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病院の建築的「余白」を考える

「先生、新患来るから、救急外来集合で!」

「〇〇さん、検査らしいから、よかったら、見に行ってみて」

「先生、出張申請に、管理課まで来てください」

 研修医はよく呼ばれる。PHSで呼び出されて、病院の隅から隅までいくことが多い。研修医は、1−3ヶ月ごとに救急科、小児科、麻酔科といった具合に診療科が変わるので、それぞれ病棟の場所が違うし、救急外来も行くし、患者さんを連れて検査に行くためにそれぞれの検査室に行ったり、カンファレンスで会議室を使ったりもする。時には行ったことのない場所があったりすると、病院にはこんな場所もあったんだと驚くことも少なくない。様々な部署に関わる研修医は、もしかすると病院の構造を一番知っている人なのかもしれない。

 僕が働く病院は、以前は街中にあった病院が、台風による浸水等の影響があり、10年ほど前に高台に新築移転された。なかはまだまだ新しく、とても温もりある色調の壁や広い玄関を見ながら研修している。とても大きな総合病院だから、郵便局があったり、ATMがあったり、食堂があったりとなにかと便利だ。大きい病院なので、迷子になることもチラホラあったが、ようやく広い病院にも慣れてきた。綺麗な病院を見るたびに、ボロボロの手入れの行き届いていない病院で研修するのと、新しい病院で研修するのでは日々の幸せ度合いもかなり変わってくるなぁとしみじみ感じている。

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 ただ一点、病院の中を歩いていると、「うーん、もっとこうすればよかったのに」と残念に思うところがある。それは、、、

「余白」の少なさ。

 受付、待合室、診察室、手術室、病棟、救急外来、検査室。病院の中に何か役割のある場所しか存在しない。つまり、患者が病院に入って出て行くまで、すべて目的を持って行くところしかない。それは、診察が始まる前、診察が終わった後、家族がお見舞いに来た後、どこかで休もうかなと思っても、ふっと一息つける場所がないんだ。病院の中に一息つける場所ってどう作ればいいんだろうか。

 僕は高校時代、受験期に近所の病院の屋上にある図書室でよく勉強していた。高校の図書室が17時に閉まった後は、病院の図書館が丁度良い勉強スペースだったのだ。図書館にあるのは、本と机が3個、椅子が12個だけ。とてもこじんまりとしていた。図書室には、病気の本だけだはなく、サスペンス小説だったり、青春漫画だったり、漫画だったり、いろんな本があった。ゆっくり本を読んだり、想いにふけるように窓の外を見ていたり、友人と話したり。患者や家族がそれぞれの使い方をデザインしていた。病院の中に「余白」のある場所があることで、緊張感のある病院という場所で、目的を求められることなく、ゆっくり過ごすことができるのではないか。

 その図書館には小学生もちらほらいた。たくさんの本を目当てか、他に遊ぶところがない田舎だからだったからか。彼らはただゲームをしたり、僕のように勉強をしたり、高いところから街を眺めたり、様々な使い方をしていた。その小学生も患者さんも僕も、ここが病院であるということを意識して使っている人はいませんでした。ただ本があり、机がある。だから遊ぶし、勉強もする。それは検査をするために病院に来たとか、お見舞いのために病院に来たとかそういう理由を求められることがないからかもしれない。くつろげる「余白」がそこにはあった。患者と、その家族だけではなく多くの人が訪れることができる余白のある場所が病院にあることで、病院が街に馴染み、信頼され、愛される理由を作るんだ

 「余白」が、市民向けの図書館でなければならない理由はない。むしろもっといろんな「余白」があっていいと思う。病院の前にベンチを置く。そんなことからも始められる。そこにバスを待つおばあちゃんが座って、お母さんの車を待つ小学生と、話を始めるかもしれない。それが病院という緊張感から二人をふっと一息つかせてくれると思う。

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 見学に行った名古屋にある南生協病院は、そんな「余白」が多い病院だった。「在宅診療所」「歯科クリニック」「メンタルクリニック」「訪問看護ステーション」「ヘルパーステーション」「指定居宅介護支援事業所」「デイケア」「小規模多機能ホーム」などの医療・介護関連の施設が病院の隣にある。それだけではなく、ジムや旅行代理店、おしゃれなカフェが病院とその隣の建物に入っている。子供や子育て中のお母さんも病院に来てもいいように、学生向けの自習室があったり、授乳室やキッズルームがあったりする。朝は、周りに住む住民がラジオ体操をしているらしい。そんな関わりしろの多い病院。余白の多い病院の一例が南生協病院だと思う。

 ベンチ、図書館、カフェ、ギャラリー、公園、旅行代理店、ジム、銭湯。いろんな余白が病院にあると、患者が一息ついて、住民にとってもっと身近な病院になっていくんじゃないのかなと日々妄想が膨らむ。旅行代理店があれば、きっと退院を控えた患者が退院後にどこに旅行に行くか話し合う光景が見れそうだ。ジムがあれば空いた時間に職員も健康になれそう。銭湯があれば、病院嫌いのおじいさんでも銭湯のついでに病院にかかってくれるかもしれない。美しい公園があれば、リハビリで歩く元気が出るかもしれない。

 そんな「余白」の多い病院が増えればきっと医療はもっと身近でいざという時、信頼して医療や介護を受けることができるはずだ。


※この文章は日経メディカルに連載中のコラム「医療」ってなんだっけを加筆修正したものです。

(photo by hiroki yoshitomi

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コメント

サイトウ ヨシブミ
よく多目的スペースってあるけど、無目的スペースこそ必要ですよね。特に病院とか学校とかに。
徒然草に書いてあること思い出しました。うろ覚えですけど、造作は用なき所をつくりたるぞいとをかし...みたいな。
守本 陽一
>サイトウヨシブミさん そう思います。無目的スペースいいですねー!作りたいです。
丹馬
ご活躍のご様子、何よりです。
人生も同じですね。一見無駄に思えることも長い目で見ればけっして無駄ではないのです。無駄を楽しみ、人に楽しんでもらって、それをまた楽しみに生きています。
また、お邪魔しますネ。
りすこ
はじめまして!😊
昨年入院を経験したのですが、余白が全くない病院でした。仕方ないことですが…売店もカフェもなく、一息つけるのは小さなベランダのみ。図書館やカフェ、ゆったりいられるスペースがあったらすごくいいな〜と感じました!!
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医師。暮らしの動線上にケアを置くことをテーマに仕事してます。一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事。兵庫県豊岡市で移動式屋台カフェやシェア型図書館を運営している。共著にケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)、社会的処方(学芸出版社)など。ご連絡は各種SNSのDMへ。
病院の建築的「余白」を考える|守本 陽一
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