惑星封鎖機構が相手だからか、人と組むことが増えた。今回の作戦へ共にアサインされたのは、V.Ⅳラスティだ。
ブリーフィングルームにおいて、スネイルがいつも通りの居丈高さで口を開いた。
「これよりブリーフィングを開始します。聞き漏らしのないよう集中するように。
――これは惑星封鎖機構の2拠点に対して、同時刻、秘密裏に行われる急襲作戦です。
襲撃目標のひとつは、敵の部隊間通信を中継するハーロフ通信基地。もうひとつは強襲艦隊の母港として接収されたバートラム旧宇宙港です。割り当ては通信基地をV.Ⅳ、旧宇宙港をV.Ⅸとします。
まずV.Ⅳが封鎖機構の通信網を混乱に陥れ、精鋭部隊による増援を不可能にする。V.Ⅸ、貴方はその間に停泊中の強襲艦を全て破壊してください」
了解、と声を揃える。内容には特に問題ない。最大でも10隻程度なら、破壊は十分に可能だ。
スネイルが眼鏡の縁を押し上げた。
「とはいえ――V.Ⅸ、貴方の場合、破壊だけでは退屈でしょう。課題を追加してさしあげますので、確認を」
首を傾げると同時、データが送られてくる。
それはまさしく、
「……わあ」
「期待していますよ、V.Ⅸ」
嫌味めいた作り物の爽やかさに、端末を見たままひらひらと手を振る。絶対に先日の意趣返しだ。
そのままブリーフィングルームに残って内容を確認していると、ラスティが声をかけてきた。
「私も見て良いだろうか?」
「どうぞ。なかなかの内容よ」
「……これは……。なるほど、そういうことか……」
スタンバトンにスタンガン、肩はパルスキャノンに、これだけが異色のプラズマキャノン。意図は明らかだ。
単純に落とすだけなら、主要人員とコンピューターが集中している艦橋を破壊すれば手っ取り早い。だが、そうなってしまえば修繕は困難だ。どこをどう叩けばどの程度壊れるのか、それを把握したいのだろう。
「たぶん、将来的に強襲艦の鹵獲を視野に入れてるんでしょうね」
「……そのためのデータ収集ということか。単機での作戦だ、こんな手間をかけていては、かなり危険なことになるが……」
「そこよね。あんまり使ってないものばかりだし、練習しておかないとなあ……」
「……スネイルはああ言っていたが、通信網の混乱は一時的なものになるはずだ。おそらく敵の増援は避けられない。こちらの仕事が片付いたら、救援に向かおう」
目を瞬いてラスティを見た。真剣な眼差しが返ってくる。
どうやら、本気で言っているらしい。
「……スネイルがまた嫌味を言うと思うけど」
「その程度、大した問題ではないさ。無理はしないでくれ」
心から身を案じられるというのは、悪くない気分だ。メーテルリンクにもその方面で存分に絆されている。
それが個人的な友情によるものであれ、期待する戦力に対するものであれ、嬉しいことには変わりない。素直に笑顔を返した。
なにしろ、脱ひねくれキャンペーン中である。好意には好意を返したい。
「ありがとう、貴方もね。不測の事態が起きたら助けに行くわ」
ラスティが目を丸くする。ついで、はにかむように笑うその様子は、いつもの取り繕ったものとは違っていた。
「……それは光栄だ」
「まあ、お互い生き残ることを第一に、頑張りましょうか」
「まったくもって正しいな。……ともあれ、ようやく訪れた、君とともに闘える機会だ。下手を打たないよう気をつけるさ」
「期待してるわ」
「ああ、期待していてくれ。……ところで、この武装の練習をするんだろう? 良ければ、私に相手を務めさせてはもらえないか」
ラスティの言葉に首を傾げた。めずらしいこともあるものだ。
「……実機で? それともシミュレータ?」
「実機と言いたいところだが、作戦前だ、さすがにやめておこう」
「シミュレータね。私はいいけど……」
ひとつ気がかりがあった。端末に文字を入力する。
【たぶんスネイルがモニタしてる。手の内を見せることになるけど、大丈夫?】
ラスティが笑みを深めた。どこか好戦的な色がある。
「ああ、いつものことだ」
すでに目をつけられているということか。織り込み済みで不穏分子を抱えているというのは、スネイルにしては意外だった。
「……じゃあ、お言葉に甘えて胸を借りるわ、第4隊長殿」
「それはこちらの台詞だな」
ちょうど時間があったので、そのままハンガーに連れ立った。
シミュレータとは言ってもACを使う以上操作感はさほど変わりない。ただ出力が現実ではなくサーバー上の仮想空間になるだけだ。
エリア表示はベーシックな四角い空間にしておいた。
スタンバトンの動作と間合いを一通り確認してから、ラスティのスティールヘイズに向き合う。
「お手柔らかにお願いね」
《まさか、君を相手にそんな真似はしないさ。全力で行かせてもらう》
スティールヘイズは速度に特化した機体だ。間合いの狭いバトンを普通に振り回しても当たってはくれないだろう。
貫くようなバーストハンドガンの弾を避けながら、スタンガンをばらまいていく。
まずはコア、頭部、次に足元へ。地面に突き刺さった針が強制放電付きの電撃を放つ。足が止まった隙を逃さず間合いに入り、スタンバトンを叩きつけた。
追撃は回避される。同時に肩のキャノンを打ち込むが、これも避けられた。一呼吸遅かった。やはり速い。
距離を取ったスティールヘイズがミサイルを放つ。こちらも回避しながらスタンガンとパルスキャノンで追うが、捕まえきれない。
脇をすり抜けるように近づいたスティールヘイズがレーザースライサーを閃かせる。とっさに蹴り飛ばすことで距離を取り、ひやりとしながらプラズマキャノンで威嚇した。
《……さすが、そう簡単にはいかせてくれないか……!》
そのまま頭上をとった。パルスキャノンとスタンの針を降り注ぎながら背後を狙うが、スティールヘイズもミサイルを放ちながら食い下がってきた。
レーザースライサーが来る。二段目までがまともに入ってしまった。
フロイトの言葉がようやく腑に落ちた。
――飼われている狼ではない。強いが、それ以上に何かを理性で押さえつけている印象だ。憤りと期待、強すぎるほどの自負と信念。こんな生き方をしている人間もいるのかと、どこか不思議に思えた。
追いかけるのではなく、捕まえる必要がある。
引き気味に距離を取りながら撃ち合った。スティールヘイズが攪乱するように後ろへ回り込む。あえて追わずに、仕掛けてくるのを待った。
プラズマミサイルを回避した先に、レーザースライサーが突き込まれる。
視界の端に留めたその左腕へ、かいくぐるようにスタンバトンを押し当てた。
《な――》
機を逃さずスタンガンを立て続けに接射し、強制放電を引き起こす。
ACSが負荷限界に達したところで、チャージしたプラズマキャノンを放った。
撃墜判定が入り、シミュレーションが終了する。
ふう、と息を吐いて、大きく伸びをした。あそこで逸ってくれなければ危なかったかもしれない。今回は作戦勝ちだ。
水を飲んでACから降りると、同じように降りてきたラスティが悔しげな苦笑を浮かべた。
「やられたな。あの体勢で仕掛けてくるとは思わなかった」
「フロイトに言わせると、変態的な動きって言うのよね」
ぐ、とラスティが口元を抑えて顔を背ける。笑うのは失礼だと思っているのだろう。実に紳士的だ。
「……た、確かに……あれは、そうかもしれないな……」
「笑ってくれて良いのよ?」
「いや、セオリーに囚われない発想も、それを実現する腕も、素晴らしいものだと……っ」
そこで耐えきれなくなってしまったらしい。顔を押さえて肩を震わせるラスティに、肩を竦めた。
「レイヴン」の所行やドルマヤンの件で解放戦線との関係は少し変わるだろうかと思っていたのだが、少なくともラスティの態度に変化は見られない。それが押し隠されてのものなのか、それとも本気で意に介していないのかはわからなかったが、わざわざ確かめることもないだろう。
やがて笑いの衝動を収めたラスティが、咳払いをして言った。
「しかし、慣れていない武装でこれとは……恐れ入るな。差を感じるよ」
「そう? だって貴方――」
とっさに口を噤んだ。本気ではなかったというのとはまた違うが、それこそ枷を填められたような戦い方だった。だがその内容は、軽々しく口に出すべきではないだろう。
飲み込んだ言葉を察したのか、ラスティがいつも通りの笑みを浮かべる。
「君の間合いや戦い方は、多少把握できたと思う。協働できることを楽しみにしているよ」
作戦の実施日は二日後だった。
おそらくスネイルが操作に慣れる程度の猶予を与えてくれたのだろう。面倒ごとと釣り合っているかと言われれば微妙だが、たぶんこんな機会でもなければ積極的に選ばなかった武装ばかりだ。良い機会だと思っておくことにしよう。
作戦地点に到達して状況を確認する。停泊中の強襲艦は5隻。最大予想の半分以下だ。
スネイルにとっては誤算だろうが、無理をしないという観点からは悪くない。せいぜい良いレポートを作るまでだ。
敵艦の位置を確認していると、ラスティから通信が入った。
《レイヴン、こちらは通信基地近傍で待機している。回線を繋いでおいてくれ。そちらの状況を見て仕掛けよう》
「了解。よろしくね」
少しでも時間を稼いでもらえるのは有り難い。レポートの作戦手順はCOMに反映させたので、あとは表示通りに動くだけだ。そう難しいことではなかった。
邪魔になりそうな砲台を片付けたあと、まずは1隻目。まずは機関部からの攻撃を指示されていた。
スタン攻撃に加えてプラズマキャノンを叩き込むと、思っていた以上に誘爆し、艦橋を叩いたとき以上の被害が発生する。
急いで距離を取りながら、なるほど、とひとりごちた。
撃墜を目的にするなら、こちらの方がよさそうだ。
「第一目標を撃破」
《承知した、中継アンテナの破壊に移る。――これで連中はしばらく外部との通信ができない。その間に作戦を進めてくれ》
「次からは手順的にちょっと時間がかかりそうね……。まあ、やれるだけやるしかないか」
《しつこいようだが、無理はしないでくれよ》
「そうするわ。ありがとう」
2隻目は甲板の対空砲からだ。
数が多いだけに回避が厳しいが、フロイトなら避けるのだろうと思うとなんだか闘争心が湧いてきた。集中を切らさずに、ひとつずつ慎重に潰していく。
《弾幕を張れ、近寄らせるな!!》
《外部通信が途絶している……? どういうことだ!?》
停泊中とはいえ外部から助けを呼ばなければいけない時点で、強襲艦隊の存在意義は微妙であるように思える。アーキバスならもっとうまく運用できるのだろうか。
押っ取り刀で駆けつけてきたLC機体の相手をしながら、2隻目を落とした。
「2隻目の処理が完了」
《順調に進めているようだな。こちらも攪乱を続けているが……復旧対応が速い。この通信妨害は長くは持たないと思ってくれ》
「了解。できれば強襲艦を叩き終わるまではもって欲しかったけど、贅沢は言えないわね」
敵の増援を待ちつつ、レポートを進めるしかない。
3隻目は艦底からだ。分厚い装甲に指示通りの方向から複数回スタン系の攻撃を叩き込んでいたが、壊しきることはできなかった。チャージしたプラズマキャノンで撃破する。
残り2隻。
薄々感じていたしスネイルも予測はしていただろうが、ACやLCならともかく強襲艦への攻撃をスタン性のものにするのはあまり意味がないように思える。
攻撃力を抑えるなら、それこそアサルトライフルでも撃っておけば良いのではないだろうか。
ともあれ、必要以上の時間をかけて手順通りに残りのレポートを仕上げ終わったとき、回線の向こうでラスティが舌打ちした。めずらしいこともあるものだ。
《レイヴン、封鎖機構の外部通信が復旧した。応援要請を受けた強襲艦がそちらに向かっている。……私が着くまで持ちこたえてくれ》
「強襲艦か……レポートのおかわりが出てきちゃったわね」
手順を確認しつつ、ぼやきをこぼした。次は船体前面のみの攻撃、その次は側面のみの攻撃だ。いずれも甲板・艦橋への攻撃は入っていない。
停泊中ではなく飛行中となると、この手順を守るのはなかなか大変そうだ。
とはいえ脅威度だけの話をするなら、増援のLC機体と強襲艦はさして驚く要素もなかった。しいて言うなら予想通り、滞空しているせいで追加のレポートの作成が面倒だったくらいだ。
それをあわせても合計7隻なので、スネイルの満足度は低いかもしれない。
敵性反応は残っていない。ラスティとの共闘はまたの機会になりそうだと思ったとき、高速接近してくる機体反応があった。
崖の上にその姿が見える。2機。惑星封鎖機構の執行機だ。
《コード15、排除目標を確認》
《……優先排除対象「レイヴン」……ここで消えてもらおう》
あいかわらず目の敵にされているようだ。惑星封鎖機構が「レイヴン」に飲まされた煮え湯の数々を思い出し、無理もないか、と苦笑する。
そのさらに後ろの空へ、流星のような機体が見えた。
宵の空にオレンジ色の炎がよく映える。どうやらラスティが間に合ったようだ。
繋いだままの通信回線から涼しげな声が聞こえる。
《相手は……上級尉官の執行機か。相手に取って不足はない。――待たせたな、レイヴン》
「むしろタイミングがよすぎるくらいよ。男前は違うわね」
喉で笑う声がした。
スティールヘイズが隣に降り立つ。
《さて……ようやく実現した協働だ。君の力、存分に見せてもらおう》
ちょっと長くなりすぎるので分割。次に続きます