隣人をサンドバッグ扱いし、骨折30カ所 暴行死させた元ボクシング練習生の無慈悲な犯行

楠本大樹被告(フェイスブックから)
楠本大樹被告(フェイスブックから)

サンドバッグのように扱われた被害者は肋骨(ろっこつ)を約30カ所も折られる苦痛の中で生涯を終えた-。アパートの隣人男性=当時(63)=に対する傷害致死罪や6件の暴行罪などに問われた元ボクシング練習生、楠本大樹被告(34)の裁判員裁判で大阪地裁堺支部は6月、常習的な暴行を認定して懲役12年(求刑懲役14年)を言い渡した。2人が知り合ったのは死のわずか1カ月半前。難癖ともいえる理由による金銭の要求と、「凶器」の拳による暴行が死ぬまで繰り返された。

「暖房を思いっきりつけていた」。最終的に被害男性を死に至らしめた暴行は、ささいないらだちが発端だった。令和4年11月20日、「せんでもいいことをして挑発的。イライラした」という被告は、男性の部屋で暴行。男性は腹を抱えて痛がっていたが、「救急車を呼ぶと、警察に通報されるかもしれない」との理由で放置した。翌日、男性は遺体となって見つかった。

被告は法廷で「全力の6~7割の力で5~6回、腹の周りを殴った」と当時の状況を説明したが、男性の肋骨は約30カ所も折れていた。死因は折れた肋骨が肺に刺さって穴が開き、呼吸ができなくなったためだった。

検察側の証人として出廷した医師は「交通事故や高所から落ちた以外で、ここまで肋骨が折れているのを見たことがない」と証言。受けた衝撃の大きさを強調した。

「拳が凶器」自覚なし

2人が知り合ったのは同年10月ごろ。同じアパートで暮らしていたが、入り口でたまたま遭遇したという。翌日、2人はレンタカーを借りて和歌山県などへ出かけた。

被告は仮免許しか持っていないため車を公道で運転できず、正式な免許を持つ男性に同乗を求めた形だった。レンタカー代は2人で折半した。

ただ、その後も被告は何かにつけ男性に金銭を要求した。

「(被告宅の)テレビを傷つけた修理代2万5千円」「男性が滞納した家賃を巡り、アパートの管理会社と話をする手間賃5万円」

難癖ともいえる根拠不明の金銭の要求が2人の間で繰り返された。男性の生活保護費から7万~8万円を受け取ったこともあったという。

行動をともにする間、暴行も繰り返された。「レンタカー店で(無断で)オプションをつけようとした」「話しかけても返事をしなかった」-。細かな言動に腹を立てては、怒りを暴力に変えた。

ただ、事件の半年以上前からボクシングジムに週3~4回のペースで通っていたという被告。プロテストも予定するほど打ち込んでいたが、法廷では男性が死に至った暴行について「パワーは6~7割程度」と開き直った。自らの拳が人を死に至らす凶器と化す自覚はまるでなかったようだ。

死後も遺族に金銭要求

男性が死亡した後も金銭の要求は止まらなかった。遺体が見つかった当日、大切な家族を失ったばかりの男性の弟に対し、男性に請求していたレンタカー代などを払うよう催促したのだ。

弁護人も被告人質問で「亡くなった日にすることではない」と指摘するほどの言動。被告は検察側に理由を問われると、「身内の弟に言うしかない」と正当化した。

検察側は論告で、一連の言動について「被害男性はサンドバッグのように扱われた末、すさまじい痛み、苦しみを感じながら人生を終えた」と厳しく非難し、懲役14年を求刑した。

一方、被告は暴行自体は認めつつ、「死ぬような力ではなかった」と一部否認。弁護側は最終弁論で、被告には軽度の知的障害があり「行為の危険性を理解できなかった」として懲役8年程度が相当と訴えた。

6月5日の判決公判。藤原美弥子裁判長は「根拠の乏しい理由で金銭を請求する中、男性のささいな言動にイライラし、常習的に暴行を加えた」と暴行と死亡との因果関係を認定。弁護側が主張した軽度知的障害の影響は「限定的」とし、懲役12年を言い渡した。

最終意見陳述で「一生、(男性を)亡くならせたことを背負って生きていかねばならない」と述べ、反省の言葉を述べていた被告。にもかかわらず、同月13日には判決を不服として控訴した。(倉持亮)

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