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Posted: 19 Jun @ 11:53pm
Updated: 20 Jun @ 1:26pm

覚悟を欠いた多様性ごっこ

 前置きしておくと、私は本作を購入後プレイの前に方言翻訳の問題とその翻訳担当の不遜な態度を先に目にしました。その上で、結論ありきとはならないよう心がけたつもりですが、内容は予想以上に酷かった。主に人物表現とローカライズに関して酷評します。クソ長いです。最後の段落だけ読めば足ります。

 
浅い人物描写から浮いた方言

 日本語訳の会話部分が私と縁のない方言でした。それでも何となく意味は分かります。全く意味不明な単語は方言部分の5%程度でしょう。しかし、本作ではほとんど頭に入ってこないのです。理由は本作の登場人物のパーソナリティの希薄さにあるのですが、その希薄さの原因は方言だけではありませんでした。
 まず登場人物全員が不自然なほど整っている。指は誰一人欠けておらず、顔に傷もない。凍傷跡を持つ者も、紫外線にさらされたと思しき荒れた肌もない。考えることが苦手で肉体労働以外を選択できなかった背景を匂わせたり、喘息気味であったりアル中であったり特徴的な歩き方をする人びとの描写もない。事実上の治外法権を大っぴらに口にする横暴なボスの下で働いている割には、抑圧された労働者の間に上下関係が芽生えたりはしない。口げんかは暴力に発展することなく基本みんな仲良し。制裁担当の強面もいなければ身体的特徴を捉えたあだ名で呼び合うこともしない。半世紀前の北海油田(洋上施設)という閉鎖環境の中で、差別も含めそれらを一切描写しないなんて、そんなお綺麗な労働者文学あります?
 そして心身ともに嘘くさいほど健康な登場人物全てに、パーソナリティを一切感じない単一で揺らぎのない九州弁(翻訳担当がそのように呼んだのでそれに倣います)が装備されている。このダブルパンチによって、流れてくる字幕のどれが誰のセリフなのかが把握しづらく、そのために人物ごとの年季・背景を感じない薄っぺらい会話シーンが続く。
 洋上施設の無機物描写から高い技量が伺えるだけに、肉体や仕草を克明に描写することによるパーソナリティの表現に挑むことなく、方言という記号に逃げたのだろうということが見てとれる。多様性を強調する以前の問題として覚悟が足りていない。それが第一印象でした。


 本当の酷評はここから

 
九州弁に置換可能とみなす軽率さ

 この翻訳担当は「人種や性別をはじめとした様々な多様性が認められてきているなら方言の多様性だって認められていいと思うの。」と発信しつつ、同時に「スコットランドの労働者階級に焦点を当てた文脈の反映のために日本語の方言を使った」という意味のパブリッシャーの発信をリポストしています。しかし、この二つは危険な矛盾を孕みます。
 それは、たとえ本作品の背景に共通した文化や歴史を九州地方に見出したとしても、九州弁は労働者階級のためだけの方言ではないからです。1975年のスコットランド沖合の洋上施設というご当地でスコットランド方言を使うのは自然なことだと思いますが、九州弁に一種のステレオタイプを結びつけることによりスコットランド方言から置換可能とみなす態度は、九州弁に異なるアイデンティティを認める人たちの透明化を助長する恐れがあります。多様性を尊重すればこそ、他の方言への置き換えには慎重にならざるを得ないはずなのです。
 方言翻訳はディベロッパーの指示だとゲームメディアの記事により知った時は大変驚きました。置き換え先に選ばれた方言を使う人びとを傷つける恐れがあるというだけでなく、作品の受け止められ方も選択した方言によって大きく変わってくるのに、その丸投げがディベロッパーの姿勢なんですか?なんだか安っぽいなぁと。

 
不意打ちと逃げた態度

 九州弁のフルボイスに標準語の字幕サポートを付けるのがベターに思えますが、コスト面から簡単でないことくらいは分かります。他には九州弁字幕と標準語字幕を二種搭載する方法は有り得たでしょう。もちろんこれらの方法でも「スコットランド方言を九州弁に置換可能とみなす軽率さ」の指摘は免れませんが、言葉の意味さえスムーズに理解されるようになればゲームとしてフルスペックは発揮されますし、そうなれば意義や込められた文脈を汲み取ることできるでしょう。少なくともゲーム部分に対するレビューの土台はシェアできる。
 なんであれ、ローカライズの提供方法には相応の責任が生じるはずです。しかし本作は、日本語という言語名称に潜んで不意打ち同然に九州弁を押しつけるという方法を用い、ユーザーの戸惑いに対しては「多様性」というキーワードで牽制し、さらには翻訳担当自身が長崎の製造工場で2年働いていたという当事者性を匂わす私的なエピソードを「パブリッシャーとの会話の中で」という体裁で披露するなどして、受け止めるべき指摘、引き受けるべき責任から逃げ、あるいは緩めようとしている。私の目にはそのように映ります。卑怯ですね。到底容認できない。

 
独善的な正しさの押しつけ

 Steamプラットフォームの対応言語「日本語」の表示に期待されるのは、標準語または標準語でスムーズに理解できる言語のことです。そんなことはいちいち指摘するまでもない。この標準語を期待するユーザーに対し方言を強制すること、そしてその押し付けを受け入れないユーザーは正しさに背く者であるかのように翻訳担当自らがネットでチクチクと後追い示唆を続けるのは、端的に言って独善的で幼稚です。
 ここまで示した通り、人物表現でのリアリティの追求、他の方言に翻訳する際の配慮、押し付けではなく丁寧な手段を講じること、検討すべき内容は他にいくつもある。にもかかわらず、それらをなおざりにしたまま方言翻訳で注目を浴び「多様性で御座い」と偉ぶるのはお笑いという他ないのです。最後にハッキリ言っておきますが、こんな目障りな実装なら方言による主張など無い方がマシだった。標準語でも文脈くらいは読み取れますよ。馬鹿にしないでほしい。

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 この目で確かめるためとはいえ、正しさごっこに付き合わされた時間は苦痛でした。主張するのならもう少し見識と覚悟と気配りを持つべきというのが私からの評価です。まぁパブリッシャー自身も正しさに浸って気持ち良くなっておられるようなので、少なくとも今は何も耳に入らなさそう。逆にこんなチャチな仕掛けで「わぁ方言翻訳だって!すごぉい進歩的!」などと文化人ポイント稼ぎに乗っかってみせるのも私には難しいですね。恥ずかしくて。
 ゲーム部分は歩きとインタラクトの繰り返しで進む、よく言えば雰囲気を味わう、悪く言えば抑揚を欠いた一本道のホラー小説。プレイした範囲では探索も謎解きも勝手に進むので迷うこともなかった。物語もありがちな展開で特にこの先を見たいとも思いませんし、一週間程度様子を見て返金申請します。
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