Text by COURRiER Japon
愛国詩の「新星」
ロシアでは、反戦や体制批判のメッセージを作品に盛り込む芸術家が国内で活動できなくなっている。その代わりに、体制によって推奨され、体制を支持する文化人らによって高い評価を受けるようになっているのが、いまウクライナでおこなわれている戦争やウラジーミル・プーチン大統領を賛美する「愛国的」な芸術だ。
そのような状況のなか、2023年夏から「愛国詩」(プーチンのプロパガンダに使われるZの文字から「Z詩」と通称される)の分野でにわかに頭角を現しはじめた人物がいた。
ゲンナジー・ラキーチンと名乗るその「詩人」は、モスクワのしがない学校教員で、それまで文学活動をしていなかったという。だが2023年7月から、ロシアのSNS「VK」に、「特別な時期には特別な決断が求められる」というコメントともに「Z詩」を次々と発表するようになった。
戦争の正当性、命を落とした兵士の賛美、歪んだ歴史観に基づく祖国への愛、プーチンへの尊敬などを歌う彼の合計18篇の詩は、VK上でまたたく間に多くのユーザーにシェアされ、国会議員や体制派の文化人の目にもとまった。彼のアカウントは100人以上の政治家や著名人にフォローされたという。そこには、政権お墨付きの軍事ブロガーのユーリ・コテノクや、プーチンの文化顧問を務めるエレナ・ヤンポルスカヤも含まれていた。
また、ロシアメディア「メドゥーザ」によると、ラキーチンの詩はネット上のみならず、数々の文学コンテストやフェスティバルで大きな反響を呼んだ。2024年6月には、「全ロシア愛国詩コンテスト」の「戦争と祖国の守護者についての詩」部門で入賞したり、全国的な文芸誌の「愛国自由詩」コンテストの優勝候補となったりするなど、華々しい成績を収めている。
だが、2024年6月末、衝撃の事実がラキーチン「本人」から明かされた。そもそもゲンナジー・ラキーチンという人物は存在せず、アカウントを運営していたのはウクライナ戦争に反対するグループだった。いかにも孤高の詩人という風貌のプロフィール写真は、AIで生成したものだという。
そのうえ、ラキーチンが「書いた」詩はすべて、1930〜40年代のナチス・ドイツの愛国詩の「丸パクリ」だったのだ。固有名詞などは現代ロシア風に変えてあるものの、原文にほぼ忠実にロシア語に訳しただけだという。
この暴露によって、ラキーチンや彼の「作品」を持ち上げていた体制派の「愛国者」たちは、何重にも恥をかかされる形となった。
実在しない人物にだまされていたことや、故意の剽窃を誰も見抜けなかったこともそうだが、何よりも、「ナチからの解放」を掲げてウクライナ侵攻を正当化していたにもかかわらず、ナチの詩を賛美することで、プーチン体制やその行動原理がナチと同質であると示してしまったからだ。著名人らは慌ててラキーチンのフォローを外したり、引用した詩を削除したりして、火消しに走っている。
また、ロシアメディア「メドゥーザ」によると、ラキーチンの詩はネット上のみならず、数々の文学コンテストやフェスティバルで大きな反響を呼んだ。2024年6月には、「全ロシア愛国詩コンテスト」の「戦争と祖国の守護者についての詩」部門で入賞したり、全国的な文芸誌の「愛国自由詩」コンテストの優勝候補となったりするなど、華々しい成績を収めている。
ナチの詩の「丸パクリ」
だが、2024年6月末、衝撃の事実がラキーチン「本人」から明かされた。そもそもゲンナジー・ラキーチンという人物は存在せず、アカウントを運営していたのはウクライナ戦争に反対するグループだった。いかにも孤高の詩人という風貌のプロフィール写真は、AIで生成したものだという。
そのうえ、ラキーチンが「書いた」詩はすべて、1930〜40年代のナチス・ドイツの愛国詩の「丸パクリ」だったのだ。固有名詞などは現代ロシア風に変えてあるものの、原文にほぼ忠実にロシア語に訳しただけだという。
この暴露によって、ラキーチンや彼の「作品」を持ち上げていた体制派の「愛国者」たちは、何重にも恥をかかされる形となった。
実在しない人物にだまされていたことや、故意の剽窃を誰も見抜けなかったこともそうだが、何よりも、「ナチからの解放」を掲げてウクライナ侵攻を正当化していたにもかかわらず、ナチの詩を賛美することで、プーチン体制やその行動原理がナチと同質であると示してしまったからだ。著名人らは慌ててラキーチンのフォローを外したり、引用した詩を削除したりして、火消しに走っている。
「なりすまし」の苦悩
ラキーチンの正体である反戦グループに対しては、「愛国者」の鼻を明かし「文学的パルチザン活動」を成功させたという賛辞もあるが、志を同じくする人々の一部からは、なぜこの中途半端なタイミングで暴露したのか、もっと有名になって本が出版されるまで待てばよかったのに、と残念がる声もあるという。
英紙「ガーディアン」の取材に匿名で応じた彼らは、いま活動をやめた理由として「もう疲れてしまった。ロシアのプロパガンダの世界の闇のなかにずっといると、精神的に疲弊してしまいます」と答え、良心が痛むなかで「愛国者」になりすますのも決して楽ではなかったと振り返った。
ゲンナジー・ラキーチンの投稿は2024年6月28日、唯一のオリジナルの詩で途絶えている。
「フィードに流れるZ詩を/ゲンナジーは長らく嘲笑してきた/最後に彼はこう言った/戦争なんてクソ食らえだ」