四度目の鴉   作:Astley

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 おかしいな……この小説は「四度目の鴉」であって、「一度目の狼」ではないはずなのに……


23:翼の意味

 四機のACが動き出す。LEAPER4とナイトフォールが、スティールヘイズとアスタークラウンが、それぞれお互いを狙って武器を構える。

 LEAPER4とナイトフォールはアサルトブーストで前に、スティールヘイズとアスタークラウンはクイックブーストで横に、それぞれ同時に飛ぶ。

 621は接近するナイトフォールに対し、レーザーライフルとパルスガンを乱射。青と緑に彩られた高密度の弾幕は、並のAC乗りでは回避不可能な()となる。

 しかしレイヴンは並ではない。LEAPER4の弾幕に対して、地面を蹴って急速旋回。直角に曲がったナイトフォールはアサルトブーストの速力で以て壁を回避。

 そして再び地面を蹴り、LEAPER4に向き直る。アサルトブーストを一度も切らすことなく、弾幕を回避してみせた。

 レイヴンはライフルを連射しながらLEAPER4に急接近。急速に零に収束していく彼我の距離に対して、二人の行った対処は一致していた。

 

ガァンッ!!

 

「っ!」

 

 すなわち、ブーストキック。同時に放たれた蹴りはお互いに突き刺さり、同時によろめかせる。

 そこに割り込む影がある。スティールヘイズだ。よろめいたナイトフォールを狙い、レーザースライサーを起動。

 

「させん!」

 

「チッ!」

 

 しかし、さらにそこにパルススクトゥムを構えたアスタークラウンが割り込み、レーザースライサーを受け止める。

 レーザースライサーは手数で攻める武器。単発威力は高くない。だからパルススクトゥムを破ることはできず、弾かれる。

 その間に復帰していたLEAPER4は即座に跳躍、グレネードを構える。パルススクトゥムは強力な防御兵装だが、前方以外からの攻撃は防げない。この角度なら直撃させられる。

 しかし、復帰しているのはLEAPER4だけではない。レイヴンはLEAPER4の動きから即座にその狙いを看破。復帰したばかりのナイトフォールでグレネードを構える。

 そしてLEAPER4とナイトフォールは奇しくも同時にグレネードを発射。放たれた四発の榴弾は空中でぶつかり合い、凄まじい爆炎を生み出した。

 その爆炎に乗じて、四機は一度下がる。状況は振り出しに戻った。

 

「クソッ! まともにやり合ったら埒が明かないか!」

 

「私とキングは互角……そして戦友とあのレイヴンも互角と言ったところか。厳しいな」

 

 お互い実力は伯仲している。しかし、こちらはラスティが二対一のときにそれなりのダメージを受けているため、その分だけ不利。真正面から戦うのは得策でない。

 

「戦友、君の装備と実力なら、キングは倒せるな?」

 

「ああ、勿論」

 

 今回のLEAPER4のアセンブルには、対キングの色合いも含まれている。

 パルススクトゥムは非常に堅牢な防御兵装だが、同じパルス兵装によるパルス干渉には弱い。LEAPER4の左手にあるパルスガンなら、それが可能だ。

 

「私がレイヴンを引き付ける。その間にキングを倒してくれ」

 

「了解。死ぬなよ、戦友!」

 

「フッ、無論だ」

 

 作戦決定。ラスティがスティールヘイズの機動力でレイヴンを撹乱し、その間に621がキングを撃破する。あとは二対一で磨り潰す。

 

(レイヴンは戦友と互角の相手……そんな奴相手に、私はどれだけ持たせられるか……)

 

 ラスティははっきり言って不安だった。確かに、ラスティの実力は621に惨敗した時から大きく上がっている。

 しかし、それでも未だに621には及ばない。今の自分では、どれほど足掻いたところであの高みに手を届かせるのは不可能。そんなことは自分が一番よくわかっている。

 レイヴンは、そんな化け物と同じ領域に立つ怪物。そんな相手に対して、一体どれほど足掻いてみせられるか。不安になるなという方が酷な話であろう。

 

(だが、戦友は私を信じてくれた)

 

 621は、何の疑いもなくラスティにそれができると信じている。ならばそれに応えねばなるまい。

 

「いくぞ、戦友!」

 

「ああ!」

 

 ラスティの呼び掛けで、スティールヘイズとLEAPER4が同時にアサルトブーストを起動する。狙いはもちろん作戦通りの相手。スティールヘイズがナイトフォールを、LEAPER4がアスタークラウンを、それぞれ狙って急加速。二機の軌道が交差し、目的の相手を目指す。

 

「これは……なるほど、そういう作戦ですか」

 

 レイヴンのオペレーターは二機の軌道を見て作戦を察した。ならば、それに乗ってやるまで。

 

「キング、偽物の狙いはあなたです。こちらがスティールヘイズを撃破するまで、あなたは耐えてください」

 

「了解した。なるべく早く頼む」

 

 お互いのチームの強者が、お互いのチームの弱者を付け狙う。先に撃破した方のチームが勝利する、命がけのタイムアタックが始まった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 戦友のためにも時間は掛けられない。アスタークラウンに向かった621は、まずは10連ミサイルを発射。発射数の多い10連ミサイルは非常に避けにくく、重量四脚の機動力ではまず躱しきれない。だからキングはパルススクトゥムを使わざるを――

 

「チッ、そう上手くは行かないか」

 

 だがキングはパルススクトゥムを使わず、被弾上等でクイックブーストによる回避を選んだ。キングとて知っている。パルス兵装相手にパルス防壁を展開するのはむしろ自殺行為。だから、スクトゥムをパージして軽量化する。

 

「これでも傭兵歴は長いんでね。コイツの弱点くらい把握しているさ」

 

 軽量化してなお10発という弾幕は避けきれるものではない。数発が装甲に当たり、爆発する。だが、スクトゥムを破られてスタッガーするよりはマシ。そう割り切って逃げに徹する。

 

「生憎俺に貴様と渡り合える実力は無いんでな。消極的に立ち回らせてもらう」

 

「そうか。そっちがその気なら――」

 

 621は即座に機体を旋回させて、ナイトフォールをロック。そのままレーザーライフルを――

 

「させんよ」

 

 その瞬間に最大まで電磁加速された弾丸が飛んでくる。即座にクイックブーストで回避するが、追加で回避先を読んだ3連レーザーキャノンが飛んでくる。

 621は即座に三本の光条に対して機体を横に向け、その間に入ることで回避。ACは人型故に横を向けば被弾面積が減る。それを活かした回避法であった。

 

「なんだその避け方は……!? これで解放戦線の紐付きでさえなければ、次のレイヴンに相応しかったものを!」

 

 キングが何か怒っているが、無視。即座に機体の向きを戻し、アサルトブーストで追いかける。

 621は今のでわかった。彼から目を離すことはできないと。重リニアライフルも、3連レーザーキャノンも、どちらも遠距離から大火力を叩きこめる武装だ。今のは回避できたが、そう何度も同じように回避できるはずがない。

 

(やはり、コイツを最速で撃破するしかないか!)

 

 改めてその事実を再確認した621は、逃げるキングに食らいつく。キングはリニアライフルとバーストハンドガンによる弾幕で621を止めようとするが、621は右へ左へ、アサルトブースト中に地面を蹴って左右にステップ。弾丸は全て明後日の方向へと飛んでいき、一発たりともLEAPER4には当たらない。

 

「やるな! だったらこれならどうだ!」

 

 キングはコンソールを操作し、3連レーザーキャノンの発射モードを切り替える。オート射撃からマニュアル射撃へ。3連レーザーキャノンを、3()()()()()()()()()()()として使うモード。操作の手間は三倍になるが、手数も三倍だ。

 連射力に劣るレーザーキャノンでも、発射口が三つもあれば、単純計算で三倍の速度で撃てることになる。そうすれば、まるでアサルトライフルの如き間隔でレーザーキャノンを連射することができる。四脚特有のホバー中は構えがいらない性質も併せれば、まさに移動砲台。

 後ろに下がりながら3門のレーザーキャノンを連射するアスタークラウン。高威力、高衝撃力の光条が、湯水のごとく垂れ流される。流石の621と言えど、こんな破壊的な津波に対しては近づくことはできない。

 

(仕方ない……! レーザーライフルで地道に削るか……!?)

 

 キングがどれほどレーザーキャノンを連射しようとも、素の操縦技術では621の方が上である。射撃戦での命中率は明らかにこちらに分があるし、続けていけばいつかはキングを撃破できる。

 しかし、時間をかければラスティが危ない。相手はあのレイヴン。三度の人生で、三度とも死闘を繰り広げた相手だ。ラスティですら、長く持たせるのは難しいだろう。

 

(被弾覚悟で一気に突っ込むしかないか……?)

 

 一瞬の逡巡。しかし長い傭兵生活の経験は、彼に冷静な判断を促す。

 

(まず何をするにしても、戦友の状況を確かめてからだ。あのレイヴン相手に、どれだけやれているか──)

 

 横目で戦友とレイヴンが戦っている戦場を盗み見る。

 

(戦友!? 一体何をやって──!?)

 

 621はそこで見た光景に目を疑い。直後、二発の榴弾がこちらに飛来して、()()()()()()()()()

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「企業の走狗が鴉に立ち向かうとは……身の程を知りなさい」

 

「身の程なら知っている。既に戦友に散々わからせられたさ」

 

 ラスティは至近距離でレイヴンと対峙する。灰色のAC。ワタリガラスの名を受け継いだ伝説的傭兵。

 しかし、ラスティにとってレイヴンは()()()()の意味を持つ。

 

(コイツが……コイツこそが……!)

 

 高ぶる戦意と憎悪を押さえつける。今の自分は()()()()()()()()()ではなく、V.IV ラスティなのだ。余計な感情を見せて企業に怪しまれるわけにはいかない。

 

(だが、それでも……!)

 

 戦友には時間稼ぎをすると言ったが、あわよくば自らの手で引導を引き渡したい。そんな感情があるのもまた事実。

 なぜなら目の前の鴉こそ、ルビコンに明けない夜を齎した張本人なのだから。

 

 かつてのルビコンは、封鎖機構による厳重な隔離により自由こそなかったものの、一応の平和と秩序が保たれていた。ルビコンの火を生き延びて、企業や政府に見捨てられた人々が細々と暮らす安穏とした星だった。

 だが、たった一件のリークが全てを変えた。「アイビスの火でコーラルは焼失していない。コーラルは、未だルビコンに眠っている」。証拠のデータ付きで流されたその情報は、強欲な企業どもの目の色を変えさせるには十分であった。

 それからというものの、平和と秩序は崩壊した。企業はルビコンに進駐し、封鎖機構及び解放戦線との血で血を洗う争いが始まった。それは、未だに終わる気配すら見せない長い戦火であった。

 このようにルビコンを地獄に変えた元凶。リーク元の独立傭兵。それこそが「レイヴン」だった。

 だからラスティは「レイヴン」を憎んでいた。殺したいほどに憎んでいた。その憎悪たるや、企業に潜伏して、本来の使命を果たしながらも、同時にレイヴンに関する情報収集を止めなかったほどだった。

 

『「壁」の防衛のために解放戦線も独立傭兵を雇ったらしいが、雇われたのは誰だ? Rb23、識別名は……レイヴンだと!?』

 

 だから、自分が「壁」で「レイヴン」と対峙すると知った時、暗い悦びに包まれた。戦火を撒き散らすルビコンの仇。それを自らの手で討てると。

 そして彼は対峙した。レイヴン(621)と。それは想像していた人物ではなかった。

 その戦いぶりには背負うものの重さが垣間見えた。彼は誰よりも重い覚悟を背負っていた。話すことも儘ならない身体で、それでも為すべきことを為すために、地に足着けて戦っていた。

 

『この重圧……君は一体、どれほどのものを背負っているんだ?』

 

 きっと彼ならば。リークしたのにも、何か止むに止まれぬ理由があるのだろう。仕方のないことだったのだろう。自然にそう思っていた。

 そして、できるのならその理由を知りたい。そう願っていた。いつの間にか憎悪など何処かに消えていた。

 

『君の“戦友”となれば……その理由を知れるだろうか?』

 

 彼が621の“戦友”という立場に拘った理由。それは、その方が解放戦線の利益になるというのも、ただ単純に一人の戦士として憧れたというのも、勿論ある。

 しかし、リークの理由を知りたいという感情。それも間違いなく一つの理由であった。

 そして、その感情は旧宇宙港での共闘を経てますます強くなった。彼ほどの人間が、そこまでしなければならなかった理由。

 きっととても重いものに違いない。彼なりの正義があったに違いない。ひょっとしたらそれは、解放戦線とは相容れないものであるかもしれない。

 しかし、それでもきっと、軽んじていいものではないだろう。立ち向かうにせよ、寄り添うにせよ、一人の人間の考えとして私は尊重しよう。そう思って()()

 目の前のACを見る。ただ高く飛ぶためだけに、何も背負うこともしなかった者。それを見て気付いた。自身の勘違いに。ことの真相に。

 前方に構えたレーザースライサーを回転させ、ライフルの弾を斬り払いながら肉薄する。そのままスライサーを振るうが、レイヴンは後方に跳躍して回避する。

 カウンターでパイルバンカーが突き出されるが、それを右腕で払い除ける。

 

「何故コーラルのことを企業にリークした?」

 

 格闘戦の応酬の中で、気付けばそう聞いていた。目の前の傭兵が、どんな考えのもとあのリークを行ったのかを。

 碌な答えなど期待してない。どうせ愉快犯的なものだろう。そう思いつつも、それでも真相を知りたくて尋ねた。

 

「何故、と聞きますか。そんなの、自由のために決まっているでしょう?」

 

「自由だと……?」

 

 ナイトフォールの機体各所から光が溢れる。アサルトアーマーの予兆。ラスティは即座にナイトフォールを蹴り飛ばし、一気に距離を取る。直後、ナイトフォールを中心としたパルス爆発が起き、地面を、壁を、天井を、破壊の奔流で抉り飛ばす。

 

「封鎖機構は自由を妨げた。この星を囲い込み、その真実を覆い隠した。自由を妨げる行為は、私たちが許しません」

 

「匿名の傭兵集団が言えた義理ではないな」

 

 お互いの距離が離れ、自然射撃戦に移行する。レイヴンはBST-G1/P10(初期ブースター)の低燃費を活かし、幾度もクイックブーストを吹かす。その鋭角的な軌道は、FCSによる予測射撃は勿論のこと、熟練のAC乗り(ラスティ)によるマニュアルエイムですら捉えられない。

 だが捉えられないのはレイヴンに限った話ではない。ラスティも、元々高機動なスティールヘイズでさらに壁蹴り・床蹴りまで併用し、621と同等の射撃戦能力を持つレイヴン相手に狙いを付けさせない。

 

「私たちは特別なのです。“レイヴン”とは意思の表象。自由を求める心の代弁者。何者もそれを縛ることなどできはしない」

 

「随分と高尚な思想だな。その崇高さの前では、二重規範すらも容認されると見える」

 

 お互いに一発も当てられない高速射撃戦闘が続く。やがてラスティは痺れを切らし、状況を動かすことに決めた。

 プラズマミサイルをロック。発射装置の蓋が開き、中の誘導弾が露出する。

 

「あなたのような企業の狗にはわからないでしょうね。自由の意味も、それを目指して羽ばたく強さも」

 

「知りたくもないな、そんなもの。自分勝手して迷惑をかけることに、どれほどの意味がある」

 

 プラズマミサイルを発射。三発の誘導弾がナイトフォール目掛けて飛んで──

 

「レイヴンには翼がある。あなたたちとは違って。その意味くらいは、わかるでしょう?」

 

「っ! なんだと!?」

 

 発射された直後のプラズマミサイルを、レイヴンは狙撃してみせる。スティールヘイズのすぐ近くでプラズマが炸裂し、自分自身の装甲を焼く。

 その隙を狙ってレイヴンは双対ミサイルを発射。三対のミサイルがスティールヘイズを挟み込む。

 

「くっ!」

 

 ラスティはライフルとハンドガンを連射。六発のミサイルのうち、三発を撃ち落とす。

 しかし、今のラスティではそれが限界。残りの三発には当たらず、左右から装甲を喰い破られる。

 

「さようなら、哀れな企業の首輪付き」

 

 ミサイルでよろめいたところに放たれる、二発の榴弾。その軌道は直撃コース。回避は不可能。

 

「直進する物体ならば、外さない!」

 

 だが、ラスティはライフルとハンドガンを撃った。それぞれ一発ずつ撃たれた弾丸は、正確に飛来する榴弾の信管を撃ち抜き、爆発させる。

 

「生憎戦友の前でみっともない姿を見せるわけには──!?」

 

「狗では、鴉には敵わない。それはわかり切ったことでしょう?」

 

 爆炎を突っ切って、ナイトフォールがその姿を表す。限界まで引き絞られたその左腕は、次の行動をわかりやすく示していた。

 

「──!」

 

 条件反射で、即座に身体(機体)を捻る。ギリギリで直撃は避けたが、プラズマミサイルが鉄杭に巻き込まれ、粉々に破壊される。

 

(だが、これは好機!)

 

 至近距離で、相手はパイルバンカーを外すという隙を作った。つまりは反撃の好機。すぐさまレーザースライサーを起動して、ナイトフォールに斬りかかる。

 

「私たちのレイヴンが、その程度を想定していないとでも?」

 

「何っ!?」

 

 しかし、レイヴンは斬られる前にクイックターンで一回転。その勢いで回転蹴り。ナイトフォールの脚がスティールヘイズの左手を捉え、弾き飛ばす。その衝撃でスティールヘイズはスタッガー。最早動けない。

 

「勝負ありましたね。レイヴン、すぐにキングの救援に向かいましょう」

 

 再びナイトフォールがグレネードを構える。スタッガー中のスティールヘイズでは、避けることは絶対に叶わない。だから、このまま終わり──

 

「まだだ!」

 

「! レイヴン、退避を」

 

 スティールヘイズからパルスの奔流が溢れ出す。アサルトアーマーだ。スタッガー中でも使えるその反撃は、相手の意表を突いたカウンターになる()()()()()

 しかし、レイヴンは驚異的な反射神経でそれを見切り、後ろにクイックブースト。アサルトアーマーが当たらないギリギリの距離まで離れ、すぐまたグレネードを構える。

 アサルトアーマーには、使用後に僅かな硬直がある。だから、それを狙う。

 ギリギリの距離で待機し、アサルトアーマーが終わった瞬間にグレネードを撃つ。そうすれば回避は不可能だ。

 

「レイヴン、そのままとどめを刺しましょう」

 

 パルスの光がスティールヘイズの周囲を焼き尽くす。目を焼くほどの光量が、スティールヘイズの姿を隠す。

 だかすぐにその破壊的な光も止む。光が消えれば、そこには動けないスティールヘイズがいるはずだ。レイヴンはそれを狙い──

 

「悪いが、それは読めていた」

 

「っ!? なぜ動いて──!?」

 

──目の前にいるラスティに、逡巡してしまった。

 すぐに決断してグレネードのトリガーを引くも、それが発射される前にラスティに回転蹴りを返される。

 蹴られれば当然グレネードの狙いは逸れ、その銃口が向いた先にいたのは──

 

「キングッ!! 回避を──!!」

 

「えっ? ぐわっ!?」

 

 まさか味方のいる方角から弾が飛んでくるとは、誰も思うはずがない。意識外から放たれた二発の榴弾は、正確にキングを撃ち抜いた。

 

「ナイスだ! 戦友!!」

 

 この好機を逃す621ではない。よろめいたキングに、即座にこちらもグレネードを発射。短時間に四発もの榴弾を撃ち込まれたアスタークラウンは、当然スタッガーから逃れられない。

 

「戦友! レイヴンは抑える! キングを!」

 

「了解! 戦友!」

 

 ラスティと621は、同時に急旋回からの同時にアサルトブースト。再びその軌跡が交わり合い、狙う相手を変える。

 

「キング! 今レイヴンが救援に──!」

 

「させるわけないだろ!」

 

 ラスティを追おうとレイヴンはアサルトブーストを起動しようとしたが、その前にLEAPER4による蹴りが入る。

 衝撃によりアサルトブーストを中断させられ、さらにその隙をレーザーライフル、パルスガン、10連ミサイルによる一斉射で抉られる。

 その間にラスティはキングに肉薄し、レーザースライサーを起動。

 

「終わりだ!」

 

機体(身体)全体を使った目にも留まらぬ超高速連撃でアスタークラウンを微塵斬りにしていく。旧宇宙港で見せた、蹴りまで交えた全力の連撃。HCの装甲すら砕くそれを、アスタークラウンにお見舞いしていく。

 

「馬鹿なっ!? このブランチが、こんな飛べない紐付きどもに──!!」

 

 火力を高めるために装甲を犠牲にしたアスタークラウンでは、その連撃に耐えられるはずもなく。ラスティの手でコアを重点的に斬り刻まれ、やがてレーザースライサーの一撃はコックピットにまで届いた。

 青い高熱の刃は、彼に辞世の句を読む暇すら与えずに蒸発させる。これでアスタークラウンは沈黙。後はレイヴンだけだ。

 

「戦友が()()()()()を見せてくれたんだ。応えなきゃ戦友失格だ」

 

「くっ……まだです! レイヴンは、自由の翼! あなたたちなんかに負けたりはしない!」

 

 621による一斉射を受けたナイトフォールだが、まだその装甲は健在。戦闘続行は十分に可能だ。

 戦友はあのレイヴン相手に一矢報い、さらにはキングを撃破して相当消耗している。だから、自分が()()()()()()

 

「戦友! ()()()()()、真似させてもらうぞ!」

 

 コンソールを操作して、()()使用時に自動で構える機能をオフにする。そして、LEAPER4のコアが展開し、光が溢れ出る。

 

「なぜ構えていない? そんな自殺行為でレイヴンの意表を突こうとでも――」

 

 何故アサルトアーマーを使うときにACが立ち止まるのか。それは、アサルトアーマーの強烈な反動を抑え込むためだ。上手く当てればACすら一撃でスタッガーにまで持っていける破壊の奔流。そんなものを全方位に撒き散らすのだ。その反動は推して知るべし。

 だから、ACはアサルトアーマーを起動する場合、必ず立ち止まって構えるのである。そうしなければ反動を受け止められず、最悪自壊してしまうから。

 しかし、ついさっきラスティはその常識を覆して見せた。スタッガー中ですら起動する自動反動制御すら切って、素のままのスティールヘイズでアサルトアーマーを起動した。そして、その凄まじい反動を見事に乗りこなし、莫大な推進力としてみせたのだ。

 621が「壁」防衛で見せた、反動すら利用した戦闘軌道。ラスティはそれを自分の血肉として取り入れ、さらにそれを洗練させた。LEAPER4よりも速度の出るスティールヘイズで、武装の反動を如何に活かすか。その発想は、この土壇場でアサルトアーマーの反動を活かすという形で結実した。

 そして今度は621がそれを取り入れる。彼の戦友として相応しい人間であり続けようとするその向上心に、終わりはない。戦友が新たな高みに至ったというのなら、こちらもまた追いつくだけだ。

 

「多分、こうやるんだ、ろっ!!」

 

 パルス爆発を推進力として、弾丸が如き急加速をする。あの621ですら一瞬気を失いかけるほどの爆発的加速に、LEAPER4の全身から軋むような音が響く。

 だがそれを乗りこなしてこその621だ。戦友はやり切ったのだ。ならば自分だって。その思い一つで軋む機体を抑え込み、反動の波に乗ってみせる。

 

「落ちろぉっ!!」

 

 放たれたのは、自分自身を弾丸とした超音速の突撃。回避も防御も不可能な必殺の一撃。LEAPER4そのものが質量弾となって、ナイトフォールを撃ち貫く。

 重量級寄りのACによって放たれるそれは、ナイトフォールを一撃で破壊して余りある威力であった。吹っ飛ばされたナイトフォールは壁に叩きつけられ、そこを中心としてトンネルの舗装がボロボロと崩れ落ちていく。直接当たっていないはずの場所のですら舗装が剥がれ落ちていく。それが、今の一撃がどれほどの威力であったかを物語っていた。

 

「そんな!? レイヴン! 反撃を――!」

 

 ナイトフォールは動かない。そのまま機体各所から火の手が上がり、小爆発を繰り返す。そして一際強い光を放った後に、大爆発を起こした。

 

「生体反応消失。レイヴンの撃破を確認。終わったようだな、621」

 

 ウォルターがそう締めくくる。これにてミッションは完了だ。

 

「あ、あり得ない! レイヴンは自由の象徴! 飛ぶ翼も持たないあなたたちが彼を打ち破るなんて! こんな、こんなことが――!」

 

「名前で戦えるなら苦労はしない。違うか?」

 

「っ!!」

 

 通信越しに何かを叩きつける音がする。キングの煽りを返されたのが、相当応えたようだ。そのままレイヴンのオペレーターとの通信が切れ、静寂だけが残る。

 

「やったな、戦友」

 

「ああ。あなたのお蔭で勝てた。本当に助かったよ」

 

「それは私のセリフだ。君がいなければ、今頃私は死んでいただろう」

 

「いやいや俺だって戦友がいなかったら……じゃあ、ここは貸し借り無しってことで」

 

「そうだな。それがいい」

 

 ついさっきまでの緊張感が嘘のように、穏やかな空気が流れる。戦いが終わったことが実感されて、なんだか気分がいい。

 

「そうだ、戦友」

 

「なんだ? 戦友」

 

 そんな折、ラスティが621に一つ尋ねようとした。

 

「つかぬ事を聞くが……戦友は、何のために戦っているんだ?」

 

 621と再び共闘して、改めて気付いた。自分は彼のことを戦友と呼び慕っているが、その実彼の為人は殆ど知らない。彼が背負うものが何なのか、それを知りたかった。

 

「俺が戦う理由か……まあ、戦友になら教えてもいいか。俺は人とコーラルの……いや、違うな」

 

 人とコーラルの共生。そう言いかけてた口を紡ぐ。確かにそれこそが自分の目指す目標だ。だが、よく考えてみれば、それは()()()()()を達成するための手段であるとも言える。

 自分の本当の目的。戦う理由。それはただ一つ――

 

「大切な人たちを守るため、かな」

 

「……そうか。君が背負うものは、本当に重いんだな」

 

 621のそのたった一言に、一体どれほどの感情が込められているのか。それを感じ取ったラスティは、しみじみとそう呟いた。

 

「いやいや、ラスティが背負うものと比べたら全然――!」

 

「私は企業の狗さ。ただ使われるだけの、哀れな走狗に過ぎない」

 

「そんなことは……! いや、そうだよな……」

 

 621は知っている。彼が解放戦線のスパイであり、企業勢力を討ち倒すために戦っているのだと。それに比べれば自分の戦う理由など、ちっぽけなものだと言いたかった。

 しかし、今自分がそれを知っているのは不自然だ。だから口を閉ざす。ここにいるのは、ヴェスパー部隊のラスティなのだ。

 

「ではな、戦友。次も味方であることを祈るよ」

 

「ああ。俺も、できればあなたとは敵対したくないものだよ、戦友」

 

 別れの挨拶を交わして、お互い別々の方向へと駆ける。ラスティはラボに帰還するのだろうが、自分は外様だ。依頼を終わらせたら、早急にその場を離れなければならない。

 遠くなっていくお互いの背中を見て、二人は一抹の寂寥を覚えたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 帰りのヘリの中。いつもならこういう時に積極的に話しかけてくれるエアが黙っている。

 

「エア? 今日は静かだけど、どうかした?」

 

「はっ!? レイヴン! ……すみません。少し、調べものをしていました」

 

 話しかけたら驚かれてしまった。余程調べものに集中していたらしい。

 

「調べもの? 何について調べてたの?」

 

「『レイヴン』についてです」

 

 今日戦うことになったあの傭兵、レイヴン。彼の戦い方と、そのオペレーターの言動は、エアに『レイヴン』についての興味を湧かせるには十分であった。

 

「何かわかったのか?」

 

「はい。どうやら『レイヴン』とは特定個人ではなく、彼らが定義する『自由意志』の象徴として傭兵たちが受け継いできた称号のようです」

 

 そこまでは621も知っていたことだった。今まで三度の人生では、その『レイヴン』から直々に()()()()のだから。

 

「その始まりは今から数百年前、今よりもずっと企業の力が強かった頃」

 

 だが、ここからは621ですら知らない話だ。621は黙ってエアの言葉に耳を傾ける。

 

「当時にも、ACに比類する人型兵器があったようです。『レイヴン』は、それを駆る傭兵の一人だった」

 

 いつの時代でも、人型兵器という存在は幅を利かせていたらしい。今も昔も、そこは変わらない。

 

「『最初のレイヴン』はとても強力な傭兵だったようです。誰が相手でも、何人が相手でも、必ず殺し尽くし、生き残ったといいます」

 

 時代が移ろうとも、人の本質は変わらない。人は多様であり、だからこそ「例外」が生まれる。

 

「どんな苛酷な戦場に送られても、偽の依頼で待ち伏せされても、突然味方に裏切られようとも。その全てを踏み越えて、ひたすらに生き残り続けた」

 

 「例外」にものの道理は通用しない。戦術、戦略、策謀。何もかも、それの前では意味を為さない、

 

「その力に恐怖した企業たちは、彼を自分たちに仇なす『イレギュラー』と認定し、排除することにしました。普段はいがみ合う企業たちも、そのときだけは完璧に足並みを揃えたと言われています」

 

 共通の敵を前に、呉越が手を組む。どこかで聞いたような話だ。

 

「それでも、企業は『レイヴン』を倒すことができなかった。彼は降りかかる火の粉を払い続け、ついには企業たちが敷いていた秩序を完全に破壊し、一つの時代の終焉を齎したとされています」

 

 いつであろうと、どの時代であろうと、イレギュラーを秩序の枠に当て嵌めるのは不可能なようだ。

 それは、ある意味そういう存在に片足突っ込んでいる621にとってはよく知っていることだった。

 

「それからというものの、レイヴンの名は自由の象徴となりました。企業や管理者の築く窮屈な秩序。それを破壊しようとする者たちがその名を名乗り、そして受け継いでいった。彼らは、秩序による抑圧を受けていた弱者にとって、まさに英雄のようであったと記述されています」

 

「「……」」

 

 「レイヴン」にそれだけ重い意味があるとは。何とはなしにその名を奪っていた事実に、621もウォルターも思うところがあるようだ。

 

「しかし、時代と共にその在り方は歪められていきました。自由を求めて戦うからこそ、レイヴンを受け継ぐ。しかし、いつからか逆転していってしまった」

 

 エアは一度息を整え、物語の核心について話し始める。

 

「レイヴンを受け継いだ何時かの、何処かの誰かが勘違いしてしまったのでしょう。自由への意志となるはずのその名を、自由への免罪符とした者がいた」

 

 「名前で戦えるなら苦労はない」。それはまさにその通りだ。偉大な名前を受け継いだからって、その人が偉大になれるとは限らない。人が名を作るのであり、名は人を作らない。

 

「彼は自由と無責任を履き違え、レイヴンの名のもとに他者へ『自由』を押し付けた。それは、かつてレイヴンの敵であった、秩序を押し付ける側の者たちと何も変わらなかったそうです」

 

 力があっても、その使い方を間違えたものは英雄にはなれない。それは、企業も個人も同じことだ。

 

「そうして、歪められたままレイヴンは受け継がれていったそうです。自由と自分勝手の区別も付けられぬままに」

 

 一度歪められた名は、そう簡単には戻せない。だって、人はいつだって楽な方に流れてしまうから。

 自由のために戦うのと、自分勝手に振る舞うのだったら、後者の方が圧倒的に楽だから。

 

「今のレイヴンも、同じだったようです。ラスティとあのレイヴンの通信ログによると、彼がコーラルの湧出情報をリークして、その結果この星が戦火に呑まれることとなったようです」

 

「……そうか。それで封鎖機構は……」

 

 本物のレイヴンの犯した悪行。621はそれがレイヴンの仕業と薄々勘付いていたので、あまり反応しない。

 しかしウォルターはそうではない。レイヴンの所業も、そんな名前を621に持たせてしまったことも。どちらも彼の心を抉るには十分だ。

 

「レイヴン。きっとあなたは、レイヴンの在り方を元に戻したのだと思います」

 

「え?」

 

 エアの言葉が予想外だったのか、621は首を傾げる。

 

「今の秩序には、大切な人を守る『自由』すらない。でも、あなたは、その自由のために戦っている」

 

「……屁理屈だ。俺はそんな大層な思想を掲げてるわけじゃ──」

 

 621にとって、戦う理由はいつだって大切な誰かだった。

 星を焼いたのも、ザイレムを墜としたのも、コーラルリリースを起こしたのも。全ては大切な誰かに応えるためだった。

 だから、621は自分のことをそんな()()存在だとは思っていない。

 だが、それは621本人の視点に限った話だ。

 

「いいえ、例えそうだとしても。あなたは私に他者と交流できる環境をくれた。私の同胞を守るために動いてくれた。私の自由を守ってくれた」

 

 エアの視点からでは、それこそが真実だった。永遠の孤独から自分を救い、同胞を搾取から救うと約束してくれた「英雄」。それこそが621であった。

 

「私だけじゃない。あなたはウォルターやラスティの、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()の自由のために戦っている」

 

「それは……」

 

 621は、それを否定することはできなかった。結局いつだって621の戦う理由はそこに終始していたのだから。

 

「『レイヴン』。その称号は、あなたにこそ相応しい。私は、そう思うのです」

 

 ここまで言われてしまえば、621とて否定することはできない。みんなにとってそうでないかもしれない。しかし、621の傍にいる人たちにとって、621は間違いなく「レイヴン」なのだった。

 

「……なあ、ウォルター。俺、これからも『レイヴン』を名乗ってもいいのかな?」

 

 なんだかんだ621は、レイヴンという名前を気に入っていた。大好きな人が呼んでくれた呼び名。それは、621と同じくらいに大切な名前であった。

 だからこそ許可を求める。自身の大切な飼い主(父親)に、彼に貰ったものではない名前を名乗る許可を。

 

「お前の好きにしろ。お前が何になろうと、俺は変わらずお前を621と呼ぶだけだ」

 

「そっか」

 

 それは、ウォルターなりの肯定の言葉であった。621がどんな存在になろうとも、その背中を押してやる。それこそがウォルターの思う飼い主の役割であったから。

 

「……決めた。俺はこれからも『レイヴン』を名乗るよ。この名前とともに、大切な人を守ってみせる」

 

 それは、四度の人生で621が初めて『レイヴン』となった瞬間であったのかもしれない。

 他者から受け継いだ(押し付けられた)のではなく、自らの意思で翼を得た。それはきっと、彼を求める『自由』へと羽ばたかせるに違いない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 依頼を終えて、621とエアが帰還する。今回は随分と無茶をしたせいか、621は帰るや否や寝室に直行してしまった。エアがそれを追いかけていったので、きっと寝る前の世話はやってくれていることだろう。

 

「む。アーキバスに張った『アンテナ』からの情報が届いていたか」

 

 そういえば621が歩けるようになったことを祝いに行ったり、“特設ラボ防衛”のオペレートをしたりしていて忘れていたが、ウォルターはアーキバスのコーラル輸送ヘリが全機撃墜された件について情報を集めていた。

 依頼をこなしていた間に求める情報が手に入ったようで、ウォルターの端末にはそのときの映像ログが表示されている。

 ウォルターはそれを再生する。流れるのは、()()のACによる襲撃の様子だ。

 

「これは……」

 

 ウォルターは食い入るようにその映像を見る。この事件から感じた妙な胸騒ぎの正体を確かめるために。

 襲撃した二機は、どちらも全身をMIND ALPHAフレームで固めた重量級寄り中量二脚型。二機のうちの片方は、はっきり言って動きが悪かった。取り回しの悪い44-142 KRSV(マルチENライフル)を態々フルチャージしてから撃つ癖があるようで、防衛部隊による妨害もあってヘリは()()()()しか墜とせてない。

 しかし、重要なのはもう一機の方だ。右手に44-141 JVLN ALPHA(特殊バズーカ)、左手にLR-037 HARRIS(重リニアライフル)、右肩にVvc-703PM(プラズマミサイル)、左肩にVP-60LCS(レーザーキャノン)という対遠距離用の武装構成をしたもう一機は、防衛部隊はバズーカとミサイルで、ヘリはリニアライフルとレーザーキャノンで撃破していき、四機しか墜とせない一機目の代わりに殆ど全てのヘリを墜としていた。

 

「この動き、どこかで……」

 

 何かが引っ掛かる。ウォルターは確信していた。この胸騒ぎの原因は、このもう一機のACにあると。だが、この映像だけでは胸騒ぎの正体までは掴めなかった。

 

「……気のせいなら、いいのだが」

 

 気のせいではないと確信しながらも、それでもそう零してしまう。621とエアの夢には障害が多い。それがまた一つ増えることなど、あってはならない。だから、気のせいであってくれと祈ってしまう。

 

「全身MIND ALPHAフレームのAC……また『アンテナ』を増やす必要がありそうか」

 

 二人が夢を成就させられるように。ウォルターもまた、自分にできることを一つずつ行っていくのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「よく聞け、621。これはベイラムとアーキバス……両者連名での作戦だ」

 

 ブランチとの激戦の疲れも癒えた頃。621は、ウォルターの要請で共にブリーフィングを受けることになった。

 

(ついに来たか……あの化け物を退治する時が……!)

 

 スネイルやらミシガンやらイグアスやらがわちゃわちゃしているブリーフィングを話半分に聞きながら、許せない兵器を破壊する機会が来たことに覚悟を決める。

 “アイスワーム撃破”。集積コーラル到達に繋がる王手は、今様々な勢力の思惑が交わる中で打たれようとしていた。

 




ラスティ
 今回の主人公。なんかしれっとミサイルやグレネードを撃ち落としてるし、アサルトアーマーを推進力に使うし。何なんだこの人。順調に化け物街道を猛進中。

621
 ついに本当の意味でレイヴンとなった鴉。大切な人のために戦う姿は、「犬」でも「鴉」でもあるかもしれない。

真レイヴン
 ダブスタクソ傭兵。でも実力は本物。発射直後のミサイルを撃ち落とすのは反則だと思います。

キング
 全話から引き続き不憫な男。3連レーザーキャノンを3門レーザーキャノンにするというド級のフロムマジックを見せたのに、直後に味方にグレネードをぶち込まれるとは……。

レイヴンオペレーター
 煽られて台パンしました。原作でのレスバ勝ち逃げムーブにイラッ☆となったので、ラスティたちに完膚なきまでに叩き潰してもらいました。

エア
 レイヴン認定お姉さん。原作よりも人間的になった結果、レイヴンへの所感が変わってます。それはそれとして621のことは引き続きレイヴン呼びします。

ウォルター
 MIND ALPHA二機による襲撃に何かを感じ取った模様。特に、動きがいい方の機体を警戒しているようです。

二機の不明AC
 動きが悪い方……一体何ト・何クソンなんだ……全くわかりませんねえ!
 動きがいい方は本当に何者なんでしょうか……

 ということでVSブランチ決着回。投稿が遅れて本当に申し訳ない! 今週はクソ忙しかったので、なかなか執筆時間が取れませんでした。でも来週からは、きっといつものように二日に一本投稿に戻せる……といいなあ(血涙)
 次回はアイスワーム撃破……の前に幕間を一つ入れようと思ってます。内容はアイスワーム直前の、各陣営の反応とか。乞うご期待!




































































 五機ものACが激戦を繰り広げた特設ラボ前。それだけの戦火の中では、()が一匹飛び回っていたところで、誰も気付くことはできない。だから、一機のステルス機体が戦火に紛れて侵入し、いつの間にか撤退していたことなど、誰も気付けるはずがない。

「フフフ……ついに手に入れました。アーキバスが開発した代替コーラル技術……その詳細なデータを」

 いつもは努めて無感情な喋り方をしようとする彼女が、今日は明らかに感情を隠しきれていない。そんなものがそれほど重要なのかと()が聞くと、彼女はやはり感情を隠しきれない声で答えた。

「あなたにはこれの価値がわかりませんか……代替コーラル技術。これさえあればコーラルを使わないC兵器が作り出せる。()()()不完全な改修しかできなかったS()O()L()も、これならば……!」

 彼女はかつての敗北に思いを馳せる。()()()()の真価は、コーラルの群知能を支配し、意のままに操ることにあった。それは、コーラルをパルスアーマーのように纏ったり、コーラルによる分身を作り出して多重攻撃をしたりするという、常軌を逸した戦闘を可能とする。
 だが、かつての彼女はその再現に失敗した。出来上がったのは、ACよりは強い程度の不完全な機体。

「変異波形にも乗っ取れない、完全なるアイビス! これならば、お茶濁しに出来損ないのオービットを付ける必要もない!」

 彼女は笑う。最早、コーラルリリースを妨げるものはないと。今日もまた一つ。この星に破滅の種が蒔かれていた。

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