アダルトチルドレン、ADHDに苦しんだ自分を受け入れて―― “心の解放”をテーマに活動する造形作家・澤奈緒さん「みんなもっとアホになろうよ」
「心の解放」をテーマに創作活動をしている女性がいる。造形作家の澤奈緒さんだ。彼女が手掛ける作品は、エネルギッシュで、少しバカバカしくて、とにかく楽しい。
だが、このような作品を創るようになったのは、ここ数年のこと。それ以前の40年間を「生きているのがつらかった」と澤さんは振り返る。そんな彼女はどうやって、今の活動にたどり着いたのだろう。
「アートそのものではなく、アートを通じて皆を元気にしたい」
暗闇から脱して生まれたミッション
私は「心の解放」をテーマに創作活動をしています。今年で42歳になるんですけど、これまで40年近く、生きているのがずっとつらかったんです。
最近まで母との関係が悪くて、ずっと自己肯定感がマイナスの状態。「皆どうして幸せに生きていられるんだろう」って思っていたし、以前は自殺衝動もありました。ずっと暗闇にいるような感じだったんです。
そんな暗黒期からフッと抜け出せたのが、2年くらい前のことです。たぶん、専門家によるカウンセリングなどを受けたりする中で、少しずつ冷静に、客観的に自分を見られるようになったんだと思います。
私はアダルトチルドレン(子どものころの家族関係が原因で、精神的に不安定な状況のまま大人になった人のこと)なんですけど、母も母でつらかったんだなっていうのが段々分かってきて。
あるカウンセラーの方には「アダルトチルドレンであることを受け入れて乗り越えればいい」とも言われました。ずっと陰と陽の「陰」の部分をなくそうとしていたし、今まで自分がやることは全部ダメだと思っていたけれど、その言葉をきっかけに、もうちょっと自分を愛してあげようかなって思えるようになれました。いろんなことがうまく積み重なって、つらい状況から徐々に抜けられたんです。
そうなった今、アダルトチルドレンのサバイバーとして伝えられることがあるんじゃないか。
そんな思いからブログを始めたら、2018年の1月に株式会社ウィズグループ代表の奥田浩美さんがメッセージをくださって。そのご縁で女性のグローバルリーダーシップを育てる合宿に参加しました。
合宿中は徹底的に心のブロックを取り外されて、「あなたのミッションは何ですか?」とたくさん問い掛けられました。
それまでは造形作家として、「アート界の頂点に立たなければ」、みたいなプレッシャーがすごくあったんです。でも、合宿に参加して、とことん自分の本心と向き合ったら、「私は別にアートがやりたいわけじゃないんだ」って気が付きました。
アートを通じて皆を元気にできたら自分も嬉しくて、元気になれる。そっちに「残りの人生を使いたい」とはっきり分かったことが、今の活動につながっています。
他人軸で生きていた頃は、「答えはあなたの中にある」の意味が分からなかった
今振り返れば、苦しんでいた当時は他人軸で生きていたんです。何がしたいのか、どう生きていくか、その答えは「あなたの中にある」ってよく言いますけど、以前の私にはさっぱり意味が分からなかったんです。
調べてみると、親の機嫌を取ることを考え続けてきたアダルトチルドレンは、外に感覚を広げてしまっているそうなんですね。自分の心に「どうしたいの」って聞くことがないから、自分の価値基準がないまま育ってしまう。
だからこそ、五感を使って、意識を内に向けることが大切だと思っています。今は少し調べれば大抵のことが分かるけれど、自分のことは自分の内側に意識を向けなければ分かりませんから。
そのために始めたのが、アートワークショップです。私はアートを通じて、人の感情の詰まりを取り除いて、気持ちを素直に出してもらえるようにしたいんです。“綺麗な絵”や“上手な作品”を創るのもいいけれど、自分の気持ちをそのまま出して形にするということがまずは何よりも大切なんですよ。
だから最低限の技術だけを教えて、後はみんなに思うように創ってもらう。ちゃんと創ろうとすると周りが気になってしまいますから、「絶対にうまく創ろうとしないでください」っていうことだけは必ず言っています。
自分の心の声を聞いて、そのまま流れに任せて創ってねって。「そのままの自分」を出してほしいんです。
例えばこの間は、3日後に取り壊される建物で1時間のワークショップをやりました。まず「建物の気持ちを感じてみましょう」と、2分間床に寝転がってもらう。
ある人は「時計の音を聞いて、時間が進むごとに寿命が減っていくのが切ないと思った。だから時間の螺旋を身にまとえるような物を創りたい」と言い、別の人は「今までこの建物に通った人たちの声が聞こえたから、その声を表現したい」と言う。
「その思いを形にしてみましょう」と創作を始めたら、30分間ほとんど何も喋らずに皆さん没頭して、それぞれが全く似てない斬新な作品ができたんですよ。
その建物では毎日いろんなワークショップが行われていて、建物には別れの言葉を書く場所があったんですけど、ほとんどの人は「さようなら」とか「ありがとう」とか書いていたんですね。
そんな中、私のワークショップ参加者は漫画を描いたりでっかい字を書いたり、ノールールになってたんです。ちょっとしたきっかけがあれば“心の解放”はできるんだなって実感しました。
ワークショップの他にやっている「アート仮装」も同じように、心が開放されるんですよ。頭にガネーシャや鳩のオブジェを被れば、悩んでることがバカバカしくなって、どうでもよくなるでしょ(笑)?
最近は、『国際幸福芸術際』(2019年3月17日開催)でアート仮装の新作を発表するためにクラウドファンディングを行ったんですが、なんと、435%で目標を達成。皆さんの期待も感じられましたし、「みんなでアホになろうよ」っていう活動は今後も引き続きやっていきたいなと思います。
「それでいいんだよ」苦しんでいる人の存在を肯定することが、私のこれからの使命
アダルトチルドレンではなくても、自己肯定感が低い女性はたくさんいますよね。私はADHD(不注意、多動性、衝動性の3つの要素が見られる発達障害の一つ)なんですけど、ビジネスの世界ではその性質が全部裏目に出てしまって、本当に何もできない人間でした。その当時は、自分のことを毎日「ダメな奴だ」と責めていました。
でも今思えば、そこで会社に適合できなかったからこそ、その周辺を掘って、今の活動にたどり着くことができた。そういう自分を受け入れるのも、自分の居場所を見つけるのも、すごく大変だけど、なんとかなるんですよ。
ADHDでできないことが多い分、周りの人が助けてくれるし、ADHDだからできることもある。負い目なんか持たなくていい。そんなことがやっと最近分かってきました。
最近はアダルトチルドレンやADHDのことをどんどんオープンにした方が、逆に生きやすくなるような気がしています。そういう意味では怖いものがなくなった。オープンにしたからといって周りの目は変わらないし、自分が楽になったらそれで全然いいじゃないって思います。
そう考えるようになったら、不思議なもので仲間がどんどん増えてきたんですよ。自分にアンテナを向けたら、人生はすごくシンプルになりました。人生後半戦にして、やっと生きるのが楽しくなった。
私が過去の自分に一番言いたいのは、「死ぬな」っていうこと。亡くなってしまった人と私、髪の毛一本ぐらいの差だったなと思うんです。いろんなきっかけがあって救われたり、死ぬのが怖いからもうちょっと生きてみようと思ったり、そうやって私はここまで生きてきました。どうにか思いとどまって生きていれば、いつか暗闇から抜けられます。私でもできたんだから、みんなも大丈夫。
自分自身の大切なものを嫌ってしまっている人はたくさんいますよね。でも、「それすごく素敵ですよ」って一言声を掛けることで、フッと力が抜ける瞬間をこれまで見てきました。私はこれから先、以前の自分と同じように苦しんでいる人に、当時の自分が欲しかった言葉をあげたい。存在を肯定して、「それでいいんだよ」って言ってあげたい。それがこれからの私のミッションであり、使命だと思っています。
取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明 画像提供/澤奈緒さん