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「天皇でも見ることが許されない“三種の神器”を、強引に…」デマで殺害された初代文部大臣・森有礼

炎上とスキャンダルの歴史

 

■神器はどのように保管されているのか?

 

 ほかにもこの時、森が鏡の裏側に「我は在りて在る者なり」という古代ヘブライ語が刻まれていたのを見た、という噂から生じた噂もあるのですが、これは戦前の一時期に、皇族・華族など最上流階級にも影響力があった神道系の宗教団体「神政龍神会」の矢野祐太郎(元・海軍将校)による創作でしょう。

 

 矢野も「鏡」を実見し、古代ヘブライ語もしくは神代文字を写し取ったと主張していました。そして戦前から古代史家として有名だった三笠宮さまも、「鏡」の謎の文字の研究を始めた云々という噂まで広めたのです。

 

 しかし、三笠宮さまご本人によると「八咫鏡は非常に厚い秘密の壁に取り囲まれ」、「現在生きているだれもが、八咫鏡を見ることは不可能」とのこと(マーヴィン・トケイヤー『ユダヤと日本 謎の古代史』)。

 

「秘密の壁」とは、鏡の実物に、分厚い防壁が幾重にもかけられた状態と考えたほうがよさそうです。江戸時代後期の国学者・判信友などの記述をまとめると、「八咫鏡」は布にくるまれ、円形の容器の中に密閉されて保存されている。

 

 そして、それが「御樋代(みひしろ)」という檜で作られた箱に入れられ、さらにそれが「御船代(みふなしろ)」という船の形をした大きめの箱で囲まれているのでした。これらの厳重なガードを突破し、こっそりと鏡の実物を見ることなど物理的に困難といえるでしょう。

 

 つまり、現在では「八咫鏡」が本当に鏡の形をしているかどうかさえよくわかっていないのです。

 

 

 

画像の出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)

 

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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