前回、封鎖機構とアルカナを退けたレイヴン一行。
無人洋上都市ザイレムを掌握する為に都市中心部にあるメインタワーへと移動。
そこである程度の探索を行う事となった。
しかし、アルカナの置き土産が原因で外部との通信が途絶えたままだった…
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メインタワー内部へ侵入した一行。
格納エリアからエレベーターで上層へ上がっている最中の事。
レイヴンはエアと交信をし各自の機体の整備を頼んでいた。
『レイヴン、各自の機体は地下施設の格納庫に移動しました。』
「…」
『アルカナと封鎖機構を退けた以上は妨害は入らないと思いますが…応急処置並びにENと弾薬の補充は済ませて置きます。』
「…」
『ザイレムにアクセスし防衛兵器の停止は行いましたが、メインプログラムへのアクセスは不可能でした。』
「?」
『どうやら、独立型のAIがザイレムの制御を行っている様なのです。』
「…?」
『私達が襲撃されないのはラークとフェアリーが同行しているからだと思います。』
「…」
『此処に二人に関係する情報が残されていればいいのですが…』
二人が交信を行っている間にエレベーターは途中の居住区エリアで停止。
上層の管理エリアに向かうにしても距離がある。
そこで一度居住区エリアで休憩を取る事となった。
「半世紀前のだっけ?誰もいないけど…中は綺麗だね。」
「誰かがお掃除しているのかな?」
居住区エリアのフロアを見渡すラークとフェアリー。
「恐らく管理システムが生きているかもしれない。」
「随分と長生きなシステムね…でも、部隊をこっちに動かしても良さそうだわ。」
「その通りです、ここ暫くの戦闘で負傷者も隊員の負担も増えていますし。」
「正直、落ち着ける場所は欲しいわな。」
オキーフらの話通り…
べリウス地方におけるアルカナの殲滅行動で拠点を失ったレッドガンとヴェスパー。
ベイラムとアーキバスは既にアルカナの襲撃を避ける為に一時撤退。
同盟企業も続々と撤退しているのでどうしようもない。
地上に残っているのはコーラル探索の為に捨て駒にされた部隊のみである。
同盟部隊はヨルゲン燃料基地、バートラム旧宇宙港、ヒアルマー観測所、ハーロフ通信基地の四つの拠点を手に入れていた。
だが、べリウス地方から避難した企業の者達を全員滞在させるには物資が不足している。
特に同盟部隊とは別に企業から切り捨てされて打ちひしがれている者達も数多く存在していた。
彼らは生産プラントや医療&衛生管理などライフラインに関連した技術を持つ職員が多い。
彼らの助力を得る為にも安全な拠点が必要だった。
そこでウォルターの進言から洋上都市ザイレムを掌握する作戦に転じたのである。
「でもさ、ウォルターのじーちゃんって何者なんだろうね?」
「うん、ここもコーラルの事も良く知っているみたいだったよ。」
「…」
「レイヴンも知らないの?」
「…」
「ヒューマンショップで売られていた所をウォルターに助けられた?」
レイヴンの言葉に反応したローズネイル達。
「ヒューマンショップって…廃棄処分にされた強化兵士が流れる場所じゃない。」
「企業からも見捨てられた上に使い捨て同然で人権もないと聞いていたが…」
「ですが、彼は生きている…いや、生きているのが不思議と言った所でしょうか。」
「そう言えばレイヴン、目元のバイザーがないと視えねぇって言ってたな?」
「…」
「そのスーツも着てねぇとまともに動けねぇだと!?」
レイヴンは電子デバイスで会話を続けると同時に自身の状態やヒューマンショップでの出来事を話していた。
「第四世代型とは聞いていたが、ここまでとは…」
「イグアスとヴォルタ…同じ第四世代型なのにアイツらと天と地の差があり過ぎだろ。」
戦いによって動く事もままならず、人としての尊厳を奪われ、人身売買を生業とするヒューマンショップに安値で売られ…
買い手が付かなければ、廃棄処分にされる末路だった。
余程、レイヴンは強運にでも恵まれたのだろう。
「あ、そうだ…ローズのねーちゃん。」
「ラークちゃん、どうしたの?」
ラークは何かを思い出してローズネイルに話しかけた。
「前の戦闘で話すって言ってたじゃん。」
「あーあれね、総長さんとスネイルちゃんも交えて話したかったけど…ま、いいでしょう。」
「長くなりそうならフィーカーでも入れるが?」
「あら、オキーフの小父様ったらちゃっかり持参してたのね。」
「私もお菓子持ってきてる。」
「フェアリーちゃんまで……長くなりそうだから御言葉に甘えちゃおうかしら。」
オキーフとフェアリーは居住区エリアにあったキッチンスペースで人数分のフィーカーを入れた。
エアが調べた所、ザイレムのライフラインからコーラル反応はなく汚染されていないらしい。
なので急性コーラル中毒に陥る事はないだろう。
フリースペースのソファーが置かれた場所に一同は落ち着き、人数分のフィーカーが行き渡った後…
ローズネイルから説明が入った。
「最初は、アルカナの連中の正体に気づいた事から話そうかしら…」
奴らは旧世代の亡霊。
ある時代…世界は荒廃が進み、人々は僅かに残された生存可能地域に寄り集まっていた。
その中で比較的規模が大きい「シティ」は、「代表」と呼ばれる人物によって圧制が布かれていた。
ある時、「代表」の側近だった男が地下世界に追放された。
男は地下世界の人々を纏め上げて「レジスタンス」組織を結成し、「代表」の支配を打ち破るべく一大反攻作戦を実行に移した。
だが、作戦は事前に察知されていたために失敗し、男も命を落とす。
一年後、レジスタンスは新たなリーダーの元で再び活動を開始した。
その戦乱に参加していたのが例のアルカナ17とスター達だったのよ。
当時、レジスタンスのリーダーだったアタシの御先祖様は黒い鳥と共に奴らに立ち向かった訳。
「黒い鳥?」
「時代の節目……変革の時に現れるとされるワタリガラスのエンブレムを持つAC乗りの事よ。」
で、ご先祖様は戦乱が収拾した後…そのAC乗りと結婚して子孫が生まれた。
それから数世代後…
世界に7つ存在する、タワーと呼ばれる詳細不明の超巨大建造物。
旧世代に建造されたとされ、内部には膨大な量の異形の旧世代兵器およびそれらを製造する設備が遺されていた。
またタワー周辺には強固な防衛設備が施され、当時の各勢力がその所有権を巡って争った。
これも新たな黒い鳥のAC乗りが登場して戦乱を収めたのよ。
で、当時のアタシの子孫は負けたくない事に固執して当時の黒い鳥のAC乗りと交戦…
見事に負けて助けられて最後は結婚した。
「アタシはその何世代も後の子孫って訳、アタシの家系はそのワタリガラスの伝説を伝える伝承者なのよ。」
文字通り、秩序をかき乱す存在として恐れられて人間社会に潜む神様から狙われる始末。
命を狙われ続けたアタシの家系は徐々に数を減らして生き残っているのはアタシ位でしょうね。
「しかし、ワタリガラスのエンブレムと言えば…」
「レイヴンのマークだよね?」
「うん。」
「レイヴンって言っても特定の誰かを示した言葉じゃないのよ。」
「それは一体?」
「自由意志の表現として利用されるのよ…名乗っているのが複数居ても可笑しくないわね。」
「て、事はレイヴンが無数に居るって事か?」
「そうね…(ま、例のブランチが名乗っているけど…アタシは認めないわ。」
オキーフの言葉に反応するラークとフェアリー。
ローズネイルはその疑問に付け足す様に話した。
「で、次はその神様の正体…」
時代の節目を境に人類を救う為に動いた神様。
けど、黒い鳥はその救済を拒んだ。
神様の元に居たら自由を奪われ管理される上に人として生きられなくなるから…
それを知った黒い鳥達は神に抗った。
「神?』
「記述によれば、物凄く古い世代にシンギュラリティを引き起こした管理プログラムらしいけど…本当の所は良く分かってないわ。」
「所でダンテ…いえ、ローズネイル。貴方が行方不明になった理由もこの事に関係しているのでは?」
「五ちゃん、ご明察。」
「五ちゃん…?」
五花海はローズネイルに質問し回答するとローズネイルから有難くもない仇名で呼ばれた。
「ま、当時のアタシもドジ踏んじゃったわ。」
ベイラム支配領域で治安維持部隊の副長になって暫く経った頃よ。
五ちゃんの詐欺行為を摘発する為にナイル隊長が部隊を動かした。
アタシも副官として現場に居たわ。
で、五ちゃんをとっ捕まえた後に逃げた他の残党を追った訳よ。
「その結果がこれ。」
ベイラムの中にナイル隊長を良く思ってない奴が居てね。
そいつが神様の息が掛かった連中と攣るんでいたっぽい。
…奴が手引きした連中の手でアタシがお縄に着いちゃったのよ。
そのままアーキバス社に被験体として売られて第八世代へ移行する前の第七世代の最終施術を施された。
で、アタシことローズネイルのオネェ様が爆誕しちゃったのよね。
「恨みはなかったのですか?」
「別に、成っちゃったモノは仕方がないし。」
正直、性根のひん曲がった糞な上層部の連中が居る所に戻る気も失せたわ。
そのままアーキバス社で武勲を上げてヴェスパー入りしたのよ。
「こう言うのって…波瀾万丈?」
「フェアリーちゃん、そうとも言うわね。」
「でもさ、ベイラム本社の奴ら…すっげー嫌な連中って思う。」
「ラーク…」
「だって、アイツらが余計な命令しなきゃ他の皆だって…」
ベイラム社が指示した無謀な作戦で命を落としたレッドガンの隊員達は少なからず存在した。
ラーク自身も関わる回数が数える程度ではあるが、良くしてくれた者達も含まれていた。
「ラーク、どんなに喚いても失った命は戻ってきません。」
「五兄…」
「今ある命を救う為に最善を尽くすべきですよ。」
「そうだね。」
フィーカーを啜って苦い顔をするラークとフェアリーの様子を見届けた後。
一行は上層部に向かう手段を探す為に居住区エリアの探索に乗り出した。
その中でラークとフェアリーは居住区エリアの一室である写真を発見する。
「ねぇ、これって…」
「カーラだよね?」
レトロな写真立てに収められた一枚の写真。
そこにはある人物達が映っていた。
白衣を着た男性と若い女性に幼い子供。
それぞれに名前のサインが入っていた。
「ナガイ教授、カーラ、ウォルターと…ってぇえええええええ!?」
「ウォルターってあのウォルター?」
「全然年齢合ってないじゃん!?」
「他人の空似?」
「いやいや、どう見たってカーラはカーラでしょ!?」
「そうだけど…」
「カーラとウォルターの年齢が合ってないし…どうなってんの!?」
ラークとフェアリーが驚くのも無理はない。
写真に写ったカーラとウォルターは親子ほどの差があったのだ。
「ラーク、ナガイ教授って誰?」
「僕にもさっぱりだよ。」
「オキーフ小父さん達に聞いてみる?」
「そうだね、何か判るかも!」
二人は写真立てを持ち出して探索しているレイヴンらの元へ移動した。
=続=
次回、引き続きザイレム探索。
カタフラクトは後々鹵獲作戦を決行します。
その前にザイレム編終了後にギャグ回を入れようと思います。