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ケア・アート・建築が融合する「ケアとまちづくり未来会議」ー開催レポート

 東京から電車で5時間、大阪からも2時間半。最も近い都会は車で1時間半の鳥取という片田舎の地方都市「豊岡市」。僕が働いている街であり、僕が住んでいる街。この人口8万人の小さな街に、医療者・建築家・アート関係者が全国から100人も集まるイベントを先日、開催した。その名も「ケアとまちづくり未来会議」。この「ケアとまちづくり、ときどきアート」マガジンもこのイベントを目指して始めたものです。僕が実行委員長をしていたのですが、研修医しながらの準備はかなり死にそうでした笑

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(ケアまち会議の当日パンフレット)

ケアまち会議の目的とは

 ケアまち会議は、文字通り、ケアとまちづくりをする人たちのための集まり。近年、病院の中に留まっているだけでは、入院中の患者さんだけしかみることができないという課題意識から、街へ出ていく医療者が増えています。2011年に団地の1階に気軽に医療や福祉の相談ができる「暮らしの保健室」ができ、全国に広がっている。また医師と住民と違ったコミュニケーションの形を模索した「モバイル屋台de健康カフェ」を始める医療者がいたり、いつも地域にいて、地域住民とともに、健康的なまちづくりを行っていくコミュニティナースを導入する自治体が増えたり。街へ出ていくことで、予防活動ができたり、地域コミュニティを醸成したり、その人らしい生活を送る手助けをしたりすることができる。それがひいては、支える支えられるという関係性を超えて、住民同士がつながり、一人一人が生きがいを持てる地域共生社会につながっていくのだ。

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(病院の中だけで住民とコミュニケーションをとるには限界がある)

 そして、そのような活動を支援する非医療者も数多く現れている。建築家が地域と医療者がコミュニケーションを取れる建物を作る手助けをしてくれたり、まちづくりをする行政職員が高齢者も歩いて暮らせるまちづくりをしたり、アートを使って高齢者でも自己表現できるようにアートディレクターがプログラムを作ってくれたり。そういう非医療者も含めて、集まる会は既存の学会やコミュニティにはなかなかない。そこで僕や聡子さんを含めた日本プライマリケア連合学会の若手医療者達とそれを支える建築・アート関係者、10名程度で実行委員会を作って、ケアまち会議をやることにしたのだ。実行委員の住んでいる街のうち、僕がいる「豊岡市」が最近、アートで話題になっていて、面白そうだ。よし、豊岡でやろう!となったのが、1年以上前の話。。。そこからの準備がどれだけ大変だったかは想像に、、、

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(全国各地から参加者が集まる当日会場受付の様子)

多様な人が集まったケアまち会議当日

 さて、当日の話。会場となった豊岡市役所の稽古堂には、100人近い人たちが集まりました。会場の前にはちょこっとYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェin豊岡)を。医療、建築、アート、行政、都市計画など、様々な専門職が集まった結果、会場は多様になりました。ALSの人でも遠方から接客や会議の参加ができる分身ロボット「OriHime」を持って参加する人、自身が地域で実践する地域での介護予防体操のグッズを持って参加する人など、栃木や対馬など遠方から参加する人も多く、多くの人が待ち望んでいたテーマなのだなとひしひし感じた。

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(分身ロボット Orihime)

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(参加者には、医療、演劇、豊岡、本といった関心のあるキーワードのシールを名札に貼ってもらった)

 会場には、ちょっとした仕掛けとして、「本の処方箋企画」を会場に展示した。近年、薬剤や手術だけではなく、コミュニティやアートといったものでも人は癒されると言われている。であれば、本が勇気をくれたり、癒してくれてもいいのではないかと思い、参加者の方に、オススメの1冊と処方箋を書いてきてもらったのだ。

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(本の処方箋の様子 終了後は豊岡市街地に展示される)


演劇から学ぶコミュニケーションとは

 基調講演は、劇作家の平田オリザさんにお願いした。多くの大学で教鞭をとられ、書籍も多く執筆されており、演劇好きじゃない人も知っている人も多いと思う。平田オリザさんと主宰されている「青年団」は、豊岡市に移住することが決まっている。都会は消費の場、地方こそ創作活動の場と言って、地方に移り住んで来られるのです。城崎国際アートセンターというアーティストインレジデンス(芸術家が泊まって創作活動をする場)の芸術監督を務めつつ、豊岡の小中高等学校で、コミュニケーション教育を教えながら、再来年に開設される演劇と観光の県立大学の学長候補もするそうだ。それがアートの街を目指している所以だ。

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(講演する平田オリザ先生)

 講演で平田オリザさんは、最初にこんな質問を投げかけた。「電車で隣の人に話しかけるときはどんなときだろう?」という質問をした。なにかを探しているとき、物を落としたとき、ふと目があったとき、色んな理由があると思う。ただ日本人は「旅行ですか?」と声をかけることが難しく、思いと行動にズレが生じてしまうという。これを「コンテクストのズレ」というらしく、この思いと行動のズレを短期間で解消するものが演劇だという。医療者の想いが患者に届かなかったり、患者もまた医療者に本音を言えなかったり。まさにコンテクストのズレだろう。実際に、糖尿病患者と医師の立場を入れ替えて演劇する「糖尿病劇場」というものも行われていたり、医療者のための演劇やアート活動がこれからもっと重要になってくると思う。演じることで、医師と患者の間のコンテクストのズレを自覚し、よりよい対話のきっかけになるはずだ。またケアとまちづくりの文脈においても同様だろう。病院の中では、どうしても患者の想いを行動に表しにくい。どうしても診察室という閉鎖空間の中での医師と患者という権威勾配が患者に本音をしゃべらせない。どうやったら話しかけてもらえるか。場所のセッティングを変えたり、空間演出を変えたり、医師がよりかかわりやすくしたり、そういうしゃべられる側のコミュニケーションの工夫こそ、ケアとまちづくりだろう。

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(平田オリザ先生の講演のグラフィックレコード)

豊岡の街をふんだんに楽しむセッション

 お昼はまちのおにぎり屋さんにお願いして、2つ、おにぎりを食べながら、ランチョンで次のセッションへ。

その後、ケアと建築、ケアとアート、ケアとコミュニティの3つのセッションに分かれた。建築、アート、コミュニティの視点からケアとの関わりを考えるダイアローグセッション。暮らしの保健室などを運営するプラスケアの西智弘先生、駅ナカに多世代が集まるスペースを作ったシンクハピネスの糟谷さん、くちビルディング選手権のGNC吉永恵里さん、リガレッセの大槻さん、U設計室の建築家 大垣優太さん、まちづくりコーディネーターの佐伯亮太さん、ほっちのロッヂの藤岡聡子さん、老いと演劇の菅原直樹さん、城崎国際アートセンターのプログラムディレクターの吉田雄一郎さんら、著名な方々に登壇いただいた。僕との関係性とイベントの意義を考えて、ほぼ善意で来ていただいた。本当に感謝しかない。お越しいただいた僕も体が3つに分かれればなぁと思いながら、それぞれのセッションを盗み聞きしました。地域住民の孤独の解消としてコミュニティを作る、関わる、醸成する。そのために医療者ができることはなんなのか。健康に暮らすに心地いい建築、まちづくりとはなにか。高齢者がアートで暮らしを彩ることができるのか。そう言ったテーマについて、登壇者の方々と参加者で対話が行われました。

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(ケアと建築の様子)

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(ケアとアートの様子)

 さらにその後は、豊岡の市街地に出て、バー付きの映画館 豊岡劇場やアーティストのギャラリー &gallery、古民家のシェアスペース コトブキ荘、医療者が営む移動式屋台カフェ YATAI CAFE、市民が交流する図書館 豊岡市立図書館に分かれて、その場と地域との関わりについて聞いた。そして、地域との関わりを考えている人たちと、この場をどう使えば、より地域に良い影響を与えられるのか対話しながら、考えるワークを行った。

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(映画館である豊岡劇場 一度潰れたところから再生し、コミュニティの形成にも貢献している映画館)

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(彫刻家のギャラリー&gallery もともとは小児科のクリニックだったところをリノベーションしている)

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(YATAI CAFEの様子 参加者も豊岡の住民にコーヒーを振る舞った)

さらに、活動報告セッションでは、ポスター発表を参加者にしてもらった。全国各地から、暮らしの保健室、健康増進活動、ヘルスプロモーション、建築、アートなど様々な活動が紹介された。

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(活動報告の様子)

夜は城崎温泉街で懇親会を行った。グビガブさんで、ビールを飲んで、夜の温泉街で温泉に浸かるなど、参加者は思い思いに過ごしていた。

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(懇親会での集合写真)

翌日の朝活で銭湯とケアと関わりを考えたり、地域活動の悩み共有セッションを行った。銭湯という文化的な場所、ソーシャルキャピタルとケアをどうつなげていくのかは面白いテーマだ。そして、豊岡市街地のまち歩きツアーと城崎国際アートセンターの見学も行った。最後にクロージングと、セッションが目白押しだった。

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(豊岡まちなかまち歩きツアーの様子)

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(早朝の悩み共有セッションはブックカフェで行った)


ケアまち会議が行われた意義

 医療、アート、建築、まちづくりなど、様々なバックグラウンドを持つ人たちが集まり、ケアとまちづくりを考えた2日間。アンケート結果では、新しい地域活動の着想になったり、ケアまちに参加してくれた人同士が新しいプロジェクトを始めたり、参加した人たちにいい変化が生まれた。開催地の豊岡を魅力的な街に感じて、演劇祭へ参加してくれたり、移住したいという人も出てきたりと、地域に良い影響が生まれてきている。医療者の移住にも今後繋がっていくのではないかと期待される。

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(若手の医師、コミュニティナース、建築家、デザイナーら、スタッフ集合写真)

 様々な感想が寄せられたので、ツイッターで寄せられた感想の一部を紹介したい。ハッシュタグ「#ケアまち会議」でたくさんのレポートが寄せられています。


 地域で暮らす高齢者が増える中、病院・施設という閉鎖空間の中でできることは少ないのではないか。そういう時代だからこそ、僕ら医療者が一歩に外に出て、様々な専門職と新たな切り口で、住民や患者さんに対して貢献できることがあるのではないだろうか。そういう想いを持った人たちがどんなに田舎でも100人集まるんだってことが明るい未来ではなかろうか。来年、再来年、私の街で「ケアまち会議」をやってほしいという地域があれば、ぜひお声掛けください。

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(会場前に置かれたYATAI CAFE)

聡子's eye
全然著名なんかじゃないのに名を連ねてもらい恐縮ながら、ケアとアートのセッションに登壇させてもらった時のこともチラリ紹介。5分間話をさせてもらい、聞き手の輪に登壇者が入り、気になったキーワードについて語り合う。「そうそう、私の長年の違和感が、(聡子の)話で一気にクリアになってきて嬉しい」「私は行政職員なんですが、そうなんです、縦割り・・・なんだか変ですよね、うん。」各々赤裸々な語りが始まるこの時間の豊かなこと!アクセスが決していいとは言えないこの豊岡の地に、今までたっぷり溜めてきた違和感を余す事なくそれぞれが言葉にし、得たい気づきを得ていく・・・、しかもそれが、所属や肩書きを外れて自由になっていく感じ。そうそう、こういう雰囲気の中で、創造性は育まれていくんだよ・・と小さく鳥肌が立ったのでした。またどこかの町で開催したいな!その時も、ぜひぜひ呼んでください。とんでいきます。

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医師。暮らしの動線上にケアを置くことをテーマに仕事してます。一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事。兵庫県豊岡市で移動式屋台カフェやシェア型図書館を運営している。共著にケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)、社会的処方(学芸出版社)など。ご連絡は各種SNSのDMへ。
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