Text by Geoff Beattie
「嘘をつくとき、人は視線を逸らしてしまう」「人の本心は視線にあらわれる」──その手の話はよく聞くが、アイコンタクトやボディーランゲージと「嘘」の関係はそう単純ではないらしい。なぜ人の嘘を見抜くことは難しいのだろうか? 心理学教授が解説する。
賢い子ほど嘘をつく
人の嘘を見抜く自分の能力を疑うことは、選挙戦の真っ最中でなくてもあるだろう。
心理学の研究によれば、人は少なくとも一日に一回は嘘をつくという。そして、206本の論文を調査したところ、私たちが嘘を見抜いたとき、それは偶然の産物である可能性が54%だ。
嘘のなかには、他人の気分を良くするためのものもあるだろう。「あなたはとても優秀な心理学者だね」と言われたとしても、私は気にしない。だが嘘のほとんどは、嘘をつく人間が自分の利益のためにつくものだ。
私たちは幼少期、特に2〜3歳のあいだに嘘をつくことを学ぶ。うまく嘘をつくようになるまでにはもう少し時間がかかり、他人の精神状態を理解する能力が発達している必要がある。
また、説得力を持たせるためには、ついた嘘を覚えていられる優れた記憶能力もいる。聡明な子供ほど自分勝手な嘘をつくことが多いようだ。
大人になるまでに、私たちは嘘の練習しているわけだ。
「嘘をつく」という行為自体を知らせる兆候はない。だが、嘘をつくことに関連するネガティブな感情(不安、罪悪感、恥、悲しみ、バレることへの恐怖)は、それを隠そうとしていても、あらわになることがある。
こうした感情は、ほんの一瞬の微表情(短時間で無意識に生じる表情)、または感情を覆い隠す仮面(作り笑顔が多い)など、何かを「押し殺した表情」によって漏れるものだ。
作り笑顔は見分けがつく。目の周りの筋肉が使われず、すぐに顔から消えるのだ。本物の笑顔なら、ゆっくりと消えていく。だが、こうした非言語的な嘘の指標に気づくには、スローモーションで相手の行動を再生する必要があるだろう。
また、説得力を持たせるためには、ついた嘘を覚えていられる優れた記憶能力もいる。聡明な子供ほど自分勝手な嘘をつくことが多いようだ。
大人になるまでに、私たちは嘘の練習しているわけだ。
「嘘つきは目を逸らす」は嘘
「嘘をつく」という行為自体を知らせる兆候はない。だが、嘘をつくことに関連するネガティブな感情(不安、罪悪感、恥、悲しみ、バレることへの恐怖)は、それを隠そうとしていても、あらわになることがある。
こうした感情は、ほんの一瞬の微表情(短時間で無意識に生じる表情)、または感情を覆い隠す仮面(作り笑顔が多い)など、何かを「押し殺した表情」によって漏れるものだ。
作り笑顔は見分けがつく。目の周りの筋肉が使われず、すぐに顔から消えるのだ。本物の笑顔なら、ゆっくりと消えていく。だが、こうした非言語的な嘘の指標に気づくには、スローモーションで相手の行動を再生する必要があるだろう。
それなら、アイコンタクトを避ける行為はどうだろう。母はいつも、私が嘘をついているときは目を見て話さないからわかると言っていた。彼女は私にぐっと近づき、昨晩は遅くまで何をしていたのと聞いてきたものだ。
しかし、アイコンタクトは欺瞞の指標として役に立たない。真実を話しているときであっても、視線の動きは私たちの認知活動から影響を受ける。たとえば、話すことを順序立てたり、記憶を振り返ったりすることなどがそうだ。
それに私たちは皆、視線が人の注意を引くものだと知っている。そして嘘つきは、それをコントロールするすべを知っている。事前に嘘を計画し、真実の断片や実際の状況に基づいて嘘を構築することで、上手な嘘つきは嘘をつきながら視線を制御することができる。
アイコンタクトはまた、人との距離からも影響を受ける。誰かが間近に座って(私の母のように)こちらをじっと見ていると、視線をあわせ続けることは難しい。これは親密性平衡モデルと言われるものだ。
距離感、アイコンタクト、会話のトピックなどは、親密さのシグナルとなる。そして人との物理的な距離が変われば、私たちは無意識のうちに、他の要素を控えて全体のバランスをとる。だから母が尋問のために近づいてきたとき、私はつい目をそらし、母は「嘘つきの証拠」を手に入れたわけだ。
しかし、アイコンタクトは欺瞞の指標として役に立たない。真実を話しているときであっても、視線の動きは私たちの認知活動から影響を受ける。たとえば、話すことを順序立てたり、記憶を振り返ったりすることなどがそうだ。
それに私たちは皆、視線が人の注意を引くものだと知っている。そして嘘つきは、それをコントロールするすべを知っている。事前に嘘を計画し、真実の断片や実際の状況に基づいて嘘を構築することで、上手な嘘つきは嘘をつきながら視線を制御することができる。
アイコンタクトはまた、人との距離からも影響を受ける。誰かが間近に座って(私の母のように)こちらをじっと見ていると、視線をあわせ続けることは難しい。これは親密性平衡モデルと言われるものだ。
距離感、アイコンタクト、会話のトピックなどは、親密さのシグナルとなる。そして人との物理的な距離が変われば、私たちは無意識のうちに、他の要素を控えて全体のバランスをとる。だから母が尋問のために近づいてきたとき、私はつい目をそらし、母は「嘘つきの証拠」を手に入れたわけだ。
これは一種の確証バイアスだ。自分の仮説を裏付ける証拠を探すだけでなく、自分が探し求めている他者の行動そのものを、無意識のうちに促す。
そしてこれは母だけに当てはまることではない。1978年の研究によると、取り調べ中の警察官は、有罪だと思っている容疑者に近づく傾向にある。容疑者はつい目を逸らし、そして……ほらやっぱり有罪だ! となる。
しかし、確証バイアスは距離の問題だけではない。
日常生活のなかで、私たちは相手の顔を通して、瞬時かつ無意識のうちに信頼性を判断している(その間約0.1秒)。信頼できそうだと一度判断すれば、私たちは無意識のうちに、嘘の手がかりを相手のなかに探さなくなるのかもしれない。
嘘の発見にはバイアスがつきものだ。そして優れた嘘つきは、それを利用する方法を知っている。人が何に注目しているかを彼らは知っていて、それをコントロールしているのだ。最適なアイコンタクト、いい笑顔、きちんと準備されたなめらかな語りなど。
そしてこれは母だけに当てはまることではない。1978年の研究によると、取り調べ中の警察官は、有罪だと思っている容疑者に近づく傾向にある。容疑者はつい目を逸らし、そして……ほらやっぱり有罪だ! となる。
嘘つきのテクニック
しかし、確証バイアスは距離の問題だけではない。
日常生活のなかで、私たちは相手の顔を通して、瞬時かつ無意識のうちに信頼性を判断している(その間約0.1秒)。信頼できそうだと一度判断すれば、私たちは無意識のうちに、嘘の手がかりを相手のなかに探さなくなるのかもしれない。
嘘の発見にはバイアスがつきものだ。そして優れた嘘つきは、それを利用する方法を知っている。人が何に注目しているかを彼らは知っていて、それをコントロールしているのだ。最適なアイコンタクト、いい笑顔、きちんと準備されたなめらかな語りなど。
新著『嘘、嘘をつくことと嘘つき』を書くにあたり、私は多くの嘘の達人を研究し、彼らが人の直感をいかにして逆手に取るかを調査した。
たとえば、私たちは嘘を判断するとき、それを発見するにあたって特定の行動を基準に考える。嘘の達人はこれを乱すのだ。ある情報提供者(何か隠し事のある人物だ)は、警察に呼び止められたとき、心底怒りながらも少し不安定な素振りをすることで警察を惑わせるという。
性格も関係している。罪悪感、羞恥心、悲しみ、恐怖──そうした感情を本心で感じていなければ、それを示す微表情を探そうとしたところで意味がない。そもそも嘘をつくことを楽しむ人もいる。彼らにとってはエキサイティングなことであるため、嘘をついた先にある結果を気にしない。そうした場合、どんな微表情もポジティブなものになるだろう。
嘘をつきの達人が大胆に思えるのは、何も不思議なことではないのだ。
The Conversation via Reuters Connect
たとえば、私たちは嘘を判断するとき、それを発見するにあたって特定の行動を基準に考える。嘘の達人はこれを乱すのだ。ある情報提供者(何か隠し事のある人物だ)は、警察に呼び止められたとき、心底怒りながらも少し不安定な素振りをすることで警察を惑わせるという。
性格も関係している。罪悪感、羞恥心、悲しみ、恐怖──そうした感情を本心で感じていなければ、それを示す微表情を探そうとしたところで意味がない。そもそも嘘をつくことを楽しむ人もいる。彼らにとってはエキサイティングなことであるため、嘘をついた先にある結果を気にしない。そうした場合、どんな微表情もポジティブなものになるだろう。
嘘をつきの達人が大胆に思えるのは、何も不思議なことではないのだ。
The Conversation via Reuters Connect
Geoff Beattie, Professor of Psychology, Edge Hill University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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