みんなでファクトチェック “ガイコクジン”を巡る偽情報とは

Nらじ

放送日:2024/07/05

#インタビュー

今回は日本に住んでいる外国籍の人、外国にルーツのある人を巡るさまざまな誤った情報と、それらがもたらす深刻な被害について考えます。外国人の人権問題に長年取り組んでいる弁護士の師岡康子(もろおか・やすこ)さんに、お話をうかがいます。(聞き手:籏智広太(はたち・こうた)記者、杉田淳ニュースデスク、柴田祐規子アナウンサー)

【出演者】
師岡:師岡康子さん(弁護士)

「外国人窃盗団が来ている」というデマはなぜ広がった?

籏智:
師岡さん、ことしの能登半島地震の際も、誤った情報は出回ったのでしょうか?

師岡:
能登半島地震のときも、その直後から「外国人窃盗団が来ている」という話がネットなどで流れまして、特に深刻なのはですね、「中国人窃盗団がマイクロバスで来ている」というデマを地元の方が信じてしまって、それをSNSで発信してしまい、その発信からわずか1時間ちょっとしたら、その偽の車のマイクロバスの写真まで広がってしまった、という経緯があります。後で調べたところ、そのような事実は全く無いということは、地元の警察がはっきり言っているところです。

杉田:
なぜそんな情報が流れたんですかね。

師岡:
避難所にいた1人の方がそういううわさを聞いたと言っただけですね。だから実際に何も見たわけではなく、そのようなうわさを信じてしまったと。やはり、もともとの心理として外国人に対する偏見があるからこそ、そういう被災をして非常に緊迫した状態のときに、そのようなことを信じてしまうということではないかと思います。

杉田:
私もその数日後ですけれども、東京で飲食店の男性から、その話を知ってるか? って言われてですね。やっぱり情報の伝播(でんぱ)力っていうのですかね、感じた記憶があります。

柴田:
能登半島地震に限らず大きな災害や事故があると、そのような誤った情報が拡散するということが繰り返されていますよね。

師岡:
そうですね、特にいまSNSが広がって、そういう事故や災害時だけではなく、大きな事件があった時とか、例えば火事があった時とか、そういう時でもその直後に「犯人は〇〇人」とか、「外国人がそれにつけ込んで窃盗を行っている」とか、そういう差別デマが流れてあっという間に広がって、また多くの人がそれを信じてしまっているという調査結果があります。
2011年の東日本大震災の時ですけども、そのときもやはり「中国人窃盗団が被災者の指を切って指輪を抜いている」とか、そういうひどい差別デマ、それもやはり警察がすぐにそんなことはないと否定したんですけれども、すぐに広がってしまって、2016年に東北学院大学の郭さんという教員の方が仙台市内で調査を行って、その結果、震災の当時に外国人窃盗団の話を聞いたことがある人が5割を超えて、しかもそのうちの86%の方がそれを信じてしまったという結果が出ています。そのうわさを信じてしまって自警団を自分たちで作って、鉄の棒などを持って、もし被災地を回ってそういう人がいたら殺してしまおうと言っている人たちの動画が、今もネットに残ってるんですよね。

柴田:
事実ではないのに、デマが先行してそれに基づいて人々が動いてしまったということなんですね?

師岡:
差別偏見に基づいて行われる犯罪は「ヘイトクライム」って言いますけど、それが実際に起きかけていたということですね。

籏智:
100年前の関東大震災のようなことっていうのは本当に現代でも起こり得ることだなというふうに、私自身も取材実感としては思うところです。災害時に流れるこうした外国人、外国ルーツの方に対する偽情報というのは、日ごろからの偏見とか差別とかの感覚・感情というものが、表に出てきたものだといえると思います。

「在日特権」デマからヘイトクライムへ

柴田:
師岡さんが関わった事例で、外国ルーツの方、外国籍の方にそういったヘイトスピーチが向けられるようなことって、ほかにはどういう事がありますか?

師岡:
特にですね、「在日特権」という差別デマが、日常的に特にネットなどで投稿されていて、具体的には在日外国人が年金や生活保護で優遇されているなどといった、そういう内容ですね。実際これは全く事実じゃなくて、特権とはまったく無関係なんですけれども、それがちゃんと伝わっていなくて、このようなデマが信じられてしまっています。デマだけじゃなくて、例えば学校に火をつけたりとか、民家に行って火をつけたりとか、それらの原因となっている大きな柱が「在日特権」というデマです。

杉田:
籏智さんはその事件を取材されているんですよね?

籏智:
この事件なんですけれども、2021年と2022年に別の事件が起きています。
2021年には22歳の人物による連続放火事件がありました。名古屋の韓国学校や、京都の在日コリアンの方が暮らしているエリアの民家等に火をつけたという事件です。
その翌年の2022年にはまた別の事件になるんですけれども、29歳の人物が、大阪の在日コリアンの方も多く通う学校を襲う事件が起きました。
前者の事件では、火をつけて恐怖を与えることで在日コリアンの方を日本から追い出そうという動機が語られてていて、後者の事件では、名簿を盗んで、その名簿に書かれた所に暮らしている人たちを襲おうと思っていたと語られ、いずれもヘイトクライムと呼べる事件が起きたということです。
いずれも非常に恐ろしい事件なんですけれども、2人ともネット上の言説に過度に共感し、信じて、みずからが正義だと思って犯行を起こしたということがあります。彼らが信じたネット上の言説は、すでに否定されている在日特権の話であるとか、そういった情報を信じて起こしてしまった犯罪だと。そしていずれも何かしらの団体などに入っているというわけでもなく、個人が起こした犯行だったということです。

柴田:
その在日特権について、国はどのように述べているんですか?

籏智:
今年2月の国会でも、在日特権については質疑で取り扱われていて、国税庁が明確にその存在自体を否定しています。

根底にある差別感情

杉田:
師岡さん、ネット上の言説を信じて、それで正義のつもりで暴力的な犯罪に及ぶという、このサイクルどういうふうに感じられますか。

師岡:
やはり一番問題なのは、その根底にある差別ですね。外国籍、外国がルーツの人たちに対する差別があって、そこにそれを更にあおるようなデマが上乗せされて、実際の攻撃にまで移ってしまうということが一番問題だと思います。

籏智:
そういった情報の拡散に対して、いまSNSやインターネットが果たしてしまっている役割というのはどんなものがあるのでしょうか。

師岡:
SNSは非常に拡散力が大きくて、そして匿名で簡単に指先1本でできるということで、あっという間に広がるという、そしてまたいっぺん自分が投稿してしまうと消してもほとんど影響というのを消せないんですよね。いっぺん投稿されるとそれにどんどんまた尾ひれがついて広がっていって、それがとても大きな悪影響を及ぼしていると思います。一人ひとりは例えば善意で、もしくは遊びでやったとしても、それがあっという間に広がって消せないということです。自分で消してもその影響力というのは止められないし、なかなかいっぺん投稿してしまうとそれはほかのサイトでまたコピーされたりして消せないで、そして世界中にほとんど一瞬に広がってしまうという事はとても危険だと思います。

柴田:
今回は外国人を巡るデマやヘイトの現状についてお話伺ってきましたけれども、次回は、こうした現状に対して私たちはどんなことができるのか、その対策面についてお話を伺えればと思います。
ここまで、「みんなでファクトチェック」のコーナーでした。

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2024/07/05 「Nらじ」

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