魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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入学編、最終回です。投稿早くね?と思うでしょ。俺も思ってる。二日連続で投稿した挙句2日目9000文字あるの何?前書き後書き合わせたら1万文字だぞ?


第九話

ブランシュによる襲撃を切り抜け、一息ついた俺たち一高の生徒たちは、ブランシュの下部組織エガリテのメンバーであった壬生先輩に尋問することに。

そうして明かされた情報は、テロリストたちの真の狙い……それは特別閲覧室に存在する魔法科大学の秘匿資料であった。壬生先輩はエガリテのメンバーとして活動していたが、口車に載せられ騙されていたとのこと。いやまあ精神干渉の痕跡もあったし、口車だけじゃないだろうがな。結局壬生先輩も司波兄妹とエリカによって止められたみたいだが。更には他のメンバーとして剣道部の主将である司甲という男もいたこと、そしてその司甲の兄がブランシュ日本支部の代表であることなどいくつかの情報が発覚した。

 

続いて壬生先輩からの口から明かされたのは、壬生先輩がこの蛮行に走る原因となった一件だった。

曰く()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいが、渡辺先輩によると真相はそうではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったとのこと。そしてその言葉で壬生先輩は全てを思い出したようで、その場で泣き崩れるのだった。

 

「ねぇ、八幡」

 

それを眺めていたところ、エリカがふと聞いてくる。

 

「どうした?」

 

「私はあんまり詳しくないんだけど、こうやって記憶の書き換えとかって洗脳とか催眠で出来るものなの?」

 

「出来る……というか、精神干渉の技術としては初歩の初歩だな」

 

「そうなんだ……」

 

「ああ。勘違いに空耳だとか、人間の記憶ってのは存外不安定な代物だからな。精神干渉で物事の捉え方を変えればその捉えた内容に前提が引っ張られる。()()()()()()()()()()()という前提があれば、言われた内容もそれ相応の内容に自然と修正されてしまう……しかも最悪なことに、それを指摘できる奴も周囲にいない。挙句それを放出することも出来ずに溜め込み続けた、っつーのが今回の一件だろうな」

 

「じゃあ……私の誤解……だったんですか……?なんだ、私、バカみたい……勝手に、先輩のこと誤解して……自分のこと、貶めて……逆恨みで一年間も無駄にして……」

 

「アンタがそう言うなら無駄だったんだろ」

 

俺の言葉が無情にして無常に響く。

 

「比企谷くん……」

 

責めるようなトーンで司波妹が呟く。俺は頭をやや乱暴に掻きながら言葉を続ける。

 

「間違った土台の上に建った物が正しいわけがない。そりゃ道理だ。砂上の楼閣は崩れるのが定め。なら次に出来るのは正しい土台を作り上げることだろう。生憎間違った土台の上に建った間違った城っつー特大の素材は手元にあるんだからよ。そのまま泣いて塞ぎ込んで、本当に無駄にしちまうか……それともさっさと現実を受け入れて正しい形で建て直すか。そりゃアンタの自由だから何も言わねぇが……そこで止まるんなら、本当にアンタはそれだけの人間だったってことになるがな」

 

そう言って、端末を起動して潤さんから送られたブランシュの本拠地についての情報を確認するのだった。

 

 

 

「さて、問題はブランシュの奴らが今、どこにいるのかということですが……」

 

「先日の比企谷君の言い草から思ってたけど……達也君まさか、奴らと一戦交える気なの!?」

 

生徒会長が司波兄の言葉に反応する。

 

「その表現は妥当ではありませんね。叩き潰すんですよ」

 

「危険だ。学生の分を超えている」

 

「私も反対よ。学外の事は警察に任せるべきだわ」

 

返ってきた司波兄の言葉に渡辺先輩と生徒会長が反対する。が、さらに帰ってきた言葉に何も言えなくなってしまう。

 

「そして、壬生先輩を強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

その司波兄の言葉に答えたのは十文字先輩だった。

 

「……なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといってこのまま放置することも出来ない。だがな司波、俺も七草も渡辺も、当校の生徒に命を懸けろとは言えん」

 

先輩のその言葉は最もだ。事実として魔法科高校の卒業生が軍などの戦闘方面に進学・就職することは多いが、あくまで現在は魔法師と言えどもただの高校生でしかない。テロリスト壊滅のために命を張れなど言えるわけが無い。だがその言葉も予期していたのだろうか、司波兄が再び言葉を発する。

 

「当然です。最初から委員会や部活連の力を借りるつもりはありません」

 

「……一人で行くつもりか?」

 

「本来ならそうしたい所なのですが……」

 

「お供します」

 

当然のように名乗り出る司波妹。

 

「私も行くわ」

 

「俺もだ」

 

続いてエリカとレオが参加を表明する。それを見て、周りの人間が戦うことを次々と表明することに耐えられなくなった壬生先輩が司波兄に訴えかける。

 

「司波君、もしも私のためだったらお願いだからやめてちょうだい。私は平気、罰を受けるだけの事はしたんだから。それより、私のせいで司波君達に何かあったら……」

 

「壬生先輩のためではありません」

 

しかし司波兄は先輩の懸念を何の気なしに一蹴した。

 

「自分の生活空間がテロの標的になったんです。俺と深雪の日常を損なおうとする者は全て駆除します。これは俺にとって最優先事項です」

 

うーん、シスコン根性丸出し。いいね。

 

「当然ながら、俺も行かせてもらうぞ」

 

「比企谷君、あなたまで……」

 

「生憎だが、少々イラついてるんでね」

 

「比企谷、その『イラつき』は……この前言っていた、八つ当たりか?」

 

司波兄のその言葉に、俺は言葉を返す。

 

「ああ。俺は別に今回の一件はただ一点を除けばどうでもいい。言い方は最悪だが……お前らがブランシュとの戦争に行こうと言い出してるのも止めはしないし、壬生先輩がブランシュの口車に乗ったのも、ブランシュが何故こんなことをしてるのかも、心底どうでもいい」

 

「では比企谷、お前は何のためにブランシュと戦おうとしている?」

 

十文字先輩からの問いかけに、俺は少し考え込んで……再び口を開いた。

 

「どう説明すれば良いのか……例えとして、推理小説を挙げますね」

 

「推理小説?」

 

「はい。推理小説では、犯人を突き止めるルートってのがありますが……これには大きく分けて3つがあります。"Who done it?(誰がやったのか)"、"How done it?(どうやったのか)"、"Why done it?(何故やったのか)"」

 

「誰が、どうやって、何故……か」

 

「一つ目の誰がやったのか。これはどうでもいい。三つ目の何故やったのか。それもどうでもいい。俺がブランシュと戦う理由は二つ目の、()()()()()()()。ただそれだけです」

 

「どうやったのか……それは、壬生の精神に干渉して」

 

「そう。精神干渉です。これでも精神干渉に関しては一家言ある身なんで、少し前に壬生が接触してきた時にすぐ分かりましたよ。あ、精神干渉喰らってるなって」

 

ま、どんな形で喰らってんのかまでは分からなかったし興味もなかったが。

 

「これは俺の矜恃です。精神干渉を使われたことでも、精神干渉は俺の方が強いということの証明でもない」

 

「ただただ、こんな度し難いほどに情けない出来で人を操った気になっているブランシュの使い手が気に食わない。お前如きが、精神干渉の使い手を名乗るな……そんな魔法師以前の、一人の音使いとしてのプライドですよ」

 

「……そうか。ならば、俺から言うことは無い」

 

そうして話もひと段落着いたところで、再び司波兄が口を開く。

 

「さて、ブランシュの本拠地だが……比企谷」

 

「おう」

 

「そして、あともう一人。知っている人に確認しよう。二重のチェックで確実に行きたい」

 

「それは……()()()()()()()()()?」

 

「ああ」

 

そう言って司波兄は部屋の入口に向かい、扉横のボタンを押す。すると扉が開き、扉の向こうには一人の女性がいた。確か……カウンセラーの小野先生だっけ。

 

「……流石に九重先生秘蔵の弟子から隠れ切るのは出来なかったかぁ。しかも九重先生と関係ない子にもバレちゃったし」

 

「比企谷、よく分かったな」

 

「耳はいいからな。半径40m圏内なら十全に把握出来る」

 

師匠はもっと広い範囲で出来たけど。怖いくらいには。

その後、小野先生が持って来た情報と俺が潤さんから貰った情報を照らし合わせて本拠地の居場所が断定された。

 

「廃工場っすね」

 

「車で突撃するか?」

 

「特攻野郎Aチームじゃん」

 

「車は俺が用意しよう」

 

そう言ったのは十文字先輩だった。その言葉に驚いたのは生徒会長と渡辺先輩。

 

「十文字君も行くの?」

 

「十師族に名を連ねる者として当然の務めだ。だがそれ以上に俺も一高の生徒として、この事態を看過する事は出来ん」

 

十文字先輩の言葉に生徒会長も「じゃあ……」と同行しようとするが、他の2人がすぐさま却下する。

 

「七草、お前はダメだ」

 

「この状況で生徒会長が不在になるのはまずい」

 

その言葉に対して、渡辺先輩に対して言い返す生徒会長。

 

「……だったら摩利、あなたもダメよ?残党がまだ校内に隠れているかもしれないんだから。風紀委員長に抜けられたら困るわ」

 

「……仕方ないか」

 

そうして、ブランシュ襲撃のためのメンバーが決まったのだった。

その後突撃のために十文字先輩が用意した車に向かったところ、何か知らんがこの前の乱闘事件の際の人……桐原先輩がいた。なんか十文字先輩に直訴してメンバーに入れてもらったらしい。

 

 

 

ブランシュ本拠地へと向かう車中にて、ふと気になったのか司波妹が口を開いた。

 

「そういえば、比企谷さん」

 

「ん?」

 

「音使いというのがどういうものなのか、私たちはぼんやりとしか知らないのですが……そもそも、一体どんなものなんですか?」

 

「それは私達も気になってたわね。音で操るっていうのがイマイチわかんないのよ」

 

「そうか……じゃあ本拠地のすぐ側に行くまで、軽い解説でもするか」

 

俺はそう言ってから少し唇を湿らせると、再び口を開く。

 

「そもそも音使いっていうのは大きく分けて二種類に分かれる。一つは音楽が情動に与える影響を利用して相手を支配するもの。そしてもう一つは振動を利用し、音そのものを衝撃波として撃ち出すことで物理的にダメージを与えるものだ」

 

「そうして聞くと、まるっきり正反対ね」

 

「事実正反対だからな。俺や師匠は両方出来てるが、普通は無理だ。そうだな……陸上競技で例えるなら、フルマラソンと短距離のスプリント走を両方極めているようなもの、と言えばどれだけかけ離れているか分かりやすいか」

 

音の使い方が全然違うからなこれ。

 

「後者は分かりやすいだろう。そのまんま、衝撃波を放ってぶっ飛ばしてるだけだからな。問題は前者だ」

 

「相手を支配する音……」

 

「そう。皆、音楽を聴いたら色々な感情が出るだろう?明るい音楽を聴けば気分は弾むし、暗くて陰鬱な曲を聞けば気分は落ち込む。そういう、音が感情に与える影響を応用して相手を支配する……それが、前者としての音使いだ」

 

「聞いてる限りだと、音を聞いてしまえばその時点でアウトな無敵の技術ね」

 

「弱点だってあるぞ?まず大前提として、音を媒体とする以上その音が正しく届かなければ精神には触れられない。だから音を遮断するシステムや、そうでなくても着ぐるみのような音を鈍らせるもので全身をすっぽり覆っていると干渉出来なくなる。それに単純にうるさいからな。隠密性に関しては下の下だ」

 

「後はそうだな、そもそもの精神干渉自体も上手くいった所で完璧って訳じゃないところだな。司波兄妹には胸糞悪い例えになるが……良いか?」

 

「あまりいい気分はしないが……まあ、例えの上なら良いだろう」

 

「私も、一応大丈夫です」

 

「すまんな。んじゃ言うが、ぶっちゃけ司波兄妹ってお互いのこと大好きじゃん」

 

「ぶっ!?」

 

司波妹が噴き出した。

 

「……続けるぞ?だから仮に俺が兄妹のどちらかを支配したとして、『自身の家族を殺せ』と指示した場合。この場合、支配した相手がその指示を心の底から拒絶したら失敗するんだよ。なんなら下手をすれば支配も解ける」

 

「……存外自由じゃないのか」

 

「まあ抜け穴はあるけどな。その行動が『やりたくないこと』と一致してないならある程度自由は効く。虫が死ぬほど嫌いな奴でも、中に虫が入ってると知らないなら虫入りの料理を食わせられるぞ。マジでごめんな、こんな例えして」

 

「いや……お前はそういうことをするつもりはないんだろう?」

 

「ねぇよ」

 

「……ならいい」

 

そうして俺の解説も終わったところで、車を運転している十文字先輩が口を開く。

 

「もうすぐ到着する。司波、作戦はお前に任せる」

 

「はい。……レオは退路の確保を。エリカはレオのアシストと逃げ出そうとしてくる奴の始末を頼む」

 

「捕まえなくていいの?」

 

「構わない。安全確実に始末しろ。続いて、会頭と桐原先輩には裏口の方をお願いします。俺と深雪、比企谷の三人で真正面から攻め込みます」

 

「分かった。任せておけ」

 

そうしてしばらくして、本拠地が見えてきた。門は固く閉ざされているが……

 

「今だ、レオ!」

 

「『装甲(パンツァー)』──────ッ!!!」

 

物質の相対位置を固定させる硬化魔法を施した車であればぶち抜くのは容易い。鋼鉄の門扉が吹き飛ばされ、俺たちは敷地内へと侵入に成功した。

レオとエリカは退路の確保のため車の側に待機し、先輩方は裏口へと回る。そして俺たち三人は、建物内へと踏み込んだ。

 

「──────大体十数人、ってとこか?」

 

「よく分かったな。半径40mじゃなかったのか?」

 

「デフォルトならな。こういう物音の少ない場所だったり、金属張りで音が跳ね返りやすい場所ならもっと広い範囲で聞き取れる」

 

「なるほどな。確かに、都市部は音が多すぎる」

 

そうして俺たちは一時散開、人気のある場所を潰して回ることになった。

俺はしばらく歩き回り、一つだけ妙な音を立てている奴のいる方向へと向かうことに。

その音は心臓と呼吸の音。いや、他にもいくつもあるが……その一つだけはペースが一定だった。

他の音はどれもややペースが早い。恐らく普通の構成員で、魔法師が攻め込んでくるために焦りや緊張を抱いているのだろうということが見て取れる……あ、いや。正確には聞いて取れると言うべきか。

だが、その一つだけは安定したペースの音だった。可能性は大きく分けて二つ。

一つは眠っていたり気絶していたりなどで意識がない状態。

そしてもう一つは、焦りも緊張もない平静な状態。

壬生先輩が精神干渉を受けたタイミングを考えれば、掛けられたと想定出来るのはほぼ確実にブランシュ日本支部のトップである司甲の兄と面通りした時。そう考えると、精神干渉の使い手はまず司甲の兄で間違いないだろう。更に相手が攻め込んできても洗脳で同士討ちさせればよく、上手く行けば相手の戦力を丸々支配下に置ける。そう考えれば、その動じていない音の主も司甲の兄と見ていい。なるほど、ある種の究極の初見殺しであるが故の余裕か。

俺は覚悟を決め、音の主がいる部屋の扉を開いた。

 

「──────待っていたよ、比企谷八幡君」

 

部屋の中には数名の武装した構成員と、椅子に深く腰掛けている随分と偉そうな男。こいつがブランシュ日本支部のトップか。

 

「まず、君に聞きたい。──────我々の仲間になる気はないかな?」

 

勧誘か。ふむ。

 

「一高内に潜んでいた部下から聞いているよ。恵まれた者と恵まれなかった者との区別なく接し、上級生……しかも一科生を複数人相手に圧倒するほどの実力。君がいれば、僕たちは間違いなく世界を変えられる!」

 

「断る。──────と言ったら?」

 

俺のその言葉に、男は幽鬼のように椅子から立ち上がり──────

 

「──────残念だ。ならば仕方ない」

 

 

 

「僕の仲間になれ」

 

男の瞳が、瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、暫し遅れてブランシュ日本支部のトップである(つかさ)(はじめ)のいる部屋に踏み込んだ達也と深雪。司一は八幡にやったように洗脳を仕掛けるが、達也はその影響を受けることなく言い放った。

 

「意識干渉型系統外魔法、『邪眼(イビル・アイ)』──────と称してはいるが、その正体は催眠効果のあるパターンの光信号を明滅させ、相手の網膜に投写する光波振動系魔法。魔法を使っているだけで、その正体はただの催眠術だ。殆ど手品だな」

 

その言葉に、司一は凍りついた。だがすぐに立て直し、自信ありげに口を開く。

 

「だ、だが問題はない!君たちに効果がなくとも、既に君たちの仲間は我々の手中に落ちた!」

 

そう言って指差した先には、先程部屋に踏み込んだ八幡の姿が。

 

「比企谷……」

 

「さあ、比企谷八幡!君の友達を、自らの手で葬れ!」

 

その言葉に従ったのか、司一の斜め前に立つ八幡。その力を知っているが故に、身構える達也と深雪だったが──────

 

「うぜぇ」

 

「へ?──────ごばあっ!?」

 

迷いのない、八幡の裏拳が司一の顎を砕いた。崩れ落ちる司一と平然としている八幡の様子に、戸惑う2人。それを見て頭を搔く八幡が、口を開く。

 

「高々お前如きの催眠術が、俺に効くわけないだろうが……」

 

そう吐き捨てる八幡に、立ち上がった司一が怯えながらも叫ぶ。

 

「馬鹿な、僕の『邪眼』が効かないなんて……ッ、来るな!『邪眼』!『邪眼』!『邪眼』!」

 

その言葉と共に、何度も『邪眼』を行使する司一。だが八幡はそれを真っ向から受け……それでもなお、突き進み司一を殴り倒す。

 

「あのな、馬鹿にも分かるように教えてやる。こういう精神干渉の技術ってのはな、練度がものを言うんだよ」

 

言い放たれたのは無情な現実。それ即ち、八幡の方が圧倒的なまでに格上だということ。

 

「精神干渉使いってのはその技術を身につける際に、同時にその干渉に対しての抵抗手段を身につけるんだよ。無意識にな。それ故に、自分よりも格上の使い手にやられることはあっても格下にやられるようなことはない。絶対的な力の差が存在する世界、それが精神干渉の世界だ」

 

「な、ならば、お前は──────!」

 

「そういうことだ。お前如きが俺を操ろうなんざ、二億年早い。操るんならテメェが50億人は要るぜ」

 

天と地の差と形容するのも烏滸がましいほどの、究極的に圧倒的な格差。その言葉に、司一の心は叩き折られそうになる。

 

「な、ならば、お前たち!こいつらを撃ち殺せ!」

 

配下に指示を出す司一。だが、配下の構成員たちは微動だにしなかった。

 

「何故だ、何故僕の言うことを聞かない!?」

 

「お前が俺を操った気になってたからな。その隙にお前以外全員操らせてもらった。もう俺の手下だよ。司波兄妹、悪いがこいつらの拘束頼む」

 

「あ、ああ。深雪、行くぞ」

 

「はい」

 

そう言って、構成員らを拘束する達也と深雪。それを横目に、八幡は改めて司一に向き直る。

 

「改めて格の違いってやつを教えてやるよ──────『立て』」

 

八幡がそう呟くと、司一の意思に反してその肉体が立ち上がる。

 

「っ、何で、僕の体が」

 

「これが越えられない力の差ってやつだ。おう、『俺が許すまで動くなよ』?」

 

そう言うと、八幡は司一を殴りつけ蹴り飛ばす。顔面を、腹を、喉を、股間を、鳩尾を。倒れることなど許されていないが故に、逃げることなど出来やしない。際限ない暴力がその身を打ち据えていく。戦闘でも蹂躙でもない、一方的な暴虐。背のCADすら使うことなく、司一の精神を、肉体を破壊し続ける。抵抗すら許されない司一の精神は、次第に停止していくのだった。

 

 

 

「三人とも、怪我はないか」

 

無限に男をぶん殴っていると、十文字先輩の声が響く。手を止めて振り返ると、建物内の制圧を終えたらしい十文字先輩と桐原先輩の姿が。

 

「……比企谷、こいつが?」

 

「はい。こいつがブランシュ日本支部の親玉です」

 

「そうか、こいつが……」

 

その言葉と共に、桐原先輩が手に持った刀を握り直す。この後のことを何となく予期した俺は、男に指示を出す。

 

「『腕を差し出せ』」

 

「こいつが壬生を誑かしたのかッ!」

 

刀が振るわれ、男の腕を切り落とす。切り口からは血が噴き出し、男が悲鳴をあげる。

 

「『黙れ』」

 

ま、すぐさま命令して叫ぶことすら出来なくさせるが。地面を転げ回ることも叫ぶことも出来ず、痛みをただ享受するしか出来ない。相当な苦痛だろうな。あ、司波兄の指示で司波妹が断面を凍らせて止血した。

 

「さて、これにてブランシュ日本支部は壊滅……と言って良いでしょう」

 

「ああ。皆、ご苦労だった」

 

そうして、夕方の戦いはこちらの被害無しに終焉を告げるのだった。

その後、十文字先輩が後処理を十文字先輩の家で行うことを俺たちに伝えた。突撃にも使った車で一高まで戻った後、俺たちは帰路につくことに。

 

「比企谷」

 

帰り道の最中、司波兄が声をかけてくる。

 

「どうした?」

 

「いや、今日は大変だったなと」

 

「ああ、大変だった。ま、こうしてお前たちとなんかやるのも楽しかったから別にいいけどな」

 

「そうだな。……そういえば、比企谷は俺と深雪のことは名前で呼ばないな」

 

「え?あー……まあ、そうだな」

 

「何、些細な質問だ。エリカとレオは本人が名前で呼ぶように言っていたが……お前が友人を名前で呼びたがらないのが気になってな」

 

「……」

 

……これ言うべきだろうか。これ言った時エリカには爆笑されたんだよな。……言っちまうか。

 

「や、大した理由じゃねぇよ。ただ……」

 

「「ただ?」」

 

 

 

「……高校に上がるまで同年代の友達とか出来たことなかったから、名前で呼ぶのちょっと照れくさいっつーか……恥ずかしくて」

 

「「……」」

 

「おい、なんだその顔は。微笑ましそうな顔をやめろ」

 

わしゃわしゃ。

 

「おい撫でるな。俺は犬か。だからやめろって撫でるな撫でるな、なんか言え、無言で撫でるな!俺をなんだと思ってんだ──────お前らァ!」

 

数分後。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ブランシュ襲撃より疲れたぞ……クソッ、司波兄め。羽交い締めにしやがって」

 

「いや、悪い悪い。だがずっと苗字呼びで距離を作っていた理由がそれだとは思わなくてな」

 

「ふふ、存外可愛らしかったですよ?」

 

「男の子にそれは褒め言葉にならねーんですよ……」

 

しゃがみこんで息を整えるようにため息をつく。こいつらめ。

 

「だが、こうして共にテロリストと戦ったんだ。俺のことは『達也』でいい」

 

「私も。遠慮なく『深雪』と呼んでください」

 

「え、いや……はぁ。わーったよ」

 

その言葉と共に、俺は両手を挙げて降参の意を示す。

 

「これから改めて宜しくな、『達也』、『深雪』」

 

「……っ、はい!」

 

「ああ、こちらこそ宜しく頼む」

 

こうして、俺は新たに2人の友人と親しくなるのだった。

 

 

 

数日後、4月24日。俺はエリカに呼ばれ、アイネブリーゼに来ていた。

 

「で、結局何で呼ばれたんだよ」

 

「それはね、達也君の誕生日会をしようと思って!」

 

「は?」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

達也の誕生日会?しかもレオや柴田、北山に光井も知らなかったっぽいぞ。

 

「何で言わなかったんだよ……」

 

「だって正確な日付知らないし。四月の間なら誤差の範疇だろうって昨日深雪に……」

 

「えぇ。よく知ってるわねとビックリしたわよ」

 

「……もしかして?」

 

「ああ。今日が誕生日だ」

 

「謀ったわね深雪!?」

 

「あら、私は何も言ってませんよ?」

 

ぐぬぬ、と悔しそうな顔をするエリカ。一方俺はと言うと。

 

「マジで今日誕生日なの?」

 

「ああ、そうだが」

 

「それならそうと言ってくれよ……一曲演奏したのに」

 

「ハッピーバースデーの曲か?」

 

「いや、その日誕生日のダチに贈るオリジナル曲」

 

「祝福が過剰なんだよな……」

 

「初めて同年代のダチの誕生日祝うんだぞ、このくらいさせろ」

 

「いや、知ったことでは無いが」

 

そう言って軽くため息をつくのだった。あ、店主がホールケーキ持って来た。仕方ない。俺は店主に質問して許可を取ると、友人らに向かって口を開いた。

 

「しょうがねぇ、お前ら歌え。演奏は任せろ」

 

「お、マジか!」

 

俺はセブンスコード・ドルチェを取り出し、演奏する構えに入る。

 

「行くぞ」

 

演奏するのは勿論誕生日のあの歌。

そうして、達也の誕生日会が始まるのだった。




というわけでブランシュへの逆襲回でした。
次回からは九校戦。遂にあらすじに書いていた歌詞記載の部分が活かせます。
では、次章予告をどうぞ。

「九校戦?」

それは、魔法師らによる戦いの祭典。

「っしゃやるぜ、宿題免除のために!」

その戦いに、比企谷八幡はクソ俗物的な理由で参戦することを決めた。なんなのお前。

「九校戦が狙われている?」

そんな中、一高に忍び寄る魔の手。

「誰であろうとぶっ潰す、全面戦争やってやるよ!」

比企谷八幡は、九校戦を無事に戦い抜けるのか。

「俺のリリックを、魂に刻んで死んどけ!」

そして、八幡の宿題は果たして免除されるのか!

「ぶちかませ──────『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』」

新章、九校戦編 ビートハートビートの激闘
お楽しみに。

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