〈大量繁殖キョンの捕獲現場〉「最初はごめんねと思っていましたが…」おととしは千葉県で8000匹以上を捕獲も「解体は1日5頭が限界」解体作業員に密着
今年5月、茨城県で特定外来生物「キョン」の目撃情報に報奨金が出されることが発表された。さらに6月28日には、茨城県との県境付近にある埼玉県行田市で初めてとなるキョンの目撃情報が公表された。その分布拡大が加速するなか、キョン被害の“震源地”だった千葉県では、どのように捕獲や駆除を行なっているのか。猟師や精肉解体所を取材した。 〈閲覧注意〉捕獲、止めさし、そして…写真で見る害獣キョンの解体
キョンの食肉化は時間との勝負
もともと千葉県勝浦市にあった施設(2001年に閉園)で飼われていた個体が逃げ出し、千葉県南部を中心に定着したとされる特定外来生物「キョン」。 千葉県内の推定生息数は2022年度末時点で約7万1500頭(千葉県自然保護課調べ)にまで上り、過去10年で約3倍という爆発的な増加を見せている。 令和4年度における千葉県内のキョンによる農作物の被害は420万円と少ないものの、その分布が市街地に及んでいるケースが多い。 そのため「家庭菜園が全部やられた」「キョンが庭に侵入しないよう家の外周にバリケードのように網を張り巡らせた。これらはすべて実費」といった人家の被害のほか、「夕方から夜にかけてキョンがギャーギャー鳴く声を聴くと憂鬱になる」などと心的ストレスなどへの影響も大きいことが問題となっている。 なぜここまで繁殖が進んだのか。千葉県環境生活部自然保護課の担当者は、次のように言う。 「キョンは繁殖力が強く、メスは1産1子ですが、早ければ生後半年で妊娠し、約210日の妊娠期間を経て出産します。捕獲方法としては“くくり罠”がもっとも多く、全体の8割を占めています」 「くくり罠」とは、どういったものなのか? 猟師免許を持つだけでなく、捕獲した有害鳥獣を解体・食肉化し、骨や皮などを含めて商品として活用する「猟師工房ドライブイン」オーナー・原田祐介さんに聞いた。 「キョンは小型で、その体重は5キロから最大13キロほど。なのでイノシシやシカなどを獲る罠は作動しません。そこで、私の会社ではキョンが獲れる『キョンすらトレイル』という罠を2年ほどかけて開発しました。これを地面に埋め、それを踏んだキョンの足をワイヤーでくくって捕獲します」(原田さん) 1つの「キョンすらトレイル」で一度に捕獲できるのは1体までで、だいたい同時に10ヶ所ほど設置するという。設置場所としては、知り合いの民家をはじめ、農家から「このあたりによく出るから罠を仕掛けてほしい」とお願いされた場所などが多いそうだ。 これらの罠を設置するには「わな猟免許」が必要で、原田さんだけでなく、市町村と連携した狩猟者団体・猟友会のメンバーなどがその役割を担っている。 結果として、令和4年度には8864頭の捕獲に成功。だが、捕獲した個体のほとんどが、山中に埋められたり、焼却されたりしているのだ。 原田さんは、国内で初めてキョンを食肉化し、販売を始めた第一人者だ。 「私の考えは『せっかくいただいた命を捨てるの申し訳ない』というもの。キョン1頭を捕獲して申請すれば、県からは5000円、国からは1000円の交付金が出ますが、さらに食肉施設が買い取る仕組みを構築できれば、猟師の収入安定にもつながります」(原田さん) 食肉にする場合は、とにかく早さが大事なのだという。朝に仕掛けた罠は遅くとも翌朝には見回りし、かかっていたら、その場で「止めさし(頸動脈を切り絶命させること)」を行なって血抜きするそうだ。 「食用にする場合は、少しでも腐敗を遅らせるために『止めさし』を行います。また、肉の変色を防ぐために血抜きも行います。そして、遅くとも1時間以内に精肉所に届け、解体し、内臓を取り出す必要があります」(原田さん)