ゴヲスト・パレヱド ― 孤独な鬼は気高き狐に導かれ最強の退魔師を目指す ―

裡辺ラヰカ

破壊者の独白

 世界を破壊する理由なんてのは、後付けでいい。

 気に入らないものを壊すことに、いちいち理由なんていらない。


 東雲嶺慈しののめれいじはそう思っていた。

 己に与えられた神代の言霊の力で世界の壁をこじ開け、三千世界の幾許かの世界から命の光を奪い去り、蹂躙してきた男は、無責任極まる考えを持っていた。


 俺が滅ぼす世界は、どのみち滅んでいる世界だ。


 遠からず終わる世界。或いは、すでに終わっている世界。その世界に、新たな可能性を萌芽させるために闘争という混沌を撒く。それが影法師である。

 破滅を破滅で終わらせない。混沌に還し、耕す。

 無論——そんな高尚な理屈なんてのは頭のいい部下が各地の世界の、さまざまな勢力を味方につけるために考えた広報の文句のようなもので、嶺慈自身はそこまで考えちゃいない。



 それが嶺慈のやり方だ。

 世界を歪めているやつを殴る。割を喰う弱者を蹂躙する愚図を始末する。真に選ばれた次世代のアヤカシをピックアップし、手下にする。一人一人、自分が説得する。酒を用意して、腹を割って話す。隠し事は一切ない。

 全ての手下に、嶺慈は「気に食わない奴を殴り飛ばす快楽を教えてやる」と、包み隠さず語ってきた。

 この心臓のおかげで、時間だけはあるのだ。影法師という組織の全員と喋る時間は、山のようにあった。


「笑えるな」


 三千世界を漂泊する「城」。嶺慈がデザインした純和風の巨大な城が、そこにある。

 周囲の水堀は、現世と彼らの世界——幽谷を分け隔てる結界を成し、水堀にかけられた跳ね橋を超え五〇メートルをこす石壁を潜ると、城下町が広がっている。

 街並みの文明は、明治、大正ほど。しかし、衣類は現代的な装いも西洋風のものもあり、不思議な世界観を形成していた。

 太陽は常に西にあり、夕陽を輝かせている。


 天守閣。花魁が舞を披露している中、八部衆が先の戦いの戦勝会をしている。

 嶺慈は窓辺に寄りかかり、永遠の黄昏を吹き抜ける風を浴びる。九つの狐の尾が、風に揺れた。


「どうかしたの?」


 一三三人いる妃の中でただ一人正妻を名乗れる闇咲円禍やみさきまどかが、酒を注いだ瓢箪を手に近付いてくる。


「最もヤオロズが発生しやすい土地が、俺の兄弟が暮らしてる世界だった」

「兄弟?」

「腹違いの兄弟だ。双子、と言っていい。……方針が決まったな」


 盃に注がれた濁り酒を、嶺慈はぐい、と呷った。辛味の中に、甘い香り。喉を潤す酒精の香りが、鼻から抜けていく。


「あそこも、遠からず滅ぶ世界だ」


 嶺慈はそう言って、天守閣の窓の外を眺めた。

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