(社説)偽情報対策 行政の介入は最小限に

社説

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 インターネット上で拡散される偽・誤情報への対応を検討してきた総務省の有識者会議が、提言案をまとめた。焦点になったのは、行政機関の関与の度合いだ。

 偽情報は、社会生活に混乱をもたらしたり、選挙に影響を与え民主主義を脅かしたりすることが世界的に問題視されている。偽情報は、SNSや動画投稿サービス上で拡散しやすいが、運営するプラットフォーム(PF)事業者への規制には、表現の自由との緊張関係が伴う。

 提言案は、事業者が対応を検討すべき偽・誤情報に含まれる情報を、(1)検証可能な誤りが含まれると同時に、(2)対応の強さに見合う程度の「違法性や客観的有害性」や「社会的影響の重大性」が明白にある情報、などとした。

 例として、感染症流行時に健康被害を生じさせ得る医学的に誤った治療法を推奨する情報、実在しない住所を示しての災害救助要請を挙げた。事業者による対応としては、投稿時の警告表示や情報削除などを段階別に例示した。

 その上で、政府による制度整備が必要だとした。事業者が迅速で透明性のある対処をするよう促す方策を提言。また、偽情報が影響力を持ちやすく拡散しやすいといったPFの構造的問題について、事業者や研究機関による協議会を設け、影響を軽減するための指針を作るべきだとした。

 注目されるのは、行政機関が自ら対応を要請する事態を想定し、透明化するルールを提言したことだ。たとえば、要請手続きと要請状況の公表、対応後の投稿者への行政機関名の通知といった点だ。

 行政法規に抵触する違法な情報については、行政機関が対応を要請した場合に迅速な判断を促す制度整備が適当としたが、制度の対象になる法規は特定するよう求めた。

 提言案が行政の関与を含む制度整備を求めたのは、表現の自由や知る権利の実現のために、行政は干渉しないだけでなく、多様な情報を発信・摂取しやすい環境を整えることで「実質的に保障」する必要があるという考えからだ。

 ただ、会議でもたびたび言及されたように、行政の恣意(しい)的介入を許さない制度設計が不可欠だ。違法でない情報にまで行政が口を出す、協議会の主導権を行政が握る――。そうしたことを許せば、歯止めがきかなくなり、検閲のような事態を招く恐れがある。

 偽情報対策は他国との情報戦への備えとしても注目されるが、「社会的混乱を招く」といった名目で、なし崩し的に幅広い情報が要請の対象にならないよう、注視したい。

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