ザイレム管理AIマナによって明かされた情報。
それは強烈な真実である事は確かだった。
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周囲のモニターに今までの経緯を記したデータが提示される中で二人は呟いた。
「僕達が…」
「コーラルと?」
『はい、ウォルターから受け取った情報から貴方達があの船の生き残りである事は理解しました。』
ラークとフェアリーが行方不明となった航行艦の最後の生き残り。
共生の為の希望は潰えた訳ではない。
コーラルの意思と対話を可能とする子達。
人とコーラルの共生を始める為の道標。
だが、障害が残る今…それを成す事は叶わないだろう。
『ですが、貴方達の言う通り…人類に対して敵対意識を持つコーラルが潜んでいるのも承知しています。』
「「…」」
『二人には考える時間が必要ですね。』
マナはラークとフェアリーの返答が長引くと捉え、周囲の大人達に質問した。
『では、星外企業の方々にお尋ねします。』
貴方達は元はコーラルを求めて星外より来訪した人々。
今は企業によって切り捨てられ、封鎖機構とアルカナの猛威に晒されている。
『私には集積コーラルが存在する場所と其処へ繋がる施設についての情報があります。』
場所の名はウォッチポイント・アルファ。
集積コーラルが蓄積された地下大空洞への入り口。
そこには忌まわしい研究が行われたルビコン技研都市も存在します。
アイビスの火直後に生き残った技研の人々の手で封鎖されていましたが…
『現在はアルカナの本拠地として利用されている場所でもあります。』
更にコーラルを組み上げるバスキュラープラントの建造も続いています。
このまま放置すれば、アルカナの手によってコーラルリリースが行われてしまうでしょう。
『コーラルに依存した人類が生き残る術を失い死に絶えた世界…』
コーラルが広がった世界で人としての死を迎えれば…
コーラルによって記憶を転写されACを肉体に生きる事を強いられ…
人間らしい生き方は出来ないでしょう。
そんな永遠の命の末路を貴方達はそれを望みますか?
『人とコーラルの共生は人類社会においての今後の課題と成って行くでしょう。』
コーラルから無尽蔵に産出される暴走エネルギーだけを抜き取り沈静化。
そのエネルギーを人類が消費し利用する。
コーラルが増殖し広がる事も無ければ、人類が抱えるエネルギー不足を補えると推測します。
異なる異種同士の共生とは互いの不利益と利益を理解し合う事だと私は思います。
これもまた完全な解決には至らないでしょうが、コーラルを焼き尽くす以外に考え付いた方法である事をご理解頂きたい。
『ご質問が無ければ…』
「待ってください。」
マナの言葉を遮ったスネイル。
「確かに理想的なプランでしょう。ですが…所々曖昧な部分も多い。」
『と、言いますと?』
「例え、貴方の言う通り…コーラルリリース阻止しエネルギーを確保しても星外企業や政府は見逃さないと言う事です。」
スネイルは目を向けなければならない問題が抜けている事を指摘した。
封鎖機構とアルカナを退け、コーラルリリースを阻止した後の事後処理。
障害が無くなればベイラム社とアーキバス社を始めとした星外企業がコーラルを求めて来訪。
場合によってべリウス地方での戦闘を超える争奪戦が勃発する。
平等に分け合うと取り付けをしても腐った政府は首を縦に振らない。
それは利益を望んだ企業も同類である。
解放戦線もこの星に生きる住民である以上は蔑ろには出来ない。
アイビスの火以降、コーラル汚染が蔓延する星で生き延びた彼らもルビコン3を立て直す為の重要なファクターである。
「それらを話し合う為にも解放戦線との同盟を取り付けなければなりませんがね。」
「要するに俺達だけで話を決められんと言う事だ!」
スネイルの説明の後にミシガンが短く締めくくった。
息の合った話す姿には周囲の一同も慣れてしまっていた。
「それにウォルター、まだ話す事はあるだろう?」
「観測者の事か?」
「そいつはお前がコソコソやっていた事と関係しているのか?」
「マナ、観測者のデータを出してくれ。」
『分かりました。』
マナは周囲のディスプレイに観測者のデータを表示した。
『観測者ことオーバーシア…目的はコーラルの観測です。』
元はある派閥に属していたルビコン技研の研究者達によって設立された…
贖罪の為の組織と呼べるものです。
ルビコン技研は数多くの犠牲を生み、数多くの負の遺産を造り出した。
コーラルを利用した強化人間の製造もまた禁忌と言えるでしょう。
『アイビスの火以降、我々はコーラルを観測し続けてきました。』
何故、観測者を設立したのか…古い昔話をしましょう。
かつてルビコン調査技研には二つの派閥がありました。
純粋にコーラルを研究する内にその危険性に気づいたナガイ教授の派閥。
コーラルと言う未知の物質に惹かれて人の所業を超えた研究に手を染めた第一助手の派閥。
当時、二つの派閥はその研究方法で対立していました。
ですが、政府からの圧力もありナガイ教授は第一助手やその派閥が手に染めた所業を止める事が出来ませんでした。
…私もその所業による産物です。
『当時の連中は糞タチの悪いコーラル酔いでも起こしたかの様に暴走しちまったのさ。』
マナの会話に乱入するカーラ。
『カーラ、随分と…遅い通信ですね。』
『漸く、こっちの事後処理が終わったんでね…話の途中で参加して悪いね。』
『いえ、当時を知る貴方にも話に加わって欲しかった所です。』
『…マナが言う様にアタシは当時ナガイ教授の第二助手を務めていた。』
現存するRaDの兵器はその時の応用さ。
アタシはC兵器とは別のアプローチで技術開発に携わっていた。
で、ウォルターに会ったのもその頃だ。
『…第一助手には妻と子供がいた。』
だが、強化人間の実験に実の子供を使おうとしてその妻が身代わりなった。
『当然、成功の確証もない実験は失敗……生き残った子供はナガイ教授に引き取られた。』
第一助手は妻の死を悲しむ所か子供にも見向きもせず…研究に没頭した。
『その子供がウォルターだよ、アイビスの火が起こる数日前に木星へ避難したけどね。』
半世紀前の木星と言う意味を察したナイル。
それはまだ告げるべきではないと悟って口を閉ざした。
周囲も元凶の息子であるウォルターを見たが、彼も贖罪の為に動いていた事実を知ったので深くは言えなかった。
『マナも別口の実験で肉体の死を迎えつつあった…そこに人工知能の開発に携わっていた研究者にこう告げられた。』
マナの記憶と人格を開発中の記憶媒体に移す事を選ばないか?とね。
マナは何も出来ずに消える事を否定してその研究者に協力した。
『私がこうしていられるのもその研究者のお陰です。』
マナは観測者の前身となった組織の一員として管理AIのままアイツらの監視を行っていたのさ。
だが、アイビスの火で奴らは壊滅してその役目を終えそうになった。
『ですが、障害もありました…それがアルカナです。』
アルカナはルビコン技研で研究されていたコーラルを利用した戦闘人格を生み出すプランから製造された戦闘AI。
それが只の機械的な人格だけに終わる筈でした。
『所がコーラルを使用した事で予期せぬイレギュラーが発生したのです。』
利用されたコーラルよって現在のアルカナの構成員の人格が戦闘AIに転写…インプットされてしまったのです。
技研時代に盗聴した際には何処かの時代のAC乗り達である事は理解しましたが…
彼らは危険すぎました。
『彼らが望んだのは永遠の闘争。』
死なない体を得た彼らが行ったのは虐殺でした。
アイビスの火発生と同時にルビコン技研に在住する人類を全て殲滅したのです。
『アタシらはナガイ教授の手に逃がされて何とかなったけど…』
その後、アルカナはルビコン技研を掌握して封鎖機構と接触。
封鎖機構と連携を取ってコーラルリリースの為にルビコン3を封鎖したのさ。
観測者が出来た事はコーラルの動静を監視するだけだった。
『で、半世紀立ってからルビコンにコーラルがあるって宣伝しやがった馬鹿な連中が居たのさ。』
『それがブランチと呼ばれる独立傭兵集団です。』
そいつらが情報をリークしたせいでベイラム社やアーキバス社を始めとした星外企業が集まってしまった。
全く余計な事をしてくれたせいで大迷惑だよ。
『カーラの言う余計な事は、これから話す事に繋がります。』
アルカナは自分達の様に強いAC乗りを欲していました。
そこでルビコン3に様々なAC乗り達を集めて競わせると言う方法を行いました。
そして…最後に生き残ったAC乗りのデータを取り込む事も奴らの目的の一つです。
『勿論、誰一人として生き残る奴はいない……マナの調査結果を聞いた時は驚いたよ。』
最も強かったAC乗りをコーラルで記憶と人格を転写し自らの駒にする。
アルカナの構成員はこうやって数を増やしてきました。
ですが、転写された人達も黙っていません。
『アルカナに対して反抗し消えて行きました……これによりアルカナの構成員は半数に激減しました。』
『連中も同胞を造るのに選別を注意する様になったのさ…』
『皆さんへの執拗な攻撃もこの同胞にする為の行為と思われます。』
進駐した時点で狙われていた。
独立傭兵、企業、解放戦線。
いずれかから最も強い存在を見つけ出す為に。
『さてと…この場も誰もが真実を知った以上はもう後戻りできないよ?』
カーラは腹を括るんだね?と告げた。
=続=
次回、話し合いと決議案。
ハウンズの名前は渡り鳥からに決定しました。
後日UPします。