四度目の鴉   作:Astley

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 おっかしいな~。序盤でやっていい難易度じゃないぞこれ。


07:人間vs人間

 対峙するLEAPER4とロックスミス、621とフロイト。お互いが相手の次の行動を待ったことによって、一時の膠着が生まれる。

 果たしてそれは偶然か、必然か。その硬直はお互いが同時に動き出したことによって破られた。

 621は10連ミサイルを発射。対するロックスミスはレーザードローンを展開。それぞれお互いの相手に向かって飛んでいく。

 レーザードローンは拘束力が高い武装だ。一度取り付かれれば、大量のエネルギーを消費して強引に振り切るか、壁でも蹴るかしない限り延々と撃たれ続けることになる。

 だから、621は撃つ。こちらに向かって飛んでくるドローンを、リニアライフルで一つずつ狙撃していく。小さく素早いドローンを撃ち落とすのは骨が折れるが、戦闘軌道を取るスティールヘイズの左腕に弾を当て続けることに比べればわけはない。

 六機のドローンは、正確に六発の弾丸に貫かれ、青い爆炎を上げて弾け飛ぶ。脅威は去った。621はロックスミス本体に目を向ける。

 そこには、十発のミサイルを、正確に十発の弾丸で貫いたロックスミスがいた。ドローンとミサイルの爆発により二機の間に煙が立ち込め、お互いの視界を遮る。

 621はアサルトブーストを起動、一切躊躇せず煙の中を突っ切ることを選ぶ。

 

「っ!」

 

「そう来なくちゃ!」

 

 奇しくも同じ考えだったようだ。煙の中で二機のACがぶつかり合い、火花が散る。咄嗟に621はパルスブレードを発振し、同時にフロイトもレーザーブレードを起動していた。

 淡い黄緑の袈裟斬りと、青い水平斬りが同時にお互いのコアを切り裂く。お互いの装甲の表面に、赤熱した裂傷が刻まれる。

 621はロックスミスを足蹴にすることで後方に跳び、一度距離を取る。

 

「これだよ! やっぱり人間同士の戦いはこうでなくちゃ面白くない!」

 

 しかし、フロイトは構わず詰めてきた。リニアライフルを構えるが、その前に懐に飛び込んできたロックスミスは右腕で強引にリニアライフルの銃口を逸らす。

 そのままロックスミスの拡散バズーカの銃口が、LEAPER4の方を向いた。

 

(まずい、躱せない!? だったら!)

 

 LEAPER4の連装グレネードキャノンもロックスミスを狙い、同時に発射。凄まじい爆炎が巻き起こり、二機のACを包む。相討ちにも見える光景だが、しかし二機の反応はまだ消失していない。

 爆炎の中からACが飛び出す。流石にこうなっては、一度仕切りなおすしかない。そう判断した二人は、互いに距離をとる方向に動く。

 621とフロイトは、自機の損傷具合を確かめる。どちらも装甲はボロボロで、コアに至ってはひしゃげている。だが、まだ戦える。動くし、武装も使える。なら、問題ない。またしても621とフロイトの思考が一致する。

 距離が開けば、必然射撃戦が始まる。リニアライフルとアサルトライフルの弾が互いの間を飛び交い始めた。

 

(射撃戦なら、俺の方が有利だ。ここで削って、崩れたところを確実に潰す!)

 

 二機のACは平行線を描きながら撃ち合う。フロイトは小ジャンプ移動で回避しているのに対し、621はラスティにしたのと同じ緩急による回避を行う。

 その差は被弾率の顕著な差という形で現れ始めた。一方的にロックスミスの装甲だけが削られ、LEAPER4には殆ど弾が当たらない。このままなら殺れる。そう621が思ったときだった。

 

「なるほど……緩急でFCSを騙しているのか。面白いな」

 

 その言葉と共に、突然ロックスミスの弾がLEAPER4に当たるようになる。

 

「マニュアルエイムじゃなきゃ当たらないとは、凶悪にもほどがある……面白い、本当に面白いなお前は!」

 

(こいつ……もう俺の動きに対応して……!?)

 

 被弾が増え、ACSへの負荷が蓄積していく。こんなに早く対応されたのは初めてだ。必然、焦燥感が身体の奥底から湧き上がってくる。

 しかし、621は冷静に現状を分析する。焦る必要はない。さっきまでこちらが一方的に当てていた。耐久力もACSの負荷もこちらの方が有利。同じように削れるのなら、向こうの方が先に限界を迎える。

 

「もっとだ! もっとお前の動きを見せろ!」

 

 そんな621の分析は、ロックスミスが再び展開したドローンによって白紙に戻された。展開された六機のドローンは、三機ずつ二つの群れを形成し、左右に分かれる。そして、それぞれの群れが集合、合体し、二つの大型ドローンとなる。

 レーザードローンの高出力モード。手数を犠牲に単発火力を大幅に引き上げたそれは、今の損傷したLEAPER4ならば致命傷になりかねない。

 

(やっぱりそう簡単に勝たせてはくれないか……!)

 

 二機のドローンは、今度は撃ち落とされないようLEAPER4とは距離を保ってレーザーを放つ。ロックスミス本体と二機のドローンによる飽和攻撃は、いかに621と言えど避けきれるものではない。

 フロイトと一機目のドローンの射撃を避けたところに二機目のドローンの狙撃が来る。躱しきれずに連装グレネードキャノンに被弾。誘爆する前にパージする。

 

(このまま撃ち合ったら100パーセント負ける!)

 

 そう判断した621は、一度ロックスミスに背を向けてアサルトブースト。一気に市街地の方へと加速する。

 

「逃げるのか? 待て! お前にはもっとその動きを見せてもらわなければならない!」

 

 後ろで何か言っているが、無視。建物と建物の間を潜り抜け、奥深くへと入り込む。ドローンはついてくるが、その動きは先程までと比べてかなり遅い。

 ドローンはその構造上かなり脆い。それこそ、壁や地形にぶつかっただけで壊れてしまうほど。だから、このような障害物の多い場所であれば、その動きはかなり制限される。

 621は余裕をもって二機のドローンを撃ち落とした。

 

(これで暫くドローンは来ない)

 

 621はフロイトが来るまでの僅かな間に一息をつく。

 

(だけど、グレネードを破壊された。それに機体も限界が近い)

 

 現状はかなり分が悪い。火力要員であったグレネードを失い、彼我の火力差は大きくなった。まともに戦った場合、ダメージレースで確実に負ける。

 

「621……厳しいようなら依頼を放棄して逃げろ」

 

 悩む621の耳に、ウォルターの通信が入った。

 

「解放戦線には悪いが、お前は既にV.IVを撃退し、V.Iと互角に渡り合う姿を見せている。もう十分価値は示した」

 

 ウォルターにとって、今回の依頼を621に受けさせた元々の理由はそれだけしかない。独立傭兵レイヴンの価値を示し、コーラル争奪戦の最前線に食い込ませること。

 それを考えるならば、今回の621の戦果はもう十分と言えるものだった。だから帰還を促す。もう命を賭ける理由は無く、戦う必要はない。

 

「『ウォルター……』」

 

 胸の中に暖かなものが広がる。同時に、さっきまで茹っていた頭が急激に冷えていく。今更になってウォルターを心配させてしまっている自分の不甲斐なさに気付き、情けなく感じた。

 

(……そうだった。俺の目的は生きてもらうことであって、殺すことじゃない)

 

 今になって思い出す。いつの間にか何のために戦うのかを忘れ、手段と目的が逆転していた。こんな精神状態で戦っていては、上手く行くはずがない。苦戦も当然だ。

 

(俺がフロイトと戦う理由は、チャティに生きてほしいから。あいつを守りたいからだ。決してフロイトを殺したいからじゃない)

 

 だったら、迸らせるべきは殺意ではないはずだ。コックピットの中で621は一度目をつぶり、顔を上に向ける。そして、ゆっくりと息を吐いた。

 

「『ウォルター、絶対生きて帰ってくる。だから、依頼を続行させてほしい』」

 

「621……」

 

 もう大切な人を死なせはしない。その思いを胸に、621は自身の選択を口に出した。

 

「……お前の自由に決めろ。だが、生きて帰ると言った以上、必ず帰ってこい」

 

「『もちろん』」

 

 621は覚悟を決める。殺意や憎しみが消えたわけではない。しかし、それよりもずっと強い感情が心の中で燃えている。

 

(もう、間違わない)

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「レーダーの反応はこっちか」

 

 フロイトは躊躇いなく市街地へと踏み込む。あの鴉にはとてつもない可能性を感じたのだ。だから、まだまだ自分の研鑽に付き合ってもらわなければ気が済まない。

 

「『俺の動きを見たいと言ったな?』」

 

 突然、通信から合成音声が聞こえてくる。レイヴンは機能以外死んでいる旧世代型強化人間という噂を聞いたことがあったが、どうやら本当のようだ。

 

「『だったら見せてやる。後悔するなよ』」

 

「後悔なんて――!」

 

 言い終わる前にアラートが鳴る。条件反射でクイックブーストを吹かすと、電磁気力により加速された弾丸がさっきまでいた場所を抉り取った。

 

「そこか!」

 

 フロイトは弾丸の角度から621の位置を逆算、そちらに向き直る。建物の上に立つLEAPER4を見つけ、アサルトライフルで撃とうとした。

 だがLEAPER4は撃たれる前に建物の壁を蹴って離脱する。

 

「また壁蹴りか。その動き、もっと見せてくれ」

 

 壁蹴り自体はここまでの戦いで何度か見ている。だから、それ自体に驚くことは――

 

「いや、この動きは――!?」

 

 LEAPER4は乱立する建物の間を、一切止まることなく跳ね回る。まるでゴムボールのように壁と壁の間を反射し続ける。

 自分の周囲を高速で跳び続けられ、フロイトはLEAPER4を捕捉することができない。だから当然ライフルも拡散バズーカも当てられない。

 そんな中でもLEAPER4はフロイトへの攻撃の手を緩めない。ロックスミスの周りを回るように飛び跳ねながら、その中心に向かって射撃し続ける。

 

「ACに、こんな動きが……!!?」

 

 621はチャージリニアの反動すら利用して跳び続ける。こうした高反動武器を撃つときに構えが必要なのは、そうしないと反動でACが転倒してしまうからだ。しかし621は構えずにチャージリニアを放つ。反動でLEAPER4は後方に一回転してしまうが、そのままパルクールの要領で壁に脚をつけ、再び跳躍する。

 

「ああ、もっと、もっと――!?」

 

 周囲を跳び回られながら、絶えずリニアライフルと10連ミサイルを撃ち込まれる。LEAPER4の鋭角的な動きと速度も相まって、その攻撃はまさに一人十字砲火――否、十字などという生易しいものではない。

 四方八方から弾丸とミサイルが飛来し続け、フロイトは生まれて初めて生命の危機というものを感じた。

 

「まだだ! これを習得するまで()()()()()()!」

 

 反撃としてレーザードローンを展開するも、LEAPER4の動きについていけない。星でも描くかのような急制動についてゆけず、勝手に壁に突撃して次々に自壊していく。

 

「くっ!」

 

 フロイトはロックスミスのACSが限界寸前であることに気付く。このタイミングでのスタッガーは致命的だ。ACSをリセットするために、パルスアーマーを展開しようとした。

 

「『それを待っていた』」

 

 LEAPER4はアサルトブーストを起動。さらに、後方へとチャージリニアを放ち、反動で無理やり更なる加速を入れる。LEAPER4の体勢が崩れかけるが、それを621は気合いで食い止める。

 二重の加速に背中を押されたLEAPER4は、瞬く間にロックスミスに肉薄した。そのままアサルトアーマーを起動。ロックスミスが展開したパルス防壁を、LEAPER4によるパルス爆発が食い破り、そのままスタッガーに追い込む。

 

「馬鹿な……死ぬ――!?」

 

「『終わりだ』」

 

 動けなくなった獲物を逃がす道理などない。621はパルスブレードを起動し、コアに二連撃を叩き込んだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「V.I フロイトの離脱を確認。まさか、アーキバスの最高戦力に勝つとは……」

 

 戦闘は終了した。V.IVとそのMT部隊は撤退。V.Iは辛くも脱出したが、ACは大破。V.IのMT部隊はV.Iがジャガーノートや621との戦闘を優先したせいでいつの間にか解放戦線に撃破されていたようだ。

 つまり、「壁」は守られた。企業による壁越えは失敗し、べリウス地方における勢力図はこれを機に大きく書き換わることになるだろう。

 621はACの中で深呼吸をする。できるだけ冷えた空気をたくさん取り込んで、加熱した脳をちょっとでも冷やしたかった。

 

(無茶しすぎたな……)

 

 LEAPER4はもう動かない。連続壁蹴りは脚部に与える負担が尋常ではなく、おかげで駆動系が完全にお釈迦となってしまった。本当は脱出したフロイトを捕縛なり殺害なりしたかったのだが、ACがこの有様ではそれすら不可能であった。

 

「621……今日は本当によく頑張ってくれた。帰ったらゆっくり休め」

 

 ウォルターの声を聞いて、とてつもない安心感が湧いてきた。そのせいで、急に眠気が襲い来る。瞼がどんどん重くなっていく。だけど、眠ってしまう前にこれだけは言わなければならない。

 

「『ウォルター、心配かけてごめん』」

 

「いや、いい。お前こそ、よく生き残ってくれた」

 

 ウォルターのヘリの音が近づいてくる。もう、眠ってしまってもいいだろう。そうして621は意識を手放した。

 後にウォルターがLEAPER4のコックピットを開けたところ、そこにはどこまでも安らかな表情で眠る621の姿があったという。

 




V.I フロイト
 筆が乗ったせいでプロットの時よりも数倍強化されちゃった真人間。10連ミサイルを撃ち落としたり、マニュアルエイムで回避軌道を潰したりするタイプの真人間。真人間……?

621
 フロイトが超強化された弊害で、滅茶苦茶強くせざるを得なくなった猟犬。どうすんだよ……これ以上の戦闘描写なんて絶対無理ぞ……
 ウォルターパッパの言葉に嬉しくなっちゃって、突然フロイト相手に合成音声でイキりだす様は紛うことなき駄犬。

ウォルター
 依頼の可否<621の生存な我らのごすずん。ヒロインの言葉が主人公を覚醒させるのは少年漫画の常。

 ということで「壁」防衛戦はこれにて終了。おかしいな、ACはもっと殺伐とした世界観だったはずなのに。プロットではもっと淡々と戦闘していたはずなのに、書いてるうちにいつの間にか少年漫画になっていた……。なんで?
 次回は幕間ですかね。壁守り後の各人物の反応とか書く予定。

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