伊豆大島のキョン、東京都が駆除強化 食害深刻…なお1万7000頭

50年以上前に飼育園から逃げて以来、野生化し、伊豆大島(大島町)にのさばるシカ科の「キョン」について、都は今年度、駆除対策を強化する。知見の積み重ねで昨年の捕獲数は過去最多となったが、なお1万7千頭程度が生息しているとみられる。大島特産のアシタバや絶滅危惧種の植物などへの食害が深刻化しており、専門家からは実効性の確保を求める声が上がっている。

ドローンを初活用

7月末に開催された対策検討委員会で、都は今年度の実施計画を説明した。

新たな施策として、市街地に仕掛けたわなにキョンがかかった場合、自動で通報されるシステムを一部導入。現場に担当者が迅速に出向き、確実に捕獲する。また、島の中心にそびえる火山「三原山」の火口域でドローンを飛ばし、生息状況を把握。地上部隊と連携し効果的な捕獲につなげる。

令和4年度の捕獲頭数は、平成19年度の開始以来最多の5370頭に上ったが、今年度はこれを上回る5900頭以上を目指す。

状況は芳しくない。

一定の範囲で見つかったふんの数などを基に推定した生息数は、令和4年が1万7190頭(中央値)。元年の1万9491頭(同)から3年連続の減少だが、なお、約8千人の町民をはるかに上回る規模だ。

委員会に参加した大島町職員は、「人を見てもすぐ逃げたりはしなくなってきている」と近況を述べた。さらに、町民からは「ここ数年、キョンは増えている」との指摘が複数寄せられているとし、「減少傾向というのは違和感がある」と危機感を示した。

草花保護も急務

キョンはシカの仲間で、体高約40センチ、体重8キロほど。もともとは中国や台湾に生息していた。昭和45年、都立大島公園で飼育されていた十数頭が台風で壊れた柵から逃走し野生化。一時は外見の愛らしさも踏まえ、観光の目玉になる可能性も見込まれたが、「認識が甘かった」(都関係者)。強い繁殖力で数を増やし、平成17年度には国が特定外来生物に指定した。

24年ごろには1万頭を超えたとみられ、特産のアシタバのほか、サツマイモなど農作物への食害が続く。絶滅危惧種のキンランなど希少な草花への被害も深刻で、今回の委員会では、「『キョンはいなくなったが希少種も消えた』では困る」として、捕獲と並行し、植物保護に向けた対策にも本腰を入れるよう求める意見が出た。

都は希少種の分布地点の把握や保護策の設置など、対応を検討する方針だ。

猫にも配慮?

対策推進には町民との連携も欠かせない。

森林域では、網で数百メートル四方を区画分けし、区画ごとに数人のハンターが銃で駆除する「組織銃器捕獲」という方式が主体。一方、市街地では銃は使えず、箱わなや、ワイヤによるくくりわなが置かれている。

都によると、過去、こうしたわなに猫が捕まってしまった例があり、設置数を抑えている。委員会では「町民と丁寧にコミュニケーションをとれば解決できうる」との指摘があった。 また、そもそもなぜ、キョンを駆除するのかという根本的な訴求が欠けているとの意見も。委員長で、鳥獣保護管理プランナーの羽澄俊裕氏は、町民ら向けの啓発チラシに、「このままでは町の観光資源的な魅力を失うことになると明記するのも、理解浸透に有効だろう」と提案した。

捕獲開始から15年あまりが経過したが、最終目標の「根絶」への道のりは遠い。取り組みを主管する都環境局は、「行動パターンなどのデータも蓄積され、より効果的、効率的に捕獲できる態勢が整ってきた。手を緩めず、着実に遂行していきたい」としている。(中村翔樹)

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