引き続き、バートラム旧宇宙港での戦闘。
宇宙港内のスペースポートに点在する敵MT部隊並びにHC型の殲滅を終えた第四部隊。
味方MT部隊が停泊中の強襲艦五隻を掌握した。
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『お兄ちゃん、来る!』
『判った、各機…デリーターACが来る離陸を急がせろ!!』
『了解!』
フェアリーがデリーターACの接近を感知、ラスティは部隊に次の行動を急がせた。
手に入れた強襲艦は今後における自分達の足である。
掌握に手間取ったが、間に合ったエアの介入で秘密裏に書き換えを補助。
『ラスティ、フェアリー、遅くなりました。』
『済まない、エア。』
『各艦のメインプログラムの書き換えが完了しました。』
『では、離陸の手伝いを頼む。』
『分かりました。』
エアはラスティらに補給シェルパの手配をし補給を済ませる様に促す。
『二人共、接近するデリーターACに備えて補給を急いでください。』
『助かる、迅速な手配を感謝する。』
『エア、ありがとう。』
二機の補給完了と同時に現れる機影。
デリーターACが四機と大型武装ヘリがバートラム旧宇宙港へ出現した。
『あら、壊滅状態…封鎖機構も碌な仕事しないわね?』
大型武装ヘリより広域放送を行う甲高い女性の声。
『其方はアルカナのメンバーか?』
『ええ、貴方達の部隊を襲ったタロット17と子飼い達とは違うけど…フフフ。』
声から察するに何処か妖艶さを伺わせる女性だろうと推測する。
『私はタロット3、今日は私だけなの……自己紹介はまた今度ね。』
『タロット3…女帝か。』
『ええ、私に相応しいでしょう?』
女帝の意味を持つタロット3と彼女の命令を待つ四体のデリーターAC。
『この子達は私の可愛い犬よ。』
『犬だと?』
『メンバー候補の…確か、スッラだったかしら?』
『スッラを、知っているの?』
『ええ、知っているわよ……この子達もスッラに倒された後に私が拾って調教し直したのよ。』
『えっ?』
『調教のし甲斐があったわ。とっても狂暴だったから……再調整もしたしね。』
タロット3の会話でフェアリーはべリウス地方のウォッチポイントでの出来事を思い出した。
“俺が倒したのは何番だったかな?”
“618と620も良い腕の猟犬だった…”
“いくらお前が子飼いを連れて来ても俺が倒してやる…ハンドラー・ウォルター。”
『駄目、その人達は…!?』
『さてと、妖精ちゃん…可愛い声で鳴いて頂戴ね?』
何かに気づいたフェアリーの叫びも空しく…
タロット3はデリーターACに指示を出し攻撃を開始させた。
『フェアリー、来るぞ!』
『!?』
デリーターACは四機全てが二脚型のアセンで構成。
四機が連携出来る様に前衛と後衛に分けられているのだろう。
前衛はガトリング砲とリニアライフル持ち。
後衛はプラズマミサイルやパルスガンにシールドなどの装備になっている。
各機、ブースターを利用し距離を一気に詰められる。
『フェアリー、互いに二機ずつ相手をするぞ!』
『…』
ラスティのスティールヘイズとフェアリーのティンカーベル。
軽量型と高機動型、攪乱のスピードならこちらが有利だが…
相手も手練れである以上はそれぞれの技量と力量で勝負が決まる。
『フェアリー、大丈夫ですか?』
『…聞こえる。』
『フェアリー?』
『駄目!ラスティ、お兄ちゃん!!』
『!?』
ラスティが前衛のデリーターACのコアブロックを狙おうとした所…
フェアリーの静止が入り、距離を取るラスティ。
『フェアリー、どうしたんだ!』
『悪いのは、あの人!この人達、じゃない!!』
フェアリーはACを加速させると大型武装ヘリへの攻撃を開始する。
『あら、そっちはいいのかしら?』
『貴方は、あの人達に、痛い痛いを、した!』
『感が良い子ね…嫌いじゃないけど鬱陶しいわね!』
タロット3の大型武装ヘリに隠れる様に潜んでいた重量型二脚AC。
『フェアリー!?』
『!』
『…無駄だ!』
重量型ACのグレネードガンを喰らい墜落するティンカーベル。
重量型ACのパイロットが通信を繋げてフェアリーに話しかけた。
『小娘、戦場に慈悲など不要だ。』
『聞こえるの…止めて…嫌だ…声…が。』
『…』
フェアリーにはコーラルを通して聞こえていた。
デリーターACに搭乗させられたパイロット達が誰なのかを…
“嫌だ。”
“助けて。”
“殺したくない。”
“ウォルターを…”
『レイヴンの、仲間を、死なせたくないの!!』
フェアリーの叫びと共にティンカーベルはその機能を開放した。
“パイロットの生命維持に危機、高機動モードを開放。”
“並びに不死鳥の開放コードを確認、粒子散布を開始。”
ティンカーベルのモニターに映し出された言葉。
それは危機を脱する為の希望の光だった。
『何が起こった?』
『ティンカーベル、行こう…レイヴンの仲間を助けよう!』
再起動したティンカーベルから散布される緑色の粒子。
それは妖精の鱗粉の様だった。
『これは…!』
『エア、何が起こった!』
『ティンカーベルよりコーラル反応…ですが。』
ティンカーベルに惹き起こされた状況に対してエアに尋ねるラスティ。
返って来た言葉は意外なものであった。
『拙いわね、ナイト1…さっさと片付けるわよ。』
『了解。』
飛翔するティンカーベルより散布された緑色の粒子はバートラム旧宇宙港の敷地内へ散布。
それは先のデリーターAC四機を行動不能に追い込んでいた。
『貴方達は…許さない!!』
フェアリーはティンカーベルで大型武装ヘリへ向かい再突入を掛ける。
その間、セイレーンのレーザーライフルのチャージを完了させていた。
『撃たせるか!』
『当たらない!』
先程の重量型ACことナイト1はミサイルで応戦するが、ティンカーベルは避けなかった。
いや、必要なかったのである。
散布された粒子が残像を生み出し、フェアリーの姿を攪乱していた。
高機動モードと粒子散布によって姿を攪乱し大型武装ヘリへと距離を詰めて行く。
『貴方だけは!!』
妖精の一撃が大型武装ヘリを貫いた。
『サブジェネレータを…!』
『タロット3!』
『ナイト1、撤退よ。』
『…犬どもは?』
『あの様子じゃ使い物にならないわ。』
『了解。』
タロット3の大型武装ヘリはナイト1のACを回収後、バートラム旧宇宙港から撤退して行った。
『…やったのか?』
『フェアリー、無事ですか!』
『エア、あのAC達を調べて。』
フェアリーは自分の心配よりも機能停止したデリーターACのパイロット達の安否をエアに尋ねた。
『分かりました。』
『…大丈夫?』
エアがデリーターACのパイロット達を調査する。
『生命活動に支障はありません……ですが、彼らは一体。』
『コーラルを通して聞こえたの、ウォルターが言ってたレイヴンの仲間達。』
『フェアリー…貴方、声が?』
『うん、上手く話せるようになったみたい。』
先程の粒子散布の影響だろうか?
フェアリーは区切り気味だった声が普通に出せる様になっていた。
『フェアリー、彼らは…』
ラスティがフェアリーに話しかけようとした時、二機のACがバートラム旧宇宙港の敷地内へ入って来た。
『第五隊長殿、一足遅かった様です。』
『救援は間に合わなかったけど…無事に終わったようだね。』
『ホーキンスさん、ペイター。』
『作戦は成功したようだね、救援が間に合わなくて申し訳ない。』
『第四隊長殿、これは一体?』
『例のアルカナが襲撃を仕掛けてきた。』
『どうやら同盟を組んで正解だったね。』
『ええ、それとフェアリーのACが…』
『もしや、周辺のコーラル濃度と関係が?』
『その通りだ。』
ラスティが先程の戦闘の一部始終をホーキンスらに伝えた。
『フェアリー君のACにそんな機能が…』
『詳しくは調べてみない事には。』
『フェアリー?』
『パパ、ペイターお兄ちゃん、この人達を助けて。』
『例のアルカナの駒にされていたAC乗り達だね…大丈夫、彼らの命は保障するよ。』
『此方も事情を聞かなければなりませんので。』
『うん。』
アルカナのメンバーであるタロット3の襲撃を退けたラスティら第四部隊。
バートラム旧宇宙港での作戦も成功し強襲艦の拿捕に成功した。
掌握したヨルゲン燃料基地から運ばれた燃料で暫くの航行が可能だろう。
それなりの足が手に入った同盟部隊だったが、封鎖機構によって更なる脅威と認識された。
今後も奴らの追撃が止む事はない。
いずれは奴らと総力戦を行わなければならない日か訪れるからだ。
…最後に一つの問題で締めくくろう。
フェアリーのACティンカーベルに搭載されていたと思わしき機能。
これが発動した事によって難を逃れた。
発動条件がパイロットの生命維持に危機が迫った時と言うのは何とも言えない。
余程の事が無ければ、発動せず只の変わったACと認識されていた。
今となって機能の凍結解除された事は意味があると思われる。
合流したレッドガン部隊でも同様の事が起こっており…
更に合流直後にフェアリーとラークの機体のモニターにはある言葉が映されていた。
“今は主無き方舟へ不死鳥と妖精を携えて訪れよ。”
“元凶の目覚めは近い…”
この言葉が意味する事とは一体?
=続=
次回、番外編。
※タロット3
女帝の意味を示すアルカナのメンバー。
甲高い声とプライドの高い女性であると思われる。
ナイト1と呼ばれる重量型ACを護衛に付けている。
タロット17と同様に大型武装ヘリで行動していた。