「好きな作家の本が出たらとりあえず3冊買って人に配るし、気に入った映画は20回くらい劇場に通って観てしまう。」
推し活のあり方は十人十色、知らない世界はまだまだ広がっている!
村雲菜月『コレクターズ・ハイ』を読んだ/書いた豪華執筆陣が綴るエッセイ「私の #コレクターズハイ」をお届けする。
(※『群像』4月号掲載予定のエッセイ「本の名刺」を特別に先行公開しています。)
「応援」の気持ち
好きな作家の本が出たらとりあえず3冊買って人に配るし、気に入った映画は20回くらい劇場に通って観てしまう。
限界まで行くと「あなたのことを一生好きでいることは多分できないと思うのですが、今はとても応援したい気持ちがあるので、これでおいしいものでも食べてください」というファンレターにおこめ券をつけてアイドルのプレゼントボックスに放り込んでしまったこともあるが、あれは流石によくなかったかもなあと思う。ファンレターは相手に対する最大の配慮が必要なので、少なくとも否定的なことは書くべきではなかった。
このような応援消費が好き、というかもはや誰かを支えるためにお金を遣うことでアドレナリンが出るタイプの人間なので、ここ数年は企画した人の評価が少しでも上がりますように、という祈りにも似た気持ちでカプセルトイのハンドルを回している。
街中でカプセルトイコーナーを見つけると、まあ急ぎの用事でもない限り足が向いてしまう。吸い寄せられるように1つ1つの商品を眺め、これはというものを見つけたとき、真っ先に思うことは、これを考えた人は一体どういう頭の作りなのかしら? ということである。何に影響を受けたのか、思いついたきっかけは何か、などを考えずにはいられない。
さらには、1つの商品が生まれるまでに企画者が頭をひねった期間や、あくせく働いて入稿を間に合わせた夜、ミスが発生して関係各所に頭を下げた日など、あったかどうかも分からない出来事にまで思いを馳せてしまい、気付くと「これを企画した人は少しでも幸せになるべき、そして幸せにするのはこの私なのだ」と謎の使命感に駆られながら縦長の隙間に100円玉を投入している。
すべての売り物の後ろには誰かの仕事があり、苦労した分だけ売れて欲しいだろう、と思ってしまうのは私が似たような仕事をしているからなのかもしれない。顔も名前も知らない企画者にどのくらいの影響を及ぼしているかは謎に包まれているが、お金を払った瞬間に得られる満足感は何ものにも代え難い。
巨大なサメを…
しかしながら、この身勝手な応援消費は言い換えればただの衝動買いなので、しばらく経つと買う瞬間にあった熱量がだんだんと消え、どうして買ったのかも忘れてしまうことが多い。そう、私はオタクから嫌われるタイプの熱しやすく冷めやすい人間でもある。
年末の大掃除で溜まった書類を整理していると、引き出しの底から大量のカプセルトイが発掘された。ほんの一部を挙げると、ミニチュアのティッシュ箱に入ったメモ紙、ゼンマイでくるくる回るコーヒーカップのおもちゃ、いくつものパーツを組み立てて完成するブランコ等々、買った当時は机の上に並べていたが、だんだんと邪魔になり脱落した物たちだ。
おしゃれな飾り方でもできればよいのだが、生憎そのようなセンスはない。結局持て余してベッド下の収納にしまい込むことにしたが、すのこの蓋を開けるとカプセルトイの入った袋が既にぎゅうぎゅうに詰められている。うんざりだ。
私はあまりよい消費者ではないのではないか、と罪悪感を覚えるたびに思い出すのは『コレクターズ・ハイ』のプロットを書いていた頃のことだ。
友人とゲームセンターへ行き無事に目当てのぬいぐるみをクレーンゲームでゲットして帰ろうとした矢先、大学生風の人がすっと寄ってきて、
「これ部屋に置けないので、もらってください」
と大きなサメの抱き枕を差し出してきた。サメを目前にして我々の頭上には巨大なクエスチョンマークが浮かんだ。何故、部屋に置けないものを獲ったのか? そして何故、私たちの部屋なら置けると思ったのか……?
咄嗟に「いや、いらないですけど」と言ってしまったのだが、その人は我々を潔く諦めるとすぐに他の人に声をかけ、今度はなんとサメの押し付けに成功していた。
しかも押し付けられた人もなんだか嬉しそうな顔をしながら「ありがとうございます」とか言っている。本当に大丈夫だろうか。帰り道に抱えながら貰ったことを後悔するのではないか。するよ、絶対。と思ったものの、奇跡的に需要と供給が合致して、その場では至って平和な空気が流れていた。
それを目の当たりにして、知らない世界がまだたくさんあるなあと感心し、消費にさまざまな形があるということ自体には大変勇気づけられた。
私の応援消費も自分が満足する形でお金を払っているのだから、自信を持っていいはずなのだ。他者を不快にしない限りは、あらゆる人の嗜好や消費に善悪を持ち出すべきでもないのだろうと考えながら、本作にゲームセンターの場面を入れてプロットを組み立て直した。
さて、大掃除を終えた翌週、冬のボーナスも入ったことだしご褒美に何か高価で素敵なものでも買いに行こうと街に出かけた。
帰宅後に広げたものといえば、ラバー製のうさぎがしがみついている無限にプチプチできるキーホルダー(1回押したら5分くらい手放せなくなってしまったので連れて帰るほかなかった)、ボトルに詰められたドリンク形の小さな消しゴム12ピース(細かくてかなりよくできていた)、溝にプレートを差し込むと音楽が流れるデコレーションケーキのカプセルトイ(500円で音楽まで流れるなんてたいしたものだ)、以上。今日の時点ではまだ机の上に並んでいる。
【特別公開】ゲームセンターの約束
(つづきは本書にてお楽しみください)
なにゅなにゅオタクの私、クレーンゲームオタクの森本さん、髪オタク美容師の品田。その愛は一方通行だったはずなのに、気がつけば歪んだトライアングルから抜け出せなくなっていて……。執着の暴走に恐怖する、衝撃の群像新人文学賞受賞第1作。