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取調べで使われる卑劣な手口と対処法 - 弁護士が暴露する黙秘権行使の真実

最近、黙秘に関する私のいくつかのポストが、(私のアカウントにしては)広い関心を集めました。

今年に入ってから、私自身が代理人を務めているものも含め、次々と捜査機関の取調べ内容が世間に向けて公開されています。そこでわかるように、捜査機関は黙秘をしている被疑者に対し、あの手この手で口を割らせようと働きかけてきます。今回は、そんな捜査機関のやり口と、それに対する弁護士の対応についてお話ししたいと思います。

黙秘をしても取調べは続く

まず、押さえておくべき重要な点は、被疑者が黙秘権を行使しても、取調べは継続されるということです。短くても2、3時間もの間、黙秘をして一言も発しない被疑者に対して、警察官や検察官は一方的に話し続けるのです。これにより、被疑者が抵抗する気持ちを失っていってしまうのです。

捜査機関のよくあるやり口

1. 黙秘をしていることが間違いだと思わせる

捜査機関がよく使う手口の一つは、黙秘することが被疑者にとって不利だと思わせることです。例えば、次のような言葉を投げかけてきます。
「これだけ証拠が集まっているのになんで黙秘するんだ。無駄だぞ。」
「黙秘をすると刑罰が重くなる。不利になる。それでもいいのか。」
しかし、これらの発言は法的根拠のないものです。黙秘権は憲法で保障された権利であり、それを行使することで不利益を被ることはありません。

2. 不安にさせる

捜査機関は、被疑者を不安にさせることで黙秘を諦めさせようとします。よく使われるやり口にはこのようなものです。
「黙秘をしていると身体拘束が長引く。保釈も認められずずっと警察署で生活することになる。」
「黙秘していると家族と会えない期間がどんどん長くなるぞ。」
「家族は黙秘してほしいとは言っていなかったぞ。」
特に悪質なのは、家族を持ち出すやり口です。
「子供にはいつも正直に話せとか言っているんじゃないのか。その自分がいざとなったら黙秘するのか。家族に会えるようになった時、そんな手で子供を抱きしめるつもりか。」
というような言葉で、被疑者の心を揺さぶろうとします。
これらの発言は、被疑者の心理的な弱点を突こうとする非常に卑劣な手法です。特に、接見禁止により家族との面会が許されていない状況下では、このような言葉が被疑者に与える影響は計り知れません。

3. 人格否定、怒鳴る

「お前みたいなやつが黙秘するなんてあり得ない。」といった人格否定や、大声で怒鳴るなどの威圧的な態度も、まだまだ日常的に行われています。ドラマでよく見るような胸ぐらを掴んだり、椅子を蹴ったりという極端な行為は減ってきているものの、声を張り上げるなどの心理的圧力はいまだに存在します。

4. 弁護士との分断を図る

被疑者が黙秘を貫く大きな理由の一つに、それを助言した弁護士への信頼があります。捜査機関はこの信頼関係を破壊しようと、様々な策を講じてきます。
まず、弁護士の経験や能力を疑わせる方法です。最近はないですが、私も弁護士なりたての頃にはよく言われていました。
「お前の弁護士若いけど大丈夫?」「まだ弁護士なったばっかりじゃないの」
次に、金銭的な動機を疑わせる、弁護士の責任逃れを示唆するようなやり口です。
「お前の弁護士は黙秘させて事件を長引かせることで、報酬を多く取ろうとしているんだ。」
「黙秘をして起訴されても、弁護士は責任を取ってくれないぞ。」
これらの発言は、すべて根拠のないものです。国選弁護人の報酬体系は公表されていますし、私選弁護人の場合も、そのような不適切な契約をする弁護士は私の知る限り存在しません(報酬を上げるために意図的に事件を長引かせようとする弁護士がいるのなら、直ちに解任して弁護士を変えましょう)。
弁護士の分断のやり口の一つが、冒頭の私のポストです。
「弁護士事務所のホームページに、黙秘をしているとこれだけデメリットがあると書いてあったぞ。」と言ってそのページをプリントアウトしたものを見せてくるのです。
黙秘権を行使したときに、取調べが苛烈になるなどの不利益があることは事実です(捜査機関自身が生んでいる事態ですが)。それを説明している箇所「だけを切り取って」このように言っているのかもしれません。そうであれば、被疑者を騙しているとさえ言えると思います。

「きちんとした」弁護士の対応

これらの捜査機関の手口は、弁護士間でも広く共有されています。私自身、講師を務める研修で、いくつかの手口については必ず説明をしています。これらの知識を持たない弁護士は、即座に変更を検討すべきでしょう。
私たち弁護士は、あらかじめ被疑者にこれらの手口について説明しておきます。「警察官はこのようなことを言ってきます。すべて間違いです。あなたを不安にさせて、供述をさせようとしてきているだけです。」と説明することで、被疑者が心理的な攻撃を受けても動揺しにくくなります。
しかし、私が最も重要だと考えているのは、「黙秘がベストの対応なのだと、被疑者自身に心の底から納得してもらえるかどうか」です。上記のようなことを言われても、黙秘に絶対の自信が持てているのであれば、簡単には崩れません。ここが個々の弁護士の腕の見せどころだと思います。

まとめ

捜査機関による違法な取調べ手法は、残念ながら現在も続いています。しかし、これらの手口を熟知し、的確に対応できる弁護士であれば、被疑者の権利を守り抜くことができます。弁護士は、取調べの現場で実際に使われる言葉や戦術を熟知しているからこそ、事前に的確な準備ができ、被疑者の方を不安から守ることができるのです。刑事事件に直面したとき、あなたには信頼できる味方が必要です。

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コメント

賃貸亭のーぷらん
警察が機器を用意できないとか言ってるなら、被告がicレコーダー等を持ち込みできるようにして欲しいな。
警察が導入を渋るほど自分で悪さをしてるって自白してるようなものだから
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刑事弁護人の髙野傑です。早稲田リーガルコモンズ法律事務所パートナー弁護士です。 刑事事件について、わかりやすくお話しします。 メール:takano.s@legalcommons.jp Twitter:https://twitter.com/su_takano
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