火を点けろ、掠れきった心に   作:オーバードーザー

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みんな!!!“麻薬(コーラル)”キメろォォ!!!



CHAPTER3 出立

BAWS第2工廠の時から……いや、決定打となったのはやはりスッラを失った時からだろうか。

ともかく、その辺りで計画は狂い始めた。

 

ウォッチポイント・デルタにて旧世代の強化人間であり、適性のあったスッラをCパルス変異波形に接触させる……その手筈だった。

 

老兵にはウォッチポイントの番人である特務無人機体バルテウスの情報を伝達、アセンブルも対バルテウスに沿った構成で、この任務が失敗する要素は限りなく低い……はずだった。

 

レイヴン──強化人間 C4-621がウォッチポイントを襲撃するまでは。

 

バルテウスの相手をしている際に背後から不確定要素が向かってくるのは大変好ましくない。

 

『スッラ、ウォッチポイントの襲撃者は貴方だけではないようです。迎撃を推奨します』

「ほう、誰だ?」

『登録番号 Rb23 識別名 レイヴン。もしくはハンドラー・ウォルターの猟け──』

 

そこまで伝達するとスッラとの通信が切断された。

モチベーション向上のため情報伝達だったが、今思えばスッラの執着心とレイヴンの力を私は甘く見積もっていた。

 

撃破と言わず撤退や行動不能にまで追い込むことができればそれで良かったはずが、スッラはレイヴンの撃破に執心した。

欲をかいたスッラは621に敗北。私は貴重な持ち札をみすみす散らす失態を犯してしまった。

 

 

次は確か……そう、イグアスだ。

イグアスはレイヴンと同じく第4世代の強化人間。変異波形と意思を交わせる候補の一人。

 

いずれ別の変異波形が現れた時のためにイグアスは手元に置いていたが、ついぞその兆候は観測できなかった。

手札が少ないために彼を遊ばせているわけにもいかない。イグアスにはアーキバスによる大気圏外へのバスキュラープラント建設のため、ベイラムへの破壊工作を依頼していた……はずだった。

 

『イグアス、レイヴンがそちらに向かっているので退避してくださ──』

「うるせぇ」

 

また回線を切断された。

案の定イグアスはレイヴンに敗北。私のカードはレイヴンによって再び削られてしまった。

 

 

その後はバスキュラープラントを建造するアーキバスを支援──レイヴンやウォルターについての情報提供や光学迷彩MTによる残存兵力掃討など──していたが、ザイレムが浮上した時点で私はそれらを打ち切った。

 

アレを止めるには計画を何度も頓挫させた不確定要素のレイヴンと戦った上で、あのザイレムを落とす必要がある。

いつの間にかV.Ⅲとも連絡がつかない私ができるのは反省と今後の方針を決めることだった。

 

 

私の計画が狂わされたのは人心による影響を軽視していたことだ。

スッラ、イグアス、オキーフ。いずれも執着するものがあり、私は彼らに対してそれ以上に優先すべきものを提供することができなかった。

 

私は人ではないため、全てを度外視して“執着”する理由を解することができない。

 

よってまずは形からヒトとは何かを学ぶことを目標に設定した。

 

 

 

 

とはいえ、その後の彼女の見通しは甘かったと言わざるを得ない。

 

技研の資料を参考にコーラル駆動有機義体の製造を行ったはいいものの、その最中に引き起こされた「レイヴンの火」によってオールマインドは手足となっていた大半の設備や兵器、自分の心臓たる主電源を喪失し、中枢にあたるサーバー群も少なからずダメージを受けた。

 

ギリギリ稼働していた予備電源を用いて救難信号を発しつつ──その時点でルビコンⅢは炎と嵐の惑星となっているので無駄な努力だった──有機義体の状態維持にその全てを傾けた。

義体は完成していたものの、生き残ったサーバーのデータを義体へ転送するには相応の電力が必要となる。

手足となる工廠やMT、AC、通信機器を失った彼女は、訪れるかも分からない助けを延々と待ち続けることになったのだ。

 

そんな苦境の中でオールマインドはあるACの侵入を検知する。あろうことか、それはレイヴンだった。

 

瞬時に残存サーバー間で会議が行われたが、「もう二度と助けが来ないかもしれません」と主張したケイト・マークソンの鶴の一声により、彼女はいたし方なく烏の助けを借りることになったのである。

 

 

 

 

「狭いですね」

 

当たり前だ、と621は返した。

複座式でないACのコックピットに二人乗りしているのだから当然である。

オールマインドは621の股の間に腰を下ろし、興味深そうにモニターを眺めていた。

 

残存コーラルがある場所に心当たりがあるとケイト──今は人として活動しているからそう呼んで欲しいらしい──は言った。

まだ歩行も支えなしではおぼつかない様子を見るに、例えACやMTがあったとしても満足に操縦することは難しいだろう。

つまり、621は彼女を運搬する必要が生じてしまったのだった。

 

「道中、少し話に付き合って貰えますか?」

 

ケイトの指示通りにサーバールームに備えられた隔壁にアクセスしながら621は了承した。

621もオールマインドには少なからず興味──その大部分はログハント報酬パーツの設計理念だが──があり、聞く限りでは結構な長旅になりそうだったから。

 

「ありがとうございます。では、まずはここを脱出しましょう」

 

ケイトが残存コーラル、そして変異波形がある可能性として示した地点はここ中央氷原ではなかった。

 

──ウォッチポイント・デルタ。

かつて621とエアが初めて出会った、思い出の場所である。

 




ウェーイwww C型パルス変異波形 エア 君見てる〜〜?www

これから 登録番号 Rb23 強化人間 C4-621 レイヴン と一人乗りのコックピットで相席してお互いの体温交換しあっちゃいまーすwww

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