閑静な住宅街の青い屋根の一軒家。94歳の母親への傷害致死容疑で逮捕された弁護士の長男、高田豊暢(とよのぶ)容疑者(58)が暮らしていた住宅は、ブロック塀と生け垣に囲まれた広大な敷地にあり、近所では「裕福な一家」「地元の名士」として知られていた。
「捜査や事実関係に関することなので差し控えます」。5月22日、高田容疑者は産経新聞の取材に対し、硬い表情を崩さずに話した。
高田容疑者は中学から大学までサッカー部に所属。大阪弁護士会のサッカーチームの一員として、平成8年以降、各国の弁護士が集まる世界大会にも何度も出場しており、「日本の得点王」と呼ばれたこともあった。
事務所は大阪地裁近くのビルにあり、ホームページでは企業法務などを取り扱っているとしていた。
「弁護士らしいまじめな人だった」。高田容疑者と仕事上のやり取りがあった40代の男性はこう話す。近隣住民らも「これまでトラブルは聞いたことがない」と驚きを口にする。
近くの男性(71)は1、2年ほど前、母親の悦子さんが家族に付き添われ手押し車を押して病院を受診する様子をよく見かけたと証言。「仲がよさそうだった。ここ最近は見かけなかったが、なぜこんなことになったのか」と声を落とした。
家族の高齢者虐待 加害者は息子が最多
家庭という「密室」で起きる高齢者虐待が後を絶たない。家族や親族らによる高齢者虐待の件数は令和4年度には1万6669件で、ここ10年以上は高止まりの状態だ。虐待を受けた高齢者の7割が要介護認定を受けており、要因には介護疲れやストレスが目立つ。
厚生労働省の4年度の統計では虐待を受けた約8割が女性で、80歳以上が6割を占めた。9割近くが同居しており、加害者は息子が39%と最多、続いて夫が22%だった。
虐待の内容は、殴ったり体を拘束したりする「身体的虐待」が65%と最も多く、暴言や無視などの「心理的虐待」が続いた。
厚労省によると、要介護認定の高齢者の約9割に認知症があり、8割は介護サービスを利用していながら家族らから虐待を受けていた。担当者は「家庭という密室で高齢者は被害を言い出せず、加害者も孤立していく」と指摘。「寝たきり状態でなくとも常に目が離せない介護の中でははけ口もなく、ストレスがたまり徐々に高齢者に矛先が向かってしまう傾向はある」と話す。