場合だと、会合の内容は話しては駄目だが会合があったことは伝えていい。ただし会合の内容や、会合があったことを金田が喋らないように口止めもしなけりゃならない、ってことでいいんだな?」
「そうなるな」
「何でこんなややこしいこと契約すんのよ?」
「そりゃ簡単だ、伊吹。
俺たちが綾小路とこの会合をもったことについて噂を流してみろ。綾小路はDクラスの連中から何があったのかを問い質されるぜ。それを避けるためだろう」
「ああ。誤魔化すのはできるだろうが、面倒くさいし時間もかかるからな」
「あ、綾小路……?」
「どうした、小宮?」
「④の“伝えてしまった参加者以外が伝えてしまった人物”ってどういうこと何だ?」
「うん? 例えば石崎が山田に話してしまって、その山田が椎名に話してしまったら、山田と椎名2人分でアウトだ。400万プライベートポイント支払い。
簡単に書いたつもりだったが……わかり難いか?」
「その、スマン」
「そっか……難しいなぁ、他人に説明するというのは」
石崎と近藤も頷いているのを見て、綾小路がガッカリしていた。
まぁ、中途半端な難しさが残っているのは私も同感だった。お固い文書を高校生向けへムリヤリ直したような感じがして、どうにもチグハグ感がある。綾小路は勉強もできるってことだけど、やっぱりできないことだってあるんだ。
「おまえたちはとにかく黙っていればいいんだよ。余計なことは考えんな」
「その方が安全だろうな。
言っておくがこの契約とかについて龍園たちと話をしていたのを、他の誰かに聞かれたとかでもアウトだからな。
電話とかでも同じだ。電話している龍園にこの契約について話しかけて、それで通話中の相手に聞こえてしまったとかでもアウト。龍園の言う通りに、どんなことがあってもこの生活指導室からでたらこの件に関しては口にしない方がいいだろう。
例外は明日の審議のときにでも、さっき見せた証拠映像を証拠としてオレが提出したときぐらいだろうな。その場合は遠慮なく後でオレを糾弾するといい」
5.坂上先生の契約内容
①本契約と会合の内容を、会合の参加者以外に伝えてはならない。
②会合が行われたことを、会合の参加者以外に伝えてはならない。
ただし、本契約締結前に会合が行われることを知っていた人物は例外とする。
また、本契約締結前に会合が行われることを知っていた人物に、この会合が行われたことについての口止めをしなければならない。
③上記5-①~②において、“伝える”とは口頭に限らず、電話、文書、録画、録音など、ありとあらゆる情報伝達手段を含む。
④職務上の理由がある場合、もしくは綾小路の許可した人物に伝える場合は、上記5-①~③は無効化される。
しかし、伝えなければならない場合でも、まず学年主任に本契約内容を説明して秘密保持の許可を得るなど、必要最小限の人物にしか伝えない努力をする義務がある。
⑤上記5-①~④に違反する行為をした場合、審議終了日から1週間以内に坂上先生は伝えた人物1人につき1000万プライベートポイントを綾小路に支払う。
この場合、伝えてしまった参加者以外が伝えてしまった人物も、伝えた人物に含まれる。
「これは俺たちがどうこう言うもんじゃねぇな」
「でも、1000万プライベートポイントってボッタくり過ぎなんじゃない?」
「どうですかね、坂上先生?
オレとしては、坂上先生が上役かオレの許可を取ればペナルティ無しで誰かに伝えられるんですから、龍園たちよりもペナルティを重くすべきだと思ったんですが?」
「……綾小路くんの言いたいことはわかりますし、確かにペナルティを重くすべきという意見も当然でしょう。
そして綾小路くんの契約違反における罰金500万、龍園たちの契約違反における罰金200万という金額の関係上、私への罰金が1000万というのは妥当と言えば妥当かもしれませんが……難しいですね。
(しかし、この契約を結ばないとCクラスにダメージが……)」
「オレと龍園たちとの罰金額を小さくすれば坂上先生への罰金額も小さくできますが、それだと契約違反の抑止力が小さくなり過ぎる気がするんですよね。
そのために龍園たちと坂上先生のペナルティは、伝えた人数が増えれば増えるほど罰金も増えるようにしたんですから」
「私がこの契約を結ばないと、先ほどの喧嘩の映像を審議に証拠として提出するんですか?」
「茶柱先生に知られたら面倒くさいことになりそうですから」
「それは確かに。綾小路くんの懸念はわかります。
そして綾小路くんの契約違反における罰金500万、龍園たちの契約違反における罰金200万は、払いたくはないが払えなくはない金額と言えるでしょう。
しかし、私への罰金が1000万は明らかに高いです。
通常なら問答無用で却下する類のものですが、他の罰金とのバランスを考えると…………よし、それならいっそのこと、学年主任の真嶋先生に確認を取ることにしましょう。どうせ例の英先生について話すために真嶋先生に会いに行くのだから、そのついでにですね」
「え、行くこと確定ですか? 明日の審議の付き添いは櫛田たちが出席するとはいえ、今夜に最後のミーティングする予定なんですけど……」
「綾小路くんには悪いと思いますが、ろくな説明もせずに高校生に献体同意書へサインさせる医師なんて流石に教師として放置できません。お手数をかけますが付き合ってもらいますよ」
チラリと坂上先生が龍園を見る。これはアレかな? 明日の審議のために綾小路の時間を浪費させる援護をするつもりかな?
まぁ、私としてもそんな医者が学校にいるのは怖いからさっさとどうにかして欲しいんだけどさ。
「こうしましょう。契約書については生徒同士の契約なら簡易版だけで問題ないです。それなら正式版を作り直す必要はないので、真嶋先生に会いに行く時間ができるでしょう?」
「せっかく作ったのに……まぁ、わかりましたよ。俺も英先生のことは気になりますし。
それで結局、龍園たちはこの契約をどうするんだ? 考える時間が欲しいっていうのなら考慮するが?」
「それよりも綾小路。質問に答えろ。
俺とこの契約を結んだらDクラスにダメージが入るだろう。
それに須藤も最近はマシになったとはいえ、4月中の態度は酷かったと聞いている。今回の須藤の喧嘩のせいでせっかく中間テストで増えたクラスポイントが減ることもありえるが、そうしたら素行が悪かった須藤がクラスメイトから責められてアイツの立場が致命的なことになりかねないぞ?
テメェは知識欲というか、自分の興味のために須藤を犠牲にするつもりのようだったが、それについて思うところはないのか? しかも、この契約で得られるのはたったの100万プライベートポイントだ。そんなはした金のために、須藤を犠牲にすることに思うところはないのか?」
「
龍園の質問に、一瞬の躊躇もなく答える綾小路。
いつの間にかチベットスナギツネからいつもの無表情に戻っている。小宮たちが「ヒェッ」なんて息を飲んだのが聞こえた。
それにしても綾小路ってこんなヤツだっけ?
「まず、もう須藤も高校生なんだから、自分の尻は自分で拭けって思っている。
それにDクラスの生徒は世の中を甘く見ているというか、一度痛い目を見た方がいいんじゃないかって思ってしまうヤツが多すぎる。4月とかマジで酷かったんだからな」
「……ああ、そういえば、おまえは4月の間もずっとクラスメイトを注意し続けていたのに、結局Dクラスのヤツらはクラスポイントを0にしちまったんだよな」
「もしかして綾小路、実は結構4月のこと怒ってるの?」
「いや、Sシステムのことを知ってからクラスメイトを注意し続けていたけど、4月の最後の方は怒るのを通り越して呆れていたよ。
言っておくが、別にオレは聖人君子ってわけじゃないんだぞ」
「「「知ってた」」」
「他人を実験台にしといて今更なの?」
「ひよりがクソ小説紹介されたことを怒ってたぞ」
「え、意外とオレの評価が辛い?
……まぁ、オレは
「もしかしてこの件を利用して、Dクラスの気を引き締めようってのか? 100万プライベートポイントなんかオマケでしかないと。
いや、確かにまだ序盤である今のうちにやっておいた方がいいのかもしれないが……」
あー、そういうことね。
確かに綾小路の気持ちを考えたら、そういうことしてもおかしくないか。
「そもそもの話、オレは別にAクラス特権を欲しいとは思ってないからなぁ。
負けるのは癪だからわざと負けたりはしないが、それでも3年間の長期戦であることを考えると全戦全勝である意味はないと思っているし、負けることが今後の成長に繋がるなら今の時点での負けもむしろアリだと思うぞ」
「なるほどな」
「アンタならどこの大学でも進学できるか」
「それにちょっと
「……嘘は、ついていねぇみたいだな。
わかった。ちょっと考えさせろ。30分ぐらい」
「坂上先生、それなら今のうちに真嶋先生のところに行きましょうか?」
「いいでしょう。
それに龍園たちも自分たちだけで考えたいこともあるだろう。30分ぐらいで戻ってくるつもりだが、遅くなるようだったら連絡を入れる」
「じゃあ連絡先を交換しておこうか、龍園。ノートパソコンには契約書のファイルと喧嘩の映像しか入れていないから、戻ってくるまで好きに使っていい。
ああ、それとコーヒー飲んでもいいぞ」
「おう」
そう言って綾小路が坂上先生と一緒に生活指導室からでていった。
2人を見送った龍園は綾小路が残した水筒から紙コップにコーヒーを注ぎ、それを飲みながらもう一度パソコンを平然と見始める。
切り替え早いわね、コイツ。
「うん?」
「何? どうしたのよ?」
「いや、コーヒーの味が普通のと変わっててな。豆の違いとかじゃないんだが……あ、これデカフェコーヒーか? 前に飲んだことあるな」
「でかふぇ?」
「カフェインレスのコーヒーのことだ。間抜けな声出すんじゃねぇよ、石崎。
それよりおまえら、綾小路の言ったことはどう思った? 本当のことを言っていると思ったか?」
「わ、わかりません」「もう何が何だか……」「俺もさっぱり……」
馬鹿3人の顔色が悪い。もうまともにモノも考えられなくなっているみたいだ。
どうやら最後の龍園と綾小路の問答に気圧されたみたいだった。
「私は、綾小路は嘘をついてはいないとは思うけど……」
「そうか。いや、俺も嘘はついてはいないとは思うし、本当のことを言っているとは思うが、それでもどこか違和感がある。普通の高校生だったらあんな考えはしない」
「綾小路は普通のヤツじゃないでしょ」
「……そうなんだよな。結局は綾小路次第か」
「素直に訴えを取り下げて損切りするのは駄目なの? それと綾小路にはこの会合のことについて秘密にする義務はないみたいだけど、それでいいの?」
「伊吹、忘れたのか? 俺たちが訴えを取り下げたとしても、綾小路があの映像を証拠として訴え返してきた場合はCクラスへのダメージはかなりデカいものとなるぞ。それと俺たちにだって、渡された映像を秘密にする義務は課されていない」
「あ、そういえばそっか」
「もちろん訴え返された仕返しとして、この会合の録音をバラせば綾小路にダメージを少しは与えられるかもしれないが、そのダメージの度合いなんぞたかが知れている。綾小路のあの性格なら気にせずに普通に訴え返してくるだろ。
そしてこの会合のことを秘密にする義務についても同じだな。綾小路にその義務を課すのもアリだが、その代わりに俺らへの要求を増やされる可能性を考えると、口止めを要求するのは大したメリットもない癖に藪蛇になりかねない。
解釈にかなり余地のある文言にされているとは思うが、ギチギチに締めるために考える時間もないしな。審議は明日だ」
「ふーん。結局のところ、ダメージを最小限にするには綾小路の持っている証拠映像を無効化するのが必須なんだ」
「その通りだ。そのためには取引に応じるしかないんだが、それも綾小路を信じられるかどうかが鍵になる。それにミスったのは事実だが、それならせめて隠しカメラや学校のスタンスについての情報ぐらいはせしめたいもんだ。
……オイ、小宮と近藤。喧嘩の前日のバスケ部の更衣室で色々口を滑らしていたみたいだが、そのときに特別棟の監視カメラについて何か言った覚えはあるか?」
「そ、それはないです。確実です」
「はい。その次の日のことについての話をしたのは、更衣室からでる直前だったから覚えてます。監視カメラについてなんて言ってません」
「そうか。なら少なくとも、俺たちが隠しカメラのことにまで考えが及んでいなかったことを、綾小路が知らなかったのは間違いなさそうだな。Cクラスにスパイでもいない限りだが」
そりゃそうでしょう。
そうじゃなかったら、あんな取り引きなんてわざわざ申し込んできたりするわけないじゃない。
「クソ、俺の考えが浅かったか……」
「……あ、あの龍園さん」
「あ? 何だ、石崎?」
「よ、要するに綾小路が俺たちを騙そうとしているかどうかなんですよね?
俺たちを騙そうとしているんなら、契約書の……えーっと、3-④とか3-⑤みたいなことをわざわざ書かないんじゃないかと……」
「そっか。騙すつもりならわざわざ俺たちに知らせないか」
「……フン、それはその通りだが、俺が迷っているのはそういうことじゃねぇ。実質的に契約を結ぶしか選択肢がないことが気にかかってるんだ。
契約を結ばなかったら綾小路にこの証拠映像を提出される。そして契約を結んだとしても、綾小路が元から裏切るつもりだったら契約に反しない方法で得た別の証拠映像を提出されるだろう。だから契約を結んで裏切られても100万プライベートポイントを余計に損するだけで、実際のところ契約を結んでも結ばなくても本質的にはリスクの大きさは変わらないんだよ。
結局、俺たちは契約を結んで、綾小路が裏切らないことを祈るしか道はないんだ」
「そういうことね。契約を結ばない場合のデメリットが大きすぎて、契約を結んで裏切られた場合のデメリットと大して変わらなくなってるんだ。
だったら確かに契約を結んだ方がまだいいのか」
「だが、どうにも綾小路に誘導されている気がしてならねぇ。俺の考えつかないようなことで、全く別なことを企んでいるんじゃないか、ってな。それに綾小路も言っていただろう。
…………が、言った通りで他に道はない。腹をくくって契約を受け入れるしかなさそうだ」
龍園がガラにもなく気落ちしているみたいだけど、今回は仕方がないんじゃない?
共犯の私が言うのもアレだけど、まさか綾小路が校舎の外壁を昇り降りするなんて思いもよらなかったんだし。
「ん、待てよ? …………もしかして綾小路のヤツ、俺を雑魚と見なしたのか?」
「りゅ、龍園さんをですか!?」
「この場合、契約を結んでも結ばなくても、結んで裏切られたとしても、どちらにしろ俺へのダメージは少ない、と思う……」
「は? 何でよ?」
「明らかにミスったのは小宮たちだからだ。俺はクラスのヤツらの前で、小宮たちに他に人がいないかを確認してから実行しろと、繰り返し注意していただろ」
「……はい」「注意されてました」「すんません」
「いや、今回のミスは綾小路を甘く見た俺の責任だ。それをテメェらに押し付けるつもりはねぇ。
……が、契約を結んだら、契約とこの会合のことをクラスのヤツらに説明できなくなるから、別の証拠映像が提出されて俺たちの負けになったとしても、他に人がいないかの確認をミスった小宮たちの責任となる。
その場合だと、Cクラスにおける俺の権力基盤へのダメージは少ないだろうから、俺は引き続きCクラスのリーダーを続けることになるだろうな」
ああ、確かに。
それだったら任命責任ってのは龍園にもあるかもしれないけど、一番悪いのは他人を見逃したなんて単純ミスをした小宮たちだ。それなら龍園だって責められるかもしれないけど、今回の失敗だけで龍園がリーダーから引きずり降ろされることにはならないだろう。
「でも綾小路はどうしてそんな風にすんのさ?」
「俺を対処しやすい雑魚と見なしたから、他のヤツがリーダーになるよりもオレがリーダーのままの方が今後が楽になると思った、とかだな。考えられる理由としては。
舐めやがって、と言いたいところだが、このブザマな有様さじゃ負け犬の遠吠えだな」
「なるほどね」
「クソッ。考えをまとめるには時間が足りねぇ。こんなことなら遅刻なんかするんじゃなかったぜ」
ガリガリと頭を搔きながら必死に契約書を見つめる龍園。
コイツのこんな姿、初めて見たわ。
でも正直なところ、こういう誰かをハメるような計画は好きじゃなかったから、これで龍園も少しは綾小路を警戒して自重してくれたらいいんだけどね。
片棒担いだ私の言うことじゃないけどさ。
――― 橘茜 ―――
「こんな遅くにすいませんね、橘先輩」
「いえ、構いませんよ、綾小路くん。
こちらが明日の審議で使用する会議室です」
1年のCクラスとDクラスの間に起こった諍い。両者の言い分が真っ向から対立しているため、生徒会による審議でどちらの主張が真実なのかを判断することになっています。
その審議が翌日に迫った月曜日の放課後、生徒会の役員であり1年Dクラス所属でもある綾小路くんから、審議で使用する会議室の設備を確認したいとの申し出があったため、こうして私が綾小路くんを会議室に案内しています。
もう約束していた時間よりも遅い19時近くになっていますが、どうやら綾小路くんは説明もなしに献体同意書を生徒に書かせる医者について話すために教師に呼び出されたせいで遅くなったとのことです。そういうことなら遅れてしまっても仕方ないでしょう。
…………献体同意書って何ですか?
いや、どういうものかはわかりますけど、ここが特殊な学校とはいえ高校生活にどうしてそんな単語がでてくるんですか?
「最初は生徒会室で審議を行う予定だったのですけどね。しかし、それでは他の生徒会役員の仕事ができなくなりますので、こちらの会議室を使用することになりました。
ちゃんとこの会議室にも、綾小路くんが希望していた設備は整っていますよ」
「オレに葛城、一之瀬と生徒会役員も増えましたからね。そうそう生徒会室を占有するわけにもいかないでしょう。
あそこの部屋の中央の天井に設置してあるのがプロジェクターですか?」
「はい、そうです。えーっと……これですね。このHDMIケーブルがあのプロジェクターと繋がっています。
ですのでノートパソコンを持ち込むならプロジェクターを使用しても構いません。スクリーンはここに吊り下げられていますので、この引っかけ棒で引っ張ってください」
「コンセントは……ああ、上座側下座側のどちら側に座ってもありますし、LANポートも一緒にあるからネットにも繋げられますね」カシャッ!
「写真ですか? いや、別にコンセントの数とかを記録するぐらいはいいですけど」
「それでこの部屋の防音は?」
心配性ですねぇ、綾小路くんは。
諍いがあった日に1年Cクラスから監視されていたということなので、そういうことに神経質になるのも仕方ないですが。
でも、いきなり生徒会室の窓を開けて、そこから壁を伝って降りていくのはやめてくださいよ。本気でビックリしたじゃないですか。
いくらボルダリングのオリンピック金メダリストだったとしても、次にあんなことをしたら怒りますからね。
「防音もシッカリしていますよ。窓やドアをちゃんと閉めていたら外の音は聴こえませんし、中の音も外には聴こえません。
元々ここは教師の方たちも使用される会議室ですので、生徒に盗み聞きされないように対策はされているそうです」
「それなら盗聴器対策とかもされてそうですねぇ」
「言っておきますけど、盗聴器を仕掛けたりしたら駄目ですよ。
……そのポケットに入れた手をだしなさい」
「え? じゃあ、はい。飴ちゃん食べます?」
「いりません」
ポケットに入れていたのは盗聴器なんかではなくて飴ですか!?
相変わらず捉えどころがない後輩ですね。実力があることは知っていますが、マイペース過ぎて生徒会役員としてはもうちょっと改善して欲しいのですが……。
「ところで橘先輩は、今回の審議がどうなると思います?」
「……ノーコメントです。
私は明日、進行係として審議に立ち会うことになっていますので、いくら綾小路くんが須藤くんの弁護人として審議に同席しないとはいえ、当事者と同じクラスである人にそういうことについての意見は言えません」
「坂上先生みたいなこと言ってますね。確かに同じクラスなら、弁護人としては出席しないオレにも言えないですか。
ああ、それともう一つお願いがあります。手のひらをオレに向けた状態で両手をグーの形にして、頬にグーを当ててください」
「えっ? こ、こうですか?」
「はい、それで両方の手を10cmほど頬から離して、グーからチョキにしてください」
「えっ? えっ?」
「はい、いきますよ~。ハイ、チーズ!」カカシャッッ!!
えっ!? 何でこんなポーズしてる私の写真を撮ったんですか!?
――――――――――――
『―――うんうん。それではおやすみ、カルラ。
『クカカッ、電話は終わったのかい、ジイさんよ』
『……雷庵か』
『あん? 思ったより冷静じゃねぇか?
てっきり綾小路ってガキを殺せとか騒ぎだすと思ったのに……』
『フン、あのガキはどうも小奇麗にまとまり過ぎている。心配しなくともカルラと会ったとしても、綾小路くんに惹かれたりはせんよ。
実際悪くはないとは思うし、あの年齢ならば見事というしかないが、それでも
『ハッ、俺の顔を見て逃げ出す雑魚ならそんなもんか』
『それは綾小路くんの判断が正しいじゃろ。
さて、それじゃあ今後について風水に連絡をしておくかの。ついでに今後のために綾小路くんの情報も集めておくように言っておこう』
『オイ、ジジイ』
『いや、これは将来的に綾小路くんが政財界で活躍することを見込んでのことなんじゃ!』
ごめんね、ドラゴンボーイ。きよぽんはスパイより理不尽な存在なんだよ。
というより、やはり原作知識アリが卑怯過ぎますね。
それと前話の感想で、隠しカメラはあってもおかしくないとの反応が多数だったので安心しました。
というか、お気に入り数が一気に200件ぐらい増えたのは驚きです。