「知事の道義的責任の問題に」庁内からも厳しい声 兵庫の元局長死亡

島脇健史 石田貴子

 兵庫県の斎藤元彦知事らを内部告発した元西播磨県民局長の男性が7日に死亡したことで、県庁内に動揺が広がっている。斎藤知事を支えてきた県議や県幹部らからも、一連の経過について知事の初動対応の問題点を指摘する声が強まり、「道義的責任」を問う声も出ている。

 9日、斎藤知事の公務の予定は取り消され、「庁内打ち合わせ」のみとなった。県秘書課は、元県民局長が亡くなったことを受けて「総合的に判断した」と説明した。

 元県民局長は、告発内容の真偽をただすために県議会に設けられた調査特別委員会(百条委員会)での証言を控えていた。死亡が明らかになった8日以降、百条委の設置に賛成した中堅県議のもとには、県職員から「徹底的に調査してほしい」といった声が相次いで届いているという。

 この県議は「一連の問題の発端は知事にある。追及の手を緩めてはいけない」と言う。

 県職員労働組合は10日に、知事の辞職を求める申し入れをする。

 斎藤知事は告発についての調査結果が出る前に、内容を否定した。知事を支援してきた自民県議の一人は9日、「初動が痛かった。歴史に残るくらい。認めるところは認め、謝りながら前に進むべきだった」と指摘。また「どうして元県民局長が亡くなったのか検証する必要がある。(今後の百条委は)調査対象になる職員の心理的負担の軽減策を講じてからやるべきだ」と話した。

 斎藤知事を支えてきた県幹部の一人は、元県民局長が死亡したことで「知事の道義的責任の問題になった」と言う。別の県幹部からは「もう知事を守りきれない。今は職員を守らないといけない」との声が上がっている。

一連の問題「政局に発展」

 元県民局長が告発文書を配布した3月中旬以降、知事や県議会はどのように動いてきたのか。

 今回、内部告発で指摘されたのは7項目ある。斎藤知事から県職員へのパワハラ▽県内企業からの物品の受け取り▽県職員が斎藤氏の県知事選で不当な手伝い▽昨秋のプロ野球優勝パレードの寄付金集めでの県幹部らの不正行為――などだ。

 これに対し、斎藤知事は3月27日の記者会見で「うそ八百」と指摘を否定。県は懲戒処分の可能性があるとして、3月末に予定されていた元県民局長の退職人事を取り消した。また、斎藤知事は告発文書を業務時間中に作成したとも指摘して「公務員として失格」と述べた。

 だが、その後、「うそ」とも言い切れない事実が判明した。斎藤知事が昨夏、県内の家電メーカーを視察した際、同行した県産業労働部長がコーヒーメーカーを受け取っていたことが分かった。そのうえで県は5月、県人事課による調査で「文書の核心部分が事実ではない」などと判断。元県民局長が県のパソコンを私的に利用していたとも指摘し、5月7日に停職3カ月の懲戒処分にした。

 ところが、県議会の一部会派から「疑惑を向けられた知事の下の職員による調査では不十分だ」などの批判があがり、斎藤知事は第三者機関による再調査を表明した。それでも批判は収まらず、無所属県議や市民グループが調査権限の強い百条委員会の設置を県議会議長に要請。議長が所属する最大会派の自民も百条委設置に傾いた。

 第三者機関の調査を前に、百条委の設置を推し進めた背景に、政治的な対立も見え隠れする。

 斎藤知事は2021年の知事選で、維新の推薦を受けた。自民会派を離脱した一部の県議からも支援を受けた。だが、自民県議の大半は当時の副知事を支援し、分裂選挙に。その後、自民会派は再び一つになったが、知事選で元副知事を支援した自民県議らを中心に百条委設置の動議提出を決めた。

 また、立憲県議らが所属する会派も一緒に動議を提出した。

 百条委は疑惑の解明が目的だが、「一連の問題が政局に発展した」(公明県議)との声もある。斎藤知事の任期満了は約1年後の来年7月末に迫っている。(島脇健史、石田貴子)

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【動画】兵庫県の元局長が死亡したことを受け、囲み取材に応じた斎藤元彦知事=8日午後、島脇健史撮影

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この記事を書いた人
島脇健史
神戸総局|選挙・震災担当

地方行政・選挙、気象・災害、地域医療

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    ダースレイダー
    (ラッパー)
    2024年7月10日14時2分 投稿
    【視点】

     鹿児島県警の事例もあります。内部告発に関する社会的合意を形成していかないと権力者による都合の良い説明だけで終わってしまうでしょう。亡くなった職員の方がどのような思いで行動したのか? 告発内容が事実かどうかの調査が必要なのはもちろんですが、公的機関の内部告発という行為自体の公益性についての国民的議論が必要な時期だと思います。

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    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2024年7月10日16時44分 投稿
    【視点】

    知事を支援してきた自民県議が言うように「初動が痛かった」。私も、元西播磨県民局長の内部告発を「うそ八百」と言い放ち、「公務員として失格」と批判した会見の映像を見て、「あ、この人、終わったな」と思った。

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