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招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.2:招集許可決定から招集通知の発送まで

第2回は、株主として株主総会の招集許可決定を取得した後、招集通知の発送前までについて説明します。

1. 基準日の設定および公告

上場会社においては日々株主が変動するため、臨時株主総会を開催する際、当該株主総会において議決権を行使できる株主を確定するために、基準日を設定し、基準日の2週間前までに基準日等の公告を行うことが必要となります(会社法124条1項、3項)。

なお、既に基準日が設定されている場合には、その基準日の前後7営業日は新たな基準日を設定することはできません(※)。通常、この点が問題となることはありませんが、会社が定時株主総会や別の臨時株主総会(株主開催総会が予定されている場合に、会社経営陣がこれに対抗して会社開催の臨時株主総会を招集することがあります)のために既に基準日が設定されていないかを確認しておくことが必要となります。

※振替機構「株式等の振替に関する業務規程」第152条、「株式等の振替に関する業務規程施行規則」第197条

株主開催総会における基準日の設定および公告は、会社が行う場合もありますが、招集株主は裁判所の招集許可決定により、自ら基準日の設定および公告を実施する権限を付与されたものと考えられています。このため実務上、少数株主が自身の名義で基準日公告を実施する事例もみられます。

《実務のポイント》基準日公告後の総会開催日の変更
基準日公告については、実務上、総会日を「〇月〇日」とする例、「〇月上旬」とする例、「〇月頃」とする例などが見られますが、これらの公告の時期に株主総会を開催できず、総会日を変更しなければならない場合、基準日を維持したままで公告をやり直すことで足りるでしょうか。

この点については、裁判例等はないようですが、基準日は株主の投資や権利行使の判断に重要な影響を与えることからすれば、事後的な開催日の変更は基準日設定の効力に疑義が生じるため、あらためて基準日設定を行うべきでしょう。特に支配権争いなどの有事においては、公告時点では総会開催時期が流動的なケースが多いと思いますので、公告においてどこまで開催時期を特定するかは慎重な判断が必要です(なお、会社法第124条第2項、3項は会社に「基準日」および「基準日株主が行使することができる権利の内容」を定めて公告することを要求するにとどまり、総会開催時期についての公告までは求めていません。)。

会社は通常、定款において公告方法(会社法上、官報に掲載する方法、日刊新聞紙に掲載する方法および電子公告の3種類の方法が認められています(会社法939条1項))を定めていますので、招集株主が公告する場合も、まずは定款上会社が採用している方法を検討することが必要となります。

電子公告で掲載する場合、電子公告調査のために実務上、公告開始まで4営業日の期間が必要となります(会社法941条、電子公告規則3条1項、同6条2項)。

日刊新聞紙に掲載する場合、掲載新聞社の公告を取り扱う代理店に掲載を依頼し、新聞社と調整してもらうこととなります。依頼から掲載までの期間としては、掲載時期の新聞の公告枠の空き状況にもよりますが、およそ3日から1週間程度を要する場合が多いと思われます。掲載費用は代理店と公告枠の大きさ等にもよりますが、臨時株主総会招集のための基準日設定公告に必要な文字数(筆者らが携わった案件では、約20文字×約10行の枠に掲載しました。)であれば、50万円程度かかる場合が多いと思われます。

《実務のポイント》招集株主はどのようにして電子公告を掲載するか。
電子公告掲載の場所は会社のウェブサイト等であることが通常であるため、株主が公告を行おうとしても、物理的にアクセスできないという問題が生じます。そこで招集株主としては、まずは会社に公告予定の文面を送付し掲載を要請することが考えられますが、会社の協力が得られないことも考えられます。このような場合、定款に「やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合には日刊新聞紙に掲載して行う」といった例外規定があれば、当該例外規定の適用を根拠に日刊新聞紙に掲載して基準日公告を実施することが考えられます(伊藤広樹=森駿介=深津春乃「株主の招集による上場会社の株主総会の実務対応」商事法務2239号32頁(2020))。

2. 株主名簿の入手

裁判所から株主総会の招集を許可する決定を得た株主は、株主総会招集権が付与されている当然の効果として、総会に招集すべき株主を確知する権利を有し、株主名簿その他の基準日株主を確知するために必要な書類を閲覧・謄写することができるとされています(※)。したがって、会社は株主総会招集許可決定を得た株主に対し、株主名簿の開示の義務を負います。このようにして入手した株主名簿を元に招集株主は他の株主に招集通知を送付することとなります。

※東京地決昭和63年11月14日判例時報1296号146頁

《実務のポイント》株主名簿管理人への連絡
このように、会社は株主総会招集許可決定を得た株主に対し、株主名簿の開示の義務を負いますが、株主名簿の開示については、最終的には会社の株主名簿管理人の協力が必要となります。したがって、招集許可を得た場合には、早期に株主名簿管理人にも、その旨を連絡しておきます(※)。

また会社側から迅速な株主名簿の開示を受けることができない場合には、株主名簿の閲覧・謄写請求に関する仮処分命令の申立てを行うことも考えられます。

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※なお、株主名簿管理人のみを相手とする株主からの株主名簿閲覧謄写請求について請求を否定した裁判例がありますが(東京地判平成4年10月20日資料版商事法務106号93頁)、当該事案は株主が招集許可を得て行った事例ではありません。逆に、招集決定を得た株主から会社と株主名簿管理人の双方に対して株主名簿の閲覧・謄写請求が認められた裁判例があります(前掲東京地決昭和63年11月14日判例時報1296号146頁)。

3. 株主名簿のテキストデータへの変換

株主数が多い上場企業においては、株主総会の招集通知を発送するにあたり、株主名簿の電子データを元に封筒等に株主の氏名、住所等を印字する作業が必要となります。株主名簿の閲覧謄写請求によって招集株主が株主名簿を閲覧謄写する場合、謄写した紙媒体や写真データ等の記載を招集株主がテキストデータへと変換することとなりますが、その過程で変換等のミスが生じれば招集通知の発送漏れや誤発送が発生し、株主総会の招集手続の法令違反(会社法831条1項1号)として総会決議の取消事由に該当する可能性があります。

《実務上のポイント》株主名簿のテキストデータの形式での引き渡しを請求できるか?
株主名簿のテキストデータへの変換の過程で問題が生じ得るのであれば、招集許可を得た株主は、株主名簿管理人に対して基準日における株主名簿データを引き渡すように求める権利は認められないでしょうか。

招集株主が総会の開催に際し、「裁判所の許可を得て総会を招集する場合には、その招集に関するかぎり会社の機関的地位に立つ」とされていることからすれば(※)、会社との委任関係に立つ株主名簿管理人に対して直接、データの引き渡しを請求できるように思えます(会社が株主総会を開催する場合には、当然、会社は株主名簿管理人の下にある株主名簿のデータを招集通知や委任状勧誘に使用します)。しかし筆者らの経験では、裁判所は招集株主の立場で、会社および株主名簿管理人に対して株主名簿をデータ形式での開示を求める決定を認めることに消極的でした。

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※大隅健一郎=今井宏『会社法論 中巻(第3版)』(有斐閣、1992)22頁

4. 総株主通知の実施

総株主通知(振替法151条1項1号)とは、振替機構が会社に対して行う株主情報(住所、氏名、所有株式数)の通知をいいます。

上場会社が採用する振替株式については、株式の譲渡のたびに株主名簿の名義書換が行われることはなく、会社の振替機構による通知に基づいて株主の権利行使が処理され、上場会社が株主総会を開催する際の基準日株主確定のためには、振替機構が会社に対して総株主通知を行う必要があります。

総株主通知は、通常、以下のプロセスを取ります。

① 会社から基準日の設定についての通知が機構になされる。
② 機構から証券会社等への基準日の情報が通知される。
③ 証券会社等が自社に口座を開設する株主の株式数情報を機構に報告する。
④ 機構から株主名簿管理人に対する総株主通知がなされる。
⑤ 株主名簿管理人によって株主名簿が確定される。

《実務のポイント》総株主通知について会社の協力が得られない場合は?
株主に招集許可決定が下りる場合、会社と株主との間では対立している場合と考えられるため、総株主通知についても会社の任意の協力を得られない場合があります。

筆者らの経験でも、株主が裁判所から株主総会の招集許可を得た後も、会社が機構への通知(上記①)を行うか不明な事案がありました。このような場合、早期に振替機構と相談を始める必要があります。振替機構と会社との間でどのようなやりとりを行ったかは不明ですが、幸い当該案件では最終的には総株主通知が行われましたので、振替機構から会社への働き掛けがあったと思われます。

なお、筆者らの振替機構の担当者への照会においては、振替機構の取扱いでは、株主が会社に代わって①の通知を行うことは認めていないとのことでした。しかしながら、このような問題が発生しないよう、株主に①の権限も認められるべきであると思われます(※)。

ーーーーー
※株主による通知を認める見解として、森本滋「上場会社の少数株主による総会招集請求と会社法316条2項〔上〕」商事法務2281号13頁(2021)があります。

5. 株主総会検査役

総会検査役選任についての申立書を裁判所が受理した後、数日内で裁判所から予納金納付の指示があります。予納金額は申立て前において正確な金額は分かないため、裁判所が会社の規模や株主数等を踏まえて判断します。ある程度の余裕をもって事前に一定の資金を用意しておく必要があります(※)。

※一応の相場観として、松田亨=山下知樹編『実務ガイド新・会社非訟(増補改訂版)』(金融財政事情研究会、2016)176頁において予納額例が挙げられているのが参考になります。

通常、総会検査役選任申立手続の第1回目の期日において、総会検査役候補者も出席します。そこで打合せの日程や資料の共有方法を調整することが良いと思われます。総会検査役が出席していない場合でも速やかに連絡をとり、打合せの日程や資料の共有方法を調整することとなります。

総会検査役との打ち合わせでは、委任状の有効性の判断基準や集計方法会社側との対立点や紛争となりそうな事項をしっかりと共有することが大事となります。なお、総会検査役の報告書の提出期限は裁判所が定めますが(会社非訟事件等手続規則10条)、実務上、総会終了後40日後とされる場合が多いようです。


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Authors

弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。

弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。

弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。

弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。

三浦法律事務所 商事紛争プラクティスグループについて
三浦法律事務所の商事紛争プラクティスグループでは、会社の支配権を巡る訴訟・仮処分、組織再編の効力を巡る訴訟・仮処分、株主名簿・取締役会議事録・会計帳簿等の閲覧謄写請求事件、株主代表訴訟など、商事訴訟・非訟事件全般に関する多くの案件を手掛けています。

また、上場会社における敵対的な公開買付け・委任状勧誘や非公開会社の役員解任および責任追及、少数株主としての株式買取請求などについても豊富な知識、経験を有しています。

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