火を点けろ、掠れきった心に   作:オーバードーザー

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騙して悪いが、SSなんでな。



CHAPTER2 光明

指定座標は技研都市の奥、バスキュラープラントからは比較的距離が離れた場所だ。

 

ほぼ衛星軌道上で集合したコーラルがレイヴンの火になったとはいえ、その天まで延長されたバスキュラープラントの根元があった技研都市跡も少なからずその被害を受けている。

 

しかし、多少の汚れや傷こそあるものの、座標にあった構造物は未だその機能を保っていた。

 

それは扉──いや、蓋と言っても差支えはないだろう。

地面に対して垂直に、マニュピレーターで開け閉めすることができる堅牢な出入口が設置されている。

 

無造作にそれを開いてみれば案の定、更に地下へと降下できそうな縦穴が口を開けていた。

特にアナウンスもなく更新されたマーカー情報も、蓋の先を示している。

 

また砲台は嫌だなぁ、とも思いながらも621は深淵へと飛び込んだ。

ENが底を突かない程度にスラスターを吹かせて慎重に一本道を下っていき、おおよそ10分で終点に到着した。

 

しかし全く光源と呼べるものがなく、各部のデバイスが発する光だけでは心もとない。

そこで左肩にミサイルの代わりに搭載していた投光器を起動させた。状況に合わせて組み換え可能なACの面目躍如である。

 

『オールマインドへ、ようこそ』

 

光は規則正しい整列した棺桶の群を照らし出す。どうやらここはオールマインドの本体と言えるサーバールームだったようだ。

サーバーは煙を吐き出しているもの、光を失ったもの、未だ稼働を続けるものと様々で、そのうちの一つにマーカーが更新される。

 

『VP-20C──許容範囲内です。レイヴン、あのサーバーにACのジェネレーターを接続してください。方法はこちらで指示します』

 

オールマインドの指示通りに光のない棺桶から伸ばした配線をACの動力源へと接続した。

 

『ありがとうございました。全データ転送までにあちらの地点へ向かってください』

 

ジェネレーターが鈍い音を響かせると機体の投光器と姿勢制御以外の機能は沈黙してしまった。

この配線は目の前のサーバー以外にもどこかへ繋がっているのだろうが、それらとACの全機能と同時に維持し続けるのは難しいのだろう。

 

「徒歩で?」

『徒歩です』

 

この状態でACやMTに襲われればひとたまりもないので警戒はしつつ、621はコックピットから垂れ下がったロープに掴まり、冷たい床に足をつけ、次なる目的地へ急いだ。

 

「オールマインド、今回の報酬って」

『恐らく、ここでの成果が貴方にとっての報酬に相当するでしょう』

 

成果。

オールマインドが「レイヴンの火」の後も何かの研究を続けていたということだろうか。

そう聞くとオールマインドは少々誇らしげな声色で肯定した。

 

『元々我々はある計画を遂行するために動いていましたが……』

 

とても、とても長い沈黙の後に音声が再び響く。

 

『様々な事情が重なり、当初の予定通りに遂行することが難しくなりました』

 

『よって今後の方針の再定義、並びにより正確な判断材料収集のため──』

 

621は培養槽のようなものが立ち並ぶ区画へ足を踏み入れ、マーカーが示す水槽へ到着した。

 

中には槽外から引き込まれた配線に繋がれた黒髪の女性が膝を抱えるようにして液体の中に浮かんでいる。

 

『ヒトとは何かを、今一度学ぶことにしました』

 

 

 

 

「レイ、ヴン」

 

はあはあとオールマインド──がインストールされた有機義体は息切れを起こしていた。

 

「身体を、動かす、とは、案外、難し──ゲホゴホっ」

 

分かる、と621は頷いた。

だって自分もそうだった。ウォルターに拾われるまでは人としての機能のほとんどは削ぎ落とされていたから。

人の身体を模倣しているとはいえ機体と人体では動かし方はまるで違う。それが身体を持たないシステムだったオールマインドなら、なおさらのことだ。

 

621は培養液が放出された水槽で生まれたての子鹿のように起き上がれないオールマインドの歩行を補助し、用意されていた黒いスーツの着用を手伝った。

なるほど確かに。これは誰かの手を借りなければ難しかっただろう。

 

「それで、報酬は?」

 

むせこんでいる自分に労りの言葉の一つもない彼の要求に自然とオールマインドの眉は八の字になった。

 

「……この有機義体は“コーラル”と、それを利用した技術を用いています」

 

コーラル。

半世紀以上の安定稼働を可能とする夢のエネルギー、高性能な情報導体、鳥や魚に似た群知能を持ち、星系を丸ごと焼き払うような炎上を起こす不可思議な物質。

 

そして、彼が探し求めるエアの同胞であり、彼女そのものである。

 

「C型パルス変異波形 エア。私の成果と技研の資料に不備がなければ、貴方が彼女と再び言葉を交わすことができるかもしれません」

 




悔しいですが今のAMちゃんはレイヴンに頼るしか生きる道がありません。
かわいいね。


オマケの普段使いアセンブル構成
右腕 SG-027 ZIMMERMAN
左腕 SG-027 ZIMMERMAN
右肩 Vvc-70VPM
左肩 Vvc-70VPM
頭 20-081 MIND ALPHA
コア NACHTREIHER/40E
腕 NACHTREIHER/46E
脚 06-042 MIND BETA

たまに両肩がワーム砲になる。

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