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カイロス総合法律事務所・田邊勝己弁護士 独占インタビュー ~ 弁護士と企業経営、業界慣習に挑み続ける理由 ~

     検察や警察出身などバラエティに富んだ人材を顧問として抱え、法曹界で異彩を放つ弁護士法人カイロス総合法律事務所(TSR企業コード:300236572、千代田区)。
     事務所を率いる田邊勝己弁護士は第一線の法曹人であると同時に、東証スタンダード上場企業の経営者としての顔も持つ。
     東京商工リサーチは、田邊弁護士と同事務所所属の岡山大輔弁護士に独占インタビューした。事務所の特色や取り組み、企業経営者となった経緯、地方創生の在り方を聞いた。

    田邊勝己弁護士
     1989年弁護士登録。修習期は第41期。第一東京弁護士会を経て、2024年現在、大阪弁護士会所属。東証スタンダード上場会社、THE WHY HOW DO COMPANY(株)(旧:(株)アクロディア、TSR企業コード:295990759、新宿区、以下WHY HOW DO社)の株主兼代表取締役会長も務める。

    ―カイロス総合法律事務所の特色は

     司法の発展に尽力された検察出身者に顧問になってもらっている。なぜかと言うと、紛争を解決する時には事実をどう見るのか、どう証拠を揃えていくのか、それが一番大事で、検察官は事実認定について、トレーニングを受けており、長年の経験を持っている。有罪にするのか、時として勇気を持って不起訴にするのか。その判断をするため、事実を厳格に認定して証拠をあらゆる角度から検討し、どう構成していくのか、こうしたことがすべて紛争の解決につながる。カイロスの強みは、紛争解決にあたって、その事実と証拠を積み上げていくにあたり、豊富な経験と知識があることだ。ほかの事務所で手に負えなかった難事案、事件が持ち込まれることも多い。
     また、私自身、ほかの弁護士と比べても相当多くの民事事件、なかでも倒産法の分野の事件を多く扱ってきた。倒産事件は会社の姿を正しく見ることが必要だ。どういった資金があれば再生できるか、あるいはリストラはどの程度必要なのかなど、会社の経営者並みに判断しなければならない。

    ―WHY HOW DO社の経営に携わるきっかけは

     私が色々な実業をやっていたこともあり、資金の相談を会社側から受けたことがきっかけだ。経済的にも支援しないといけない雰囲気となり、携わることになった。携わってから7年が経ち、苦労しているが、なんとか再建をやり遂げたいと思っている。
     私の若い頃、弁護士は「絶対事業をやってはいけない」と先輩から言われていた。弁護士は若くして社会でそれなりの地位の人に会い、経営者から相談を受けることもある。自分でも経営が簡単にできると思い込んでしまう。絶対にその誘惑に負けてはダメだと。
     ただ、例えばアメリカではそういった雰囲気はなく、これからグローバル化していくなかで、弁護士が裁判関係だけを取り扱っていればいいというのにも疑問があった。多くの倒産事件を扱ってきて、先駆者としてやってみる価値があるのではないか。教訓も十分わかった上で、企業経営に挑戦することにした。
     経済力をある程度持てば、多くの人にも貢献でき、事務所で有能な方を雇える。そういう面でも挑戦してもいいのではないか、ということも動機となった。ある意味、誰もやってない、やるなと言われたことで反骨精神に火が付いた。


    インタビューに応じる田邊克己弁護士

    インタビューに応じる田邊勝己弁護士

    ―事務所として積極的に手掛けている事案は

     取り扱い事案は、民事や刑事、企業再建、債権回収事案など、ほぼ全ての種類の事案をやっている。新聞などでも報道されるような民事事件を手掛けている。また、刑事告訴して犯人を逮捕してもらった事案もあるし、民事でも会社整理のトラブルを最近解決した。東京でも太陽光発電に絡んだ会社の乗っ取り事件があり、他の事務所ではうまく進展していなかったが、事務所に相談があり私自身、懸命に証拠を調べて提案し、解決に導いた。
     倒産事案の取り扱いは、以前に比べると減っている。昔みたいに民事再生や会社更生事件がたくさんあるという時代ではない。中小企業等金融円滑化法などもあり、金融機関に助けられている企業は多い。なので、それでもダメになった企業はもう破産しかない。当事務所はそれでも立ち直る機会がないのか、工夫してサポートしている。
     最近、20年ぐらい前に一時倒産の危機に陥った社長に話を聞いた。その社長はオーナー一族からすると異端児のような扱いで、まさか自分が社長をやるとは思っていなかった。だが、たった3年で負債70数億円を圧縮し、「いい会社」にした。その社長は、「どうやったら事業を改善できるか、どうしたら従業員の心が1つにまとまるのか、寝ても覚めても経営について考えている」と話されていた。諦めないで考え続けることも大切だ。

    ―在境港カンボジア王国名誉領事館(鳥取県)の名誉領事に就任したと聞く

     (鳥取県)境港市との接点は、30年ほど前だ。ある倒産事件を通じて、顧問先になった会社が境港市にあった。社長はある会社にゴルフ場の会員権を担保に融資していた。ところが、融資から1週間後にその会社が会社更生法の適用を申請した。社長から相談を受け、当時は血気盛んだったこともあり、申し立てされたその日にすぐその会社に乗り込んだ。
     その後、(倒産)会社の説明会では倒産法で著名な先生が壇上におられた。債権者の質問の時間となり、私が真っ先に手を挙げて「こんなことが許されていいんですか?会社更生ではなく、即刻破産にすべきだ」などと捲し立てたが、会場の誰も拍手しなかった。
     一方、会社側の申請代理人が当該会社の再建を呼びかけるとものすごい拍手だった。ここで負けてはいけないと思って、もう一回、質問しようとしたら、裁判官から「2度目はご遠慮いただきたい」と発言を止められ、申請代理人からも「後で個別に連絡ください」と言われた。その後もやり取りが続き、3~4週間が経過しても回答が得られなかったので、しびれを切らし、大先輩の著名な先生に「いつまで待てばいいんですか?誤魔化そうとしているんじゃないでしょうね」と連絡したところ、すごく怒られて電話もできない状況になった。
     「大変、失礼なことを申し上げて申し訳ありません」とファックスしたら、電話があり「もう少し待ってくれと言っているのだから、私を信用してもう少し待ちなさい」となった。
     それからしばらくして、電話がかかってきて「今から言うことは無用に口外しないでほしい。満額ではないが大半を返済する。それで我慢してくれ」となった。今から考えると担保権への弁済というか、担保的構成をもって何らかの形で裁判所を説得されたのだと思う。大半が戻ってきたので、その社長が大変喜んで境港に呼ばれるようになった。そんな付き合いが今でも続いている。
     カンボジアとの接点は、WHY HOW DO社の経営状況が厳しいなか、新たに中核になるような事業を立ち上げようと思った。WHY HOW DO社は携帯キャリアから携帯電話のデモ端末を初期化する仕事を任されているが、カンボジアでデータセンターを作る話が持ち上がった。コロナ前にカンボジア政府と話を進めていたがコロナ禍で行けなくなり、話が頓挫してしまった。ただ、カンボジア政府の方がこのまま関係がなくなってしまうのは残念だ、ということで名誉領事になりませんかという話が来た。東京には大使館があり、大阪にも先輩の名誉領事がいらっしゃるので鳥取に領事館を設置し、名誉領事に就くことになった。

    ―地方企業を活性化させる方策は

     私は、東京、大阪、鳥取を行き来しているが、週末に自然豊かな鳥取に行くと、心が豊かになる。そこで新たな活力を得て、また大都市圏に戻り、活躍できる。
     地方も非常に努力しているが大都市圏に産業を取られてしまっているのが実情だ。難しい問題だが、地方に行って、そこで何かできないかと考えてみることが必要ではないか。 
     当社(WHY HOW DO社)でもDX創生として「ふるさと物語」事業というのに取り組んだことはあるのだが、なかなか実を結んでいない。だが、地方にいると人間として落ち着くし、心が豊かになる。だから積極的に都会の人も地方に行ってみる。また、地方の人も都会の人を地元に誘致してみるようなことで、何か接点ができてきて、新しいものが生まれていく可能性はあるのではないかと思っている。
     私は今、経営者の立場でもあるが、企業のリーダーである以上、人間性を高めて、人間に対する理解を深める必要がある。だからこそ、物事を広い目で見て、多少精神にも余裕がないといけないし、そういう意味でも地方と関わり合いを続けることが必要だ。
     ふるさと納税をしているのであれば、納税している先に行ってみるとか、そういうことも必要だろう。自分が持っている接点を思い描き、自分と関係ある先に一度出かけてみると、違う見方ができる。


    田邊弁護士(右)と事務所所属の岡山大輔弁護士

    田邊弁護士(右)と事務所所属の岡山大輔弁護士



     インタビューの最後に「弁護士と経営者、どれぐらいのウェイトをかけているのですか」と尋ねてみた。「一時はWHY HOW DO社の経営にかなり注力していた時期もあったが、今は弁護士業務にも真剣に取り組んでいる。現状は五分五分」と語った。
     岡山大輔弁護士は、「最近は破産管財事件に取り組んでいるほか、事業再生実務家協会への加入が認められた」と語る。
     田邊弁護士は、これまでに身に付けた弁護士業務にとどまらず、企業経営のノウハウを事務所に所属する若手弁護士に引き継ぐことに尽力している。本当の経営の苦しみを知る弁護士は少ない。田邊弁護士が培ってきた経験は着実に次代につながっている。


    (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年7月11日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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