「幻影」を追い続けたマリノス キューウェル監督解任で迫られる変化

岩佐友

 16日午前、神奈川県横須賀市にあるサッカーJ1横浜F・マリノスの練習場に、ハリー・キューウェル氏の姿はなかった。

 前日に中山昭宏社長が監督解任を告げたからだ。選手には16日朝にその事実が伝えられた。

 今季就任したばかりのキューウェル監督をクラブが解任した最大の理由は、成績の低迷だ。

 2季ぶりの優勝を目標に掲げたリーグ戦では8勝5分け10敗。12位にとどまっている。14日の鹿島アントラーズ戦に勝利するまでは、16年ぶりの4連敗を喫していた。

 ただ、鹿島戦の前にすでに解任は決まっていた。試合内容も物足りなかったからだ。

 中山社長がキューウェル監督の就任時に求めていたことは三つあった。

 ①攻撃的な「アタッキングフットボール」を理解し、継承すること

 ②エッセンスを加え、より深化させること

 ③結果を出し、常勝軍団になること

 しかし、いずれも「期待していたことには、少しずつ届いていなかった」と言う。

 現役時代にオーストラリア代表として活躍したキューウェル氏は、選手の士気を上げるモチベーターとしての才覚があった。

 自身がイングランドの名門リバプールで欧州チャンピオンズリーグを優勝した経験を踏まえ、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に臨む選手たちには「歴史に名を刻もう」と呼びかけた。初のACL決勝に導いたのは、まぎれもない功績だ。

低迷の責任はキューウェル監督1人が負うべきものではありません。監督の選考方法や強化の体制について、クラブも変化を迫られています。

 一方で、チームの苦境では、効果的な策を打てなかった。

 今季は中盤の底に位置するボランチのポジションを2人から1人にし、より攻撃的なスタイルに挑戦した。ボランチを減らせば、必然的にその両脇にスペースが生まれる。リーグ戦ではそこを突かれる場面が多かったが、対応できなかった。

 中山社長は「(戦術を)細かく落とし切れていなかった。スーパースターの彼なら簡単にできることが、選手にはうまく伝わらなかったところもあった」と分析する。

 しかし、低迷の責任を監督だけに負わせるべきではない。

 トップチームでの指導経験が浅いキューウェル氏を招いたのはクラブ。その選考に透けて見えたのが、アンジェ・ポステコグルー氏(現トットナム監督)の「幻影」だ。

 2018年に就任して、19年にJ1を制覇。守備的だったスタイルを超攻撃的に変え、結果も出した。

 その監督が退任した後に指揮を執ったケビン・マスカット氏、そしてキューウェル氏は、いずれもポステコグルー氏の下でコーチ経験のあるオーストラリア人。路線を継承するために、過去の実績が乏しくても、ポステコグルー氏の影響を受けた人物を選定してきたと言える。

 これから暫定的に指揮を執るヘッドコーチ(HC)のジョン・ハッチンソン氏も同じくオーストラリア人で、過去にポステコグルー監督の下でコーチを務めている。ただ、中山社長は今後、「オーストラリア人にこだわる必要はない」と明言した。

 後任については、世界各地でクラブ経営を展開し、横浜マが提携している「シティ・フットボール・グループ(CFG)」と密に連絡を取り合っているという。中山社長は「彼らが候補を選定するタイミングを見つつ、ジョン(ハッチンソンHCを正式な監督にするか)と合わせての検討になる」。Jリーグで結果を残していた近年は、強化へのCFGの関与が小さくなっていたが、今後は再び連携を深めることになりそうだ。

 さらに、クラブ内の体制の見直しも迫られている。

 現在は中山社長が強化の責任者も兼任している。「経営」と「強化」の両方を1人で進めている点に限界があるのではと指摘されると、「課題は認識している。手を打とうと決めている」と答えた。

 浦和レッズのテクニカルダイレクターを今季途中で退任した西野努氏を、新たに強化担当者として招くプランが有力だ。

 近年のJ1を引っ張ってきた名門の苦境。監督交代とともにクラブは大きな転換を迫られている。(岩佐友)

「朝日新聞デジタルを試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
岩佐友
スポーツ部|サッカー担当

サッカー、フィギュアスケート