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招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.3:招集通知等の作成および委任状勧誘

1. 招集通知の作成・発送

株主総会の招集許可決定を得た株主は、自己の名義および責任において、株主に対し、招集通知の送付と株主総会参考書類および議決権行使書面の交付等を行わなければなりません(会社法298条1項括弧書き、301条。これらについて会社や会社の株式代行事務機関の協力義務はないとされています)。

《実務のポイント》招集通知の作成・発送上の留意点は?

議題の記載

まず、株主が開催する株主総会において議題(会社法299条4項、298条1項2号)とできるのは、裁判所が許可した事項に限られます。このため、招集通知の作成の際には、株主総会の議題(目的事項)が、招集許可決定の主文の範囲内となるよう注意する必要があります。

会社側見解の記載
会社開催総会においては、株主提案議案に対する取締役会の意見があるときは当該意見の内容を株主総会参考書類に記載します(施行規則93条1項2号)。では、株主開催総会において招集株主が作成する株主総会参考書類において、議案に対する取締役会の意見の内容を記載するべきでしょうか。

この点については議論が分かれていますが(※)、招集株主としては、後に招集手続の有効性を争われることに備え、株主総会の招集許可請求についての会社側のプレスリリースなど、議案に対する会社側の意見が表明された書面を株主総会参考書類において引用しておくことが無難でしょう。

なお、招集通知は、株主総会の会日の2週間前までに発送する必要があります(会社法299条1項)。これは、招集通知の発送日と会日の間に中14日がなければならないという意味です。

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※ 伊藤広樹=森駿介=深津春乃「株主の招集による上場会社の株主総会の実務対応」商事法務2239号34頁(2020)

2. 議決権行使書面の準備

上場会社は、原則として書面投票制度の採用が義務付けられ(上場規程435条)、招集通知とともに議決権行使書面を送付する必要があります。

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議決権行使書面のイメージ(一部省略等しております。)

議決権行使書面には、以下の点を記載します(施行規則66条1項)。

① 各議案の賛否欄(1号)
② (賛否欄に記載がない場合の賛否の取扱いを決定した場合)賛否欄に記載がない議決権行使書面が提出された場合における賛否の取扱い(2号)
③ 議決権の行使の期限(4号)
④ 議決権を行使すべき株主の氏名又は名称及び行使をすることができる議決権の数(5号)

① 各議案の賛否欄
招集株主が株主総会を開催する際は、裁判所が許可した目的事項を各議案として記載し、これに対する賛否欄を設ける必要があります。

取締役の選任・解任議案において複数の候補者が含まれる場合には、候補ごとに別議案となると考えられているため、株主が候補者ごとに賛否を表示できるようにする必要があります。もっとも、必ずしも候補者ごとに賛否欄を設けなくとも、取締役の選任議案に対する賛否欄に「候補者のうち、○○を除く」として、株主が候補者ごとに賛否を表明できるような記載とすることも可能です。

また、①に関連して、議決権行使書面の賛否欄に何も記載せずに返送された場合の取り扱い(②)を定めておくこと(会社法298条1項5号、施行規則63条3号二、66条1項2号)ができますが、この点は極めて重要となります。すなわち、会社側と株主側の集計結果に争いが生じる事案では、賛否欄に何も記載せずに空欄のまま返送される議決権行使書面による議決権行使の結果によって決議の成立・不成立の結論が変わる場合も考えられます。招集株主としてはあらかじめ取り扱いを定めておくことで、記載のない議決権行使書面について自身の提案に賛成する票としてカウントすることが可能になります。

③ 議決権の行使の期限
書面による議決権行使の期限は原則として、株主総会の日時の直前の営業時間終了時とされていますが(施行規則69条)、これ以外の「特定の時」までと定めることもできます(※)。この場合、「特定の時」を議決権行使書面に記載します。

※ 議決権行使書面の行使期限として、この「特定の時」(施行規則63条3号ロ・ハ)は、株主総会の会日以前の時であって招集通知発送の日から2週間を経過した日以後の時でなければなりません。したがって、「特定の時」を定めた場合、招集通知の発送日と会日の間に中15日を置く必要があることとなります。実務上、これら期限が守られていないと思われる招集通知も見られますが、実際にこの点が争われた裁判例(乾汽船事件:東京地判令和3年4月8日)もありますので要注意です。

法令上は、②および③については招集通知に記載した場合には議決権行使書面に記載する必要はないとされていますが(施行規則66条1項2号・4号、同条5項) 、②については議決権行使書面に記載することが一般的であり、③については議決権行使に係る重要事項であるため、招集通知に記載することが望ましいと考えられています(中村直人編著『株主総会ハンドブック(第4版)』(商事法務、2016)304頁)。

3. 委任状勧誘

株主が株主総会を招集する場合には、会社が株主提出議案について反対し、会社、招集株主の間で委任状勧誘(自分を代理人として議決権の代理行使をするように他の株主に働きかけること)をし合うこと(いわゆる「プロキシー・ファイト」です)が一般的です。

上場企業の株式について、この議決権の代理行使について勧誘を行う場合には、委任状勧誘に係る金商法、金施令、勧誘府令により、委任状の用紙・参考書類の被勧誘者への交付(金施令36条の2)および金融庁長官(所管の財務局)への届出規制に服することとなります(金施令36条の3。三浦亮太ほか『株主提案と委任状勧誘(第2版)』(商事法務、2015)61頁。なお、同書の36頁に委任状勧誘規制の構成について整理されています。)。

4. 委任状および委任状参考書類

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委任状のイメージ(一部省略等しております。)

(1)委任状

委任状には、議決権行使書面と同様、各議案の賛否欄を設けること(金施令36条の2第5項、勧誘府令43条)が必要です。

賛否欄に記載がない場合の議決権の行使や、動議(手続的動議全般および原案に対する修正提案)への対応を代理人に白紙委任することも認められていますので、これらの点についての対応が生じうる事案では、開催株主は当該記載を委任状に盛り込むことが重要となります(※)。

※ なお平時の上場会社の株主総会では、動議対応のために一部の大株主から、委任状勧誘規制の適用除外となる形で包括委任状を取得するという対応を取る場合がありますが、委任状勧誘を行う場合には、当該委任状に手続的動議への対応を盛り込むという方法が取られます。

《実務のポイント》委任状の受任者(代理人)欄の記載

委任状の代理人氏名欄は、事前に印字しておくことが可能です。通常は株主総会を開催する招集株主を代理人とすることが想定されますが、委任状と提出する株主が正式名称を正確に記載できるとは限りませんので、委任状の有効性に疑義がでないよう代理人名を記入しておくことは重要です。特に開催株主がファンド等である場合には、一般株主が正確な代理人名を記載できるとは限らないため重要です(※)。

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※いわゆる東京鐵鋼事件において、勧誘者である株主はイチゴ・ジャパン・ファンド・エーであったのに対し、勧誘事務取扱者はいちごアセットマネジメント株式会社であったため、委任状用紙の代理人欄に、いちごアセットマネジメント株式会社と記載した委任状が散見されたとのことです(寺田昌弘=寺崎大介=松田洋志「委任状争奪戦に向けての委任状勧誘規制の問題点」商事法務1802号44頁(2007))。 

(2)委任状参考資料

委任状の参考資料については、勧誘府令において記載事項が定められています(勧誘府令1条~41条)。ただし、会社が勧誘者である場合と比較して株主が勧誘者となる場合には、参考書類の記載事項が簡略化されています(一松旬「委任状勧誘制度の整備の概要」商事法務1662号57頁(2003))。

委任状の用紙および参考書類の写し等を所管する財務局に届け出ておく必要があります(金施令36条の3、金施令43条の11)。この際、届出書表紙をコピーして持参すると受付印を押してもらえます。

なお、議決権を行使できる株主のすべてに対し、株主総会参考書類および議決権行使書面を交付する場合に該当し(勧誘府令44条)、所管する財務局への届出が不要ではないかとも考えられますが、財務局の運用はそのように解されていないようであるため、疑義を避けるためにも届出をしておく必要があります(松山遙『敵対的株主提案とプロキシーファイト(第3版)』(商事法務、2021)78頁)。


Authors

弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。

弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。

弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。

弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。

三浦法律事務所 商事紛争プラクティスグループについて
三浦法律事務所の商事紛争プラクティスグループでは、会社の支配権を巡る訴訟・仮処分、組織再編の効力を巡る訴訟・仮処分、株主名簿・取締役会議事録・会計帳簿等の閲覧謄写請求事件、株主代表訴訟など、商事訴訟・非訟事件全般に関する多くの案件を手掛けています。

また、上場会社における敵対的な公開買付け・委任状勧誘や非公開会社の役員解任及び責任追及、少数株主としての株式買取請求などについても豊富な知識、経験を有しています。

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