621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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選択の意味

 

 

 フロイトとの模擬戦も折り返しに入り、約束の100回まではまだ遠いものの終わる時期が見えてきた。

 

 情勢も落ち着いてきたので、そろそろアーキバス以外からの仕事も受けておきたいところだ。

 ACのコクピットで依頼を選別していく。さすがにベイラムからはもう届かなくなったが、無差別に送られてくるものを大半として、大小様々なものが舞い込んでくる。

 そのうちの一つに、思わず目を瞠った。

 コヨーテスから、RaDのミサイル発射阻止要請が入っていたからだ。

 前回は杜撰な計画を立てたあげく報酬を踏み倒してくれた相手である。よく平然と依頼を出してくるものだ。

 「貴方とぜひ踊りたい」というメッセージに、心を込めて「赤い靴でも贈りましょうか?」と返しておいた。死ぬまで一人で踊っていれば良い。

(余談だが、この返しがやけに琴線に触れたようで、しばらくストーカーめいたポエムを送りつけられる羽目になった)

 

 さて、と次のメッセージを見て、今度は違う感情に目を丸くした。

 解放戦線からの依頼だが、いつものコンタクトパーソンではない。ミドル・フラットウェル――解放戦線の実質的指導者の名だ。

 

 通常、トップが一介の独立傭兵に直接接触を持つことは少ない。

 おそらくラスティと交わした口約束が契機になったのだろう。

 

 依頼内容は、惑星封鎖機構の新型兵器の破壊。それらが企業に鹵獲されることを恐れているとのことだ。それを思い切りアーキバス寄りの独立傭兵に依頼してくるのだから、内情は伝わっていると考えていいだろう。

 まあぎりぎりアーキバスと対立するものではない。ミドル・フラットウェルの人となりも気になるところだ。もし以前救出した重鎮と似たような人物なら、ラスティには悪いが、身の振り方を再考したい。

 

 時間帯が微妙だろうかと思ったが、ミドル・フラットウェルは通信に応答した。

 

《独立傭兵レイヴン、連絡に感謝する。……私はルビコン解放戦線の中央氷原支部指令、ミドル・フラットウェルだ》

「はじめまして。解放戦線の実質的指導者から直々のお声がかりとは光栄だわ。誰かから推挙でもしてもらえた?」

《……その名を出すのはまだやめておこう。まあ、概ね君の予想通りだとは言っておく》

 

 なかなか慎重だ。対応も、第一印象としては悪くない。少し安心した。

 今回の仕事は、お互いに相手を見極めるためのものとなるだろう。

 

「内容は確認したわ。変更がないなら引き受ける。なにか付帯事項は?」

《……一点だけ。私をオペレーターとして同行させてもらいたい》

「……それはまた」

 

 少し考えたが、拒むほどのものでもない。うるさい相手でもなさそうだ。問題はないだろう。

 

「いいわ。よろしく、フラットウェル――でいい?」

《ああ。よろしく頼む、レイヴン》

 

 対等な立場を取ろうとするのは好感が持てた。少なくとも、使い潰すための駒として扱うつもりはなさそうだ。

 惑星封鎖機構の新型機体も気になることだし、今回は有意義な仕事になりそうだった。

 

 

 

***

 

 

 

 よほど急ぐのかと思いきや、作戦の実行までは日が空いた。やはり暇な身ではないようだ。

 その間にアーキバスから鹵獲要請でも入っていたら厄介なことになっていたが、幸いにもそんな事態に陥ることはなく、無事に決行日を迎えることができた。

 

「作戦開始地点に現着。聞こえる? フラットウェル」

《ああ、問題ない。目標はHC機体及びLC機体の撃破。2地点に分散しているが、仕掛ければ応援は避けられないはずだ。どちらを先に叩くべきかはそちらの判断に委ねよう》

 

 だったら大物から叩くのが自分の好みだ。

 道中の敵を適当に減らしながら一直線にHC機体へ向かっていると、フラットウェルが焦った様子で声をあげた。

 

《……待て、先行している機体があるようだ。これは……レッドガンのG5……! 遅かったか……!》

 

 やはり数日の猶予がまずかったようだ。

 ただ、ベイラムがこちらに手を伸ばすのは正直なところ意外だった。先日も旧坑道で大きな損害を出したと聞いている。それだけの余裕があるようには思えないのだが。

 ともあれ、来ているものは仕方がない。

 

「どうする? どうにか破壊しろということなら、乱入するけど」

《……危険度は上がるが……やむを得まい。すまないが、頼めるだろうか》

「了解。予定を変更して、とりあえずLCから叩くことにするわ」

 

 さすがに乱戦の中で増援が来るのは避けたい。敵機にいるのがイグアスならなおさらだ。

 それにしても、単機での作戦行動とは妙な話だった。わざわざ殴り込みに来る動機もないはずだから、目的は解放戦線の危惧通り新型機体の鹵獲なのだろうが――破壊ならまだしもスペックで勝る相手の鹵獲など、単機でやるような作戦ではない。無茶ぶりが過ぎる。

 

 たどり着いた先には、LC2機以外にもそれなりに高火力な支援MT。数は多くない。

 まずはLCを1機急襲、チャージしたランスを突き込んで沈黙させる。

 

《なっ……1級士長が落とされました! コード31C――》

 

 そのコードを送っている間は、隙というのではないだろうか。ミサイルをばらまいてリニアライフルを撃ち込み、接近して機体を蹴り倒す。

 動く様子はなかったが、依頼内容を思い出して、ランスで完全に破壊した。

 あとはMTが複数機残っていたが、相手をする必要はないだろう。急いで最終目標のHC機体へと取って返す。

 フラットウェルが感嘆したようなため息を落とした。

 

《……噂に違わぬ、羽ばたくような戦いぶりだ。味方となれば、これほど頼もしいことはないだろう》

「それはどうも。……ここからが問題だけどね」

 

 相手にはエアがいる。こちらの存在は既に気付かれているだろう。

 HC機体がモニタに映る。ACより一回り大きく、武装もそれに応じた威力を持っているようだった。

 とりあえずは不意を打っておくべきだろう。

 リニアライフルをチャージして狙いを定め、放とうとしたとき――その場に見慣れないACが割り入った。

 

《なっ……!?》

 

 ACがアサルトアーマーを展開した。見覚えのない鮮やかな赤色が広がり、まるで血を吐くかのようだった。

 敵か味方かわからず、とっさに手を出しあぐねる。HC機体のコアをブレードで貫いたACは、すぐに機体を反転させ、イグアスに襲いかかった。

 

《「灰かぶりて、我らあり」――ルビコンの脅威よ、ここで朽ちるがよい……!》

 

 老人の嗄れ声が重々しく言った。

 赤と黒で塗装された、ずいぶん年季の入ったACだ。フラットウェルが狼狽した声を上げた。

 

《アストヒク……!? ばかな、帥父ドルマヤン! なぜ貴方がこのような場所にいる!!》

 

 さすがに耳を疑った。それが本当なら、正気の沙汰ではない。

 こちらの通信は聞こえていないはずだが、イグアスも困惑しながら応戦していた。

 

《なんっだ、こいつ!? ……あァ!? 解放戦線のボスだと!?》

《ルビコンの脅威よ……お前はおそらく、あの声を見るのだろう。かつて私がそうだったように……!》

《わけわからねえことほざいてんじゃねえ! くたばれ!!》

 

 ――声を、「見る」?

 違和感のある言い回しだった。何かの比喩だろうか。

 それにしても、長らく虜囚だった老人のわりに動きがいい。防戦気味のイグアスがミサイルを回避しながら、苛立った声を上げた。

 

《ああ!? 今度は何――》

 

 イグアスの機体が、打たれたように一瞬だけ足を止める。

 殺意を持って打ち込まれたブレードは、かろうじてシールドで防がれた。

 よほど驚くようなことがあったのだろう。危なっかしさを覚えたが、いよいよ手出しを考えるよりも先に、我に返ったようだった。

 

《……なにがどうなってやがる! わけがわからねえ、なんだって()()()()()()()()……!》

 

 それはさすがに、聞き捨てならない情報だった。

 ――オキーフが危惧を抱いていた、オールマインドとイグアス。その両者が接触したというのか。

 できれば内容を把握しておきたい。少し考えて、挑発した。

 

「G5、貴方、オールマインドともそんなに親しかったの? 浮気は感心しないわね」

《ふざけんなよテメエ!?》

 

 ナパームの炎が足元に広がる。距離を取りながら、イグアスがやけくそのように叫んだ。

 

《こいつを殺せだとよ! あとで相手してやるから、見てねえで手伝え、狂犬!》

「このお爺さんとは別口だけど、今回は解放戦線の依頼なの。ちょっと無理ね」

《くそっ……おいジジイ、どこでオールマインドなんざの恨みを買いやがった!! つーか俺を攻撃してくるんじゃねえ!! 脅威っつーならそっちに戦闘狂のクソ犬が――》

 

 急に、声が尻すぼみになった。

 愕然とした声が、呻くように呟く。

 

《……こいつが、俺と同じだと……?》

 

 おそらく本人と同じくらい、怪訝な顔をしてしまった。

 こちらとイグアスではないだろう。おそらくは、イグアスとドルマヤンのことだ。

 だが、年齢も、性格も、生い立ちや所属や戦闘スタイルも、ことごとく違うように思えてならない。共通項など、性別とAC乗りというくらいではないだろうか。

 だが――おそらくは、何かがあるのだ。

 イグアスが命を狙われる理由。オールマインドが接触し、ドルマヤンが脅威とみなす、何かが。

 

 考えに沈んでいると、フラットウェルが焦った声で呼びかけてきた。

 

《レイヴン、すまないが帥父ドルマヤンの援護を頼みたい。今、奴を失うわけにはいかないのだ……!》

 

 切実な訴えかけだったが、どうにも気が進まない。

 自分が加勢すれば、おそらくイグアスを殺すことは可能だろう。ドルマヤンも満足して大人しくなるはずだ。だがそんなもの、考えただけで面白くない。

 ひどく冷淡な気分になって、首を横に振った。

 

「フラットウェル。……悪いけど、この手の不確定要素は好きじゃない。手助けはできないわ。……あの人、本当にまだ必要なの?」

《……確かに求心力は落ちているが、それでも一定数の支持者がいる。ここで奴を見捨てるわけには……!》

「じゃあ頑張って呼びかけて。彼が撤退するなら、その援護くらいは引き受けるわ」

《くっ……ドルマヤン!! 我々はここで貴方を失うわけにはいかない! 引いてくれ!! 解放戦線の同志のためにも……!》

 

 広域回線に乗せたその声は、果たして老人の耳に届いたのだろうか。

 怪しいものだと思っていたが、応答はあった。

 

《その声はフラットウェルか……貴様も同じだ。私の警句を軽んじ、おめおめと破滅を手招こうとしている……!!》

《ドルマヤン!! 我々はここからだ、筋道は立った! ルビコンの未来はじきに拓ける! だからこそ――》

《すべては消えゆく余塵に過ぎぬ……だが、そうであっても、私こそが果たさねばならぬのだ!!》

 

 とても話になりそうにない。フラットウェルの低い呻きは苦渋に満ちていた。

 イグアスも混乱を収めたのか、次第に間合いを掴み始めている。腕の面でも武装の相性の面でも、おそらく負けることはないだろう。

 

《……ルビコンの脅威よ、この警句には続きがある……》

《知るか黙れ!!》

《コーラルよ、ルビコンとともにあれ――コーラルよ、ルビコンのうちにあれ! コーラルを解き放ってはならぬ。その先には、人間世界の破滅が待つ……!》

《黙れっつってんだろうがよ!!》

 

 朗々と唱えられるが、声を上げたイグアスと同様、どうにも感銘を受けることができない。

 撃墜されたHC機体を片手間に破壊しながら、苦々しい気持ちで呟いた。

 

「……ねえフラットウェル。これってつまり、コーラルを星外に持ち出すなってことでしょう? 解放戦線内で共有してる認識と、そんなに差はないと思うんだけど」

 

 人間の破滅とは大仰だが、要はそういうことだろう。何が気に食わないのかわからない。

 他の意味があるというなら身内にくらい説明して理解を求めるべきだし、こんな独りよがりに暴れられても対応に困るだろう。精神的支柱だか総司令だか知らないが、ここでイグアスに排除してもらうほうが、後々の面倒が減りそうだ。

 

《……我々には計り知れない、何かがあるということか》

「そうじゃなくて、批難はしてるけど理解されようとしてないように聞こえる。……帥叔、だった? その立場の貴方さえ真意をきちんと教えてもらえてないなら、結局のところ、この人にとって、貴方たちは『同志』ではなかったのかもね」

《……》

 

 なにしろ、無事を喜ぶ仲間にすら文句をつけていたくらいだ。

 薄々その認識はあったのだろう。反駁は返らなかった。

 

 着実にダメージを積み上げてきたイグアスが、ドルマヤンの機体を蹴り飛ばす。

 したたかに壁へ激突したACにミサイルが殺到し――それで、おしまいだった。

 機体反応が消える。

 赤く不穏な爆発を起こし、炎を上げるACを前に、ああ、とフラットウェルが堪えかねたような声を漏らした。

 

 また雪が降り始めていた。しばらく、誰も動こうとはしなかった。

 

 そっと息を吐いた。こんなに後味の悪い仕事になるとは。

 ともあれ、当初の目標は達成した。後は解放戦線が、ドルマヤンを見殺しにしたことをどう評価するかという話だけだ。

 イグアスはどう出るだろうかと目をやれば、じっとドルマヤンのACを見つめているようだった。

 やがて、鼻で笑う声がする。

 

《ハッ、こいつが肝のクソ小せえ男だったってだけだろ。……いちいち真面目に受け取んな》

 

 後半だけが、妙にやわらかな口調だった。

 エアに向けたものだろう。こんな声が出せるのかと思うのとは別に、盗み聞きしているかのようでいたたまれなくなる。……広域回線なのだが。

 

 対応に困っているうちに、イグアスがこちらに気付いた。

 仕方なしにコメントを返す。

 

「……なかよしね?」

《――死ね!! 忘れろ!! 殺す!!》

「今回は私、悪くないと思うんだけど……」

 

 照れ隠しならもうちょっと可愛らしくして欲しいものだ。

 流れで一戦交わすことになったが、さすがに被弾が重なったイグアスとほぼ無傷のこちらでは結果が見えている。

 エアが必死に取りなしたようで、途中で捨て台詞を吐きながら撤退していった。

 

 フラットウェルは言葉少なに作戦協力への礼を言うと、早々に通信を切った。

 恨み言くらいなら聞くつもりだったのだが、あの様子なら、揉み消すつもりでいるのだろう。

 

 ドルマヤンの最期の言葉が耳に残り、苦々しさを増していた。

 

 ――セリア……臆病な私を、許してくれ……

 

 どんな人物だったのだろう。何を詫びていたのだろう。イグアスを殺すことで、それは昇華できるようなものだったのだろうか。

 首を振る。情に脆い自覚はあったが、さすがに引きずられすぎだ。見殺しにした人間に同情されても腹が立つだけだろう。

 

 機体をオートパイロットに設定し、目を閉じる。

 オキーフとの情報共有が必要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




AMさん「え、ちょっ、暗号通信…! …なぜ広域回線で全部喋るのですか、イグアス!!」






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